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転生令嬢は目立たずに生きていきたい。でも魔力には興味がある。(仮)  作者: セルピア


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第十六話 白銀

むかしむかし、金色の髪をした聖女がいました。

世界は、魔王の軍勢に脅かされていました。

人々は苦しみ、泣いていました。

聖女は、仲間たちと共に立ち上がりました。

「みんなを、守りたい」

そう言って、聖女は戦いに向かいました。


でも、戦いはとても厳しいものでした。

聖女は、何度も傷つきました。

それでも、聖女は諦めませんでした。

「大丈夫。きっと、みんなを守れる」

仲間たちと共に、聖女は戦い続けました。

そして、ついに……聖女は、魔王を倒しました。


世界に、光が戻りました。

人々は、笑顔になりました。

聖女は、みんなの英雄になりました。


おしまい。


 * * *


――うぅ~ん、普通……だよね。

机の上に絵本を広げ、何度か読み返してみた。けれど白銀のヒントになりそうなものはなかった。

一つ、それらしいものは、聖女と仲間たちが大地の上で魔王と戦う絵。灰色ではなく、白い花が咲く緑の大地。その上に魔王の魔術が黒く描かれ、聖女の魔術が白く描かれていた。

――この黒い色が汚染された魔力なら、白い色があの子の魔力なのかな……色が似てた可能性もあるけど……

二つの魔力の共通点は自分が再現できなかった事。これでは手がかりと呼ぶには、あまりに心もとない。

――でも、もしそうなら、聖女様と同じ属性ってことだよね。

絵本の中に銀狼の姿は描かれていない。一緒に魔王と戦っていたわけではないのかもしれない。

けれど、彼女は「私は普通の魔力では糧にならない」と、言っていた。つまり白銀の色の魔力を得ていた可能性がある。どういう関係なのか分からないけど……

――聞いたら、答えてくれるかな?

やれるだけのことはやってみよう、そう思い窓の外に視線を送ると、少し雲が出始めていた。


 * * *


翌日の未明。

昨日と同じように洞窟へ向かっていた。雲が空を覆っていて月は見えない。光の球を作り大地を駆ける。

「えっと、こんばんわ」

洞窟の奥で変わらず丸くなっていた銀狼に声をかける。

「魔力のことは……ごめんなさい。まだなの……少しだけ、お話したいなって思って……」

言葉が冷たい壁に跳ね返る。けれど、銀狼はぴくりとも動かない。

――お腹が減ってて元気もでないのに、急にお話ししましょうって……結構、失礼だよね。

私は、一歩、また一歩と、銀色の巨体に歩み寄る。

その時……丸まっていた巨体が、ゆっくりと重々しくほどけていった。折り畳まれていた四肢が静かに地面を踏みしめ、前足を揃えて上半身を起こす。座っているだけなのに、その頭部は私の頭よりもずっと高いところにあった。思わず一歩後ずさる。

