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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第116話 『街歩き』

 


 ◇ベルトラン視点◇


 昨夜はクアルト様が遅く帰ってきた。

 やはり、簡単ではなかったのだろう。


 そう思ったものだが違っていた。

 案内に付けた者からの報告によれば、ごみはどんどんと消えていったそうだ。

 まるで、『魔法のように』。


 ならば、なぜ遅くなったのか?

「ゴーレムを作るんです!」

 興奮とともに告げられた言葉に意表を突かれた。

 四男クアルト様の適性が『ゴーレム制作』だったことを、ここで思い出した。


 いや、違う。

 ゴーレムだとは知っていた。


 ただ、作ったゴーレムで潰すとかだと思っていた。

 まさか、ゴミでゴーレムを作るとは。


「ゴーレムたちも洗練されているし、能力が高そうでした」

 報告は続いている。

 もはや、クアルト様のプレゼンをしているようになっていた。

 ずいぶんと感化されたようだ。


「琥珀もたくさん手に入れて商人へ持ち込んでいたんですよ」

「琥珀、だと?」

 湖の底に眠る宝石。

 王都の名高い魔導士を呼び寄せても、ほとんど意味がなかったというのに。

『たくさん』だと?


「これくらいの魚籠数個を満杯に」

 大きさを手で示すが、それはかなり大きめだった。

 この領地の、税収数年分に及ぶだろう。


「それを手土産にして、ゴミ処理の設備投資を確約させていました」

「っ?!」

 七歳の子供が?

 この先を見据えて商人から投資を引き出した?


「ふ、ふふ」

 笑いが込み上げる。

 四男は甘ったれで惰弱。

 そう評価していた自分の愚かさが、笑いを誘う。


「わしも、ようやく耄碌してきたようだ」

 順当な流れだ。


 ベルトランは、温かな眼差しを送った。

 興奮冷めやまずに、『クアルト様のすごさ』を熱弁する少年に。


「今日も、案内をするのだったね」

「はい! 今日は町に出たいとのことでした!」

 嬉しそうに答える姿に、未来が重なっていた。


 ◇クアルト視点◇


「行ってくるねー!」

 見送るベルトランに手を振って歩きだす。


 今日も歩きだ。

 馬車にするとどうしても『貴族くささ』が出るからな。

 夜には馬車に乗るけど。

 パーティーは貴族としての出席だから、それは必須だ。


「あ、猫がいるよ!」

 クアルト——『僕』が指を差す。


 確かに猫がいる。

 細い路地の向こうに。


 でも——

 痩せていた。


 元からではない。

 ここ最近で急に痩せていた。

 皮が余っている。


「おおっ!」

 市場が見えてきて、クアルトが走り出した。

 視界の隅をレーデが並走している。

 音もなくついてくるのはアンナだろう。

 どことも知れぬ位置からの視線は、レイモンドとアーネストか。


 果実の甘い匂い。

 風に乗る香辛料の粉。

 金物に反射する陽の光。

 行き来する人の群れ。

 まさに商業都市という匂いと風景だ。


「うん、うん。活気があるね!」

『僕』が楽し気に飛び回る。


 活気はある。

 間違いない。


 だけど――

 金物屋、棚が妙に寂しい。

 よく見れば鉄器ばかりで銅製品が見当たらない。


 薬屋では、分厚い陶器のスプーンで薬を測っているのが見えた。

 銅製のスプーンが傍らにあるのに。

 使いしぶりをしている。


 ペクンの町での政変が、こんなところにも波及しているようだ。

 銅の供給が一時的に滞っている。


 一時的、だよな?

 そのはずだ。


 供給力が低下するとしても、これまで過供給だったと思われる。

 すぐに枯渇なんてことはありえない。


 ありえないが、視界の隅の水売りが木の柄杓を使っている。

 普通、この場合銅製のはずなのに。

 水売りの男は、誰にも気づかれたくないように、木の柄杓を隠すように扱っていた。


 ずっとそうだった?

 今まで使っていたのは?

 ……売った?

 欲しいところに売ってしまった可能性がある。

 思いの外、銅不足は深刻なのかもしれない。


 一見、普通の市場。

 賑やかで活気もある。

 物も豊富。

 なのに……銅だけが妙に少ない。


 これは――

 無くなっていないけど、無くなるかもで抑えにかかっている?


 先行き不安による『手控え』。

 十分にあるはずなのに、出し渋っているせいでなくなっているように見える。

 倉庫を確認すれば在庫が山積みでも、町に出ると少ない。

 他がなくなってから、割高にして売ろうという心理が働く。


 結果、町の中には本来たくさんあるのに、市場にだけ『出ていない』ことになる。

 静かなのに、影響は確実に出ている。


「これは……」

 クレオルが呟く。

『オレ』だ。


 何か手を打つべきなんじゃないか?

 そう考えてしまっていたからだ。

 雰囲気が滲んでいたのか、『僕』が少し引っ込んでいる。


 できること――

「ベルトランに商人たちが持つ『銅製品』の在庫を確認して報告するようにって通達出してもらえないか伝えてくれるかな?」

 少年に伝言を頼む。


 クアルトが実際に代官に会って言うと、少し強くなる。

 伝言くらいがちょうどいい。


「何か気になることでもあるのでしょうか?」

「いいや。僕が知りたいわけじゃない」

 報告の内容なんて教えてもらわなくていい。


「商人たち自身に、『実際はこんなに在庫がある』と気づかせたいんだ」

 なので、個人や店ごとではなく、商工会やギルドで集計しての報告とする。


「? えっと、伝えます」

 少年には難しかったかもしれない。

 でも、伝えてくれれば、ベルトランには伝わるだろう。


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