第110話 『ゴミ置き場』
予約掲載の時間設定を間違えました。
失礼しました。
翌日。
クアルトはさっそくゴミ置き場へ向かった。
公務優先。
『要請』をさっさと片付けて、他のことをしたい!
『僕』の希望だ。
『オレ』としても、湖の底の発掘には興味がある。
クアルトの利害が一致している。
遅らせる理由がなかった。
公務なので、イーアンとセティはお留守番だ。
行動は自由なので、街に買い物へでも行くだろう。
オレたちの案内は、ベルトランの秘書…の孫という騎士見習いが務めた。
たぶん、年齢が近い方がいいと思ったのだろう。
貴族家の子弟と対等に話す度胸などあるはずもなく、クアルトがどう落ち着かせようとしてもダメだった。
案内役は、過不足なく勤め上げてくれたけれど。
ゴミ置き場は、町の外れにあった。
風向きの関係で、住民の生活圏からは少し離してあるらしい。
道中、案内役の少年はほとんど口を開かなかった。
緊張で喉が固まっているのが見て取れる。
「そんなに固くならなくていいよ」
と声をかけても、
「は、はいっ……!」
と余計に固くなる始末だった。
こんなことなら、普通に馬車に乗せればよかった。
町を見ようと徒歩での行動を選択したのは失敗だったかもしれない。
まぁ、仕方ない。
貴族家の子弟と肩を並べて歩くなど、彼にとっては人生初の大役なのだろう。
少年は、黙々と、しかし迷いなく道を進んだ。
その背中に、責任感だけはしっかりと宿っていた。
やがて、視界が開けた。
「……ここです」
少年が立ち止まり、指さした先。
そこには、山があった。
ゴミの山だ。
風が運んでくる匂いは、思ったほど悪くなかった。
むしろ、素材の気配が混じっていた。
その証拠に、クアルトの目には――
宝の山に見えていた。
「……すごい」
思わず声が漏れる。
布切れが風に揺れ、
木材の中で釘が鈍く光っている。
どれもこれも、普通なら“廃棄物”だ。
だが、クアルトにとっては違う。
『僕』が歓声を上げ、
『オレ』が静かに計算を始める。
「……これは、いいね」
その一言に、少年がびくりと肩を震わせた。
「あ、あの……汚くて、申し訳ありません……!」
「ううん。むしろ、よく集めてくれたと思うよ」
クアルトは笑った。
代官が頭を抱えた“厄介なゴミ”は、
クアルトにとって“最高の素材”だった。
「では、やりますかね」
行うことは、メリマルの町でしたことと変わらない。
あの時のように分別されていないから、少し手間というだけだ。
そう、『少し』だ。
木材の山が、鉄釘を落として消える。
紙が圧縮され、革と布が丸められていく。
鉄、銅、真鍮…金属が。
レンガ、タイル、ガラス瓶が。
そして、陶器までが消えていく。
消えて――
「さすがに、二体では吸収しきれないか」
陶器が回収しきれなくて止まった。
「『ポーセリンゴーレム』×4追加!」
8体は多すぎる。
半分の4体、既存のものと足して6体とする。
夜会服姿のレディたちが、優雅に会釈をくれた。
既存のゴーレムたちが強化されていく。
だが、ランクアップはしなかった。
ほとんどが『二次』素材だしな。
多くの経験値が必要なのだろう。
「おおっ?!」
クアルトが驚愕の声を上げた。
よく知る大きな山が消えた後、見慣れない山に出くわしてのことだ。
すごく白い。
光沢がある。
それもそのはず――
「シルクがあるよ!」
高級品であるシルクがごみ置き場にある。
異様に聞こえるが、実は当然。
むしろ、高級品だからこそゴミが出る。
糸の端や縫製時の端切れ。
正規品として流通させるわけにはいかないエラー品。
そういったものが多く出る。
無くすことはできない。
それが大量に積み上がっていた。
『シルクゴーレム』を製作しました。
「おお」
久しぶりの新ゴーレムだ。
形状は、『紐』の蛇とする。
ステータスでは魔法関連が微増している。
『シルク』自体のスキルとしては魔素吸収。
周囲から魔素を集めて溜め込むスキルだ。
クアルトの魔力回復速度が割り増しになった。
あとは、『重ね着』系らしき『編み込み』。
編み込むことで『布』にする。
経験値集積可能ということだ。
そんなわけで――
『サテンゴーレム』の制作に成功しました。
数が数だから、一気にレベルが上がった。
いきなり二次ゴーレムだ。
「サテンか……」
サテンというと…ドレスか?
パッと思いつくのは……ウェディングドレスって……
着れるか!
「んー……スカーフにして蝶のゴーレムはどうだろう?」
そのあたりが無難だろう。
大きさはアゲハ。
色はモンシロ。
光沢が美しいシルクバタフライだ。
ソーラーパネルの如く。
広げた翅で、周囲の魔力を集め。
こちらに還元してくれる。
ありがたい。
そして――
「ふっふっふっ」
思わず笑いが漏れる。
琥珀の粉もあったのだ。
形を整えたりして削った粉が袋に入れて捨てられていた。
さすがに、使いようはなく、他のごみと一緒くたに捨てるわけにもいかなかったらしい。
粉をかき集めて――
『アンバーゴーレム』を作成しました。
「できた」
琥珀ゴーレム完成。
形はミツバチとした。
琥珀の粒が光を帯び、羽の形に集まっていく。
まるで太古の森の記憶が、形を取り戻すかのように。
魔力集積スキルがある。
『金』と同じく、パッシブスキル。
特に意識して使う必要はない。
常時使用していて、経験値も勝手に増える仕様だ。
素晴らしいね!
俄然、琥珀掘りに気合が入る。
「くぅぅぅぅ」
拳を握り、身を縮めた。
気持ちが高ぶりすぎて抑えきれない。
大きな山が消えた瞬間、胸の奥がざわついた。
宝の山はまだ残っている。
でも、湖のほうが気になって仕方がなかった。
「さぁ、湖行ってみよう!」
そこに、『粉』ではない琥珀が眠っている。




