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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第101話 『再編』 

1/1

 


 朝が来た。

 久しぶりの天井を見上げ、意味もなく笑顔になる。


 コン、コン、コン。


 ノックの音。

 響き方で誰なのかがわかる。


「? ……珍しくない?」

 起き上がったクアルト――『僕』――が首をひねった。


「レイモンド、だよね。やっぱり」

 扉を開けると、予想通りの白髪頭がいた。


『クアルト付き』の使用人を束ねる執事長殿である。

 パーヴェル子爵家へ行く際、キャンパーの格好でついてきていたあの爺さんだ。


 そして――


 プリムの名で義勇兵を集める作業を実際に指揮した者でもある。

 その彼が、きっちりと執事服を着こなして立っていた。


「帰ってたんだね?」

 いつの間に——


「もちろんでございます。主の影が差すところに、立ってこその使用人というものですからな。クアルト様がお宅に入られれば、そこには我々もいるというもの」

「むう、なんか嘘くさい」

 プクっと頬を膨らませるクアルトの横をすり抜け、レイモンドが部屋に入る。


 朝の支度を手伝ってくれようというのだろう。

 家に帰ってきたので、アンナは男爵家のメイドに戻ったのだと気が付いた。


「執事長が直々になの?」

 服を着替えさせられながら、問う。


 別に不満はないが、おかしくない?


「アンナは男爵家の本務に戻りましたのでな。しばらくは私が務めさせていただきます」

「でも、レイモンドって忙しいでしょ? 僕の世話なんて――」


「クアルト様の“再編”が最優先でございます」


 レイモンドは、淡々とした口調のまま言った。

 だが、その言葉の裏に、いつもより強い意志が感じられた。


「再編……?」


「ええ。ゴーレム騎士団の再生でございます」


 クアルトの手が止まった。


「……ああ、あれ。朝食後に始めるよ」

「早く進めるのがよろしいかと」


 レイモンドは微笑んだ。

「クアルト様がいなければ、誰も動かせませんからな」


 ゴミ置き場に崩れさせたままだ。

 たしかに、クアルトがいなければ、あのままだろう。


「しばらくは邪魔にもならんでしょうが、早く片付けるに越したことはありますまい」

 その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。


 自分にしかできない。

 ちょっぴりの使命感が盛り上がる。


「じゃあ、すぐやるよ」

「はい。皆、首を長くして待っております」


 レイモンドが軽く頭を下げる。

 その仕草はいつも通りなのに――どこか、急いているようにも見えた。


「……何かあったの?」


 クアルトが首を傾げると、レイモンドは一瞬だけ目を伏せた。


「いえ。わたくしめも、ぜひ動いているところを目にしたいですからな。それだけのことですよ」


「……ふうん?」


「“力”は使えてこそですからな」


 その言葉は、妙に重かった。


「……分かった。行こう」


 クアルトは深呼吸し、気持ちを切り替えた。


 今日からまた、ゴーレム騎士団を動かす。

 仲間たちと一緒に、前へ進む。


 髪を執拗に梳る手から逃れて、廊下に出た。



 ――その時、廊下の向こうから小さな咳が聞こえた。


「……セティ?」


 振り返ると、セティが壁にもたれ、胸元を押さえていた。


「おはよう、クアルト。ちょっと……喉がね」


 笑ってみせるが、その顔色は少し悪い。


「風邪? 無理しないでよ?」


 セティは昨夜、客間に泊まった。

 だけど、ずっと野営だったのだ。

 旅の疲れが出たのだろう。


「大丈夫、大丈夫。すぐ治るから」


 軽く手を振るセティ。

 だが、その咳は――どこか乾いていて、嫌な響きがあった。


 クアルトは気づかない。

 レイモンドは、ほんの一瞬だけ眉をひそめた。


「……行きましょう、クアルト様」


「うん!」


 明るく返事をするクアルト。

 その背中を視線で追いかけながら、レイモンドは静かに息を吐いた。


 ――時間が、あまり残されていない気がしていた。


 朝食の席でも、セティは少し具合が悪そうだった。

 パンを少しだけ齧り、「今日はあまり食欲がなくて」と笑った。


 その直後、乾いた咳がひとつ。


「……」

「……」


 男爵と、嫡男がそっと視線を交わす。

 セティは、『あの町』の出だ。


 もしや——?


 疑惑が湧く。

 だが、確認はできなかった。


 そもそも、問題となっている病気は症例が定まっていない。

 そうかもしれないとは思えても、そうだとは言えない。


「お昼は、帰らないかも」


 そんな中、クアルトが予定を伝えた。

 昨日壊れたゴーレムを修復する、と。


「そうか……わかった」

 父――男爵――は静かに頷いた。


 ◇


「はじめるよー!」


 一声かけて、クアルト――『僕』――が走り回る。

『再編』はそれほど手間もかからずに進んだ。


 新しい『素材』はない。

 ゴーレムの残骸を使って、再びゴーレムにする。

 それだけの作業だ。


 追加のしようはないし、どちらかというと減っている。

 破壊されたときに弾けたり削れたりした分は戻らないからだ。

 見た目でわかるほどの差は出ないが、厳密にはそうなる。


 寄木の馬車が四台。

 組木の馬が10頭。


 『真鍮』の騎士。

 『合成大理石』の馬。


 耐火煉瓦とタイルの大盾歩兵。

 骨の軽歩兵。

 白磁器の専門兵。


 布と革。


 戦闘向きじゃないから、後方に控えさせていたゴーレムたちも揃えた。


 再生鉄の幌馬車と草原繊維の牛車。

 青銅の馬たち。


 段ボールドローン。

 金、銀、孔雀石、真珠、象牙。

 森林ガラス。


「戻ったね!」

 ずらりと並んだゴーレムを見渡す。


 馴染んだ『家』。

 馬車の復活に、クアルト――『僕』も『オレ』も——はホッとした。



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