第103話 『隊列』
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木の匂いをまとった馬車の列が、ゆっくりと南へ向かっていた。
旗だけが風を受け、静かに揺れている。
先頭を行くのは、寄木細工の馬車。
細かな木片を組み合わせた“モザイク”が、朝の光を柔らかく返す。
その後ろに、力を左右へ逃がす“杉綾”。
一点へ集める“山形”、ねじれを受け止める“市松”。
四つの馬車が、まるでひとつの生き物のように連なっていた。
曳くのは、組木の馬たち。
木目の流れがそのまま筋肉のように見え、
歩くたびに関節の継ぎ目がわずかに鳴る。
その左右を、金属の騎兵が守っていた。
黄金と赤銅のあいだを揺れる軽騎兵。
白い大理石の馬に乗り、陽光を受けて淡く輝く。
殿には、黒灰の鉄鎧をまとった重騎兵。
緑青の馬が、静かに地を踏みしめる。
さらにその後ろに、布と革と骨の軽歩兵。
棒と鞭を携え、歩く。
隊長として一体だけが、木馬の背で揺れている。
盾を構えた煉瓦とタイルの歩兵が続き、
白い結晶の兵が、影のように列の端を走る。
陶器の兵は、二台の御者席に腰掛けていた。
釉薬の光沢が、まるで呼吸するように揺れる。
荷馬車の列には、草の匂いが満ちている。
幌の上には、布のモモンガが静かに伏せていた。
ただの布切れにしか見えないが、風を読む耳だけがわずかに動く。
そして――
空には、段ボールの影がひとつ。
風に溶けるように、音もなくついてくる。
誰にも知られてはならない“目”だった。
向かう先は、南方の町。
ごみ処理の要請が届いた場所。
州都から見れば近いが、少年にとっては初めての“別の町”だった。
「南かぁ、臭いからして違うんだろうなぁ」
御者席で、ひとりが小さく呟く。
返事はない。
ただ、木馬の足音だけが続いていく。
執事は、いつも通りの古めかしい口調で頷いた。
その声音には、どこか急いている気配があった。
だが、少年は気づかない。
列は、静かに南へ向かう。
その背後で、北の空だけがわずかに重く沈んでいた。
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「増えたよね―」
一団の中心。
メリマルゴール男爵家四男が、しみじみと呟く。
自分の騎士団のことだ。
◇
改めて詳細に目を剥けたなら――
中心となるのは『パーケットゴーレム』。
寄木細工風ゴーレムの馬車が四台。
木の風合いを活かした『モザイク』(小片結合)。
力を左右に散らす『ヘリンボーン』(杉綾)。
力を一点に集中させる『シェブロン』(山形)。
ねじれに強い『ブロックパターン』(市松)。
先頭を進むのは『モザイク』。
続いて『へリボーン』。
少し遅れて、『シェブロン』、『ブロックパターン』となる。
先頭2台には人が乗っているが、あとの2台は空だ。
これを『ジョイナリーゴーレム』の馬八頭が曳き馬になる。
騎士団の中核を担うのは二つの騎士隊。
軽騎兵の『ブロスブロンズゴーレム』×10 。
真鍮甲冑の兵士だ。
黄金色と赤銅色が混ざり合ったような色合い。
どこか儀礼用の鎧を思わせる美しい輝きを持つ。
軽量で、動きが滑らか。
関節の可動域も広い。
彼らの乗馬には、『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』(馬)×10を用いる。
白大理石の再結晶化による『生きた彫刻』のような馬にのる真鍮騎士、絵になった。
重装騎兵の『シンタードアイアンゴーレム』×10。
鉄の全身鎧。
焼結鉄の黒灰色に、青銅の筋が走る。
重厚で、まるで古代の巨兵が蘇ったかのような存在感。
重量はあるが、安定性が高く、盾役として完璧。
乗せるのは、『ブロンズゴーレム』×10とする。
緑青の模様が美しい、古代戦車の馬のような金属馬。
これが、隊列の先頭を進む軽装騎士、殿を守る重装騎兵だ。
馬車を守る歩兵隊。
『ラミネートクロスゴーレム』と、『レザーゴーレム』の軽歩兵×10。
一人ずつを『ジョイナリーゴーレム』の残りに乗せている。
隊長が馬に乗って、九人の歩兵を指揮する形だ。
『クロス』は『棒』。
『レザー』は『鞭』と半弓を装備させた。
先頭の軽騎兵の後ろには――
『ファイアブリックゴーレム』×10
『グレーズドゴーレム』×10
低身長で大盾を構える重装歩兵隊がつく。
赤茶色の重厚感ある耐火煉瓦。
ガラス質の光沢があって、表面が滑らかなタイル。
火と魔法に対して強力な防御になるはずだ。
さらに、馬車の周囲を守る兵。
『ハイドロキシアパタイトゴーレム』×10
白い結晶質の細身の兵士。
ククリナイフを装備した軽装歩兵だ。
一撃でも入れば終わりの低防御力。
なので、ひたすら避け続けて、一撃で敵を倒す。
そんな歩兵となる。
『ポーセリンゴーレム』×2。
陶器の人形だ。
ドレス姿の貴族令嬢となっている。
見た目、ちょっと異様かもしれない。
打撃も斬撃も致命的。
ただし、釉薬のおかげか魔法耐性は高い。
『シェブロン』と『ブロックパターン』の御者席に座っている。
あとは、馬車の『金庫』にかくまっているマスコット。
『ゴールドゴーレム』の豆亀。
『シルバーゴーレム』のヤドカリ。
『マラカイトゴーレム』の沢蟹。
『クリソコラゴーレム』のヤモリ。
『イミテーション・パールゴーレム』の真珠色ホヌ。
『イミテーション・アイボリーゴーレム』の象牙色ゾウガメ。
『スタビライズド・フォレストガラスゴーレム』のみどりと茶色のトカゲ。
『パスチャーゴーレム』の牛車。
これに引かせた『メドウファイバーゴーレム』の荷馬車。
荷馬車の屋根には『キャンバスゴーレム』が人知れず乗っている。
見た目はただの『幌』だが、実はモモンガである。
乗合馬車クラスの大きな馬車を四台連ね。
22体の騎兵。
48体の歩兵。
10台の荷馬車。
2体の陶器人形。
これが、『クアルト・メリマルゴール』騎士団である。
――上空に『ラミネートカードボードゴーレム』。
段ボールドローンが飛んでいるが、これは対外的には秘密だ。
―――以上となる。
◇
「うん。かなり増えてる」
改めて見直して驚くよね。
ほぼ、戦時の遠征規模だ。
「ちょっと考え物だよね」
町から町への移動とすると多すぎる。
男爵家当主の父親だってこうはならない。
うん。
考えないと。
赴く先は、メリマルゴール男爵領の第二都市『ロマリス』。
その地の代官からの要請を受け、町のゴミ置き場を片付けることになっている。
「州都メリマルから見て南方の町なんだよね!」
クアルト―『僕』が何度目かの確認をしている。
地図は『オレ』がほぼほぼ覚えているし、『僕』もその知識は共有できている。
確認の必要はないはずだが、『南へ行く』というだけでテンションが上がるようだ。
メリマル以外の『町』が初めてだし、しかたがないのかもしれないとは思う。
ペクンは『鉱山町』だったからな。
「左様で御座います」
飽きもしない確認に、同じく飽きもしない執事長が答えている。
慇懃な態度に古めかしい言葉遣い。
わざとかとツッコミたいが、間違いなくわざとだからツッコミにくい。
にくいやつだ。
その気になれば、同年代みたいにも話せるのに、これだからな。
何を考えているのやら…。




