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第303話 リザード

「あ~あ、みんないなくなっちゃったよ……。」

 村人が逃げてしまい静かになった集会所で、イザベラが空を見上げていた。

 商人とその警護の冒険者もいなくなっていた。それも仕方ないことだろう。商人を安全に送り届けることがミッションなんだから。

 そんなこちらの事情を知る由もないローちゃんは旋回をしながら、嬉しそうな甲高い叫び声を上げでいる。よほどイザベラの光を気に入ったようだ。でもその気持ちは分かる。この七色の光はこれまでの中でも特に綺麗だと思う。

 そして気になるのがいつもの手土産だ。長細いものを握っているように見える。せめて死んだものを落としてもらえるようにと願いつつ、剣に手をかけてローちゃん目掛けて飛び上がった。

 ローちゃんの首にはアリアが跨っていて、手を振っていた。そのローちゃんの握りしめているものは大きなトカゲだった。そして目を閉じて動いている気配がないので死んでいるんだろう。その辺りはしっかりとアリアが言い聞かせてくれていたのかもしれない、と安心した。

「コーヅさーん!やっぱりコーヅさんでした。あの……この……!」

「アリアさん!」 

 中空にあった俺の体も重力に引っ張られて落下しはじめた。しかしアリアが乗ったローちゃんだったことが分かり一安心だ

「どうだった?」

「アリアさんが乗ってたよ。」

「もぉー、アリアにはもう少し登場の仕方を考えて欲しいわ。」

「あれもお前たちの仲間か……?あんなテイマーがアズライトに……。」とアレンが驚いていた。

「もういいじゃない。」とエミリアが静かにアレンに寄り添った。

「……確かにそうだな。」

 そして一方で「なんだい!折角、作ったってのに!」と非戦闘員で唯一残った肝っ玉母ちゃんのアリーシャはローちゃんに一切動じた様子もなく、ただ目の前に腕によりをかけて作った食事が台無しになっていることに怒り心頭だ。

 これを準備するためにアリーシャがどれたけ苦労したか。そしてアリーシャに作ってもらう様にお願いするにも、どれだけ苦労したかと思うと、残念な気持ちで足元に落ちている肉を見下ろした。

『いっただきまーす!』

 しかし、そんなことはお構いなくサブルが全力で尻尾を振り回しながら嬉々として床のものを食べ始めると、ベル、そしてホビーもそれを食べ始めた。それは魔獣なんだから落ちているとか関係なく食べるのは当たり前なことだった。リーサも渋い顔をしながらも、ここは目をつぶって見ないふりをしながら、散らばった木皿を集めていた。

 床はベルやサブル、そしてホビーの大きな舌が舐めてくれるので綺麗になった。仕上げにモップでもあれば良いのだけど、ここは仕方ない。

 あとは家に逃げ帰ってしまった村人たちを連れ戻せば良いんだけど……。


「ギャギャア!」


 そこへ上空からローちゃんからの声が聞こえたので、見上げると先ほどのトカゲが落ちてきた。村人たちがほとんどいないので、大丈夫だろうと落ちてくる様子を眺めていた。

「んー……あれはリザード?」

「大きなトカゲだったよ。目も閉じてたし多分死んでる。」と言ったと同時に、その大きなトカゲの体は大きな音を立てて地面に叩きつけられて雪に埋もれた。

「こりゃまた……。」

「リザードって大きさじゃないわよ!」

「怖いし首は落としとこっか。」とシュリが剣を抜いて歩み寄った。

『ダメ!まだ生きてるから!』

 ベルが叫んだ瞬間に大きなリザードが目を見開いて尻尾を振り回した。

「きゃ!」

 シュリは驚きながらも寸前で太くて強靭な尻尾を跳び上がって避けた。しかし宙で身動きが取れないシュリに向けて、すかさず長い舌が伸びた。

「こんなところで暴れるな!」

 俺がリザードへ飛びかかり、伸びた舌を根元から断ち切ろうとショートソードを一閃したが、その舌はゴムの様に剣を弾いた。しかしその軌道は変わりシュリの体からは逸れた。そこへティアがファイアボールをリザードの腹に撃ち込んだ。腹から煙を立ち昇らせながらリザードが怒りに満ちた目をティアに向けると、尻尾を捻り振り回した。ティアはそれを大きく後ろへ跳んで避けた。

 ティアを守るために、俺も石弾を腹に目掛けて撃ち込んだ。命中はしたものの強い鱗と弾力性のある体に弾かれた。この村の中で全力で撃ち込んで周りの人や建造物に被害を出さないように力を抑えているせいだ。やりにくい。

 それでも注意を逸らせることには成功した。爬虫類のくせに目に強い殺意が込められている。俺はその場からサイドステップで横へ動きながら石弾を続けて撃ち込んだ。

 リザードのターゲットは俺に定まり、巨大な尻尾で叩き潰しにきた。そして、それをバックステップで避けるとドンという大きな音と共に地面が揺れて、尻尾の形に地面がえぐれた。こんなものが建物に当たったら豆腐の様に崩れてしまうだろう。

 この狭い場所でそんな被害を出さないようにしないといけない。リザードをその場に釘付けするために、俺はリザードの周りを駆けながらヒールで体を満たしつつ身体強化を強めていった。そして注意を逸らすための石弾を撃ち込み続けた。ティアも俺に注意が向き無防備になった横腹にファイアボールを撃ち込んでいた。石弾に比べて速度が遅いので、十分な隙が見えたときに狙いすまして撃ち込んでいた。そしてシュリやイザベラは魔術の邪魔をしないように周りから、いつでも飛び込めるようにと剣を構えている。リーサはホビーとサブルを守るように後ろに控えている。ベルは壁の上に乗り戦況を見守っていた。きっと俺たちだけで片付けろということなんだろう。

