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第3話 ウェルカムトゥー異世界

 村外れにある一軒家。

 そこには4人家族が住んでいる。


 そんな家の居間で絵本を読んでいる1歳ぐらいの男の子が。


 水色の髪に軽いカーブのついたアホ毛。

 アメジストの瞳。

 そして子供とは思えない落ち着き様。


 彼の名前は「レオン・シュラーイン」。

 そう。俺だ。


 転生して早2ヶ月。

 俺の体は年齢に見合わない速度で成長していた。

 それが原因なのかはわからないが、まだ生まれて2ヶ月だというのに言語をある程度習得できていた。


 そんな俺は今、金髪美女の膝に収まりながら絵本を読んでる。


 外側にはねる癖毛の長い金髪。

 月のように輝く黄金色の瞳。

 おっとり系美人。

 そしてこの無駄に大きいブツ。


 この金髪美女の名前は「クレア・シュラーイン」。

 俺の母だ。


 母さんが動く度、そのでか物が頭に当たり、絵本を読む視界が揺れる。

 普通なら喜ぶかもしれないが俺は全く動揺しないどころか、むしろ今の状況が鬱陶しいとさえ思っている。

 それは何故か。


<< 彼 女 は 俺 の 母 親 だ か ら だ >>


 それに前世の俺の母も大きいものを持っていた。

 だから大きいものは見慣れているし、興味もない。


 まったく……。

 少しぐらいはじっとしてられないのかねぇ……。


 そんなじじいみたいなセリフを心の中で吐き捨てる。


 しかし母さんは、そんな俺に気付くことなく食器を洗っている赤髪の男性と話していた。


「ねぇジール? レオンってすごいと思わない?」

「ん? 何でだ?」


 男性がこちらの方を見る。


「だってこんなにも落ち着いて絵本を読んでいるのよ? ガーベラの時とは大違いじゃない」

「ん、確かにそうだな」

「にしてもあの時のガーベラはやんちゃだったわよね」

「あはは。懐かしいな」


 男性は爽やかな笑顔を浮かべる。

 俺はその男性に見覚えがあった。


 彼の名前は「ジール・シュラーイン」。

 俺の父で転生したばかりの頃に見たあの男性だった。


「ちょっとママ!! その話はやめてって何回も言ったわよね? それにパパも! そんなに笑わないでよ……」


 声は怒っていたがどこか恥ずかしそうにも聞こえる。

 俺は声の主に視線を向ける。


 本を左手に持って頬を赤くしている赤髪の女の子。


 この子の名前は「ガーベラ・シュラーイン」。

 俺の4歳年上の姉で、あの時父さんと一緒に居た女の子だった。


「あははは。しょうがないだろ? だって絵本を渡せばキャッキャ言いながら全部破っちゃうんだぜ?」

「ぅぅ……」


 お姉ちゃんはモスキート音みたいな高音を出しながら両手で顔を隠す。

 だが耳が真っ赤になっているのが丸見えだったのでそれはほぼ無意味な行為だった。


 ふっ。可愛いな。


 俺はまた絵本へと視線を戻す。

 そして心の中で1文字ずつしっかりと発音しながら読んでいく。


「あ、そういえばさ、クレア?」

「ん? どうしたのかしら?」

「もう体調は大丈夫なのか?」


 母さんは人差し指を顎に当てる。


「ん~そうね。まだめまいがするときはあるけど、ほとんど元通りになったわね」

「よかった……。かなり回復してきたみたいだな」

「ふふふ。おかげさまでね」


 母さんは柔らかい表情を父さんに見せると俺の頭を撫で始める。


「まさかレオンちゃんが中々出てこなくなるなんてね」


 同時に後頭部が大きいものに埋まる。


 ちょ、邪魔。


 俺は体を少し前にずらす。


「あら。邪魔だったのかしら? ごめんね。レオンちゃん」


 母さんは自分の大きなものを持ち上げながら謝る。

 父さんはその光景に目が点になっていた。


 でも確かにあの時、母さんの姿は見かけなった。

 まさか2ヶ月たった今でも後遺症が残るぐらい俺の出産が大変だったなんて……。

 なんか申し訳ないな。


「コホン。落ち着け、ジール(ボソッ)」

「ん? どうしたのよ? そんなに顔を赤くして」

「あ、いや……なんでもない……」

「あらそう? ならいいけど……」


 母さんはそう言うと俺の両肩に手を置きながら絵本を覗き込んでくる。


「ねえ、レオンちゃん。どこまで読めたのかな~?」


 俺は今読んでいるところを指指(ゆびさ)す。


「ここ」

「あら! すごく早いじゃない! さすが私とジールの子だわ」


 母さんは俺のマシュマロほっぺをツンツンする。

 同時に俺の顔が少し熱くなる。


 ……ウザい。


