第11話 『おねだり』
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「んー、何とかならないかな?」
悪くないが自分の経験値だけではなく、ここはやはり『クロスゴーレム』もレベルアップさせたい。
どうにか経験値を積ませる手立てはないものか。
「戦って経験値を積めないのなら、何か仕事をさせるとかか?」
考え方としては間違っていないはずだ。
間違っていないはずだが・・・『布』にできる仕事?
考えるが、思いついたのは一つだけだった。
『掃除』。
はたきのように動いて埃を落とし、床を乾拭きする。
それならできるのではないだろうか?
試しに、自室の天井を拭かせてみることにした。
低位とはいえ貴族の『お屋敷』ではあるので、3メートル近い高さだが宙に浮けるのだ。
高さは関係ない。
すると。
【『行動指示』:対象または範囲を指定してください。】
広い天井を見上げて、『どこ』を拭くかをいちいち指示するのは面倒だと思っていたら、そんなメッセージが流れた。
実際に見ながら、一つ一つ誘導しなくても対象物か範囲を指定すれば動かせるらしい。
ならばと、天井全体を範囲として指定。
行動は『自身の体で対象範囲を拭き、磨く』とする。
『指示に従え』の指示を明確にして、範囲は指定。
これでどうだろう?
ふわふわと浮き上がっていく。
布の体がふわりと広がり、天井を滑るように拭き上げていく。
「いけるね」
しばらくして、そう結論付けた。
こちらから指示を追加しなくても、指定された範囲の中で指示された動きをひたすら続けているのだ。
しかも。
経験値もちゃんと得られている。
正確にはわからないが見た感じ、1メートル四方を拭き終わるごとに『1』の経験値を得ているようだ。
これだと、レベルアップするのに一キロ四方の拭き掃除が必要になるが、掃除するだけでレベルが上がるのなら悪くない。
汚れていることが条件になる可能性もあるので、常にどこか掃除できる場所を探してやらせておくといいかもしれない。とりあえず、当面は屋敷中の天井を磨かせるとしよう。
メイドが多数いる貴族の家だが、天井の掃除は常日頃からできるものではないのだ。
マチルダ婆に言って、掃除のスケジュールを作ってもらおう。
◇
時間になったので朝食の席に着く。
今朝のメニューはバターを塗ったトースト、好みで領内産果物のジャム。ふわふわに焼いたスクランブルエッグ、香ばしく焼き目のいれたベーコン。ポテトサラダに紅茶、というものだった。
シンプルにして栄養価の高い取り合わせとなっている。
トーストはカリッとしてサクッとした嚙み心地、バターは少しクセが強いが気になるほどではない。果物のジャムはもっぱら母用なので、関係ない。
スクランブルエッグは卵本来の甘みとコクが引き立つ絶品だ。おそらく、お日様の当たる場所での平飼いされた鶏が産んだ卵なのだろう。
カリカリに焼かれたベーコンとポテトサラダも素材の味を生かしまくっていておいしい。
コックのガストンには勲章を与えるべきだね。
などと考えながら、クアルトは食事を平らげていった。
とまぁ、これは冗談だ。
冗談で済まないのは、ここからの交渉である。
クアルトは父に交渉を持ち掛けようとしていた。
「父上、一つお願いがあるのですが」
食後の紅茶を普段より少し早く飲み干し、上座に座るメリマルゴール男爵に声をかけた。
今回は父上と言いつつ、実際は当地の領主への願いとなる。
背筋を伸ばし、口調もよそ行きにしていた。
「願い、か。ずいぶん久しぶりだな」
こちらの意図に気が付いただろうに、メリマルゴール男爵——父——は父親の顔で笑みを浮かべた。
久しぶりというのは、『僕』——『オレ』——が願いを口にしたのが『亀が刻印されたコイン』以来のことだからだろう。
確かに、子供のくせにおねだりをしたことの無い可愛げのない奴だからな、『クアルト』は。
「言ってみなさい」
一転、口調を男爵のものに改めて見つめてくる。
本来なら——家族が相手でないなら——ここで睨みを利かせて威圧するのだと思えた。
かなり手心は加えられているが、領主として限度はあるぞということだろう。
「土地をお貸しいただきたいのです」
「土地、だと?」
予想外だったらしく、かなり驚かれた。
当然か。
子供が願うようなものではない。
「僕の『適性』はゴーレムです。ゴーレムと聞いて、どんなものを想像しますか?」
「そうだな・・・普通ならば土かい——なるほど。そういうことか」
わかったぞと笑みを浮かべて頷いた。
「ゴーレムを作り、暴れさせるための土地ということだな」
「はい。そうなのです。土で作るには土がたくさん必要で、動かしてみるには広い土地が必要。どこかに、誰の邪魔にならないですむ場所が欲しいのです」
せっかくだから、ゴーレムらしいゴーレム。
巨大で重々しい巨人を作って動かしてみたい!
そんな思いをのせ、瞳をキラキラさせる『クアルト』。
あざといぞ、少年。
思わず、『オレ』はツッコんでしまった。
地だもん!
すかさず『僕』が反論してきた。
ちょっと拗ねた、七歳の男の子らしい反応だ。
『クアルト』に併存する二つの人格。
七歳の『僕』と四十過ぎの『オレ』。
子供っぽい『クアルト』と、大人らしくない大人の『クアルト』。
一人でありながら二人、二人でいて一人。
この三年、こんな感じで生きてきた。
今のところ、致命的な問題には直面していない。
基本的には同一人格なのだ。
純粋か擦れているかの差があるだけだ。




