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第3話 この綺麗な花園の上で

 一面に広がる花の海。中央には1本の大木が。爽やかな風が花を舞わせ、景色を彩っている。


 そこにとある少年が座っていた。

 水色の髪。綺麗なCの字になっているアホ毛。紫色の瞳。少年の名前は「レオン・シュラーイン」。そう。俺だ。

 異世界に転生して1年。俺はこんな風に適当な毎日を過ごしている。

 今日はここである人を待っていた。だが、あまりの心地よさに頭が何度もガクンとなる。


「レオン!」


 やっとか……。


 俺は重いまぶたを開け、声がした方を見る。

 赤髪の少女がこちらに走ってきていた。手には花で作られた冠を持っている。


「お姉ちゃん、遅い」


 赤髪。黄金色の瞳。そして、彼女の本体と言っても過言ではない赤色の花の髪飾り。

 彼女は俺の姉「ガーベラ・シュラーイン」。見た目は俺とほぼ変わらないが、これでも4歳年上の姉だ。

 何故だかわからないがこの世界の人間の成長の仕方は俺の知っているものと違うらしい。1歳でもう体が8歳くらいに成長している。それだけではなく、ここからしばらく成長が止まるんだそうだ。


「えへへ、遅くなってごめんね。何回も花がちぎれちゃって……」


 お姉ちゃんの手の中にある冠。よく見ると、花が萎れていたり、茎が折れたりしていてぎこちなかった。


 ……何で苦手なことをわざわざやるんだか。


 お姉ちゃんは俺の隣に座った。肩どうしがぶつかっているのが気になる。


「はい、これ。私からのプレゼントよ」


 冠が俺の頭に乗ると、花がポロポロと数本落ちた。


「わ~! すごく似合ってるわ! さすが私ね!」


 まったく気づいていない。

 冠に視線を向ける。決して綺麗ではない……いや、とても出来の悪い冠だ。花の本来の綺麗さがつぶされていてかわいそうに思えてくる。だが、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ……心の底の方が温かかった。

 俺は静かに腕を組む。


「その、ありがとう……お姉ちゃん」


 顔の嬉しさのボルテージがみるみる上がっていく。マックスになったとき、お姉ちゃんは俺に抱き着いてきた。


「ふふ。お礼なんていらないわよ~。私はただレオンの喜ぶところが見たかっただけだから」


 熱い。お姉ちゃんといるといつもそうだ。調子が狂う。

 もっと静かに過ごしてたいのに。あまり構ってほしくないのに。お姉ちゃんは俺から離れようとしない。


「暑い。そんなにくっつかないで」


 そう言いながらお姉ちゃんの腕を振り払う。


 その時、頭上からウィーンという音が鳴ったかと思えば冠がズボンの上に落ちた。

 ズボンの上を見る。


「え?」

「あ……」


 確かに冠が落ちたはずだ。だが、そこには数本の花しかなかった。


 俺はなんとなく察した。


「あの、レオン。これは……」

「お姉ちゃん?」

「うう……」


 両手で顔を覆っているが耳が真っ赤だぞ。


 俺のお姉ちゃんは決して器用な方ではない。というか絶望的に不器用だ。

 だが、そんなお姉ちゃんでも魔法はそれなりに扱える。


 こんなすごいことができるのに何で普通のことができないのか。逆だろ。


 俺は花を拾い、お姉ちゃんの方を見る。


「っ……」


 まだ顔から湯気が出ていた。

 少し「罰」を与えたくなってきた。そこで俺は花をお姉ちゃんの服の中に入れる。


「ひゃ!?」


 情けない声で叫ぶ。

 お姉ちゃんは服に手を突っ込んで花を取り出そうとしていた。


 嘘をついた罰だ。そう。これはしょうがないことなんだ。


 俺は唇を固定し、上に上がらないようにしていた。


 お姉ちゃんは花をようやく取り出す。背中をはいずりまわっていたものの正体に気付いたようだ。

 頬を膨らませながら俺を睨んでいる。


「もう、レオン! 酷いじゃない!」


 俺はプイっと顔を逸らす。


「ちょっと! そうやって顔を逸らしても許さないわよ!?」


(ダメだ。面白すぎる。我慢できねー)


 かすかに肩が上下する。


 突然、俺の背中がくすぐったくなった。


「う、うわぁ!!!」


 服の中に手を突っ込むと花が数本出てきた。


「ププー。レオンのびーびり」


(こいつ……)


