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転生令嬢は目立たずに生きていきたい。でも魔力には興味がある。(仮)  作者: セルピア


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第十四話 小春日和

温かい。


背もたれに体を預け、目を細める。冬の光は弱いけれど、風がない日はこんなにも穏やかだ。肩から力が抜けていくのが分かる。

朝食を食べ日課の訓練を終えた後、部屋に籠りいろいろと試してみたけど進展はなかった。気分転換をしようと外に出て今に至る。

特に意識していたわけではないけれど、視線が山を向いていた。汚染地域の奥にそびえる、灰色の山の背。

「ユミナ~」

元気な声が飛んできた。

振り返ると、ロベルト、リザ、マルクの三人がこちらに向かって歩いてきた。ロベルトが大げさに手を振っている。

「ここに居たのか。探したぞ」

「探してたの?」

「家に行ってもいなかったからな」

どうやら入れ違いになったようだった。三人が隣に腰を下ろす。マルクが私の顔をじっと見てくる。

「ユミナねえちゃん、顔色は……普通だね」

「?……普通よ」

「でも朝、元気なかったって、みんな言ってたよ」

「……そう見えた?」

「見えた」

三人が揃って頷く。

私はいつも通りのつもりだったのだけれど……

――あの銀狼のことで頭がいっぱいだったのは確かだけど……私ってそんなにわかりやすいのかな……あれ? ちょっと待って。今……みんなって……

「みんな?」

目をパチクリさせてマルクの方を向く。

「うん。トーマスおじさんと、レベッカおばさんと、ディックさんと……」

マルクが指を折りながら数え始める。

「ちょ、ちょっと待って」

あまりにも次々と名前が出てくるので、思わず遮ってしまった。

「まだいるよ?」

「……まだいるの?」

「俺は母ちゃんに聞いたぞ」

ロベルトが割り込んでくる。

「私はガストンさんから……」

「ガストンさん!?」

リザの口からでた予想外の名前に、思わず立ち上がってしまう。

――噂は広まるのが早いっていうけど、早すぎじゃない!?……でも、村の広さを考えるとそうでもないのかな。

いつもの村の光景を思い出すと、広場や宿泊する人のいない宿屋にいつも人が集り世間話に花を咲かせている光景が蘇った。

私は小さく溜息をつき、静かに座り直した。

「あ、そうだ」

マルクが思い出したように、胸元をごそごそと探った。少し茎が曲がってしまった小さな花を、両手で差し出してくる。

「トーマスおじさんが、ユミナねえちゃんに渡してって」

「え……」

白い、小さな花だった。星の形に開いた半透明の花びらが、冬の光の中でほんのりと銀色に見える。

「……ありがとう、マルク。トーマスさんにも」

マルクが照れたように笑い、頷いた。


「そういえば、何見てたの?」

「え?」

「さっき、あっちをずっと見てたでしょう」

リザの指さした先を見ると山があった。汚染地域のあの山だ。

――えっと……何をって言われても……ただ、暖かくて幸せ~って思っていただけなんて……言えないっ。

「……山を見てたの」

気づいたら、口から出ていた。

一瞬、妙な間が生まれた。

――この沈黙は何っ。山がまずかった? まずかったよね?

