第75話 アリアがテイムしたい魔獣
ご訪問ありがとうございます。
年内最後の投稿となりました。
約半年でしたがコンスタントに投稿する事ができました。
皆様が読みに来ていただけているお陰です。本当にありがとうございます。
皆さまが良いお年をお迎えできることを心より願っています。
女湯から出ると、入り口の前にはティアだけでなく、シュリともう1人の女性の3人で床に座って話し込んでいた。
その女性は昨日テーブル席のデザインをしているイメールに話しかけてた人だ。茶色い二重の瞳に茶色い髪の毛がくるくるっとウェーブしていてゴージャスに見える。男性からすると高根の花と感じてしまいそうだ。少なくとも俺はそう感じてしまう。
でも俺が声をかける相手はその女性ではない。
「俺の作業は終わって、あとはイメールの作業だけになったよ。」
「でしたら、もうお風呂は見てもよろしいのかしら?」ともう一人の女性が俺を見上げる。気品がある佇まいと喋り方、そこに加えた上目遣いに返答の言葉を失った。
「アリア、全部できあがってから見た方がいいんじゃない?」
口が金縛りにあってしまった俺に代わってティアが答えてくれた。そして俺はゲットしたアリアという名前を心のメモ帳にしっかり書き留めておいた。
「俺もそう思うな。」と俺はアリアから目を外したまま何とか言葉を絞り出した。
「そうですか……。分かりましたわ。」
そう答えながらもアリアは未練がましそうに中を覗き込もうとしている。
「それでイメールくんだけが残って作業してるの?」とシュリが聞いてきた。
「うん。あとは細かい作業だし俺が手伝える事は無さそうだから。任せてきたよ。」
「コーヅくんだとザッとドンッと大雑把に形作るところまでだもんね。」
シュリは大雑把に表現すると大浴場の壁を撫でた。でもシュリの言うとおりだ。
「あんな細かな模様を入れたりできないし、石の発色もあんなに綺麗には出ないよ。」と俺は首を振った。
「あれはなかなか真似できないよね。」とシュリも腕を組んで同意した。
「私もできませんわ。あれは宝石のようですよね。」
……ということはアリアにも土魔術に適性があるんだろうか?
「アリアさんはどんな魔術が得意なんですか?」
俺はまだアリアを直視できずに目線は逸らせたまま聞いた。
「私は心属性ですわ。あまり心属性が得意な人って居ないんです。でも私は生物属性が低いから前線には出られないんです。ですから魔獣をテイムしたりする機会もありませんの。」とため息をついた。
「魔ネズミとかは?」
俺は身近で知っている魔獣の名前を出してみた。
「勿論、子供の頃はやりましたわ。でもテイムした子が死ぬまではしっかり面倒見る覚悟がないとやるものじゃないわ。」と少し遠い目をして「大変だったの。魔ネズミが子供を産んじゃって……。」と言った。ティアもシュリも「あぁ……。」と理解したようだ。ねずみ算式に増えたんだろうな。
「ですから、私のテイムって役に立たないんですのよ。」と自嘲気味に笑った。
みんなそれぞれに悩みがあるんだな。
俺も全属性あるから魔獣をテイムして従えることはできるのかもしれない。ただ日本に帰ると思うと、アリアが言うように死ぬまで面倒を見る責任は持てないから、使う機会は無いかもしれないな。
「ね、アリアはどんな魔獣をテイムしたいの?」とティアが聞いた。
「ユニコーンよ。」
おお、この世界にはユニコーンも居るのか。俺も遊具ではない本物のユニコーンに乗ってみたい。
俺は目を輝かせてアリアを見た。
「ユニコーンか……。」とシュリが腕を組んで唸る。
「無理なのは分かってますわよ。」とアリアは口を尖らせる。そんな会話に俺の目の輝きは一瞬で色褪せてしまった。
「何が無理なの?」と俺が聞くと、「伝説の魔獣なのよ。私も文献で読んだことしか無いわ。」とティアが教えてくれた。
俺たちはゴブリンも伝説の魔獣だけどね。この世界ではドラゴンやらユニコーンやらが伝説なようだ。
「どんな事が書いてあったの?」
ティアの話によると、昔々地図を作るために冒険者が北方に向けて旅を続けていた。何週間も進んでいると、まだ夏なのに進めば進むほど寒くなり遂に雪や氷が残るような場所に辿り着いた。でもそこから先も見渡す限り白く覆われた大地が続いていた。
それでも陸の端まで見たいと思った冒険者はそのまま北進を続けたが、寒さが増す一方で人はおろか魔獣や動物の気配も無くなった。
これ以上は危険と感じて引き返そうと思い、引き返し始めるたが、間もなく吹雪に見舞われて動けなくなってしまった。
雪の穴を掘り耐えていたが、いよいよ死を覚悟したところに現れたのがユニコーンだった。
ユニコーンは冒険者を背中に乗せると、暖かい地域まで連れて行ってくれた。そして冒険者をゆっくりと下ろした。立ち上がれず倒れたままの冒険者にヒールで治療してくれるとまた北方に戻っていった、……ということだそうだ。
北極圏とか、それに近いところに居るのかもしれないな。でもユニコーンって暖かなお花畑で草花を優雅に食んでるイメージを持ってた。そんな想像と全然違って驚いた。
「ねえ、コーヅ。なんで北に行くと寒いのか知ってる?」とティアに聞かれた。
「太陽が当たりにくいからじゃない?」
「曇ってるの?」
多分ここの世界も丸い惑星だから、北に行くと角度の違いで太陽の当たり方が悪くなると説明した。でも説明してても3人の表情から伝わってる気が全くしなかった。