 するとシュリがリザードに飛びかかった。しかし太くて厚い鱗に覆われた首にシュリの剣は通らずに「くっ……。」と悔しそうな表情を浮かべて、すぐに後ろへ飛び退いた。

 その姿をリザードの目が追うと尻尾に力を込めた。すぐにティアのファイアボールが腹を焼いた。苛立ちを隠せないリザードが、大きく尻尾を振りかぶった瞬間に全力で懐へ飛び込むと、切っ先まで魔力で満たしたショートソードを下から振り上げた。

 するとその頭は体から離れてゆっくりと宙を舞い、やがて怒りの込められた目から、光が失われながら地面に落ちた。

「やるじゃん!さすがの武神。」と剣を抜いて構えていただけの大聖女様に褒められた。

「武神……様……。」

 建物の陰に隠れていたアリーシャがフラフラと歩いてくると無表情で俺を見ながら呟いた。

「いや、そんなに立派なもんじゃないですよ。ははは。」

「でもさ、これ大きすぎるしラージというよりヒュージじゃない?」

「そんな気がするわ。」

「確かめないとね。」とシュリかリザードの切れた首のところから鱗の継ぎ目に沿ってナイフで切り裂いていった。

「そんな……ヒュージだと……?。」

 アレンは一連の出来事に言葉を失っていた。

「コーヅさんてトラブルメーカーだから、仕方ないのよ。」とイザベラが首を振った。

「トラブルメーカー?」と不思議そうにエミリアが俺を見た。

「だって、あんたたちのこともだし、クリソプレーズではクラーケンも現れたし。そしてこのリザードでしょ?何ならベルの事だってそうだし。他にも……」とティアが熱くトラブルメーカーであることを語っていると「うわぁ。こりゃまた領主様案件だね。」とシュリが体から抜き取った魔石を両手で掲げながら言った。

「本当に何なのかしらね。」とティアがため息混じりに白い目を向けてきた。

「ちょっと!これは俺じゃないでしょ。これはローちゃんじゃん。クラーケンだってそうだし。」と全力で否定した。まずは、こんな簡単に国王だ、領主だという案件になる魔獣を置いていくローちゃんの存在について語らい合おうじゃないか。

「本気にならないの。冗談に決まってるでしょ。こんなの話のネタじゃない。」と隣にいるリーサが笑った。

 この話のネタとやらに尾ひれ背びれがついて、更におかしなことになっていくと思うんだけど……。もしかすると、このトカゲはドラゴンにでも化けるんじゃないだろうか。でも、それが俺の望むことか。国王の耳に届くようにしたいんだから。しかしそれを思うと背中がむず痒くなり、やっぱり話を否定したくなる。

「アリーシャさん、肉は置いていきますね。革は持って帰っていいですか?」

 村長も逃げてしまったので、シュリは村長代理っぽい存在のアリーシャに確認しながら分け前の話をしていた。

「私たちは何もしてないんだから……。」と村が受け取る権利は何もないと言うが、そこにはオルデンブルクとやりあった時の勢いはなかった。

 シュリの説得で、食料はあって困るものではないし、村の名物にできるからと塊で残し、革も冬の手仕事としていくらか残していくことになった。

 ヒュージリザード革と言うだけで価値が出るから、村人たちの良い小遣い稼ぎになると、アリーシャも喜んでイザベラに感謝していた。何もしてないのに。

 そしてローちゃんが壁の上に降り立って、ひと鳴きした。するとその首からアリアが飛び降りて、駆け寄ってきた。

「アリア!ちゃんと始末してから持ってきてよ。」

「ごめん、コーヅさんに伝えようとしたんだけど。」

「あー、やっぱりコーヅさんか……。」

「いや、俺、何にも知らないって。」

「うわぁ、アリアのせいにするとか最低じゃん。」

 跳び上がった時は本当に何も聞いてなかった……と思うんだけど。でも今思えばアリアは何か言おうとしていたようにも思える。いや、言ったのかもしれない、聞こえなかっただけで。

「でも殺してからってローちゃんにも言ったんだけど。ごめんなさい。」とアリアが頭を深く下げた。

「まっ、武神の餌食になった可哀そうなヒュージリザードのことはもういいじゃん。それよりさ、アリアも一緒に歩いて帰ろうよ。」

「無理無理。無理ですわ、そんなの。だって明日だってサラ様の警護の仕事がありますし。」

「じゃあ、ご飯くらい一緒に食べていける?」

「そうですわね。でもその前に……私も片付けを手伝いますわ。」

 アリアにも手伝ってもらいながら、一緒に散乱した食器を片付けた。そしてアレンやエミリアがそれを食堂に持っていき洗って持ってきた。その時に雑巾も持ってきて柱や床に飛び散ったソースを拭き取った。

 ある程度歓迎会の再開の目処が立つと、村の衛兵たちが村人たちの家を訪ねて声をかけていった。

 村人たちは、家から顔を覗かせたところから見えるローちゃんには恐る恐るではあったが、少しずつ戻ってきた。しかしどうしてもローちゃんや、解体中のヒュージリザードからは距離を取りながらとなっていた。

 それも時間とともに慣れてきたからか、酒が回ったからか、解体中のヒュージリザードの死骸や、ローちゃんを見に人が集まり始めた。

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