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転生令嬢は目立たずに生きていきたい。でも魔力には興味がある。(仮)  作者: セルピア


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第六話 属性測定

食事が終わると、司祭とカタリナは用意された部屋に引き上げていった。

「お疲れ様でした。ごゆっくりお休みください」

父が深々と頭を下げる。

「エミリア、後は頼んだぞ」

「はい、いってらっしゃい」

母が優しく微笑む。

父は壁に立てかけてあった剣を手に取り、外へ出て行った。夜間の警備体制と、明日の儀式中の警備について、ガストンたち警備隊と打ち合わせをするのだろう。

教会の使者団が滞在している間、何かあってはならない。父の表情は、いつになく真剣だった。

「さてと……」

部屋に残った私たちを見渡して、母が立ち上がった。テーブルの上には、使い終わった食器が山のように積まれている。

「片付けましょうか」

母が食器を手に取り始めたので、立ち上がった。

「お母様、私も手伝います」

「ありがとう、ユミナ」

小さなお皿やカップを、私は慎重に運ぶ。

すると、

「私も手伝うわ」

セレナが立ち上がり、大きな皿を手際よく重ねていく。

「もう、セレナったら。お客様なのに……」

母が少し眉を下げながらも、嬉しそうに微笑んだ。

「でも、ありがとう」

「気にしないで。昔から一緒にやってたでしょう? 教会で食事当番だった時のこと、覚えてる?」

「ええ、もちろん。あなたはいつもお皿を落としそうになってたわね」

「あれは一回だけよっ、 一回だけ!」

二人は笑いながら、食器を運んでいく。

私もその後ろをついていきながら、母の若い頃の様子を想像していた。


 * * *


片付けが終わると、母はセレナを客室に案内しハーブティーを運んでくる。

「少しお茶でもどうかしら、 まだ話し足りないでしょう?」

「もちろん! エミリア、あなたとゆっくり話せるなんて、何年ぶりかしら」

セレナの客室は、屋敷の中でも比較的広い部屋だった。窓からは月明かりが差し込み、柔らかな光が部屋を照らしている。

「ユミナも一緒にどうぞ」

母に促されて、私も席についた。ハーブティーが良い香りを運んでくる。

「こちらがユミナちゃんね。初めまして」

セレナが目を輝かせて、私を見た。

「手紙で何度も聞いていたわ。エミリアの自慢の娘って」

「も、もう、セレナったら」

母が頬を赤らめる。

「初めまして、シスター・セレナ」

私は立ち上がり、ワンピースの端を指先でちょこんとつまみ、膝をほんの少しだけ折って頭を下げる。

「まぁ、礼儀正しいわね」

セレナはそう呟くと自らも優雅な足取りで歩み寄り、私の指先にそっと自分の手を重ねた。

その二人のやり取りを、少し後ろで見守っていた母が、誇らしげに目を細める。

「もう八歳になったのよ。読書が好きで、最近は剣術も習い始めちゃって」

「え! 剣術?」

セレナが口元に手を当てて驚く。

「えぇ。ガストンという元騎士に教わっているのよ」

母が隣に座っている私の頭をそっと撫でながら説明する。

「マグナは数日で飽きるだろうなんて言ってたけど、もう二年も続けてるのよ」

「まあ! すごいわね、ユミナちゃん」

セレナも私の頭をぽんぽんと軽く叩くようにして褒めてくれた。


「魔術の方はどうなの?」

セレナが尋ねる。

「まだ基本を学んでいる段階よ。文字を読めるようになってから、魔術の基礎の本を一緒に読んだりしているわ」

私は相槌を打ち、お茶を飲む。

「ユミナは魔術にも興味があるのよね」

――……え!?

私の視線が、部屋中を泳ぎ始めた。

天井、窓、テーブル、セレナの顔の横、母の肩の辺り……どこを見ればいいか分からない。

「本を読んでる時、すごく真剣な顔をするの」

――そ、そんなことないです……多分……いや、してたかも……?

