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転生令嬢は目立たずに生きていきたい。でも魔力には興味がある。(仮)  作者: セルピア


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第十一話 隣街

ガタガタガタ……

馬車が揺れる。

乗り心地の悪い馬車の荷台の一角。私は藁の上に敷物を敷き座っていた。

「ユミナ、大丈夫か?」

前の座席から片手で手綱を緩く握ったまま、父がこちらに振り返る。

「はい、大丈夫です!」

実は密かに魔力でクッションを作っていた。藁と敷物の間に創られた柔らかな空気の層、それが衝撃を和らげてくれている。

父の隣に座るレベッカも、心配そうにこちらを見ている。

「ユミナちゃん、辛かったらいつでも変わるから、言ってね」

「はい、ありがとうございます」

荷台には、村で収穫された農作物が積まれていた。父はいつもこれらを売り、得た利益で生活に必要なものを買い揃えていた。

馬車の後ろをディックが馬に乗って追走している。彼は、護衛兼荷下ろしの手伝いとして毎回同行しているようだ。

私たちは、隣のグレイモント子爵領の街へ向かっていた。


事の始まりは、数日前のことだった。

「ユミナ、そろそろ他の街も見ておいた方がいいだろう」

父が突然そう言い出した。

「え?」

「お前はノックス領の村しか知らない。でも、世界はもっと広いんだ」

父の真面目な顔の横で、母がクスクスと笑っていた。

「あなた、正直に言えばいいのに」

「な、何を言ってるんだ」

「今年は豊作で、いつもより多くの利益が得られそうだから、ユミナに何か買ってあげたいんでしょう?」

照れたように頭をかく父の姿を見て、思わず笑ってしまった。

「お父様、ありがとう」


 * * *


二時間ほど揺られて、ようやく街が見えてきた。

「わぁ……」

思わず声が出た。


街に入ると、石畳の大通りが真っすぐ延びている。道の両脇には二階建て、三階建ての石造りの建物が立ち並んでいた。商店の看板には文字だけでなく、絵が描かれているものも多かった。

荷馬車がすれ違えるほどの広い道を、実に様々な人が行き交っている。

大通りの一角に、大きな宿場兼倉庫のような建物があった。馬車が何台も停まっており、荷降ろしをする男たちの掛け声が飛んでいる。積まれた荷の中には、見たこともない形の木箱や、布に包まれた細長い物も混ざっていた。

宿場の前には、屋台のような店まで出ていた。焼いた肉の香ばしい匂いが漂ってくる。

グレイモント子爵領は、それほど裕福ではなかったけれど、魔導具の中継貿易が軌道に乗り始めているらしい。加えて、訪れる商人のおかげで宿場が潤っているという話を出発前に聞いていた。実際に見るのとは全く違う。

――すごい、これが……街。

本で読んだ中世ヨーロッパの描写は知っていた。テレビで映し出された異国の市場だって、何度も見たことがある。でも、匂いも、熱も、喧騒もそこにはなかった。知っていたつもりで、何も知らなかった。


市場に近づくにつれ、声と匂いと色がいっせいに押し寄せてきた。

干した果物や見知らぬ色の香辛料、光沢のある布地、精巧な細工の施された金属製品。どれも村では見たことのないものばかりだった。見渡す限り露店と人、人、人。

馬車が市場に到着した。

「おや、マグナさん!」

元気な声が響いた。ずんぐりした体型の、陽気そうな男性が近づいてきた。

「ああ、ギルバート。今年の収穫物を持ってきた」

「おう、見せてくれ」

ギルバートが荷台に近づき、野菜を一つ一つ手に取り、色や形、重さを確かめ始める。慣れた手つきで表面を撫で、軽く押して弾力を確かめ、それから鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。長年の経験が染み込んだ所作だった。

「……おお?」

彼の目が、見開かれた。

「マグナさん、今年は随分と出来がいいな!色艶が違う。それにこの重さ……中までしっかり詰まってる」

「そうか?」

父がわざとらしく首を傾げる。でも、その口元は少し嬉しそうだ。

「ああ、これは上質だ。これなら……」

ギルバートが、金額を提示する。

「えっ」

父が目を丸くし、口が半開きになる。

「そ、そんなに……?」

「ああ、これだけの品質なら当然だ」


「ちょっと待って、確認させてもらうわよ」

レベッカが前に出て、提示された金額を、じっくりと見る。

「……妥当な値段ね」

「もちろんですよ」

笑い声が返ってくる。

「いつもレベッカさんに泣かされてますからね」

「あら、そう?だったら最初から良い値を出してくれればいいのに」

苦笑いを浮かべるギルバートの前で、レベッカが籠から一つトマトを取り出した。

「じゃあ、これをどうぞ。どこへ持っていけばいくらで売れるか、あなたなら分かるでしょう?」

「え、いいんですか?」

ギルバートが不思議そうに受け取り、そして一口かじった。

「……!」

驚きで見開かれた目が、トマトを見つめる。

「これは……美味い!甘みが全然違う。酸味も抑えられてる……」

「でしょう?」

レベッカが勝ち誇ったように笑う。

「これだけの品質なら、もっと高く売れるわよ。庶民じゃなくて、貴族に売ればいいのよ。あちらは値段より品質を取るから」

「た、確かに……子爵家の料理長あたりに話を通せば……」

ギルバートが考え込む。

「では……もう少し、値段を上げさせていただきます」

「ありがとう」

レベッカが満足そうに頷いた。

私はその光景を見ながら、感心していた。

――レベッカおばさん、すごい……私だったら、最初の値段で即決してた。

間違いなく。むしろ「そんなにもらえるんですか!?」と声まで上げていたと思う。商売は向いていないかもしれない、と静かに悟った。


荷下ろしが始まる。

ディックが手際よく、野菜の袋を運んでいくのを見て手伝おうとすると……

「ユミナ、近場なら少し街を見てきてもいいぞ」

父のその言葉に、手伝おうとする気持ちは飛んで消えた。

「本当ですか!」

「ああ。ただし、あまり遠くには行くなよ。迷子になったら困るからな」

「はい!」

私は嬉しくて、思わず駆け出しそうになったが、ぐっと堪えてゆっくりと歩き出す。

――もしかして、街に入った時の態度で、見たい気持ちがバレてたのかな……

少し恥ずかしくなった。それでも足取りは自然と軽くなっていて、石畳の道へと踏み出した。



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