第101話 『再編』
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朝が来た。
久しぶりの天井を見上げ、意味もなく笑顔になる。
コン、コン、コン。
ノックの音。
響き方で誰なのかがわかる。
「? ……珍しくない?」
起き上がったクアルト――『僕』――が首をひねった。
「レイモンド、だよね。やっぱり」
扉を開けると、予想通りの白髪頭がいた。
『クアルト付き』の使用人を束ねる執事長殿である。
パーヴェル子爵家へ行く際、キャンパーの格好でついてきていたあの爺さんだ。
そして――
プリムの名で義勇兵を集める作業を実際に指揮した者でもある。
その彼が、きっちりと執事服を着こなして立っていた。
「帰ってたんだね?」
いつの間に——
「もちろんでございます。主の影が差すところに、立ってこその使用人というものですからな。クアルト様がお宅に入られれば、そこには我々もいるというもの」
「むう、なんか嘘くさい」
プクっと頬を膨らませるクアルトの横をすり抜け、レイモンドが部屋に入る。
朝の支度を手伝ってくれようというのだろう。
家に帰ってきたので、アンナは男爵家のメイドに戻ったのだと気が付いた。
「執事長が直々になの?」
服を着替えさせられながら、問う。
別に不満はないが、おかしくない?
「アンナは男爵家の本務に戻りましたのでな。しばらくは私が務めさせていただきます」
「でも、レイモンドって忙しいでしょ? 僕の世話なんて――」
「クアルト様の“再編”が最優先でございます」
レイモンドは、淡々とした口調のまま言った。
だが、その言葉の裏に、いつもより強い意志が感じられた。
「再編……?」
「ええ。ゴーレム騎士団の再生でございます」
クアルトの手が止まった。
「……ああ、あれ。朝食後に始めるよ」
「早く進めるのがよろしいかと」
レイモンドは微笑んだ。
「クアルト様がいなければ、誰も動かせませんからな」
ゴミ置き場に崩れさせたままだ。
たしかに、クアルトがいなければ、あのままだろう。
「しばらくは邪魔にもならんでしょうが、早く片付けるに越したことはありますまい」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
自分にしかできない。
ちょっぴりの使命感が盛り上がる。
「じゃあ、すぐやるよ」
「はい。皆、首を長くして待っております」
レイモンドが軽く頭を下げる。
その仕草はいつも通りなのに――どこか、急いているようにも見えた。
「……何かあったの?」
クアルトが首を傾げると、レイモンドは一瞬だけ目を伏せた。
「いえ。わたくしめも、ぜひ動いているところを目にしたいですからな。それだけのことですよ」
「……ふうん?」
「“力”は使えてこそですからな」
その言葉は、妙に重かった。
「……分かった。行こう」
クアルトは深呼吸し、気持ちを切り替えた。
今日からまた、ゴーレム騎士団を動かす。
仲間たちと一緒に、前へ進む。
髪を執拗に梳る手から逃れて、廊下に出た。
――その時、廊下の向こうから小さな咳が聞こえた。
「……セティ?」
振り返ると、セティが壁にもたれ、胸元を押さえていた。
「おはよう、クアルト。ちょっと……喉がね」
笑ってみせるが、その顔色は少し悪い。
「風邪? 無理しないでよ?」
セティは昨夜、客間に泊まった。
だけど、ずっと野営だったのだ。
旅の疲れが出たのだろう。
「大丈夫、大丈夫。すぐ治るから」
軽く手を振るセティ。
だが、その咳は――どこか乾いていて、嫌な響きがあった。
クアルトは気づかない。
レイモンドは、ほんの一瞬だけ眉をひそめた。
「……行きましょう、クアルト様」
「うん!」
明るく返事をするクアルト。
その背中を視線で追いかけながら、レイモンドは静かに息を吐いた。
――時間が、あまり残されていない気がしていた。
朝食の席でも、セティは少し具合が悪そうだった。
パンを少しだけ齧り、「今日はあまり食欲がなくて」と笑った。
その直後、乾いた咳がひとつ。
「……」
「……」
男爵と、嫡男がそっと視線を交わす。
セティは、『あの町』の出だ。
もしや——?
疑惑が湧く。
だが、確認はできなかった。
そもそも、問題となっている病気は症例が定まっていない。
そうかもしれないとは思えても、そうだとは言えない。
「お昼は、帰らないかも」
そんな中、クアルトが予定を伝えた。
昨日壊れたゴーレムを修復する、と。
「そうか……わかった」
父――男爵――は静かに頷いた。
◇
「はじめるよー!」
一声かけて、クアルト――『僕』――が走り回る。
『再編』はそれほど手間もかからずに進んだ。
新しい『素材』はない。
ゴーレムの残骸を使って、再びゴーレムにする。
それだけの作業だ。
追加のしようはないし、どちらかというと減っている。
破壊されたときに弾けたり削れたりした分は戻らないからだ。
見た目でわかるほどの差は出ないが、厳密にはそうなる。
寄木の馬車が四台。
組木の馬が10頭。
『真鍮』の騎士。
『合成大理石』の馬。
耐火煉瓦とタイルの大盾歩兵。
骨の軽歩兵。
白磁器の専門兵。
布と革。
戦闘向きじゃないから、後方に控えさせていたゴーレムたちも揃えた。
再生鉄の幌馬車と草原繊維の牛車。
青銅の馬たち。
段ボールドローン。
金、銀、孔雀石、真珠、象牙。
森林ガラス。
「戻ったね!」
ずらりと並んだゴーレムを見渡す。
馴染んだ『家』。
馬車の復活に、クアルト――『僕』も『オレ』も——はホッとした。




