第71話 イメールの充実感
ご訪問ありがとうございます。
寒くて冷たくて嫌な気持ちになりますね。今から春が待ち遠しいです。
春が来ると花粉も一緒に来て、それはそれで困るのですが。
子どもたちと別れた俺、イメール、シュリの3人は南門前の野営地へと戻ってきた。
そこには柔らかな陽射しの中、休暇を満喫しているらしい人達がたむろしていた。でも一部の衛兵は村人の開墾を手伝っているようで村の外からはコーン、コーンという甲高い斧を入れる音や掛け声が聞こえてくる。
もう昼食には遅い時間だったようで、食事をしている人はほとんど居ない。俺たちは食事を受け取るとテーブル席に着いた。
「空いてて良かったね。」
「あまり座れないですもんね。」
「コーヅくんはもっとテーブル席作らないの?」
シュリはいくつかあるテーブル席を見回しながら言った。確かに衛兵の人数に対しては少ないとは思う。でもこんな人数で滞在することはもう無いだろうし。あまり余計なものを残していきたいとは思わない。でも……
「イメールの練習の場を提供する為なら作るよ。」
「え!?本当に増やすんですか?」
「うん、イメールが望むだけ増やすよ。どれだけ欲しいの?」と冗談ぽくイメールを見る。
「僕はコーヅさんみたいに沢山の事はできないですよ。午後ずっとやっても、きっと1つか2つです……。」
イメールが落ち込んでしまった。でもイメールの良さは質だ。俺は量。二人の力で良くしていければ良いと思う。
「イメールくんは作業が丁寧だから時間かかるよね。」というシュリに俺も頷いた。
そんな話をしながら食事を続けていると、見回りを終えたというショーンが食事を持ってきて、テーブルの上に置いた。
「僕は夜にもう1度行くけど、イメールは?」
「僕も今朝行って、あとは夜中ですね。」
イメールも朝が遅いと思ったら、既にひと仕事終えてたのか。
「結局、俺はほとんど見回りしてないけど、村の周りって何かいるの?」
「いると言えばいますが、小動物ですよ。人がいるところには魔獣でもそうそうは来ないですよ。」とイメールが教えてくれた。俺が見回った時もジュラルが同じような事を言ってたな。オーガのことは特別として、普段は特に何もないんだろう。だから村が成立するんだろうけど。
ほぼ食事を終えた俺たちの会話にはショーンは混じってこなくて、急ぐように黙々と食事をしていた。
―――
「ごめん、お待たせしたね。」と最後の一口を頬張りながらショーンが言った。
「いいんだよ、ショーンくんは。仕事をしてきたんだから。」というシュリの言葉を全て聞き終える前にショーンは急いで食器を持って片付けに行った。そんなショーンを見送りながら「それじゃあ始めようか。」と俺は立ち上がった。でも俺が何かをする訳じゃ無いけどさ。
「とりあえず、このテーブル席でやってみようよ。」
シュリが今まで使っていたテーブルをコンコンと叩きながらイメールに提案した。
イメールは頷くと、真剣な面持ちでしばらくの間テーブルを見つめていた。そしてテーブルの天板の色を大きなチェック模様にしていった。紺色とコバルトブルーいう濃淡がはっきりした色が晴天の屋外に良く似合う。
「そしたらさ、ここに細い線を入れられる?」とシュリが白くて細い指でテーブルの端の方をトントンと指した。
「はい、やってみます。」
イメールがやってみるというので、シュリが少し考えて、「オレンジで……」と色の変わり目の近くにオレンジ色の線を入れる様にとテーブルを指差しながら説明している。そしてイメールもそのアイディアに追加案を出しながら相談をしている。
そして話がまとまったのだろう、イメールが丁寧に細くて真っ直ぐな線を引き始めた。
何をしてるんだろう、と気になって見に来ていた人たちも「おいおい凄ぇな。こんな細かな作業って魔術でできるもんなのかよ。」と腕を組んで見ている。当然土魔術の属性を持っている人は他にも居るだろう。でも俺もこんなデザインは思い浮かばないし、丁寧な線を引くこともできない。
イメールはそんな俺たち外野の声は耳に届いていないようで作業に集中している。
俺や戻ってきたショーンたちギャラリーはイメールの邪魔にならないように少し離れた所から作業を見ていた。少しずつデザインされたテーブルができあがってくる。あまりに鮮やかで俺が作った白っぽいだけの他のテーブルや床などと鮮やかなコントラストとなっている。
