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転生令嬢は目立たずに生きていきたい。でも魔力には興味がある。(仮)  作者: セルピア


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第十八話 同居人

「ユミナ、この子の名前はもう決めたの?」

「あ、はい。ルナにしようかと」

両親にされるがままのルナを眺めつつ、私は答えた。

「そう、ルナって言うのね。よろしくね」

ルナに話しかける母の声は、まるで幼い子供に内緒話をするように、優しく弾んでいた。

「しかし、家で面倒見るのはいいが……何を食べさせればいいんだ?」

「え!?」

生き物であるのだから、当然食べ物は必要になる。けれど、ルナが食べると言っていたのは魔力。

「お父様、ルナは魔力を食べるので特に何も必要ないのです」と言えば、父は「家計に優しいな」なんて喜んでくれるだろうか? いや、ルー先生の魔物図鑑にも載っていない生き物。きっとこうなるはず。


「なにっ、そんな生き物が存在しているとは……!」

「エミリアは何か聞いたことあるか?」

「そうね……教会でもそんな話聞いたことないわね。もしかすると神様……いえ、聖女様の使いの可能性もあるかもしれないわね」

「なんだとっ、だとすると……ユミナは聖……」

――ダメ、この流れは駄目!

私は妄想を断ち切り、母の言葉からやり直す。

「そうね……教会でもそんな話聞いたことないわね。もしかして、汚染された魔力を食べるのかしら」

「なんだとっ、だとすると……農地が増えたのはルナのおかげということに……」

後日、村の広場の小屋の中で崇められるルナの姿が……


「えっと……干し肉とか……、野菜も……多分大丈夫なはず、です」

ルナを見ると、「私は魔力があればそれでいい」と言わんばかりの顔でこちらを見ていた。

『私は魔力……』

「体が小さいのでそれほど食べない、と旅の方が言っていました」

ロベルトの勢いを真似て、言葉を遮った。ルナのじとーっとした目つきを感じた。

「家にあるのはこれぐらいだが」

父が、干し肉をルナの口元に近づける。私は「食べて」と意志をのせてウィンクすると、ルナはカリカリと音を立てて干し肉を食べた。

「お父様、お母様、村の皆に紹介してきてもいいですか?」

「あぁ、そうだな」

「もうすぐ夕食だから、それまでには帰るのよ」

「分かりました。ルナ、行きましょ」

私はルナを連れて家を出た。


『魔力以外の物を食べる必要はないのだが……』

「ごめんなさい、ああ言わないと、よくない未来になる気がして……」

隣を歩くルナが首を傾げた。

「あんなこと言っちゃったけど、食べられない物はあるの?」

『分からない』

――そうだよね、好き嫌い以前に食べる必要はなかったのだし……

と、考えながら広場に向かって歩いていると、ルナが足を止めた。

「へ……!? ル、ルナ……何してるの?」

道端に生えていた草をもしゃもしゃと食べ始めた。

『ヤサイというのは、草のことだろう? 食べられそうだ』

「ち、違うの。野菜は草とは……」

言いかけて、止まった。目の前のルナを見ていると、何から説明すればいいのか分からなくなってくる。

「……美味しい?」

『オイシイ?』

なんとなく、この会話はここで終わりにした方がいい気がした。


広場に着くと魔導具が祭られている小屋の近くにレベッカ達が集まっているのが見えた。

「レベッカおばさん」

小さく手を振ると、それに気が付いたレベッカが小走りに近づいてきた。

「ユミナちゃん、大丈夫だったかい? 怪しい人が探してたって聞いたけど」

案の定、ルナは怪しい人として村に伝わっているようだった。チラリと足元を視ると、どこ吹く風の態度でこちらを見上げていた。

「あ、はい。その……あの人は怪しい人ではなくて、旅の人で……」

私は、父に説明したように、安全で怪しくない人と言う部分を強調して伝えた。

「それで、この子を預かることになったんです」

ルナを抱きかかえ、レベッカ達に紹介する。腕の中のルナは、まるで作り物の置物のように、抵抗することなくじっとしていた。その達観した横顔が、なんとも言えなかった。「ごめんね」と、心の中で手を合わせた。

