AI作品3
二人の絶叫のような告発と、空間を歪めるほどの圧倒的な殺気。
すべてを知られていたという衝撃に打たれながらも、リムルの青銀の瞳から動揺の色がすっと消えた。
魔王としての鋭く冷徹なそして冷静な洞察の光が戻る。
リムルは一歩も引かず、二人が放つ神級の圧力を正面から受け止めた。
「……そうか。全部、知っていたんだな。……俺が、お前たちの『仇』だったということを」
逃げも隠しもせず、自分の罪を認める静かな声。だがリムルの視線は二人そのものではなく、二人の内側で禍々しくのたうち回る『力』の奔流に注がれていた。
『告。対象者二名の所持する特殊権能を解析。既存のスキルシステム(究極能力・魔法・固有スキル)の構成法則から完全に逸脱。世界の理の外側に位置する非系統能力です』
脳内で告げるシエルの警告はリムル自身の違和感と完全に一致していた。
「シアン、ルミネ。……一つ、冷静に答えてくれ」
リムルは低い声で問いかけた。
その声音には責める色ではなく、二人を呑み込もうとしている「異物」への深い警戒と懸念が宿っていた。
「お前たちが持っているその4つの力――《暴食》《強化再生》《魔吸収》《闇の魔導書》。それは一体、どうやって手に入れた?」
「……何ですって?」
死力を尽くした仇への殺意を前に拍子抜けしたような質問を投げかけられ、シアンが眉をひそめる。
「この力は……私たちがあなたへの憎悪を糧に手に入れた、あなたを殺すための力よ! どんな理屈だろうと関係ないわ!」
「関係あるんだよ!」
リムルの強い声が迷宮に響き渡り、二人は思わず息を呑んだ。
「お前たちがどれほど血の滲む訓練をしたとしても、人間が自力で辿り着ける領域を超えている。この世界の『スキルシステム』そのものを無視して、無制限に成長し、絶対防御すら無効化するなんて力……普通は存在し得ないんだ」
リムルは二人の目を見つめた。
憎悪に染まりながらも根底にあるのは父と恋人を想う哀しく清らかな魂。
その美しい魂に、不気味で禍々しい「世界の理外の呪い」が不自然にへばりついている。
「その力はお前たちの命と魂を削って無理やり増幅させている……! 誰かに与えられたんじゃないのか? お前たちの復讐心を利用して、俺を……あるいはこの世界を壊そうとしている何者かに!」
リムルの問いかけに、シアンとルミネの表情が一瞬だけ凍りついた。
記憶の底――あの絶望の戦場の夜。
父と恋人を失い、泣き叫んでいた二人の前に現れた顔もわからない朧気とした「何か」の気配。
「仇を討ちたいか?」と囁き、二人の胸の奥に黒い種子を植え付けていった、名もなき影の存在――。
「……関係……ないわ……」
シアンは首を振り、己の頭を叩くようにして思考を振り払った。
竜の因子を得たことで暴走気味の魔力が二人の理性を漆黒の復讐心へと再び塗り潰していく。
「誰に与えられた力だろうと……どうでもいい! この力であなたを殺せるなら……私たちの命なんて、魂なんて、最初からどうなったっていいのよ!!」
「シアン! ルミネ!」
「黙りなさい、リムル=テンペストッ!!」
ルミネが叫び、大剣を振り抜いた。
《闇の魔導書》によってこの世界のあらゆる防御概念を無効化された漆黒の斬撃が世界の理を超えた威力を伴って、まっすぐにリムルの首元へと迫るのだった。
「――ここなら、いくら暴れても大丈夫だ」
斬撃が届く直前、リムルの空間支配によって周囲の光景が一瞬で切り替わった。
降り注ぐ太陽の光、無人となった巨大な観客席。そこは普段なら歓声と熱気に包まれているテンペストの『闘技場』だった。
住人や子供たちの安全を最優先したリムルが、瞬時に二人ごと広大な広場へと転移させたのだ。
「逃げるつもり……!?」
「逃げやしないさ。お前たちの攻撃を全部受け止めるために、ここを選んだんだ」
リムルは黒いコートをたなびかせ、武器も構えずに二人と向かい合う。
その態度はどこまでも二人の「復讐」から逃げない姿勢そのものだった。
「罠も配下達を待ち構えさせている気配もない。あなたが何を考えているのかなんて、今の私達には関係ない」
観客の消えた静寂の闘技場で、ルミネの溢れ出る殺気が大気を鳴動させる。
《強化再生》によって硬質化した筋肉が膨張し、暴風竜の因子を得た大剣が漆黒の炎を撒き散らす。
「かつてのファルムス軍先遣隊が、この街の魔物の住人を虐殺した……! その罪は本隊ともどもその命で償った……!!」