「えーー!すごーーい!」
イメールの作業を邪魔しないようにという俺たちの配慮を女性の甲高い声が消し去った。
イメールもその声に気付き顔を上げる。さっきシュリたちとお喋りしていた女性たちがぞろぞろとイメールに近づいていった。
「これをあなたが作ったの?」
作業中とかお構いなくイメールに話しかける。
「え、あ、はい。で、でも、あの……、コーヅさんが作ったテーブルにちょっとデザインしている感じですけど……」と、イメールは恥ずかしそうに消え入りそうな声で答える。イメールの答えに女性は頷いて「シュリはこれを手伝いに行ったのね。」とシュリを見た。
「そうよ。イメールくんは凄い才能を持ってるのよ。」と胸を張った。
「あんたが胸を張るところじゃないでしょ……。」と呆れられていた。
「あははは。細かい事は気にしない。」
女性は一つため息をついて「また後でゆっくり見せてもらうわ。イメール、だっけ?すごく良いよ。」と言い残して女性たちは去っていった。
イメールはぽーっとした顔をして女性たちの後ろ姿をいつまでも見送っていた。
「あら?イメールくんのお気に召した娘があの中にいるのかしら?」とシュリはからかうようにイメールの顔を覗き込む。するとイメールは顔を真っ赤にして「そ、そ、そんな事ないです。褒めてもらえたのが嬉しかっただけです!」と顔を横に向けて否定した。だが、やっぱり視線は女性たちを追いかけている。
「ふーん、そうなのかぁ。」とシュリはニヤニヤして見ている。
「本当です。」とシュリを見て言い切るイメールの顔は相変わらず耳まで真っ赤だ。
「あははは。ごめんごめん。イメールくんったら反応が面白すぎ。」
イメールはからかわれていた事が分かると、「本当にやめてください、シュリさん……。」と力なく呟いた。
イメールの昂った気持ちが落ち着いてくると作業再開となった。先ほどの細かい線を引く続きから作業を始めた。丁寧に1本1本オレンジ色の線を引いていく。
本当に見事なもんだよなぁ。
ふと視線をギャラリーの方に向けると、その中に真剣にイメールの作業を見つめるマレーナの姿があった。
「マレーナも見学?」
「あ、コーヅさん。イメールさんがこんな色鮮やかなものが作れるなんて……すごく素敵です。はぁ……いいなぁ。」と、羨望の眼差しをイメールに向けた。
「マレーナの光魔石だってすごく綺麗じゃない。」
「でも光るだけじゃないですか。」
「そんなこと無いよ。見せ方次第だよ。今夜に向けて一緒に仕掛けをしてみる?」
「仕掛け……ですか?」
不思議そうに首を傾げるマレーナを引っ張るようにして人混みから離れると、床の階段まで移動した。
「ここで何をするんですか?」
「マレーナは俺の部屋で見た間接照明って覚えてる?」
「もちろんですよ。あれは素敵でしたね。私の未来も照らしてくれたように感じました。」
マレーナは目を閉じて両手を胸に当てながらしみじみと思い返していた。
「それをここでやろうと思って。」
「ここで……ですか?あれって家の中だけじゃないんですか?」
「外でもよく使われるよ。」
「本当ですか!?知りたいです。是非教えて下さい!」と、マレーナはズイッと乗り出してきた。俺はそんなマレーナの勢いに戸惑いながらも「もちろん」と答えた。
そして俺はその場にしゃがみこむと、階段の壁部分を少し引っ込めた。そしてそこを魔石を置く為の受け皿のようにな形にした。
「これは……何ですか?」とマレーナは訝しげに俺を見下ろしてくる。
「これが間接照明になるんだよ。」
「ほんとーですか?マレーナみたいな小娘にはこんなもんで充分とか思ってませんか?」とジトッと疑いのこもった目を俺に向けた。
「本当だって。……でもまぁ、やってみるまでわかんないけど。」
「やっぱり!」とマレーナは俺のことをまだ疑っている。俺もこれっぽい間接照明がマンションの入り口にあったので真似してみてるだけで、同じように綺麗になるかの確証までは無い。
「思ったようになれば綺麗に光るから。」
俺はマレーナの疑いの眼差しを浴び続けながら5か所に同様の受け皿を作った。
「オレンジ色っぽい光魔石を5つ準備しておいてもらえる?暗くなったらここに入れるから。」