「ごめん、どこから分からなかった?」
「最初から」と3人に声を揃えられた。
「えっと、惑星っていうのはね、」ともう一度説明しようとしたが、「ごめん、もういい。」と説明を断られてしまった。
仕方ないので結論だけ「多分、北に行けば行くほど寒くなって、人が通り抜けるのは難しいと思うよ。」と話した。もし北極圏を突破できて、そのまま進んでいくと今度は南に進んでいく事になるから暖かくなるんだろうけど。
「はぁ……、ユニコーンのテイムは無理そうですわね。」
アリアは俺によって改めて夢を打ち砕かれて大きなため息をついた。
「元々無理よ、そんなの。」
「夢は見続けてていいんじゃない?ねぇ、アリアちゃん。」
そうしてまた3人での話が始まった。この3人は本当によく喋る。俺は聞き役に徹してウンウン頷いていた。話題は取り留めも無くあっちにこっちにと飛んでいくが、ファッションや恋愛話など身近な話題も多くて興味深く聞けた。
「ごめんなさい。遅くなりました。」
イメールが申し訳無さそうに出てきたが、3人の女子トークを面白く聞いていたので、あまり長い時間とは感じてなかった。
「できたの?」
「はい。中はできました。あと入り口に足元からの関節照明を作りたいと思ってます。」
「見ても良いのかしら?」とアリアが立ち上がりながら聞いた。
「えっと……、はい、どうぞ。」とイメールは俯き加減に消え入りそうな声で答えた。
その答えにアリアより先にシュリが入り口から覗き込んだ。
「へぇ、可愛い色。」
後ろからは「早く私たちにも見せてよ。」とティアに催促されるという感じで賑やかな見学会が始まった。
女場に入っていく女性たちを見送ると、イメールに「手伝うことある?」と聞いた。
「あとは足元の小さなところなので大丈夫です。」
「じゃ、俺も中を見てくるよ。」
そう言うと俺も女性たちの後を追うように女場に入った。
「本当に可愛いわね。」
「この棚とかすごく可愛い。」
「明かりが点いたらどんな感じになるのかな?」
3人はそれぞれ好きなところを見ながら、それぞれの感想を言い合っている。
「これを目的にプルスレ村にも来たくなるね。」
「なんでこれがプルスレ村だけなのでしょう。」
アリアが嘆きながら、一瞬俺を見た気がした。そして『ね、ね、ティア。あのこと。』とティアに囁いている。ここまで聞こえてるけど。
『えー?言えないよ。』
『でもみんなと約束しましたでしょ。』
『……。』
ティアが俺の方を向いた。そして「あ、あの、コーヅさ、えっと……。」と、そこまで言うと俯いた。しばらくすると意を決したように顔を上げて「友達たちの部屋にお風呂作って!大変なのは分かってるの。でもこの通り。」と拝むように頼み込んできた。
「いいよ。」
「え?」
ティアは俺があっさりと返事をしたからかキョトンとしている。
「ティアのお願い事を断るわけないよ。俺がどれだけお世話になってると思ってるの?」
「え?そう……なのかしら?」
あまりティア自身は自覚が無いみたいだけど、俺がこの世界に転移してからずっと支えてくれてるんだけどな。ティアがいなかったら俺はどうなっていたんだろう。それを想像するだけでも怖くなってくる。
「勿論だよ。いつもありがとね。」
「ちょっと、止めてよ。」
そして少し恥ずかしそうに目を逸して「じゃあ、約束したからね。皆のお風呂も作ってあげてね。でも私のが1番だよ。」と話題も逸した。
「良いけど、ティアの部屋に入って良いようにしておいてね。」
「……1番じゃなくても良いけど忘れずに作ってよ!」
そう言い直しているティアは、きっと部屋を片付ける気なんて無いんだろうな。
更衣室の端の方ではアリアが変な踊りで喜びを表現している。さっきまでの気品溢れる佇まいはどこへやらという感じで見ていて面白い。
「私は部屋が狭いし要らないよ。でも大浴場はアズライトにも欲しいかな。」
そこからはもう浴室の見学はそっちのけで、どんな浴槽を作って欲しいかというテーマで激論が交わされ始めた。でも魔獣や植物をあしらったりって、俺には無理な話をしていて聞いているのが辛くなってきた。
俺はその場をそっと離れて1人で大浴場を見て回った。特に自分が作った照明用の魔石置き場がどんな感じで仕上げたかが気になる。角を丸くしたり、ステップ部分には滑りにくくするために切れ込みを入れてあるし、柱部分にもデザインが施されている。こういうのって俺にも真似できるかな、と試したくなった。
「男湯で試したいことがあるから行くね。」と俺は輪を作って話し続けている3人に声をかけた。
「はーい。」
女性たちからは返事だけが返ってきて、また会話に戻っていった。既に浴槽の話題から別の話題へと移っているようだった。
俺が女湯から出るとイメールが入り口の壁に寄りかかって待っていた。
「イメールの作業は終わったの?」
「はい、終わりました。中はどうでした?」
「良かったよ。俺もイメールが作ったようなデザインの魔石置き場を作れないか男湯で試してみたくて。付き合ってくれる?」
俺はイメールを連れて男湯に入った。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は1月4日(火)の投稿を予定しています。