ルミネの叫びは血の涙とともに静寂を打ち破った。
あの日、テンペストを襲いシオンたちの命を奪った先遣隊。
彼らの罪が重いことなど二人も百も承知だ。
だが、だからと言って命令に従って行軍しただけの自分たちの身内まで「殺されて当然のゴミ」として処理されていい理由にはならない。
「……今度はお前の番、リムル=テンペスト!! シアンのお父さんを……私のかけがえのない彼を殺した罪……お前の命で償えっ!!!」
大地が砕け散った。
神速を超えたルミネの踏み込みとともに、大剣が空間そのものを切り裂きながら振り下ろされる。
同時に背後からシアンが掲げた《闇の魔導書》から漆黒の波動が放たれ、リムルが張るはずのあらゆる絶対防御、空間遮断、概念結界の法則を無効化し削ぎ落としていく。
《魔吸収》で際限なく練り上げられた暴風竜の魔素。
《強化再生》で神級へと至った絶大なる腕力。
《暴食》で喰らい尽くした魔物たちの異能。
世界の理から外れた4つの権能と、竜の威光が一つとなった「絶対に防げない一撃」が丸腰で立つリムルの首元へと容赦なく襲いかかった。
ルミネの振るった渾身の一撃をリムルは避けることなく、己の身体で直接受け止めた。
《闇の魔導書》の権能によってあらゆる防御障壁が無力化され、大剣がリムルの肩口から胸元を深々と引き裂く。
青銀の血のような魔素が飛び散り、凄まじい衝撃波が闘技場の床を豪快に粉砕した。
しかしリムルは足一本すら引かず、痛みと衝撃に耐えながら、ただ静かにルミネとシアンを見つめ続けていた。
「ハぁ……っ、ハぁ……っ!」
大剣を押し込むルミネの隣で、シアンの手が激しく震えていた。
殺せる。
自分たちのこの手でついに仇の命を奪える位置にいる。
しかしシアンの瞳から溢れ出る涙は止まらなかった。絶望と、歪んだ不条理への怒りが彼女の喉を強く締め付ける。
「……リムルさん……ひとつだけ、聞いてもいいかしら?」
血の滲むような、かすれた声だった。
「……エドマリス元国王を……なぜ、生かしているの?」
その名が出た瞬間、リムルの表情がわずかに強張った。
「戦いを望み、侵略を命じた元凶のあの男を……なぜ生かしているの!? 命令に従って行軍しただけの……家族のためにただ剣を握っていただけの兵士たちは、命乞いすら聞かずに一人残らず殺したのに……っ!」
シアンは激しい叫びとともに、抱え続けてきた最大の矛盾をぶちまけた。
「なぜ……! なぜ元凶のアイツだけが生き直すチャンスを与えられて……現国王ヨウム様の側近になって、まるでもう許されたみたいに……穏やかに暮らしているの!? ねえ、答えてよリムルさん!!」
あの日、メギドの光の下で「殺さないでくれ」「家族のもとへ帰らせてくれ」と泥を舐めて乞うた兵士たちをリムルは冷酷に貫き通した。
それなのに、侵略の引き金を引いた当本人であるエドマリスは政治的利用価値があるという理由で生かされ、今や新王国の重鎮として穏やかな余生を過ごそうとしている。
命の重さの差。不条理な政治の現実。
自分たちの家族は「魔王誕生の生け贄」としてゴミのように使い捨てられたのに、元凶の王が生かされているという事実は二人の心に癒えぬ毒として刺さり続けていたのだ。
シアンの絶叫が空虚な闘技場にこだまし、風が冷たく吹き抜ける。
肩を深く斬りつけられたまま、リムルは痛みに眉をひそめることもなく逃げ出すこともなく、ただシアンの痛切な問いを正面から受け止めていた。
「ふふっ……まあいいわ。まともな答えなんか期待していないし。貴方を殺したら今度はエドマリスを殺してやるわ! その次はテンペストの味方をする奴らもね! みんな…みんな殺してやるわ! あは…あははっ……あははははっ!!!」
シアンの瞳から完全に光が消え、濁った漆黒の狂気がその顔を覆い尽くしていた。
竜の因子と《暴食》の権能が彼女の心を蝕み、憎悪のままにすべてを破壊する殺戮の怪物へと変貌させようとしている。
引き千切ったペンダントを抱え、狂ったように高笑いするその姿は、かつて子供たちを温かく抱きしめた少女の面影を完全に失っていた。
「あなたを味方する奴らなんて……みんな……死ねばいいのよ……っ!!」
シアンが暴走した魔力を解放し、闘技場どころかテンペスト全体を消滅させるほどの極大魔法を練り上げようとした――その瞬間。
バチンッ!!
