第73話 外壁作りの続き
ご訪問ありがとうございます。
今年もあと10日ですね。カウントダウンが始まりますね。お互いに風邪引かないように気をつけて新年を迎えましょう。
目が覚めたが周囲はまだ薄暗い。目を閉じたままひんやりとした草の香りを嗅ぎながら、起きるか寝直すか考えていた。でももうゴソゴソと支度をし始めている人たちが居る。その音が気になり始めるとなかなか寝付けなくなってしまった。そして1人起きると2人、3人と起きる人が増えてきて徐々に賑やかになってくる。
俺は寝ることは諦めたが、目を閉じたまま昨夜のことを思い出していた。
昨夜、公開告白タイムがあったのだ。初めて生で他人の告白を見たから興奮した。大浴場の緑でライトアップされた壁の前でアルベルトという若い衛兵がミアという村娘に告白したのだ。
「衛兵を辞めてプルスレ村に残るので結婚を前提にお付き合いしてください!」
「おおぉぉぉ!!」
俺も含めて野次馬から一斉にどよめきが起きた。そして女性へと視線が注がれる。
「私は……」と女性が言葉を区切る。誰も声を発しない静寂な時間が流れ、俺たちの目がミアへ注がれる。そしてミアは「結婚したらアズライトに住みたいわ。」と受諾した。
「うおおぉぉ!!」
「きゃああああ!!」
プルスレ村に来てから最高に盛り上がった瞬間だった。あちこちでハイタッチや拍手が起きて2人を祝福した。オーガキングを討伐したって報告の時よりも盛り上がってたと思う。
ところが野次馬の中に紛れていたミアの父親が出てきて「村を出ていくってのはどういう了見だ!」と娘に詰め寄った。しかしミアも負けていなくて「こんな田舎にいつまでも居たくないわよ!」と言い返し親子喧嘩が始まった。
なかなかの迫力に告白したアルベルトはちょっと引いていたが、何となく丸く収まったようだ。結局、結婚後はどこに住むのかは決まって無さそうだったけど、無事にお付き合いすることになったようで良かった。
そして今日はほとんどの人がアズライトに帰ってしまう。アルベルトもミアを残して帰ってしまう。このままプルスレ村に残るのは20人もいないはずだ。
俺は村に残るので急いで支度をする必要は無いが、昨夜のことを思い出してたら気持ちが昂ってきて目が覚めた。俺もゴソゴソと起き上がって支度を進めた。そして階段に腰かけて薄明るくなった森を見ながら一人で食事をしていると、サラとリーサが朝食を持ってやって来た。
「ご一緒してもよろしいですか?」
「はい、勿論です。」
失礼します、と言ってサラが座り、その隣にリーサが座った。
「わたくしとリーサは今日アズライトに戻ります。プルスレ村にこんなに滞在したのは初めてでした。村民の皆さまから色々なお話を伺うことができてとても充実した日々でしたわ。」
「数日の事でしたけど、長かったですね。」
「おっしゃる通りですわね。」
サラは、大浴場、オーガと指を折ってイベントを数えている。そして最後にはプロポーズも入っていた。サラもどこかで見てたのかもしれないな。領主一族とは言え年頃の女の子だし、やっぱりこういう事って興味あるのかもしれないな。そう思って盗み見たサラの横顔は凛とした中にあどけなさが抜けきれない可愛らしい女性だと思った。
「みんなでフレンチトーストを食べたのが遠い昔の事のようですわね。」
「私は帰ったらもう一度あの店でフレンチトーストが食べたいです。」
リーサが会話に入ってきて訴えかけるような目でサラを見た。
「わたくしもですわ、リーサ。コーヅ様たちもアズライトに戻られたら食事に伺いましょうね。」
その言葉にリーサは嬉しそうに頬を緩めている。緩んだ表情は普通に綺麗な女の子という感じなのに。もう少し俺に向けてもそんな表情を分けて欲しいと思う。怒られることが多いからか、冷たい目や呆れた目を向けられている印象が強い。そんな事を思いながら手に持っていたパンをかじった。
「領主様も今のプルスレ村を見られたらさぞかし驚かれるでしょうね。」
食事を終えたリーサは食器を脇へ置きながらサラに言った。
「お父様にはこの事はお知らせしてませんのよ。どんな表情をされるのか私もここに残って見たかったですわ。」とサラはいたずらっぽく小さな笑みを浮かべた。
そしてサラが食事を終えると、2人はほぼ同時に立ち上がった。
「では、わたくしたちはこれで失礼いたします。コーヅ様のお戻りをアズライトでお待ちしております。」