「あら、ユミナ。何してるの?」

振り返ると、真っ黒に汚れた麻袋をそれぞれ抱えたリザとロベルト、そして同じく顔まで炭で汚れたガストンが居た。三人の服はどこもかしこも黒ずんでいた。

「俺たち、ガストンさんの手伝……なんだっ、こいつ!」

麻袋を放り投げるロベルト。

「わぁ!」

リザも麻袋を置いてルナに近づく。

ロベルトに頭を叩かれるように触れられたルナは、私の腕の中からスルリと抜け出し地面に着地した。

「むっ」

着地した先にいたガストンとルナの視線がぶつかった。

大男と、ふわふわの小さな銀の塊。

「……」

「……」

どちらも動かない。どちらも目を逸らさない。

――絵面がおかしい。

「こいつ……」

ルナの背後からジワリジワリと忍び寄り、手を伸ばすロベルト。

「捕まえたっ!」

その手をかわし、高く飛び上がったルナは空中で一回転。ロベルトの頭を踏み台にする。「ぎゃ」という情けないロベルトの声と共に華麗に着地した。

「わぁ、凄い」

拍手するリザにすり寄るルナ。

私は三人にも事の経緯を説明した。

「そうだったのね、それならルナも今日から村の一員ね」

リザはルナを抱え上げ頬をすり合わせている。その様子を地面に座り込んで眺めていたロベルトは少し拗ねているように見えた。

――ロベルトもすりすりしたかったのかな?


「あぁ、そういう事だったのね」

私が、少し離れた場所からルナたちの様子を見ていると。レベッカが隣に並んだ。

「え?」

どういう事か分からなかった。

「ユミナちゃん、ルナちゃんを飼いたくて、それで悩んでいたのね」

レベッカがルナの方を見てにこりと笑う。

――悩んでた? ……あっ、そっか。昨日の私は、元気がなかったんだった。

「ぁ……はい、そうなんです」

ちょっとだけ罪悪感を覚えながらも、流れに身を任せることにした。

「ふふ、よかったわね」

「はいっ」


日暮れの時間が近づいてきたので、私は少しくたびれた様子のルナと並んで帰宅していた。

「こんな事になっちゃって、ごめんね」

『人と接するのは嫌じゃない』

少し意外だった。人の世を避け、洞窟の中で長い時を重ねてきた銀狼。人が嫌いなのかもしれないと思っていたので、安心した。もしかすると、昔のルナも今日のような感じで人と触れ合っていたのかもしれない……

――でも、小さい姿になることは、あまりなかったみたいだから、触れ合うとしたら……大きい姿。

人がルナのおもちゃにされて転がされている失礼で少し怖い状況を想像してしまった。

――昔は、小さかったのかもしれないし……

ルナが人と会うときは人の姿をしていたという話を忘れ、左右に動くルナの尻尾を見ながら歩く。

『だが、ロベルトとかいう人間はダメだ。あいつは私に敵意を持っている』

足を止め振り返るルナ。

「て、敵意って……」

少し前の二人の様子を思い出す。ムキになって捕まえようとするロベルトと軽やかに逃げ回るルナ。

「確かにルナを捕まえることに必死になっていたけど、敵意は……流石に言いすぎじゃない?」

『いや、あの射抜くような視線は間違いない』

私は引きつった笑いを浮かべた。

『しかし、あの程度では私の相手にはならない。相手になるのはユミナを除けば……ガストンと呼ばれていた大男ぐらいだろう』

「ガストンさん? って、どうして私まで出てくるのよ」

ガストンの強さは良く知っている。村では間違いなく一番強い。ルナも過去に色々な魔物と戦ってきたようなので、きっとすごく強いのだろうというのも分かる。しかし、そこに自分が含まれるのは納得いかなかった。