「良いですけど。」
マレーナはまだ納得していないようで口を尖らせている。でも俺も言葉で納得させられるとは思わない。こればっかりは見てもらうしか無いと思う。
マレーナはブツブツ言いながらも、その場で5つの光魔石を作ってくれた。
「ありがとう。」
俺はマレーナから魔石を受け取ると、夕方になったら点灯させられるようにと受け皿に入れておいた。
そして次は大浴場でも間接照明をつけてみようとマレーナを連れて大浴場前に移動した。
「今度は何ですか?」
「下から壁に光を当てておしゃれに見せようと思って。」
「そうそう。私もそういうのやりたかったんですよ。」
マレーナはやっと分かってくれたんですね、と言いながらバシッと俺の背中を叩いた。
「そうだったの?」
「そうですよ。コーヅさんはマレーナなんか俺の足元を光らせておくのがお似合いだって思ってるのかと思いましたよ。」とマレーナはすごく卑屈なことを考えていたようだ。
俺は筒を2つ作った。そしてマレーナから貰った光魔石に魔力を通し光らせた。光は鮮やかな緑だった。
それを筒に入れ下から斜めに交差して壁を照らすようにした。まだ空が明るいので薄っすらと緑色に色付く感じだ。それを腰の高さから天井に向けて光が当たるようにして筒を固定した。
「明るいとほとんど役に立たないですからね。本当に嫌になります。」
マレーナは自分の得意魔術である光魔術があまり好きじゃない様子だ。
「そう?光って無いと困るものだよ。」
「そうですけど……。」
マレーナは釈然としない様子だ。光は大事ってくらいで納得するなら、そもそも悩んだりしてないよね。でも本当は通信とか使い方次第ですごく役立つと思うんだけどね。
それから大浴場の入り口で男女を見分けるようにと、筒からの光で壁を下から照らすようにした。男性用には青い光魔石、女性用にはピンクの光魔石にした。
あまり作り過ぎない方が良いと思い入り口付近に少しだけ作った。この先はマレーナにも自分の感性で作ってみて欲しいし。
「準備はこれでいいかな。あとは夜になってからのお楽しみだね。」
「はい、そうですねっ!」
マレーナの元気な返事に俺も自然と笑みがこぼれた。マレーナは色々な光魔石を作って夜に備えてみると言って一人で行ってしまった。少し暗がりじゃないと発色も確認できないしね。
―――
イメールが作業しているところに戻ると2つ目のテーブル席のデザインをしているところだった。今度は緑をベースにしたチェック模様にしていた。
シュリも1歩下がってイメールの事を見守っている。俺はシュリの隣に行って話しかけた。
「もうすぐ2つ目ができそうなんだね。」
「だいぶコツを掴めてきたみたい。」
周囲にも沢山の人が居てイメールの作業に見入っていた。すると村から女性たちが出てきて南門の辺りに集まってきてザワザワし始めた。今夜のお祝いの準備が始まるようだ。
ここに居てもやることもなさそうなので「……あっち手伝う?」と俺とシュリはそんな話になった。
「イメール、俺たちお祝いの準備の方に行こうと思うけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です!僕もあと少しなので。」
俺はイメールの返事に頷くと、シュリとマレーナとお祝いの準備を手伝う為にその場を離れた。同じタイミングで何人かのギャラリーもお祝いの準備の方へ向かった。
「俺たちも何か手伝います。」
「助かるわ。」
そう言って渡された道具は串焼きの準備だった。木を削った串に肉と野菜を刺していくという作業を黙々と続けた。
肉はいくつかの種類が混じっているようだけど、よくわからない。野菜はパプリカやキャベツだ。
しばらく串を作っているとイメールがやってきて「終わりました!シュリさんとコーヅさんのお陰です。」と充実した笑顔を見せた。
「よく分かってるね。シュリさんのアドバイスは効いたでしょ。」と、シュリはイメールに串を差し出した。それは手伝えと言うことだ。
―――
そして夕方にはお祝いの準備が整って辺りに食欲をそそる匂いが辺りに漂い始めた。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次回は12月17日(木)に投稿予定です。