そう言うと頭を下げた。俺も慌てて立ち上がると頭を下げると、「サラさんもリーサさんもお気をつけて。」と返した。
俺はその場の座ってサラやリーサ、他の帰還組がタイガーの元に集まるのを眺めていた。村からも数名が見送りに出てきている。その中にはもちろんミアもいてアルベルトとの別れを惜しんでいる。
帰還組の表情は嬉しそうな人、名残惜しそうな人とそれぞれだ。ふと、マレーナが俺に気付いて大きく両手を振ってくれたので、俺は小さく手を振り返した。
そして帰還組はアズライトに帰るために出発した。俺や残った衛兵、村人は期間組が森の中に消えていく姿を見送っていた。俺は見えなくなった後もしばらくの間ぼんやりと見つめていた。
「……さて、俺も働くかな。」
俺は1人作業が禁止されている。その場で立ち上がると、いつものメンバーを探そうと振り返った。するとすぐ目の前に揃ってた。
「何を黄昏てんのよ。さ、働くわよ。」
「僕たちはコーヅの警護が仕事だからね。」
「コーヅくんが壁を作らないとみんな帰れないんだよ。さぁ、頑張っていこう。」
みんなの顔を見ると、衛兵たちが帰ってしまって少し感じていた寂しい気持ちも吹き飛んだ。
「うん、そうだね。早速やろうか。」
早速、昨日の続きで東側の外壁に移動した。そこは2段目の途中まで作ってある。俺が2段目によじ登り、壁を積み上げ始めると、ショーン、イメール、ティア、シュリは壁の外側の森を伐採し始めた。
―――
「コーヅ!そろそろお昼にしよう。」
下からショーンが聞こえた。今は3段目に乗って後半部分の壁を積み上げているところだ。
「分かった!」
俺は恐る恐る下を覗き込んで返事すると、下に降りていった。
「どう?順調?」
「そうだね。昨日はゆっくり休んだし調子良いよ。」
俺たちは話をしながら昼食の配膳をしている南門付近に戻った。そこにはもう配膳担当は1人しか居なかった。昨日まで4人も5人も居たので少し寂しさを感じる。でも配膳が1人だからといって行列になるわけでも無い。それだけ人が減ったのだ。
「こんにちは、コーヅさん。はい、どうぞ。」と肉と野菜炒めとパンを渡してくれた。俺はお礼を言って受け取った。
「シュリちゃんは手伝ってくれても良いんだよ。」と配膳の女性は冗談とも本気とも取れるような表情を見せた。
「いいよ、手伝うよ。」
シュリは軽く答えるとスッと配膳側に回った。そして皿に肉や、野菜炒めを3人分手早く盛り付けると、「はい、イメールくん。どうぞ。」「ティアちゃんもどうぞ。」と手渡して自分の分も持って配膳場を出た。すると「シュリちゃんには敵わないわね。」と配膳の女性はため息をついた。それを聞いていたシュリは「そう?もっと言って。」と耳に手を当てて冗談ぽく言った。配膳の女性は「もう言わないわよ。」と顔を背けた。
「シュリー、行くわよー。」とティアに急かされて「はーい」とシュリもこちらに歩いてきた。
テーブル席はポツポツと埋まっているが、席は結構空いている。3人で座っている緑のテーブル席に行って相席させてもらった。このテーブルの明るい緑色は陽の光を浴びると若草のようにとても綺麗に見える。
「なぁ、イメール。」と、相席させてもらった人が声をかけてきた。
「このテーブルの色ってどうやって出すんだ?どうしても色がくすむんだよ。」
そう言うと自分で作った石をイメールに差し出した。それは俺が作ってみた緑色と大して変わらないくすんだ色をした石だった。色の出し方は俺も知りたかったので、興味を持ってイメールの方を見た。
「えっと……、僕も色と石をイメージしているだけなので。」
「それだけか?」
「でももしかしたら普段から綺麗な石を見つけると持って帰って家で眺めているからかもしれません。」
聞いた人は唸っている。俺も唸ってしまった。日頃の努力があってのあの色のようだ。俺は石の発色のために、根気良く石を眺めたりする気にはならない。残念ながら俺には不向きなようだ。そして質問をした衛兵も渋い顔をしている。俺と同じことを思っているのかもしれない。
「イメールくんなりに努力してたのか。」
「僕の場合は好きで見ているだけなので、努力とはちょっと違うかもしれませんけど。」
好きこそものの上手なれ、か。そういう人には敵う気がしないな。俺にとってのコーヒーやお茶ってことかな。
「俺には無理な事がよく分かったよ。」と衛兵は首を振って立ち上がると、食器持って去って行った。気持ちはよく分かるよ、と俺はその衛兵の後姿を見送った。