 花をしっかり握る。


 確かに俺から仕掛けたが煽ることはしなかった。このままだと不公平だ。


「仕返しだー!!」


 お姉ちゃんの襟元を掴もうとしたが、いとも簡単に避けられてしまった。


「それじゃあ私を捕まえられないわよ?」


 わずかに口元を上げながら、見下したような視線を向けている。


 俺をなめやがって……。


 またお姉ちゃんに飛び掛かるがこれもスラっと避けられてしまう。


「やっぱりレオンはのろまなのね~」


 そう言って走り出すお姉ちゃん。


「こら、待てー!」


 その背中を追いかけた。


 走る。とにかく走る。足をグルグルと速く回転させる。

 だが、しばらくしても差は全く縮まらず、体力が先に底をついてしまった。


「あれ? レオンったら、もうそんなに疲れちゃって。本当に私を捕まえる気があるの?」

「はあ、はあ……」


 俺はその場で仰向けに寝ころび、両目を右腕で覆った。


 汗に風が当たり、涼しい。疲れがどんどん吸い取られている。

 全身で涼しさを感じ取れるよう、体を大の字にする。

 俺は目を開く。水色に染まる空と強い日差しを放つ太陽。


 空ってこんなにも綺麗だったんだな……。


 すると、空を遮るようにお姉ちゃんが視界の端から出てきた。

 俺を覗き込んでいる。


「レオンって体力がないのね」

「うるさい」


 体を横に倒した。


「もう。なんでいつもそんなに冷たいのよ?」


 お姉ちゃんは俺に覆いかぶさる。


「ねえねえ」


 ふん。知るか。


 俺はそのままだんまりを決めていた。


 しばらくしてお姉ちゃんも飽きたのか、俺のアホ毛をデコピンではじき始めた。

 ぴよーん、ぴよーんと一定のリズムが刻まれている。


「……何をしてんだよ?」

「レオンが構ってくれないから髪で遊んでるの」


 鳥のさえずりが響く。


「楽しい?」

「ううん。楽しくないわよ」


 風が吹く。


「ねえ、お姉ちゃん?」

「ん?」

「どいてくれない? 暑い」

「嫌よ」


 俺は咳ばらいをする。


「どかないわよ?」

「何で?」

「だってさっきからレオンの手が動いているもの」


 バレてたか……。せっかくのチャンスだと思ってたけどな……。


「……わかったよ」


 右手に握っていた花を手放した。


「これでいい?」

「ダメよ」

「じゃあ何をすればどいてくれるんだよ……」


 俺はそう言ってお姉ちゃんに顔を向けた。

 すると、


「ふふ。やっとこっちを向いたわね。水玉(ウォーターボール)

「ガボッ」


 開いた口に水の塊が撃ち込まれる。俺はそれをそのままの勢いで飲み込んでしまった。


「ゲホゲホ。ちょ、ちょっと何をするんだよ、ゴホッ……」

「何って水分補給よ。運動後の水分補給は大事なことでしょ?」

「そうだけど、もっと他にも魔法があったでしょ……」


 ああ、もう喉が痛い。


 俺は口の周りについた水を拭う。


「それで、いつになったらどいてくれるの?」

「ん~、私がいいよって言うまで」


 これは、長くなりそうだな……。ははー。


 その時だった。


「ガーベラ! レオン! どこにいるの~!」


 女性の声が響いてきた。


 お姉ちゃんはビクッとする。


「やばい! ママが来た!」


 俺から離れようとするお姉ちゃん。だが、俺はそんなお姉ちゃんの足首を掴む。


「レ、レオン!? 何をしてるのよ!?」

「お姉ちゃん。1つだけ言いたいことがある。お姉ちゃんは俺を見捨てるのか?」

「……」


 顔を引きつらせている。

 ブラコンは普段、迷惑でしかないけど、こういう時には役に立つんだよな。


「お姉ちゃん。俺と一緒に怒られて」


 お姉ちゃんは考え事をする。


「……だ、だって、レオンと遊びたかったんだもの……」

「言い訳しない。どうせ後で怒られるんだから。今のうちに怒られた方が楽だぞ?」


 見た目は8歳でも精神年齢はちゃんと子供なんだよなぁ。


 お姉ちゃんは最初、納得のいっていない表情をしていた。

 だが、諦めたのか大きなため息をついてその場に座り込んだ。


「……わかったわよ」


 俺もお姉ちゃんに並ぶように座る。一応、少し距離を開けて座ったのだが、ずりずりとお姉ちゃんが近づいてきて俺にくっついてきた。


 うん。暑いし、邪魔。


 その状態で待っていると金髪の女性が俺たちを見つける。


「あ! やっぱりここに居たのね。2人とも」


 金髪。お姉ちゃんと同じ瞳の色。そしてナイスなボディ。

 彼女は俺たちの母「クレア・シュラーイン」だった。


「もう~何も言わずにいなくならないでって何回も言ってるわよね?」


 黙って下を向く俺たち。

 だが、母さんの優しい説教は続く。


「それにガーベラ。あなた、また部屋が散らかっていたわよ? 掃除をしてから遊ぶようにって何回も言ってるわよね?」

「うう……」


 しょぼんとするお姉ちゃん。

 お姉ちゃんは母さんにめっぽう弱い。母さんは優しい怒り方をするから別に怖くはないはずなのだが……ほんと不思議だ。


「ほら2人とも、家に帰るわよ」


 母さんは呆れながら手を差し伸べる。


 俺たちはその手を取り、母さんを挟むようにして歩き出した。


「ママ……ごめんなさい」


 お姉ちゃんは弱い声で言う。

 母さんは大きくため息をついた。


「もう、ママを心配させないでよね。勝手にレオンを連れ出すのは良いけど、ちゃんとママに遊びに行くって言ってからにしなさい。それと、部屋の掃除もしっかりするように」

「はい……」


 ほんとお姉ちゃんにはしっかりしてほしいものだ。


「レオンちゃんからは何もないの?」

「え?」


 突然母さんの矛先が向けられ、つい声が出てしまった。

 俺の顔を覗き込んでいる母さん。


「あ、お、俺もごめんなさい。何も言わずに出かけちゃって」

「はい。よくできました」


 母さんに頭を撫でられる。


 やっぱり俺も怒られるのか……。一応、気配は消してたんだけどなぁ。


 そうして俺たちは家に帰っていくのだった。

「面白い!」


「こういう話が好き!」


「この先の展開が気になる!」


そう思っていただけたら下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で星5評価を、もし楽しんでいただけなかったようであれば星1でもよろしいのでよろしくお願いします。


また、


「今後もこの話を追っていきたい!」


と思っていただけたのならブックマークの方もしてくださると、この出鱈目0が世界を平和にしてしまうほどに喜びますのでよろしくお願い致します。



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