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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第115話 『装甲車』

 

 


 というわけで、ゴミ置き場に戻ってきた。

 なにはともあれ、『現金輸送車仕様の馬車』を作るのだ。


「木材もまだ残ってたね」

 目につく山は消した後だが、分別されていたわけではない。

 あちこちに各素材が雑多に積まれた山がある。


「これなら、もう一台馬車を作るくらいはどうとでもなるね」

 さいわい、『パーケットゴーレム』は四台しか作っていない。

 枠的にはあと六台作れる。

 そして、木材があればウッドゴーレムで馬も作れる。


「木で作るのですね?」

 木材を手にして考えていると、アンナが聞いてきた。


「うん。ここは金属より木がいいと思う」

 アルミがあればまた話が違うが、真鍮とか劣化した鉄では逆に弱い。


「それに……」

『オレ』の中ではすでに完成形ができている。


『現金輸送車仕様』とは宝物を隠すための箱。

 そう、『秘密箱』を作ろうということだ。


 寄木細工の箱にして、

 スライドする板、

 隠された溝、

 木だからこその膨張と収縮を利用したロック。

 外からは見えない仕掛けを施された、鍵のない貴重品入れ。


 開け方を知らないと、決して開けられない。

 数手から数十手の手順を踏まないといけない。

 そんな『金庫』。


「でけた!」


 寄木を組み合わせ、板を滑らせ、木の呼吸を確かめながら作り上げた箱馬車。

 窓ひとつない、四角い箱だった。


 だの箱ではない。

 全面が寄木細工で覆われている。


 麻の葉、矢羽根、市松。

 幾何学模様が重なり、滑らかに繋がっている。


 どこが扉なのか、どこが継ぎ目なのか。

 外からはまったく分からない。


 陽光を受けて、木の色が静かに揺れた。

 まるで箱そのものが呼吸しているようだった。


 開け方は……正直覚えきれない。

 ただ、物はゴーレム。

 ゴーレム自身に覚えさせておけばいい。


 過去、過去と板が何枚もスライドを繰り返して、扉が現れる。

 普通の馬車より一回り小さい。

 しかも両開きではなく一枚扉。


 その扉から頭を低くして潜るようにして入る。

 なんとなく、茶室を思い起こす形だ。


 中は闇……ではない。

 天井には薄い隙間が空いていて、淡い光が入ってくる。


 座席も何もない空間。

 意外なほど広い。


 そこへ――

「みんな入れ―!」


 手近にあった木の板をトレイのようにして連れてきた。

 貴金属と宝石系のゴーレムを移す。


 淡い光の中へ、小さな影が次々と滑り込んでいく。


 豆亀がノコノコと。

 ヤドカリと沢蟹がカサカサと。

 ヤモリがのそりと。

 真珠色のホヌがふわりと。

 象牙色のゾウガメがのそのそと。


 緑と茶のガラスのトカゲとイモリ。

 琥珀のミツバチ。

 そして、ひときわ静かな光をまとったタイマイ。


「ついでに、おまえたちもな」

『サテンゴーレム』のアゲハたちも入れた。


 淡い光の中で、キラキラとした小さなものたちが美しく舞う。

 素晴らしい光景だった。


「で……お前たちも入るのか?」

 足元に、玄武岩のウシガエルたちが集まっていた。

 黒い塊が、じっとこちらを見上げている。


 ……入りたいらしい。


「まぁ、いいよ。入っとけ」

 彼らが入ったところで、狭くはならない。


「よし。これで安心だ」

 全部入れて扉も締めた。


 入口どころか、隙間一つ見つけられない『箱』。

 外からはただの幾何学模様にしか見えない。

 けれど、正しい順番で板を滑らせなければ開かない仕組みになっている。

 構造自体が鍵だ。


『僕』が歓声を上げ、

『オレ』は静かに頷いた。


 ――これなら、誰にも開けられない。


「で、これだよな」

 木や金属などの『大物』が終わった後。

 残るのは……植物。

 平たく言えば『生ごみ』だ。


『プラントパーツ』。

 現状、荷馬車に乗せている。

 奇妙な姿の『ウミガメ』だ。


 外殻:ナッツの殻(硬い)

 手足:藁・茎・細い枝

 装飾:花びら

 内部:脈動する“種”

 クアルトのゴーレムのなかでもかなり特殊な存在。

 生活に根差した『ゴミ』なので、大量にある。


 なので――

「レベルが上がって、しかも『二次』になりそうなんだよね」


 いいことではあるのだが、元から『謎』な存在。

 進化すると言われると、少し不安になる。


「まぁ、やらないって選択肢はないけども」

 幸い、これにも経験値積み上げスキルはあった。

『堆積』だ。

 植物が重なり合い、沈み、押しつぶされて層になっていく。

 土になる前の、あの曖昧な状態。



『プラントマットゴーレム』の制作に成功しました。



『二次』になった。

 いろんな植物系素材の柔らかい部分が絡まり合っている。

 一つ一つの個性が消え、混ざりあって一体感が増した。


 以前は、なんとなく『寄せ集め感』が強かった。

 それが少しだけ弱まっている。


 外殻は少し硬めの竹や籐、ナッツ系の殻が覆っていた。

 形は『ウミガメ』のまま一回り大きくなっている。


 表面はまだ乾いているが、腹側はしっとりと湿っていた。

 藁や茎が水を含み、ゆっくりと沈んでいくような感触がある。


 腐っているわけではない。

 けれど、少しだけ柔らかくなっている部分があった。


 層になっていく。

 積み重なって、押しつぶされて、別のものに変わっていく。


『堆積』というスキル名が、妙にしっくりきた。


「……このままいくと、土になるのかな」

 ちょっとした予感だ。

『二次』になったことで、少しだけ未来が垣間見えた気がする。


『僕』が呟き、

『オレ』は静かに観察を続けた。


 植物の塊が、植物ではない何かへと変わりつつある。

 浮くのか沈むのかも分からない、曖昧な質感。


 まだ名前をつけるには早い。

 けれど、確かに“土台”が生まれ始めていた。


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