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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第103話 『隊列』

1/1

 


 木の匂いをまとった馬車の列が、ゆっくりと南へ向かっていた。

 旗だけが風を受け、静かに揺れている。


 先頭を行くのは、寄木細工の馬車。

 細かな木片を組み合わせた“モザイク”が、朝の光を柔らかく返す。

 その後ろに、力を左右へ逃がす“杉綾”。

 一点へ集める“山形”、ねじれを受け止める“市松”。

 四つの馬車が、まるでひとつの生き物のように連なっていた。


 曳くのは、組木の馬たち。

 木目の流れがそのまま筋肉のように見え、

 歩くたびに関節の継ぎ目がわずかに鳴る。


 その左右を、金属の騎兵が守っていた。

 黄金と赤銅のあいだを揺れる軽騎兵。

 白い大理石の馬に乗り、陽光を受けて淡く輝く。


 殿には、黒灰の鉄鎧をまとった重騎兵。

 緑青の馬が、静かに地を踏みしめる。


 さらにその後ろに、布と革と骨の軽歩兵。

 棒と鞭を携え、歩く。

 隊長として一体だけが、木馬の背で揺れている。


 盾を構えた煉瓦とタイルの歩兵が続き、

 白い結晶の兵が、影のように列の端を走る。


 陶器の兵は、二台の御者席に腰掛けていた。

 釉薬の光沢が、まるで呼吸するように揺れる。


 荷馬車の列には、草の匂いが満ちている。

 幌の上には、布のモモンガが静かに伏せていた。

 ただの布切れにしか見えないが、風を読む耳だけがわずかに動く。


 そして――

 空には、段ボールの影がひとつ。

 風に溶けるように、音もなくついてくる。

 誰にも知られてはならない“目”だった。


 向かう先は、南方の町。

 ごみ処理の要請が届いた場所。

 州都から見れば近いが、少年にとっては初めての“別の町”だった。


「南かぁ、臭いからして違うんだろうなぁ」

 御者席で、ひとりが小さく呟く。


 返事はない。

 ただ、木馬の足音だけが続いていく。


 執事は、いつも通りの古めかしい口調で頷いた。

 その声音には、どこか急いている気配があった。


 だが、少年は気づかない。

 列は、静かに南へ向かう。

 その背後で、北の空だけがわずかに重く沈んでいた。


 ・

 ・

 ・


「増えたよね―」

 一団の中心。

 メリマルゴール男爵家四男が、しみじみと呟く。

 自分の騎士団のことだ。


 ◇


 改めて詳細に目を剥けたなら――


 中心となるのは『パーケットゴーレム』。

 寄木細工風ゴーレムの馬車が四台。


 木の風合いを活かした『モザイク』(小片結合)。

 力を左右に散らす『ヘリンボーン』(杉綾)。

 力を一点に集中させる『シェブロン』(山形)。

 ねじれに強い『ブロックパターン』(市松)。


 先頭を進むのは『モザイク』。

 続いて『へリボーン』。

 少し遅れて、『シェブロン』、『ブロックパターン』となる。

 先頭2台には人が乗っているが、あとの2台は空だ。


 これを『ジョイナリーゴーレム』の馬八頭が曳き馬になる。


 騎士団の中核を担うのは二つの騎士隊。


 軽騎兵の『ブロスブロンズゴーレム』×10 。

 真鍮甲冑の兵士だ。

 黄金色と赤銅色が混ざり合ったような色合い。

 どこか儀礼用の鎧を思わせる美しい輝きを持つ。


 軽量で、動きが滑らか。

 関節の可動域も広い。


 彼らの乗馬には、『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』(馬)×10を用いる。

 白大理石の再結晶化による『生きた彫刻』のような馬にのる真鍮騎士、絵になった。


 重装騎兵の『シンタードアイアンゴーレム』×10。

 鉄の全身鎧。

 焼結鉄の黒灰色に、青銅の筋が走る。

 重厚で、まるで古代の巨兵が蘇ったかのような存在感。

