第108話 『商館』
◇クアルト(僕)視点◇
馬車は補修できた。
もともとあった車軸と別素材で、車軸を作り直したのだ。
これで大丈夫。
だけど……。
「これは重すぎると思うよ。僕の馬車にも乗せて運ぼう」
道に降ろされたままの木箱を示して提案した。
空の馬車が三台ある。
作ったものの、乗せるものがなかった。
騎士はもちろん、歩兵も乗せることに意味がない。
使うつもりで持ち運んでいる炭や灰などの素材なら荷馬車があるし。
「え? その馬車にですか?」
馬車を呼び寄せて積ませようとしたら、ちょっと幅のあるおじさんが慌てだした。
レイモンドに視線を送っている。
なにか問題があっただろうか?
「メリマルゴール男爵家四男クアルト・メリマルゴール様の恩情。謹んでお受け取りになられるがよろしゅうございます」
おお!
レイモンドがちゃんと貴族家の執事をしている!
最近ちょっと怠け過ぎでは?
そう思っていたが、外部の人間相手ならまともになるようだ。
「領主様の!?」
幅広のおじさんが、まじまじと見てくる。
うーん。
うれしくない!
オレさんの言う、『貴族なんて面倒なだけだぞ』がわかっちゃうね。
四男でこれなら、兄上たちはどんな目で見られるのか心配になっちゃうよ。
「で、ですが、汚してしまうのでは……?」
土の上の木箱をチラチラ見ている。
そうか、貴族の馬車を汚すかもって遠慮してたんだね。
「大丈夫だよ。空の馬車だもん!」
なにかに使おうってものじゃない。
経験値稼ぎに走らせているだけだから、汚れたって気になんてしない。
「で、ですが…」
たのに、幅広のおじさんは、まだグズグズ言っている。
レイモンドと僕、あとはレーデとの間で視線をウロウロさせるばかりだ。
えーい!
のせてしまえ!
めんどくさい!
重騎士や重歩兵たちに指示して、有無を言わせず乗せてしまう。
ドン!
ガン!
ゴドン!
ちょっと乱暴に木箱を積んでいく。
馬車の荷台が静かに沈む。
サスペンションもないのに。
「よし、町へ出発だよ!」
全部積めたのを確認して声をかけた。
「おー!」
レイモンドとアンナ、アーネストしかノってくれなかったけど。
◇
町へは二日後に到着した。
王都の話とか聞きたかったのに、レイモンドが『お相手を委縮させてしまいますので……』とか言って、聞きに行かせてくれなかった。
「むねん!」だ。
・
・
・
町へ近づくにつれ、高い街壁が見えてくる。
商業都市というだけあって、白とまではいかないがキレイな塗装がされていた。
検問は素通りだ。
クアルトは領主の息子。
もとより止められるいわれがない。
商人のほうも町随一の豪商だとかで、最優先で通されていた。
「こちらが、私どもの商会となります」
大通りを進んだ先で、それ示された。
町の中心、それも一等地に建てられた瀟洒な建物。
幅広のおじさん――『バルドン』氏が会頭を務める商会の商館だ。
遠目に見える領主館より、ギリギリ劣る。
そんな感じだ。
さすがに遠慮したと見るべきか。
ギリギリまでは攻めたと見るべきか。
どちらなのか……。
「そう言えば、何を商っているの?」
荷下ろしを待つ間、応接室でお茶をする。
小うるさいレイモンドには荷下ろしの監督をさせている。
クアルトのお供はアンナとレーデルフィーヌだけだ。
「絹と琥珀でございます」
「琥珀?!」
思わず叫んだ。
危うくお茶を噴くところだったね。
王都の帰りだったというし、取引相手は貴族や大商人たちだろう。
それは領主館並みの商館が建つわけだ。
「ご興味がおありですか?」
不思議そうに問われるが……。
「ある! ある!」
クアルトが――『オレ』も『僕』も――前のめりになる。
「よいものを選び、領主館へ届けさせましょう」
献上するということだ。
それはもちろんうれしいが……そこじゃない!
「その物自体っていうより、加工が見たいんだけど……」
上目でアピール。
幼気な少年の願いを叶えてくれ!
「加工、でございますか?」
またしても不思議そうに問われる。
「あーっと、そうですかでは見学……いえ、視察なさいますか?」
「いいの?!」
アピールしたことは忘れて、確認した。
「構いませんとも」
「やったー!」
両手を上げて飛び跳ねてしまうね。
加工現場を見られるのは本当にありがたい。
「琥珀ってどこから持ってくるの? 近くに鉱山があるとか?」
町に来るとき、そんな様子はなかったはずだけど。
一応、周囲一帯は見ている。
「いいえ。実を申しますと、琥珀は湖から採取するのですよ」
「湖から?!」
それは驚いた。
山の中で地味に掘るイメージが強いのだ。
「琥珀というものは、樹液の化石でございましてな。太古の森から見付かるものなのでございます」
うん。
それは知っている。
「この太古の森が、町の西に広がります『アムブラ』湖の底に沈んでいるのでございます。嵐の後などには浮いてきましてな。これを拾うのでございます」
浮いてくる。
それはつまり――
「堀には行けない?」
「左様にございます。採掘できますれば、安定した商いにできるのですが、現状では運頼みでございます」
水深があり、魔法を駆使しても湖底での採掘は難しいらしい。
それは確かに難しいだろう。
だけど、もしかしたら……。
「もし、掘り出してきたら、少し分けてくれる?」
「それは……量にもよりますし、お持ちいただいてからのご相談とさせてください」
ニッコリと微笑んで言われた。
完全に社交辞令だ。
掘りに行けるとは思っていない。
せいぜい湖の岸辺に拾いに行く程度だと思われている。
だが、まぁいい。
実際、掘りに行けるかわからないし。
「わかった―!」
子供っぽく返事をしておくさ。




