第72話 マレーナの点灯式
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昨夜はバチェラー見ながら書く予定でしたが、ずっと集中して見ちゃいました。そしてそのまま心が温かい気持ちになる終わり方で良かったと思いながら寝ました。
周囲が薄暗くなり虫の音が大きく聞こえ始めた頃、お祝いの準備も整ってきた。辺りには串焼きや鍋の食欲をそそる匂いが漂っている。
「集合!」
タイガーの声が辺りに響き渡る。衛兵たちがタイガーの前に走って集合する。俺も急いで後衛班の後ろへと走った。
タイガーの隣には村長が立っている。その様子に村人たちもなんとなくタイガーの近くに集まった。女性たちは鍋や串焼きの近くからタイガーの方を見ている。
「ここまで本当にご苦労だった。プルスレ村の皆さんにも大変なご協力をいただきました。」
そこから長めの挨拶があり、明日から残るメンバーの発表があった。
まずはタイガー、そして前衛のトーマス率いる緑分隊と後衛のフリーダ率いる数名、そして俺や俺の警護役のティア、シュリ、ヴェイ、ショーン、イメールだ。
そしてそれ以外の帰還組の指揮官は後衛班長のフリーダが務める。
続いて村長からの挨拶だ。
「衛兵の皆さまには言葉では表現しきれない程の感謝の気持ちで一杯です。皆様のお陰で農地も広がりました。今なら働く場所も用意できます。プルスレ村がお気に召した方がいらっしゃいましたら移住もご検討下さい。」と冗談めかした言い方で短めの挨拶だった。
「待ってるよー!」と言う若い女性の声が後ろの方から聞こえた。笑い声に混じって「俺は移住しても良いぞー。」などと言う声が上がると、また笑い声が起きた。
そして段々と騒々しくなってくるとタイガーは「では、今夜は存分に楽しんでくれ!」と締めた。それに呼応して「おおー!」と声が上がり、お祝いが始まった。
「さー食うぞー!」
「鍋だ鍋!」
衛兵も村人も待ってましたとばかりに食べ物に群がった。鍋や串焼き、唐揚げに肉と野菜炒めなどが並んでいる。そして焼肉も始まった。衛兵も村人たちも一緒に焼いたり取り分けたりと楽しんでいる。
俺はまず自分が手伝った串焼きを貰った。何かの肉と色々な野菜を刺してある。串焼きの場所には村の子供たちが居て、「普通のおじさんと同じの選んじゃったよ。俺たちも普通だな。」と笑っていた。
俺は子供たちに囲まれながら一緒に串焼きを食べた。そして俺は絶対正義の唐揚げを子供たちのために持ってきた。
「うわっ、何これすごく美味しい。」と目を輝かせた。
「ほんとに……、こんなの初めて食べた。」
持ってきた唐揚げはあっという間に皿の上からきれいに消えた。俺が追加で持ってきた山盛りのお替りも、奪い合うようにしてあっという前に食べ終えてしまった。流石、我らが唐揚げ。どこの世界の老肉男女に対しても絶対的存在だ。
そしてさすがにそれだけ食べるとお腹も膨れてきたようで、子供たちの食事のペースが落ちてきて遊び始めた。
「食べ終わったら帰って寝なさい!」
母親と思われる女性が遊び始めた子供たちを追い立てるように村へ帰した。
「コーヅさん、すいません。子供たちがすっかりコーヅさんに懐いてしまって。」と鍋をよそった深皿を渡してきた。
「いえいえ。こちらこそ遊んでもらってたようなものですし。」と答えてから受け取った。
「コーヅ様は子供たちとも仲が良いのですね。ふふふ」と通りがかりの領主の長女であるサラに笑われた。サラの手には食べかけの串焼きが握られていた。その後ろに控えるリーサにも同じように食べかけの串焼きが握られていた。
俺は鍋だけでは足りないので、肉野菜炒めも貰いに行くと、そこには配膳中のマレーナがいた。
「あ、マレーナ、ここにいたんだね。だいぶ暗くなってきたからそろそろだよ。」
「そうなんですよ。早く点灯させたいのに。でも、仕事を手伝わないといけなくて。」と、マレーナはもどかしそうに言った。
「仕事が一区切りついたら点灯しようか。」