 重量はあるが、安定性が高く、盾役として完璧。


 乗せるのは、『ブロンズゴーレム』×10とする。

 緑青の模様が美しい、古代戦車の馬のような金属馬。


 これが、隊列の先頭を進む軽装騎士、殿を守る重装騎兵だ。



 馬車を守る歩兵隊。

『ラミネートクロスゴーレム』と、『レザーゴーレム』の軽歩兵×10。

 一人ずつを『ジョイナリーゴーレム』の残りに乗せている。

 隊長が馬に乗って、九人の歩兵を指揮する形だ。


 『クロス』は『棒』。

 『レザー』は『鞭』と半弓を装備させた。


 先頭の軽騎兵の後ろには――

 『ファイアブリックゴーレム』×10

『グレーズドゴーレム』×10

 低身長で大盾を構える重装歩兵隊がつく。


 赤茶色の重厚感ある耐火煉瓦。

 ガラス質の光沢があって、表面が滑らかなタイル。

 火と魔法に対して強力な防御になるはずだ。


 さらに、馬車の周囲を守る兵。

『ハイドロキシアパタイトゴーレム』×10

 白い結晶質の細身の兵士。

 ククリナイフを装備した軽装歩兵だ。


 一撃でも入れば終わりの低防御力。

 なので、ひたすら避け続けて、一撃で敵を倒す。

 そんな歩兵となる。


『ポーセリンゴーレム』×2。

 陶器の人形だ。

 ドレス姿の貴族令嬢となっている。

 見た目、ちょっと異様かもしれない。


 打撃も斬撃も致命的。

 ただし、釉薬のおかげか魔法耐性は高い。

 『シェブロン』と『ブロックパターン』の御者席に座っている。


 あとは、馬車の『金庫』にかくまっているマスコット。

『ゴールドゴーレム』の豆亀。

『シルバーゴーレム』のヤドカリ。

『マラカイトゴーレム』の沢蟹。

『クリソコラゴーレム』のヤモリ。

『イミテーション・パールゴーレム』の真珠色ホヌ。

『イミテーション・アイボリーゴーレム』の象牙色ゾウガメ。

『スタビライズド・フォレストガラスゴーレム』のみどりと茶色のトカゲ。



『パスチャーゴーレム』の牛車。

 これに引かせた『メドウファイバーゴーレム』の荷馬車。

 荷馬車の屋根には『キャンバスゴーレム』が人知れず乗っている。

 見た目はただの『幌』だが、実はモモンガである。


 乗合馬車クラスの大きな馬車を四台連ね。

 22体の騎兵。

 48体の歩兵。

 10台の荷馬車。

 2体の陶器人形。

 これが、『クアルト・メリマルゴール』騎士団である。


 ――上空に『ラミネートカードボードゴーレム』。

 段ボールドローンが飛んでいるが、これは対外的には秘密だ。


 ―――以上となる。


 ◇


「うん。かなり増えてる」

 改めて見直して驚くよね。

 ほぼ、戦時の遠征規模だ。


「ちょっと考え物だよね」

 町から町への移動とすると多すぎる。

 男爵家当主の父親だってこうはならない。


 うん。

 考えないと。


 赴く先は、メリマルゴール男爵領の第二都市『ロマリス』。

 その地の代官からの要請を受け、町のゴミ置き場を片付けることになっている。


「州都メリマルから見て南方の町なんだよね!」

 クアルト―『僕』が何度目かの確認をしている。


 地図は『オレ』がほぼほぼ覚えているし、『僕』もその知識は共有できている。

 確認の必要はないはずだが、『南へ行く』というだけでテンションが上がるようだ。


 メリマル以外の『町』が初めてだし、しかたがないのかもしれないとは思う。

 ペクンは『鉱山町』だったからな。


「左様で御座います」

 飽きもしない確認に、同じく飽きもしない執事長が答えている。

 慇懃な態度に古めかしい言葉遣い。


 わざとかとツッコミたいが、間違いなくわざとだからツッコミにくい。

 にくいやつだ。

 その気になれば、同年代みたいにも話せるのに、これだからな。


 何を考えているのやら…。


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