『あの者は、近くに居てもほとんど存在が感じられなかった。ユミナも同じような時があった』

「あ、あれは、無属性……」

『あのような術を持つ者は出会ったことがない、おそらくあの者がユミナの師なのであろう』

確かに、師と呼べる存在であるガストンのことが褒められることは嬉しく感じたが、後で変な誤解をしている銀狼にしっかりと無属性のことを話そうと私は決意した。


 * * *


夜明け前、いつものように大地を少し浄化する。誰かの前で行うのは初めてだったので、少し緊張していた。

『凄いものだな』

「え?」

大地が戻るのを見届けた後、ルナが呟いた。

『大地はいつか必ず元に戻る、そんな風に言っていた男がいた』

「もしかして、ルーデンス様?」

『……そのルーデンスという者かどうかは、分からない。だが、私とそいつはよく一緒に戦っていた』

――男の人と一緒に……ちょっと待って、ルナはもしかしてその人と……


私は一つの仮説を立てた。ルナが話していた人物がルー様だったとして……ルナはその人の傍にいた。五百年前の戦いの中で。

――ルー様は沢山の本を遺した。魔物図鑑も、浄化魔術の記録も。それなのに、ルナのことはどこにも書かれていなかった。

もしも、私のことを本に残したいと言われたら、間違いなく断る。でも、ルナなら……「勝手にしろ」と無頓着な姿が簡単に想像できる。

――銀狼の姿は書かれていなかったけれど、ルナは人の姿にも慣れる……

<光の聖女と、闇の魔王>、ルー様の遺した本。ルナは私の服を再現していた。髪の色も変えることが出来たのなら……

頭の中で、何かがカチリと音を立てた。

「あっ」

声が出た。

私の足元に座る小さな銀の狼。でもそれは仮の姿で本当は大きな銀狼。そして、一人の女性。

――ルナが聖女様! そして二人は……恋人!!


気持ちを落ち着かせるために、近くの岩の上に腰を下ろした。近くに座ったルナを膝の上に乗せる。

「あ、あのね……ルナ。……聞きたいことがあるのだけど」

『何だ?』

ルナがくるりと体を反転させ私を見上げる。

「ルナは……さっき話していた人の事が……す、好きだったの?」

気まずい沈黙……

『……たいした人間だとは思っていたが、好き? ではない。それは、人と人が……互いに肌を寄せ合う行為か?』

私の考えがガラガラと音を立てて崩れていく。

「え、あ……そう、だね」

『あいつが好きだったのは、私の前の主だ。あいつは彼女が好きだった景色を取り戻そうとしていた』

「それって、もしかして聖女様……?」

『そのセイジョとやらが、戦いの中心人物だったというのならそうなのだろ。彼女やほかの人間と共に私は戦った』

「勝ったんだよね?」

おとぎ話の中ではそうなっていた。そして、魔王と呼ばれる存在はいない。それでも確認したかった。

『あぁ』

私はホッと胸をなでおろした。

『だが、放たれた魔力の拡散を防ぐために、彼女は命を落とした』

「あ……ごめんなさい」

これまでの話からその可能性はあった。けれど、考えることを避けていた。

『何故ユミナが謝る?』

ルナの表情は特に変化がなかった。

「えっと……あまり思い出したくない思い出かなって……」

『そんなことはない。私たちは、やれることをやった。ただそれだけだ』

遠い過去を思い出すかのように空に輝く星を見上げるルナの表情からは後悔の色は見えなかった。

こっそりと浄化を続けたことで、元の大地に戻った場所は増えた。けれど、目の前にはまだまだ汚染された大地は残っている。

魔王の魔力によって汚染されたという事は知っていた。でも、聖女によって守られた結果が今の状況だとは知らなかった。

――聖女様が守ってくれなかったら、今よりももっと汚染された土地が多かったんかな。ノックス領ももしかしたら……

「ルナは、汚染される前の景色を知っているの?」

口から言葉がこぼれた。

『あぁ、私の記憶はそこから始まっているからな』

「また……見たい?」

ルナが私と同じ方向に視線を向けた。

『分からない』

『……ただ、ユミナに見てもらいたい』

「へっ!? わ、私に?」

予想外の言葉に、わたわたと慌てる。

『もう見ることはないと思っていたが、ユミナの力があればすぐにでも戻りそうだ』

――んっ? 私の力? すぐ??

パチパチと瞬きをする私の目を見ながらルナが続ける。

『あの魔術があれば可能だろう?』

「え~っと、その……」

確かに、やる気を出してやれば今よりも何倍も早く浄化を進められる。でも、それでは目立つ。そうなると、村に色々な人が訪れるようになり活気に満ちる。

――……あれ? 良いことじゃない……じゃなくて!

私はルナに日が昇るまで、ひっそりと穏やかに過ごすことの素晴らしさを説明した。

『……つまり、目立たずに、静かに生きたいということか』

「そう、そういうことっ」

しばらくの沈黙の後、ルナは短く息をついた。

『ユミナは、不思議な人だな』

褒められているのか、呆れられているのか、その表情からは読み取れなかった。でも、なんとなく悪い意味ではない気がして、私は少し笑った。

東の空が、うっすらと明るくなり始めていた。

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