第106話 『事故』
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短く答えて、方向を確認する。
王都へと続く道でのことだ。
王都方面から、こちらへ向かっていた荷馬車の列。
そのうちの一台が突然傾き、停止した。
横転していないのは、潰れたように地に伏しているからだ。
どちらにせよ、道を塞ぐ形で止まってしまっている。
早く手を打たないと、余計なトラブルを引き起こしかねない。
「救援に向かわれるのですな?」
傍らに寄ったレイモンドが確認してくる。
「もちろんだよ!」
当然と頷き、馬車へ向かった。
「レーデは先行して!」
方向を指し示して、指示を出した。
「ですが……」
クアルトのそばを離れるわけにはいかないと、難色を示すレーデルフィーヌ。
言いたいことはわかる。
正しい反応だ。
だけど、指示は変わらない。
「先に行って相手の素性を探っておいて!」
この距離だ。
クアルトを狙った罠とは考えにくいが、敵対する相手ではないとも言い切れない。
貴族というのは知らぬ間に本人とはかかわりなく敵も味方も増えるものだから。
「あ、なるほど。わかりました」
手綱を引いて、駆けていくレーデ。
「僕たちも急ぐよ!」
一声かけて、馬車へ乗り込んだ。
メリマルゴール男爵家の領内だ。
四男とはいえ当然に『領主代行』となる。
無視して通り過ぎるなど許されない。
……隊列を組み直して進む。
先行するのは軽騎兵四体。
その後ろに、荷の持ち上げに向く重騎兵を二体。
歩兵はレンガだけを左右に散らせ、馬車の進路を確保する。
残りはイーアンの荷馬車隊と残りの歩兵半分。
アーネストの騎兵の残りと、同じく残りの歩兵。
二つの隊に分けて、ゆっくりと先行させた。
もとより、そろそろ先触れを出すタイミングだった。
アーネストなら過不足なくこなしてくれるだろう。
道なりに急いで現場へと向かった。
騎馬なら突っ切ることもできようが、馬車にはキツイ。
モニタールームでは、レーデが現場に到着。
責任者らしき人物と話しているのが見えている。
危険はなさそうだ。
段ボールドローンを近づければ、声も聞けるし、もっと詳しいことがわかるのだが接近させ過ぎれば警戒される。
ここは我慢だ。
その代わりに、レーデが正体を調べてくれるだろう。
◇レーデ視点◇
事故現場というのはすぐに見つかった。
示された方向に馬首を向けて走らせただけだが、馬が勝手に右へ左へと動いては障害物を避けて進んでくれた。
クアルト様が誘導してくれているのだ。
離れた場所で起きた事故に気づいたり、そこまで誘導したりと、相変わらず彼の能力はすさまじい。
「あれか?」
馬車の列が見えてきた。
立派な四島引き馬車の後ろに、屋根なしの荷馬車が続いている。
「武装は軽い。護衛は三名……か?」
目に入るだけでは、そうだ。
だが、後方に集めているというのもあり得る。
気は緩めない。
問題の馬車も後方のようだ。
何人かで囲んでいるのが見て取れる。
「いかがいたした?!」
馬上から問いを投げた。
礼儀としては下馬すべきだが、相手の素性がわからない場合。
不慮の事態への対応を円滑にすべく、騎乗したまま問うのが規定だった。
「これは……騎士さま」
責任者——おそらくはこの商隊の雇い主——が受け答えに応じてくれた。
一瞬、言葉が途切れたのは私の性別だろう。
男性か、女性かと違和感を持ったのだ。
それでいて『騎士』には違いないと捨てた間だ。
「私どもはロマリスの町に商会を構える商人でございます。王都での取引を終えての帰路でございました」
見たままの素性が語られた。
彼らの存在のすべてが、そう告げている。
疑いの差し挟みようがない。
「ところが、王都で受け取ってまいりました荷が想定以上の重荷だったようで、段差に乗り上げました時に車軸が……」
「折れたのだな?」
荷台が後方に落ちていた。
前方が浮き上がっている。
「その通りにございます。いや、困りました。これではどうにも動かせません」
崩れた荷の重みが、後方へとかかって荷台が上がっている。
下手にいじれば、今度は前方へ傾くだろう。
荷台に人を乗せるのは危険だ。
これでは確かに動かしようがない。
せめて、荷台が水平になっていないことには……。
「荷は何なのだ?」
「フェルナード町の警備隊から受注いたしました武具にございます」
「それは――重いな」
当然に金属製だろう。
それは重い。
「ともかく、降ろせるだけ降ろせ。まずはそれからだ」
傾いた荷台での作業。
危険ではあるが、やるしかない。
「はい。そのために人手を集めておりました」
無事な馬車を降りた人たちが集まってくる。
商人たちの顔には、長旅の疲れが濃く滲んでいた。
「無理はさせるなよ!」
怪我はもちろん、人死になど許されない。
「もちろんでございます」
年配の人夫――人夫頭が音頭をとり、荷が降ろされていく。
ベテランの人夫には、こんな事態も珍しいものではないようだ。
だが――
「ここまで、ですな。ここからはあぷねぇ」
いくつか降ろしたところで、人夫頭は作業を止めた。
「馬車の傾きは直せぬのか?」
「直せはしますがね。上に乗ってるやつがどこかへ吹っ飛ぶでしょうよ」
天秤のようなものだと、肩をすくめて見せられた。
「なるほどな」
それはそうだ。
荷台の動きを抑える手立てを考えなくては、危険すぎる。
「手立てか……」
どんなものがあるのか、正直思いつかないけれど。
だが、不安はない。
このような状態で、頼れる人間を知っている。
『彼』なら、悩みもせず解決して見せるだろう。