―――
俺たちも食事を済ませると午後の仕事を再開するために東側の外壁へとぞろぞろと移動した。そして午前中と同じような進め方で作業を再開した。俺は作業の前に魔力回復薬を服用してから、階段を上っていって3段目で作業を再開した。
3段目、そして4段目の作業では昼寝もせずに作業を続けて作り終えることができた。
あとはアズライトの方角にある南側だけだ。だけど……
「南側に壁を作っちゃうと村が閉じられちゃうよ。」とシュリが言った。
そうなのだ。北側はオーガの危険もあったのと、外壁を早く作らないといけなかったので出入口を閉じてしまっている。今は隣街のカルセドニーにもオーガの件の連絡がいっていて商人や冒険者、そして領主もそこで足止めされているので良いが、これも昨日解除の伝令を送ったらしいから、早ければ5日後くらいから人が来ることになるらしい。
「先に北の外壁に門を作ろうか。イメールに任せて良い?」
「はい。でも大きな出入口を作るには僕だと時間がかかってしまうので、大まかな穴を開けるところはコーヅさんにお願いできますか?」
「いいよ。」
俺たちは街道に沿って北側の外壁まで歩いていった。街道はそびえ立つ外壁で行き止まりになっている。
俺は壁に触れると、魔力を流して街道部分の壁を取り除いていく。幅は街道分で高さは馬車が通れるくらいだ。大体このくらいと高さを示してもらったので、そのあたりまで壁を消していった。俺が消したのは2mちょっとくらいだ。あとはイメールに調整をしてもらえば良いと思っている。
こんな感じかな、と俺はイメールを見た。イメールは頷いた。
イメールは壁に近付いていくと、俺のざっくりとした作業で歪んだ壁を均していく。イメールの作業は時間はかかるけど仕上がりは滑らかで抜群に綺麗だ。
「門ってやっぱりアーチ状にするの?」
イメールの作業を見ながら、隣にいるショーンに聞いた。
「それが一般的だね。」
「二ホンは違うの?」とティアが会話に入ってきた。
「こういう門ってあんまりないけど、あっても四角いかな。」
「意外とシンプルなのね。もっとデザインに凝っているのかと思った。」
「日本人はシンプルなデザインの中に美しさを見出すんだよ。」
ショーン、ティア、シュリから、言っている事が分からないという目が俺に向いた。
「あ……、えっと。」
門の話とは違うけど、わび・さびの考え方ってちょっと説明は難しいよな。俺は言葉に詰まってしまった。
「まぁ、ニホンの人たちは私たちと違うセンスを持ってるってことだよね。」
「コーヅのセンスなんじゃない?」
「日本の文化だよ。」
いつか池泉とか枯山水みたいな庭園作ってわび・さびという感覚が通じるのか試してみたい。言葉で説明するのって難しいし。
―――
しばらくイメールに任せっきりにして4人で雑談をしていると、立派な門ができ上ってきた。最初はツルッとした感じで作り始めていたのに、今は石を積み重ねたような門に見える。これはそういう模様で作ったということだ。
近くで見るとより精巧さが分かり「すごいな。」と思わず呟いた。すると隣にいたティアも「本当に。」と同調するように呟いて壁に触れていた。
そしていつの間にか門の中に門番用の待機場所まで作ってあった。さすがプロ衛兵ならではの配慮だ。腰掛け衛兵の俺とは違う。
「良いんじゃないかな。これならもし建築ギルドが門扉も取り付けることになっても作業しやすいと思うよ。」とショーンが評した。俺たちもその意見に全面的に同意するように頷いた。その反応にショーンは続けた。
「よし、それじゃあ少し休憩しようか。それから南側の外壁を作ろう。」
「南側の外壁を作り終わったらアズライトに帰るのかー。もう少しここでのんびりしてもいい気もするけどねぇ。」と、シュリはもう終わったような気でいるようで、欠伸をしている。
空を見上げるとまだまだ陽は高く、蒼い空が広がっている。今日は残りの時間で南側の外壁も2段目くらいまで作れたら良いかな。そうすると外壁作りも明日までだな。
俺たちは街道を歩いて南側まで戻った。そして空いていたテーブル席に座ると、それぞれの携帯水道で喉で潤した。
最後までお読みくださりありがとうございました。
次回は遅くとも来週の12/28(火)までにと考えています。プライベートでバタバタしてまして。