重い衝撃音が響き、シアンの身体が激しく揺れた。
「――目を覚ましなさい、シアンッ!!」
ルミネの手がシアンの頬を強く張っていた。
大剣を握りしめ、自分自身も血の涙を流しながら、ルミネは叫んだ。
その表情には狂気ではなく、痛切な正気と命をかけた覚悟が宿っていた。
「ルミ……ね……?」
「私たちが殺したいのは……憎んでいるのは、この男(リムル=テンペスト)一人でしょう!? なぜ関係のない街の人や子供たちまで殺すなんて言うのよ!!」
ルミネはシアンの肩を固く掴み、強く揺さぶった。
「あの子たちの笑顔を見ていた時のあなたの気持ちまで偽物にするつもり!? 私たちは……ただの殺戮者になりたくて、こんな力を手に入れたんじゃない!!あなたのお父さんとハルトに……胸を張って『仇を討った』って報告するために、ここまで耐えてきたんでしょうっ!?」
「あ……あぁ……っ……!」
ルミネの必死の怒号と温かい手のひらに触れ、シアンの狂気に染まっていた瞳にかすかな正気の光が戻りはじめる。
そうだ。
自分たちは関係のない人々を殺したかったわけではない。テンペストで出会った心優しい住人たちや、自分たちを慕ってくれたケンヤたち子供たちの笑顔まで奪いたいわけではなかったのだ。
暴走しかけた魔素が霧散し、シアンはその場に崩れ落ちた。
「嫌……嫌よルミネ……! 私……私、どうかしちゃってた……っ! 私たちの家族を殺したあの男と同じ……化け物になるところだった……っ!!」
「大丈夫……大丈夫よシアン。あなたは壊れてなんかいないわ」
ルミネはシアンを強く抱きしめ、その背中をさすりながら静かに、そして鋭い眼光で目の前の魔王を見据えた。
リムルは肩からの出血を塞ごうともせず、痛みに耐えながら正気を取り戻した二人をどこまでも悲しそうな、そして温かな目で見つめていた。
「……すまない、ルミネ。止めてくれて、ありがとう」
「お礼なんて言わないで、リムル=テンペスト」
ルミネは崩れ落ちるシアンを背後にかばうように立ち上がり、再び大剣をまっすぐに突きつけた。
その刃先は微かに震えていたが、そこに込められた意志はもはや揺らぐことはなかった。
「シアンを狂わせる前に……あなたとの因縁に、ここで終止符を打つわ。……準備はいい、魔王?」
二人の優しさと、決して消えない悲しき復讐の刃が、再びリムルの胸元へと突きつけられた。
二人が再び絶大なる魔力を練り上げ、死力を尽くしてリムルへ襲いかからんとしたその瞬間――
「そこまでだ、二人ともっ!!」
闘技場の重厚な扉を打ち破り、数影の人物が飛び込んできた。
カバル、ギド、そしてエレン。テンペストで二人と酒(シアンとルミネはテンペスト製ノンアルコール果実酒)を交わし、依頼をともにこなした冒険者仲間たちだ。
その傍らには街のガイド役として二人を温かく案内してくれた兎人族の少女、フラメアの姿もあった。
「カバルさん……エレン……!? なぜ、ここに……」
ルミネの構えがわずかに揺らぐ。
全員、息を激しく切らしていた。
リムルから事前に二人の素性と復讐の動機、そしてこの闘技場で起きているすべての事情を聞かされた上で、居ても立ってもいられず駆け込んできたのだ。
「すまねえ……二人の気持ちを、俺たちが全部わかってやれるなんて口が滑っても言えねえ」
カバルが大剣の柄を握りしめ、顔を歪めて叫ぶ。
「だけどな! 一緒に依頼をこなして、酒を飲んで笑い合ったお前たちが、こんなところで命を捨てて壊れていくのを黙って見てられるかよ!!」
「そうよ……! シアンちゃん、ルミネちゃん! 頼むから立ち止まって……!」
エレンが涙を浮かべながら必死に叫ぶ。
だが二人の憎悪の炎は簡単には消えない。
シアンは震える唇を開き、冷ややかに言い放とうとした。
「……関係ない人たちは引っ込んでいて。私たちは、この男を――」
「シアンおねえちゃん……?」
その時。
フラメアの影から、ひょっこりと顔を出した幼い少年の小さく切ない声が闘技場全体に響き渡った。
シアンの全身の血が、一瞬で凍りついた。
「……え……?」