「あ、えっと、空……」

「あの山って、汚染地域の中だよな。何かあるのか?」

ロベルトの勢いに押されて、訂正の言葉が引っ込んだ。

「……なんとなく?」

「ぼく、あの山の向こうって行ったことないや」

マルクが山を見上げながら言った。

「何があるんだろ」

「何もないと思うわよ」

リザがさらりと返す。

「汚染地域でしょ。魔物だっているし、中に入ったら体も悪くなるし」

「そうだよな」

ロベルトが腕を組み背もたれにだらんと寄りかかる。しばらく山を眺めてから、ぽつりと言った。

「……何で魔力のせいで、体が悪くなるんだろ」

「汚染されてるからでしょ」

リザが少し呆れた表情を浮かべ答える。

「でも、魔力は魔力だよな? 俺だって魔力あるし」

隣に座っているロベルトはなぜか力こぶを作っている。そんなロベルトの周りには赤い色、火属性の魔力が漂っていた。

――そう……だよね。私は色を視たから、あの魔力がみんなの魔力と違うって理解できたけど、他の人からすれば、何かの属性

の魔力なんだよね……

「だから、汚染されてるから……でしょ?」

リザが一度視線を斜め下に落とし、顎に手をあてながら答える。

「その汚染っていうのがよくわからないんだよな、気持ち悪くなるっていうのは分かるんだけど」

ロベルトがリザと同じポーズをとる。

マルクがおずおずと手を少し上げた。

「本当は、魔力じゃなくて呪い……とか?」

「あぁ~、だから気分が悪くなるのか」

ロベルトは納得したようにポンと手をたたき、うんうんと頷いている。

「だとしたら、魔王の恨みってすっげー強かったんだな」

――呪い……そっか、私は黒紫の色が視えたから魔力だって思い込んでいたけど、視えていたものが呪いだったとしたら……あれ? 私、とんでもないものが視えちゃってる!?

頭を二、三度横に振って、広がりかけた考えに蓋をした。

――ううん、違う。あれはやっぱり魔力。確証はないけど……呪いじゃない! よね?

「でも、呪いっていうなら光で浄化できるっていうのも……ユミナ大丈夫か?」

「え?」

はっと顔を上げると、三人がじっとこちらを見ていた。

「頭、痛いの?」

マルクにそう言われて、私は気が付いた。無意識に頭を抱えていたことに。

「あ、ちがっ」

慌てて頭から手を放す。元気なふりをしようとして、自分が本当に元気なことに気がついた。

「家で寝ていたほうがいいわよ」

「だな」

ロベルトとリザに腕を引っ張られて立ち上がる。

「あ、あのっ、ほんとに大丈夫だから……暖かくて、気持ちよかっただけで……」

足を踏ん張って抵抗しようとしたけれど、背中をぐっと押されてしまう。振り向くとマルクが屈託のない笑顔を浮かべていた。


 * * *


抵抗空しく、冷たいベッドに押し込められた。

布団を顎まで引き上げながら、改めて魔力について考える。決して、あの黒紫に視えたものが呪いであると認めたくなかったからではない。断じて。

――魔力の属性は火、水、風、地、雷、氷、闇、光。その中で私が視たことがないのは、雷と闇。黒紫の色が闇で、白銀の色が雷だとしたら、全部の属性を視たことになるんだけど……雷属性は私と相性が悪いから扱えない、とか?

布団の中でもぞもぞしながら考える。じわじわと温もりが戻ってきて、さっきの日だまりを少し思い出した。

――もし、あの魔力が闇属性だとしたら……怖くて試そうと思わなかったけど……色は、鮮明に覚えてる。やってみよう。

ガバッと布団を跳ね除けた。

胸の奥に空気を流し込むように、ゆっくりと長く、息を吸い込む。

黒紫の色を思い描く。

「はっ!」

脳裏をよぎるあの嫌な感覚を振り払うように、その色をそれを自分の魔力に重ねる!!

……変わらなかった。

「ふぅ、よかった」

胸のざわつきがスッと消えていくのと入れ替わりに、あることに気がついた。

――あれ?

同じだった。

触れようとしても触れられないあの感覚。今、失敗した感覚と、銀狼の魔力を真似しようとしても出来なかった感覚が同じだった。

黒と白、嫌な感じがしたものと、全くしなかったもの。真逆に思えるようなものだったけれど、何か共通したものがあると思えた。

――汚染された魔力について知ることができれば、あの子の魔力のことも何かわかるかな……

八方ふさがりだった道に、小さな光が見えた気がした。

――お父様とお母様なら、汚染された魔力について何か知っているかな。銀狼のことは聞けないけど、汚染された魔力の話ならこれまでも何度か出てきたし……夕食の時にでも聞いてみよう。

そう決めた、その矢先。穏やかな午後を切り裂くように、玄関の扉が開いた。

「ユミナアアアアッッ!!」

玄関から響く父の今にも泣き出しそうな怒鳴り声。

――え……え~っと。

窓の外では、風もなく平和な午後が続いていた。

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