 俺はその手を軽く振り払う。


「あ! もう~レオンちゃんったら冷たいわね。ふん。それだとママ、もう構ってあげなくなっちゃうわよ?」


 母さんはそう言って腕を組み、そっぽを向く。

 だが俺は母さんを真顔で見つめる。

 母さんは最初こそ怒った顔を作っていたがその城壁が次第に崩れ始め、顔が引きつり始める。


「あ、あはは。そうね。確かにママが悪かったわ。邪魔しちゃってごめんね、レオンちゃん」


 ふん。

 まったく、絵本ぐらいゆっくり読ませてほしいものだ。


 俺はまた視線を絵本へと向ける。

 その時だった。


「あ! そうだ!」


 俺は突然の大声にビクついてしまい、母さんの膝から落ちそうになる。


「レオン!」


 しかしギリギリのところでお姉ちゃんに抱えられ、事なきを得た。

 一方の母さんは突然の出来事に固まっていることしかできなった。


「ちょっとママ! 急に大声を出さないでよ。レオンが膝の上にいるのに……」

「あはは。ごめんなさいね」


 母さんはそう言ってほっぺを人差し指でかいている。


 ああ。本当に危なかった。

 もしお姉ちゃんが俺を……。


 俺は目の前にある机の尖った角を見る。

 途端に背筋に冷たいものが走る。


 ほんと、これだからドジな奴は……。

 でもよかった……。


 俺は安堵のため息をつく。


「ママだと心配だから私が代わりにレオンの面倒を見てあげるわ」


 お姉ちゃんは母さんの右隣に座ると俺を膝の上に載せる。


 うむ。丁度いい硬度に丁度いい角度。

 これはいい背もたれだ。


 俺は背中を完全に預けるとまた絵本を読み始める。

 そしてお姉ちゃんは頭を左右に揺らしながら俺を撫で始める。


 しかし母さんは自分の情けなさに目が棒になっていた。


「あはは。そんなに落ち込むなクレア。君は頑張ってるんだからさ」

「むぅ~」

「ク、クレア? どうしたんだ? そんなに目を細めて……」

「なんとなく励まし方が違う気がしただけよ」

「そ、そうだったのか……」


 そこで父さんはエプロンの紐をほどき始める。

 どうやら食器を洗い終えたようだ。


 そうして父さんは母さんの左隣に座る。


「それでさっきはどうしたんだ?」

「その……お花たちにお水をあげてなかったなって思って」


 母さんはモジモジしながら言う。


「なんだ。それなら俺に任せてくれよ」

「いやダメよ。最近はジールに頼りっぱなしなんだから。そのぐらい自分でもできるわよ」


 父さんは立ち上がろうとする母さんの腕を掴む。


「クレア。君ってやつは昔から変わらないんだな」


 母さんは父さんの顔を見て顔が赤くなる。


「あれだけ頑張ったんだ。少しぐらい俺に頼ってもいいんじゃないか?」


 すると母さんはゆっくりとソファに座る。


「なんか申し訳ないわね。頼りっぱなしで……」

「いいんだよ、そのぐらい。俺たちは夫婦だろ?」


 父さんは母さんに温かい笑顔を見せるとソファから立ち上がる。


「あ、そうだジール」

「ん? どうしたんだ?」

「花には魔力水をあげないで頂戴ね。変色しちゃうから」


 父さんは後頭部に手を当てる。


「そうだったんだ……危うく魔法で水をやるところだった」


 そう言って父さんは庭に出ていくのだった。


 一方、俺は今の会話に耳を疑っていた。


 魔力水?

 魔法?

 こいつらは何を言っているんだ?

 そんなの現実にあるわけないだろ。


「ん? どうしたの? レオン。突然固まっちゃって?」


 突然お姉ちゃんに声をかけられる。


 え? 何でバレた?


 そこで俺はお姉ちゃんに直接聞いてみることにした。


「お姉ちゃん。魔法って何?」

「え? レオンは魔法を知らなかったの?」


 俺はコクっと頷く。

 するとお姉ちゃんは自信満々な表情で難しい言葉を並べ始める。


「大地に降り注ぎし恵みの光。与へられし恩寵を力に。光魔法(ホーリーマジック)発動。光輝球(ホーリーライト)


 その時、お姉ちゃんの人差し指に魔法陣のようなが巻き付いたかと思えば、小さな光の玉が空中に現れる。

 俺は信じられない光景に目を丸くしていた。


「これが、魔法よ。ふふん」

「あら、ガーベラ。前よりも光輝球(ホーリーライト)が大きくなっているじゃない。さすがね」


 母さんはそう言ってお姉ちゃんの頭を撫でる。


「えへへ。それほどでも~」


 俺はこの時確信した。

 この世界は俺の知る世界ではない。


 ここは「異世界」なのだと。

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