そこに立っていたのは旧ファルムス(現ファルメナス王国)の故郷に残してきたはずの、シアンのまだ幼い弟――ルカだった。
フラメアが優しくルカの背中に手を添え、二人を見つめる。
リムルが二人の復讐の連鎖を断ち切り、万が一の時にも彼女たちの「本当の救い」を残すため、極秘裏にソウエイを走らせて保護させていたのだった。
「ル……カ……? なんで……どうして、あなたがここに……!?」
シアンの手から《闇の魔導書》が滑り落ち、カタンと重い音を立てた。
神級の圧力を誇っていた彼女の魔力が目に見えて大きく乱れ、激しく動揺し始める。
「シアンおねえちゃん! 会いたかった……! お家に帰ってこないから、僕、心配で……!」
小さな体を震わせ、泣き出しそうな顔で自分を見つめる弟の姿。
その無垢な瞳に映っているのは、「大好きな優しいお姉ちゃん」であり、先ほどまで世界を呪い、狂気で人々を殺そうとしていた「化け物」の姿ではない。
「あ……ああ……っ……」
シアンは己の血に塗れた手を見つめた。
自分は弟を守るため、故郷を守るために剣を取ったはずだった。それなのに自分は今、復讐という狂気に呑まれ弟を残して死ぬ覚悟で、さらには無関係の人々まで巻き込もうとしていたのだ。
「私……私は……っ!!」
弟の存在という決定的な絆を突きつけられ、シアンの張りつめていた理性の糸は音を立てて崩壊し、その場に激しく膝をつくのだった。
「ルカ……っ! ルカ……!! ごめんなさい……ごめんなさい……ッ!!」
シアンは膝から崩れ落ち、駆け寄ってきた幼い弟を砕けんばかりに強く抱きしめた。
弟の小さく温かな体温が、シアンの胸に伝わる。狂気に侵され冷え切っていた彼女の心に激しい後悔と涙が溢れ出した。
自分がやろうとしていたこと。
弟を一人残し、憎悪に身を任せて命を捨てようとしていた愚かさ。
シアンはルカの背中に顔をうずめ、まるで幼子のように声を上げて泣きじゃくった。
「おねえちゃん、泣かないで……泣かないでよぉ……」
ルカもシアンの首に小さな腕を回し、泣きながらその背中を撫でる。
カバルやエレン、フラメアたちが、安堵と切なさが混ざり合った痛々しい眼差しでその光景を見守っていた。
だが――その静寂のただ中で一人の女性だけが静かに一歩、前へ踏み出した。
ルミネだ。
ルミネは抱き合う姉弟の姿をどこまでも優しく、そして絶望的に愛おしい瞳で見つめていた。
その心の中で冷たく澄み切った『覚悟』が完成していく。
(……これで、よかったのよね、シアン)
ルミネは胸の奥で、静かに呟いた。
(魔王リムルに対する憎しみが消えたわけじゃない。お父さんを奪われた傷が癒えることなんて、一生ない。……だけど、あなたには守るべき『未来』がある。もう弟を残して、こんな地獄の復讐に身を投じるなんて、できっこない。それでいい……シアンは、復讐なんて忘れて幸せに生きるべきなの)
ルミネの手が、大剣の柄を血が滲むほど強く握り直す。
(……後は、私に任せて)
彼女の瞳から人間としての哀情が消えていく。代わりに宿ったのは漆黒の虚無と、己の存在すべてを燃やし尽くす狂気の炎。
(あなたの分の憎しみも、悲しみも……すべて私が引き受ける。ハルト……私を待っていて。今、あの男を殺して、あなたの元へ行くから……!)
『たとえ、この身体と心が……人の形を失うことになったとしても――!!』
ッ――!!!!
次の瞬間、ルミネの全身から溢れ出したのは、これまでの比ではない絶大な殺意だった。
《暴食》《強化再生》《魔吸収》そして《闇の魔導書》――4つの外道の権能が彼女の命と魂そのものを燃料として暴走を始める。
肉体がメキメキと異形へ進化し、暴風竜の魔素が禍々しい黒炎となって全身を包み込んだ。
「ルミネ……!? やめなさい、ルミネっ!!」
弟を抱きしめたまま、シアンが青ざめた顔で叫ぶ。しかしルミネは一度も振り返らなかった。
「リムル=テンペストッ!!!」
人の理を完全に捨て去り、純粋な『復讐の魔神』へと変貌を遂げたルミネが空間そのものを踏み砕き、まっすぐにリムルへと飛びかかった。