「はい、楽しみにしてます!」
マレーナはそう言うと肉野菜炒めを山盛りに盛り付けて笑顔で渡してくれた。そんなに要らないんだけど、とは言えずに「ありがとう。」と受け取った。
これ……全部食べきれるかなぁ。
薄暗かった空はすっかり暗闇に包まれている。そしていくつかのランタンに明かりが灯されている。人は火やランタンの近くに集まっている。俺も火の近くに腰掛けた。オレンジ色の柔かな火を見ていると和む。
「よう、コーヅ。俺はまたお前と同じで居残りだよ。」と緑分隊のジュラルが隣に座って話しかけてきた。火の明かりに照らされたジュラルは手持ち無沙汰なのか前髪をいじっている。
「俺は壁を作り上げないといけないし。ジュラルは居残りが嫌なの?」
「そんな事ないぜ。プルスレ村にいる間はほとんど休暇みたいなもんだもんな。それに風呂が気持ちいい。そしてなにより村娘ちゃんたちが可愛い。これだけあれば充分残る理由になるだろ。酒が飲めないのが辛いところだけどな。」
そしてジュラルは「お前も楽しめよ。」と俺の肩をポンポンと叩くと、立ち上がって村の女性たちに話しかけに行った。すぐそこからは笑い声が起きていた。陽キャめ。
俺は食べかけの山盛り肉野菜炒めと鍋の深皿を傍らに置き、膨れた腹を抱えてユラユラと揺れる火を見つめながらボーッとした時間を過ごしていた。
「コーヅさーん!」と大声で呼びながらマレーナが走ってきた。
「早く点灯しましょう。早く大浴場に行きましょう。」
マレーナは待ちきれないとばかりに鼻息が荒い。俺は食べかけの皿はどうしよう、などと考える間もなく、急き立てられるように食べかけの皿を両手に持って立ち上がった。
「マレーナ、どうしたの?」と近くにいた友人が声をかけた。
「点灯式よ!」
聞いた方はなんの話か理解できず、頭に疑問符が浮かんでいるようだった。しかしマレーナはそんなのお構いなしとばかりに「ついてきて!」と強引に友人の手を引っ張った。
俺は鍋と山盛り肉野菜炒めの皿を持ったまま追い立てられるように大浴場の前へと移動した。
「コーヅさん、私が点灯させて良いですか?」
「もちろんだよ。マレーナの光なんだし。」
それに両手も塞がってるし、と俺は手元の料理に目を落とした。
マレーナは1度深呼吸をすると、地面から斜め上を向いている光魔石が入った石筒を両手で包んだ。
「点灯します。」
マレーナが魔力を込めると緑の光が壁を照らした。暗闇にぼんやりとした線が2本交差している。
「わあ、綺麗!」
マレーナと友達は驚きで目を見開くと感嘆の声を上げた。
「凄いじゃない、マレーナ。」
「うん、ありがとう。」
マレーナは残りも早く点けたいと、光魔石に魔力を通して歩いた。そして全て光らせると、大浴場の壁全体を見れるようにと、引いた位置まで下がった。
マレーナは両手を胸の前で組むと、声もなくただただ光を見つめていた。
「これもコーヅ様が?」
いつの間にか隣にサラが立っていた。そして柔らかい笑みを浮かべて光を見つめていた。
「いえ、これはマレーナですよ。」
「コーヅ様は皆の力を引き出しておいでですのね。」
サラは光に向けていた笑みを俺の方に向けてきた。
「たまたま知ってた事を教えただけですよ。」と、首を振って否定した。
「それで皆のやる気が出るのでしたら領主一族としては感謝しかございませんわ。」
そういう見方をするのか、と俺はサラの方を見るとサラは頷いた。そして少しの間、2人で並んで大浴場の光を見ていた。
「はぁ、コーヅさん。ありがとうございました。私の作った光を何人かが楽しんてくれただけで満足です。」と、マレーナが笑みを浮かべたまま振り返った。
「わたくしも楽しめましたわよ、マレーナ。」
「サ、サラ様!」
サラが俺の隣にいると気付いていなかったマレーナは驚きの声を上げた。
「アズライトにもこの様に美しい場所を沢山お作りくださいね。」
「はい!コーヅさんとの共同作業で頑張ります!」