視線が右往左往する。

「質問も的確だし、理解も早いわ」

――普通に聞いてただけで……あれ、でも確かによく質問してたような……

「なるほど、将来が楽しみね」

そっと横目で母の顔を見るが、何も気づいていない様子で、セレナと楽しそうに話している。

私はお茶を一口飲んだ……

香りはあんなに華やかだったのに、今の私には、ひどく苦く感じられた。


「そうだ、ユミナちゃん」

セレナが私に向き直る。

「属性の測定、まだだったわよね?」

「え……は、はい」

カチリ、と小さな音をたててティーカップを置く。

「手紙で聞いてたの。村に教会がないから、測定できてないって」

教会がある街では、五歳になると属性の測定を行うが、ノックス領には教会がないため私は測定を受けていなかった。

「だから、持ってきたの」

セレナが自分の荷物から小さな水晶球を取り出す。

属性測定の魔導具だ。

――きた……

私の心臓が早鐘を打つ。

「あの……これって、魔力の多さとかも、わかるんですか?」

できるだけ平静を装って尋ねる。

「え? あぁ、ごめんなさい。これは属性しかわからないの」

セレナが申し訳なさそうに言う。

「もっと高度な測定器なら、魔力量もわかるんだけど……高価で、持ち出させてもらえなかったわ」

――……よかった。

思わず安堵の息を吐く。

属性だけなら、大丈夫。

風属性を示せばいい。


「じゃあ、測ってみましょうか」

セレナが水晶球を私の前に置く。

「両手を、球の上に置いて」

「は、はい」

手を伸ばすと……ブルブルと震えている。

――き、緊張で手が……

「あら、そんなに緊張しなくて大丈夫よ」

母が心配そうに覗き込む。

「だ、大丈夫です……」

――落ち着け、落ち着け。風属性だけ。風だけ……

心の中で何度も唱える。

「ユミナちゃん、そんなに緊張しなくて大丈夫よ」

セレナがクスッと笑う。

「私も初めての時は緊張したけど、属性測定は痛くないから。ただ手を置くだけで大丈夫よ」

「ユミナは真面目だから、測定が失敗したらどうしようとか考えてるのね」

母が頭を撫でてくれる。

「ほら、リラックスして。力を抜いて」

「……はいっ」

ゆっくりと深呼吸してから、両手で水晶球に軽く触れると……淡い緑色に光る。

「風属性ね」

セレナが確認する。

私は手を放して、ほっと息を吐いた。

――よかった……

「そう、風属性なのね」

母の声のトーンが、ほんの少しだけ落ちた。

「そんなに残念がらないの」

セレナが母の肩をポンと叩いた。

「そのために私に頼んでいたんでしょ?」

「もう……そうだけど」

母が少し照れくさそうに笑う。

セレナは、傍らに置いていた鞄をゴソゴソと探り始めた。

「ちゃんと持ってきたわよ」

そう言って取り出したのは、一冊の本だった。革装丁で、背表紙の文字が少し擦れている。

「魔術の教科書よ。ユミナちゃんにプレゼント」

「え……いいんですか?」

私は目を輝かせて、その本を受け取った。

ページをめくってみる。

――うわぁ……

文字がびっしりと詰まっている。

図解も複雑で、難しそうな数式や魔法陣の図が並んでいる。


「私達が学生時代に使っていた物なんだけど、エミリアから持ってきてほしいってお願いされていたのよ」

「学生時代……?」

「そうよ、それぞれの属性の特性、魔力の流れ、詠唱の組み立て方、全部載ってるの」

セレナが説明する。

「でも、ユミナちゃん」

セレナが私の顔を覗き込んだ。

「この本、子供には難しいわよ。無理しないでね」

「難しい……ですか?」

「えぇ、とっても」

セレナが遠い目をした。

「私、この本で何度泣いたことか……」

「セレナったら」

母が苦笑する。

「頑張ります」

私は顔を上げて、セレナを見た。

「あら、やる気ね」

セレナが私の顔を見て、ニヤリと笑った。

母の顔を見ると、本を抱きかかえている私の姿を見て、静かに頬を緩めた。

「でも、本当にそれでよかったの?」

セレナが母に視線を送る。

「えぇ、この本ならどの属性でもしっかり学べる内容だから。……ユミナならきっと大丈夫よ」

母が慈しむように微笑む。

「さて、ユミナ。もう遅いわよ、寝る時間ね」

母が時計を見る。

「はい。おやすみなさい、お母様。セレナさん」

私は本をしっかりと抱きしめて、自分の部屋に向かった。


 * * *


ユミナが部屋を出て行った後、二人きりになった部屋で、セレナが口を開いた。

「でも、安心したわ。あなたが辺境の男爵と結婚すると聞いた時は、みんな心配していたんだから」

「あら、そうだったの?」

私は当時のことを思い出し、少し驚いた。

「えぇ、私もここに来るまでは大変だと思っていたわ」

セレナは目を閉じて今日見た光景を思い出す。

出迎えてくれた村人やマグナ、そして、渡した本を大事そうに抱きかかえて、目を輝かせていたユミナ。

「でも……」

セレナと目が合った。

「幸せよ」

実際、生活は大変だった。それでも断言できた。

マグナは優しいし、ユミナは元気に育ってくれている。領民たちもみんなが助け合って、支え合って生きている。

セレナが手紙でいつも心配してくれていることを知っていてもそれ変わらない。

ただ、いざ口にしてみると頬が少し熱くなっていることに気が付いた。

「そう……良かった」

セレナがクスクスと笑い始める。

私もつられて笑ってしまう。

「明日は儀式があるけれど、寝なくても平気?」

「あら、私がまだまだ聞きたいことがあることを知っていたから、ユミナちゃんを先に寝かせたんじゃないの? 」

セレナが悪戯っぽく微笑む。

「それに、私よりも優秀なシスターがいるのだから、寝坊しても平気でしょ」

セレナが体の前で両手を合わせて、懐かしいウィンクをしてくる。

「もう、カタリナ様に怒られるわよ」

「大丈夫、大丈夫」

親友との楽しい一時はもう少し続きそうだった。


 * * *


その夜。

ベッドの中で、私は考えていた。

――お母様、私が魔術に興味があるって、ちゃんと気づいてたんだ

隠してるつもりだったのに。

――でも、秘密の練習のことは……多分、知らないよね?

属性を真似できることも、詠唱なしで魔術を使えることも、まだ気づかれていないはず。

もっと気をつけないと。

そう思いながらも、少し嬉しかった。

母が私の興味を理解してくれている。

応援してくれている。

「ありがとう、お母様」

小さく呟く。

そして、明日。

いよいよ、魔力汚染浄化の儀式が行われる。

「どんな儀式なんだろう」

期待が膨らむ。

明日を楽しみにしながら、私は眠りについた。


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