一章:幕間1『とある夜の話』
幕間:月灯亭 自室にて
夜。
一日の活動を終えて、寝るまでの時間を過ごすひと時。
イーゼルはしばらく放置していた荷物整理をしながら過ごし、アルシアは本を片手に紅茶を嗜む。
すると、唐突に何かを思い出したかのように、アルシアが席を立つ。
「イーゼルさん、あれ持ってますか?」
「ん? あれって?」
「月光石です。初めて会った日に、光る湖で拾った……」
「あぁ~、あるよ!」
イーゼルは荷物の中から小さいポーチを探し当て、その中から菱形の魔石を取り出した。
「借りても?」
「うん」
アルシアは魔石を受け取ると、さっと窓際のいつもの席に腰を下ろした。
「それ、どうするの?」
「露店を見ていたら、丈夫そうな革紐を見つけたので、加工しようかと思って……」
「ふぅん……?」
イーゼルは興味深そうにアルシアの手元を覗き込む。
アルシアは手慣れた動作で、魔石に革紐を巻き付けていく。
革紐の先を輪状にして余った紐を切る。
「これで……大丈夫ですね」
魔石が滑り落ちないのを確認して、再びイーゼルに手渡した。
「これって……」
「首から下げられるようにしました。まぁ、使うかどうかは任せますが……」
「使う!」
即答したイーゼルの表情がキラキラと輝く。
イーゼルはその場で首から下げて、飾りの位置を調整する。
「どうかな!」
「似合ってますよ」
「えへへっ」
「喜んでもらえて良かったです」
「でも……なんで、首飾りにしようと思ったの?」
「えっと、魔石って本来すぐに使えるようにしておくものなので、アクセサリーとかにしておいた方が、役に立つかもと思いまして……」
「なるほどね。ふふっ、ありがとね、アルシアくん」
「いえ」
イーゼルは相変わらず目を輝かせて、魔石を見つめる。
すると、何かを思い出したようにイーゼルがこちらを向いた。
「そういえばさ。この魔石作ってくれた時に、魔法が使えて魔力が固められれば、誰でも作れるようになるって言ってたよね?」
「言ったような気がしますね」
「あれって、私もできるの?」
「うーん……」
「やっぱ難しい……?」
アルシアは小さく唸りながら悩んだ。
「イーゼルさん、右手借りてもいいですか?」
「右手?」
イーゼルは右手をアルシアの方に伸ばす。
伸ばされた右手の手首に触れて、脈を読むように魔力の流れを読む。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「そう?」
「はい」
「今のは……?」
「イーゼルさんの魔力の流れを読みました」
「どうだった?」
「まぁ……結論から言うと、あまり魔法は向いてなさそうです」
「やっぱり……?」
「自覚するところはあるんですね」
「そりゃぁ……、エルフで初級魔法しか使えないの私ぐらいだったからね。しかも右手でしか使えないから、武器を左に持つのはこれの影響だったり」
「なるほど」
「そっかぁ。魔石作ってみたかったなぁ……」
イーゼルは残念そうではあるが、どこか納得しているような表情をしていた。
「まぁでも、諦めるのは早いかもしれません」
「え……?」
「あくまで僕の見立てではありますが、たぶんイーゼルさんは魔法使えるようになりますよ」
イーゼルの表情は困惑に変わるが、アルシアは構わず続きを語る。
「魔法が苦手な人は、体内の魔力回路が部分的にしかなかったり、回路が細すぎて大量の魔力を扱えなかったりします。でも今の魔力の流れを見た限り、そういう心配はなさそうです。むしろ普通の人より良い回路かもしれません」
「じゃあ、他に原因が?」
「そうですね。魔力回路に問題はないですが、微かに何かを阻害する力を感じました」
「阻害する力……」
「考えられるのは……、なんらかの封印などで制限されているとか……」
「封印か……。思い当たるのはないかな」
「もしくは、自分で制限をかけてるパターンもあるかもしれません」
「自分で?」
「人を手にかける事を躊躇うのと同じく、魔法が発動することを反射的に拒む体質の人も稀に居る、と文献で見たことがあります」
「そうなんだ。そういう人もいるんだね」
「えぇ。まぁどちらにせよ、魔力回路がダメなら、それはもう素質がと言うしかないですが、魔力回路に問題がなければ、後天的に魔法がもっと使えるようになる可能性は十分にあります。原因を解決できれば、魔石を作ることもできるはずです。……というのが今の見解です」
「そっか……」
イーゼルはなんとも言えない表情をしていた。
「大丈夫……ですか?」
余計なことを言っただろうか、アルシアは少し不安になりながらイーゼルの様子を窺う。
「うん、大丈夫。なんていうか……、魔法はもう無理なんだって諦めてたからさ。まだチャンスあるのかな~って思って……」
「ありますよ。まだ希望的観測ではありますけど」
「そう言ってもらえると心強いね。もしもっと魔法が使えるようになったらさ、その時は魔石のつくり方、教えてね」
「……えぇ。機会があれば」




