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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第112話 『タモ』

 


 ホバークラフトの下で、湖面がわずかに揺れた。

 泥の中に潜ったバソルトたちが、ゆっくりと動き始めたのだろう。


 バソルトたちの背中は、濡れた玄武岩のように鈍く光っていた。

 黒というより、光を吸い込むような深い色だ。

 泥に沈むたび、重い質量が水を押し分ける気配が伝わってくる。


 しばらくすると、水の色が、ほんの少しだけ濃くなる。

 泥が巻き上がっている。


「……掘り始めたな」

 まだ何も見えない。

 けれど、湖底のどこかで、金色の粒が揺れ始めている気配があった。


 ・

 ・

 ・


『琥珀、結構あるよー!』

 モニタールームから声がした。


『オレ』にしか聞こえない声。

『僕』だ。

 イモリ(緑)が琥珀を見つけまくっているのだろう。


『どんどん掘り出してくれ!』

 こちらからも指示を送る。


『掘るのはいいけど、どうやって運ぶー?』

 掘って、集めて、運ぶ。

 そう考えている。


『泥から出せば勝手に浮くから、放置でいいぞ!』

 琥珀は『浮く』。

 もともと自然に浮いてくるのを待つものだった。

 嵐などで湖底の泥が攪拌され、泥から出たものが浮くことで外へ出る。


 これを人工的に早めようとしている。

 だから、極論、琥珀を探す必要はない。

 泥を掻きまわせば、勝手に浮いてくる。


 ただ、それをやると湖の水質が著しく悪化してしまう。

 だから、可能な限りピンポイントで浮かせようとしているのだ。


『そっか。わかったー!』

 理解できたらしい。

『僕』が楽しそうだ。


「水面見てて! 浮いてくるからすくって!」

 作っておいた『タモ』をレイモンド、アーネスト、アンナ、レーデ、少年へと持たせる。


 もちろん、魚籠も。

 どれも、廃材製である。


 竹と目の粗い布で作ったタモ。

 藁や蔓性植物を編んで作った魚籠となる。

 …普通は魚とりの道具だけどな。


「えっと。何が浮いてくるのですか?」

 タモを持たされたレーデルフィーヌが首を傾げた。

 状況は受け入れているが、『なにを』には理解が及んでいない。


「商会で話を聞いていたでしょうに……」

 ちょっと呆れて…怒って?

 アンナがジトっとした目を向けた。


「え?」

「ここは湖ですよ?」

 わかっていなさそうだからか、アンナがヒントを出す。


「あとは、発掘です」

「え? 琥珀ですか?」

 発掘でようやくつながったレーデが半歩よろめいた。

 ものすごくゆっくりとアンナが頷いている。


「現場に来てなにかを始めた。なら、目的は自ずと知れます」

 まだまだですね。

 そんな笑みで首を振っている。


「な、なるほど?」

 わかったのかわかっていないのか。

 レーデはコクコクと頷きながら疑問符を浮かべている。


「発掘と聞いたからと、土堀だと決めつけるようでは、クアルト様にはついていけません!」

 泳ぐと言っていたのに、空を飛んだと驚くな。

 そんな感じに忠告されている。


「お、奥が深い」

 レーデルフィーヌが慄いている。


「……全部聞こえているんだけど?」

 言い過ぎではないかと、一応は牽制してみた。

 説得力がないことは……うすうす自覚している。


「さすがはクアルト様です」

 なにが『さすが』なのか、アーネストがテキト―なフォローを入れた。


「浮いてきましたぞ」

 一切、気にせず、レイモンドがタモを振り回す。


 束の間、ホバークラフトはカオスだった。


 束の間の混乱が落ち着いたころ、

 湖面に、ぽつりと金色が浮かんだ。


 最初は、光の反射かと思った。

 だが、風に流されず、ゆっくりと回転している。


「……出てきた」

 レイモンドがタモを差し出すより早く、アンナが身を乗り出してすくい上げた。


 掌の上で、淡い金色が揺れる。

 泥をまとった、小さな琥珀の粒。


「本当に……浮くのですね」

 レーデルフィーヌが息を呑んだ。

 驚きというより、畏れに近い声だった。


 そのすぐ後ろで、

 湖面のあちこちに、金色の点が増え始める。


 ぽつ、ぽつ、と。

 静かに、しかし確実に。

 まるで――

 湖が呼吸しているようだった。


 クアルトは腕を組んだまま、

 その光景を黙って見つめていた。


「……まだ、始まったばかりだよ」

 湖底の泥の奥では、


 バソルトたちがさらに深く潜っていく。

 黒い“何か”に触れ始めていた。


 ・

 ・

 ・


 琥珀すくいが始まり、それなりの時間が経った。

 思いの外ハイペースでポコポコと浮いてくるのを、ひたすらすくい取る。


「もう、魚籠がいっぱいです!」

 アンナが叫ぶ。

 レイモンド、アーネストも。

 レーデもそうだろう。

 余裕があるのは少年とクアルトだ。


『ここまでだ!』

 モニタールームへ作業の終了を伝える。


『わかったー! いっぱいとれた―?』

『ああ、ちょっと取り過ぎたかもしれん』

『そっかー。わけてもらえるといいね!』

『…そうだな』

 考えてみたら、今のうちに何個か懐に入れればいいだけのことなんだけどな。


 思い付きはしても、実行はできない。

 自分の小心者っぷりに呆れてしまう。


「いや、そうだよ。何もただでくれてやることはないんだ」

 手間賃をもらって町で買い物をしよう。

 うん。それがいい。


 そんなわけで、撤収。

 商会へ向かうことにする。

 まずは、陸へ上がろう。


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