『本当にまた来るとはな』

頭に響く心なしか元気な声。

「ごめんなさい、起こしちゃって」

『構わない……最後に人と話せるのは私も嬉しい』

開かれたその瞳は、少し靄がかかったようなくすんだ青い色をしていた。

「あなた……目が」

『あぁ、この目が光を捉えることはない』

幻想的な姿からは想像できない事実に胸が苦しくなる。

「それで……あなたのことを聞きたいのだけど、いいかな?」

『あぁ』

少しだけ、銀狼の顔が近づく。

「えっと、あなたは五百年前からここにいるの?」

『いつから……か、長くとしか言えないな』

――それは、そうだよねっ。

前世と合わせても三十年ほどしか生きていない私には、五百年という長い年月を想像することはできなかった。

「あ、あなたは……聖女様と一緒に居たの? 金髪の女性なんだけど……」

遠い思い出を探るように、ゆっくりと瞳を閉じる銀狼。

『誰かとは一緒にいた。……たが、それが聖女という人物かどうかは分からない』

――……そっか、当時から聖女って呼ばれていたかどうかは分からないんだ。魔王を倒した後にそう呼ばれるようになった可能性も……でも、誰かとは一緒にいたんだ。

そのことが、少し嬉しかった。だけど……

『ふふ、もう顔も思いだせないな』

「あっ……」

五百年、その重さが伝わった。

「あなたは、その人たちと魔王……誰かと戦っていたの?」

『……あぁ、私はそのためにいたからな』

絵本には描かれていなかった。大賢者と呼ばれた人が遺したお話。その理由までは分からないけれど……

「その時は、えっと……魔力を食べていたの?」

銀狼が頷く。その口元が少しだけ緩んだ気がした。気がしただけかもしれないが。

「ルー様……ルーデンスっていう名前に聞き覚えはある?」

『わからない』


私は座っている銀狼の足元に腰を下ろし、銀色の毛皮にもたれる。彼女は嫌がるそぶりを見せなかった。

銀狼のことが少し分かった。分かったけれど、それが白銀の魔力に繋がるとは思えなかった。

――おとぎ話に、この子が出てこないのは、ルー様が知らなかったっていう事なのかな。

お母様から聞いた話を思い出す。浄化のきっかけになる魔術を編み出した大賢者。一緒に魔王と戦っていたって思い込んでいたけど、そうでもなかった可能性もでてきた。

――さすがにあの長い名前は、偽名だとは思うけど。

今では大賢者と言われているけれど、実はお茶目な人だったのかなと考えつつ、そっと普通の土に触れる。

水の魔術。本質までは理解していないけれど、見た目を真似ることはできる。創り出した水の塊はフヨフヨと浮いている。

――お母様が話していたできた人とできなかった人の差は……たぶん優しさ。嫌な気分になる魔力だけど、それを拒絶せずに受け入れられるかどうか……きっとそういう気持ちを込められる人があの魔術を扱えたんだろうな。ルー様はきっとそれを私たちに遺してくれた……どうして魔術だけだったのかは分からないけど。

座っている私の目の前をゆっくりと動く水の塊。右へと思えば右に、左へと思えば左へ動く。生きているように……

ふと、思った。

――どうして……動いているんだろう。

私が、そう動けと思ったから。その通りだった。浄化の魔法も。私が優しくしようと思ったから優しくなった。

――私が……魔力を……

自分の周りに漂う魔力を視る。

――集まれ。

右手に魔力が集まる。いつも通りだった。汚染された大地と銀狼を交互に視た。

「白と黒……反対。私が考えていたことも……逆ならっ?」

動かしていたのではなく、動いていたのなら。

私の動かしたいと思う意志。その意志を魔力自身が持ち、魔力が動いていたとしたら……

――浄化の魔法は優しくしようと思った。もしそれがきっかけで魔力が優しさを持っていたとしたら? でも、お母様の水の魔術に触れた時はそういう感じなかった……

――どうして、感じられなかったのかな。お母様の水の魔術が劣っているわけでも、想いがないわけでもないはず。実際、お母様は浄化の儀式を経験していた。なのに、冷たさしか伝わってこなかった。

右手に普段浄化を行っている光の球を創り、触れてみる。魔力があるということは分かるけれど、銀狼の魔力から伝わったものからは程遠く感じた。

水は水として、光は光として。既にその色を持ち、その形として在る。そこに想いを加えても……もう、染まらない。

――……属性があるからっ?


急に立ち上がり、汚染された大地に触れる。手のひらを通して伝わる嫌な感じに顔をしかめる。

「呪い……」

呪いとは何か? そう聞かれても私には答えられる自信はなかった。ただ、この世界、ノックス領に暮らす人になら大地に触れた感じで通じる。生物を憎み、恨むような感情。もしそれを魔力が持っているとしたら。

属性を持った魔力が意志や想いを持ったとしても、それを感じ取るのは難しいのかもしれない。魔力同士は反応しているのだから、絶対に無いとは言えないけれど、私には無理だった。

「無属性なら……」

大地から放たれる魔力から手を離し、ガストンさんの魔力を思い出す。透明で、すぐに霧散してしまう魔力。色がない。どの属性にも染まりきれていない、色がつく前の状態。同じ魔力であるはずなのに、他とは全く別の性質を持つ無属性。

仮に無属性の魔力に呪いのような意志が宿り、黒紫色になったとするのなら、白銀の色に宿る意志は……

私は答えが分かる気がした。

それを確かめるため、銀狼に近づき触れた。変わらず感じる冷たさ。そして……

――……うん。

確信する。伝わる温かさを私は知っていた。

温かいものに包まれていた。柔らかくてふわふわした絹の感触。でも、それだけじゃなかった。

聖女はおとぎ話で戦っていた。守るために。


魔力の色を透明にする。

銀狼が何かを確認するようにこちらを見た。

――守る……何を? 何から!?