俺もなの?とマレーナを見たが全く俺の方は見ていない。サラに期待された喜びで幸せの余韻に浸ってる。サラもそんなマレーナの様子に満足気な表情を浮かべて「失礼しますね。」と言ってリーサと共に去っていった。
「コーヅさん。私、今すごく幸せです。」とポーっとした表情で呟いた。
「良かった。でもまだ階段の所の光魔石が残ってるよ。」
「……コーヅさんは調子に乗っているマレーナを足元にひれ伏させようとしていますか?」とジトッと見る。さっきからマレーナは喜んだり怒ったりとコロコロと表情をよく変える。
「違うよ。足元だってすごく綺麗なんだよ、……多分。」
多分、と言ったところでマレーナの表情が険しくなった。
「折角なんだし、つけようよ。足元が明るいと歩きやすいよ。」
「分かりましたよっ。」と眉間に皺を寄せると不満げな声を上げた。
俺はマレーナを半ば強引に誘うようにして階段部分に作った間接照明の所まで移動した。
「ここの足元が見やすいと上り下りしやすくなるしさ。」
綺麗に見えると思うけど、自信がない俺は利便性推しでマレーナを促した。マレーナは黙ってしゃがむと不満顔で俺を見上げてきた。
そして黙ったまま階段の光を灯していった。1つ、2つとオレンジ色っぽい電球色の明かりが灯されると「わぁ」「おぉ」という声が聞こえてきた。そして5つの光を灯し終えるとマレーナの所に色々な人が集まって来た。
「マレーナ、すごく綺麗よ!」
「どうやって作ったの?」
「すげーよ、これ。」
予想外の反応にマレーナは戸惑っているが嬉しそうだ。そして気まずそうにチラッと俺を見てきた。俺は親指を立てて返事をした。マレーナも嬉しそうに親指を立てた。
マレーナは右から左からと質問攻めされていて忙しそうに相手をしている。
「マレーナの光って綺麗ね。」
声の方を見るとティアが光の方を見ていた。
「すごく発色良いよね。これから重宝しそう。」
俺はいつかこのマレーナの光で砦全体をライトアップさせてみたい。きっと綺麗だと思うし。
「まだ何か考えてるの?」
「ちょっとだけね。」と俺は含ませるような言い方をしたが、「ふーん。」とティアは特に興味なさそうに、深く聞いてこなかったので会話が途切れてしまった。
少しの間2人でマレーナの光を見つめていた。近くに置いてあるランタンからの柔らかい光に照らされたティアはいつもより大人っぽく見えた。
「あの、ちょっと言いにくいんだけど……。」
その後の言葉が続かないので「どうしたの?」と聞いたが、ティアは口を開けたり閉じたり二重の大きな瞳でこちらを見たり、他所を見たりとせわしない。そして時折ため息が混じる。
普段、あれだけ好き勝手に言うティアらしからぬ態度に何か引っかかるものはあったけど、ティアの言葉はゆっくり待つことにしてマレーナの光の方に視線を戻した。
「やっぱりごめん、何でもない。」
ティアはそう言うと後ろを向いて走り去った。すると走り去る先の方から「ティア―!」「頑張れ!」という女性たちの声が聞こえたが「ごめんー。」と言ってティアは女性たちの元に合流した。
そして女性たちはティアと一緒にキャッキャと俺から離れていくようにどこかに歩いていった。
……一体あれは何だったんだ?
俺は一息つくために食事の皿を持ってテーブル席に腰かけた。そこから見えるイメールのテーブル席では食事をしている人はいなくて、触ったり眺めたりしている人がいた。
俺も手のひらにイメールのテーブルと同じようなコバルトブルーの石を作りだしてみた。
「できた?」
正面に座っている衛兵も同じことをしていたようで、自分で作った石を見せてくれた。俺も交換で衛兵に自分が作った石を渡した。お互いに発色がいまいちでイメールのような鮮やかな色にはなっていない。
「難しいね。」
「そうだね。」
そんな言葉を交わして、お互いにランタンに照らされた色鮮やかなテーブルを眺めていた。
最後までお読みくださりありがとうございました。
次回は12月21日(火)を目指して準備しています。
またお時間ある時にいらしていただけると嬉しいです。