つまずいた。

――守りたいもの……自分!?

真っ先に思いついたのはそれだった。

――いや、流石にそれはダメだよね? 聖女様は魔王から守るために戦ったんだから……魔王から!!?

突如として世界に現れた魔王。平和だった世界を侵略し……

――だめだめっ。これは無しよ。

妄想に現れた魔王を地平の彼方へ追い出す。

――え、えっと、世界……とか?

世界中を守る自分の姿……を水の中に投げ捨てる。

――私が知っている世界なんて、ノックス領とグレイモント子爵領だけ……なんて小さい世界。

心の中で涙が出た。

――そもそも、ノックス領の事しか詳しくない! それでもいいのかな……

目を閉じると、村の光景が鮮明に映る。

頼りがいはあるが、時々子供っぽくなる父、そんな父と私を温かく包み込んでくれる母、寡黙に剣を振るガストン。ロベルト、リザ、マルク、彼らを中心とした子供たち。そして村の人たち。浄化を続けた結果、少しは生活が良くなってきている気がするけれど、隣町と比べると一般的な暮らしには程遠い。そんな中でも笑って暮らせていた。

――失いたくない……

どんなことがあっても守る。物語の聖女のように言い切る自信はない。

――それでも、失わないための努力はする……つもりっ!

拡散していた魔力が、一気にまとまり留まる。目を開けると、あの子と同じ、純粋な色がそこにあった。

「あっ……」

驚きと嬉しさで涙が出そうになった。

次の瞬間、無色に戻り霧散した。

「え!? あっ、ちょっ」

もう一度、意志を与え色を変える。両手で銀狼に触れ、戻る前に流し込んだ。

――これでっ、どうよっ!!

狼の体が、光に包まれた。魔力が、狼の体に吸収されていく。

『……これはっ!』

その声には驚きが混じっていた。

銀狼の体に、生気が戻っていく。くすんでいた毛並みが、みるみるうちに輝きを取り戻していった。

次の瞬間、魔力が弾けた。

波紋が広がるように、銀狼を中心として光が洞窟の内部へと広がっていく。黒紫色の靄が、その光に触れた端から薄れ、消えていく。気が付けば、足元の土は茶色に変わっていた。

しばらくして、静寂が戻った。

ふと、頭上から光が差し込んでいることに気が付いた。天井の穴から覗く夜空に、雲の裂け目ができていた。そこから零れ落ちる月明かりが、私たちをそっと照らしていた。

『もう……十分だ』

サファイアのような青い瞳が私を見つめていた。

「え、でも……」

『これだけ貰えれば、動き回ることに支障はない。それよりも、休んだほうがいい』

そう言われて、自分が汗をかいていることに気が付いた。

「そう、だね。また来るよ」

『あぁ』


 * * *


フードをかぶった銀髪の少女が背を向け歩いていく。

――……小さな背中だ。

『待て』

翡翠色の瞳がこちらを向き、首をかしげた。

『なんと呼べばいい? お前を』

その問いに、少女はハッと息を呑み、申し訳なさそうに眉を下げた。

「私の名前は、ユミナ。ユミナ・エルデガルド。あなたが知っているか分からないけれど、洞窟を出て進むと村があるの。その村の領主マグナ・エルデガルドの娘よ。」

『ユミナ・エルデガルド……、マグナ・エルデガルド……』

「あなたの名前は?」

『私……は……』

少女から視線を外し、記憶を探るが、朧げなままだった。

――身体の機能は戻ったが、こちらはダメか……

『……分からない……すまない』

少女は驚いたように目を見開いたが、すぐにふわりと眉を下げ微笑んだ。

「なら、考えておくわ。……あっ、でも、思い出せたり、こんな名前が良いっていう希望があったら教えてね」

そう言い残して、少女は去っていった。その光景は、遠い、遠い過去に見たことがあるそれに似ていた。


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