【07】 ねぇ、二人でぐるぐる回して……
身体が十分に温まったところで、3人は室内プールへと移動した。
爽香「いいウォーミングアップになったわ」
爽香は持参していたヘルメットを被り、カチリと顎紐を締めた。シールドを下げると、声が少しこもって響く。
爽香「第1ターンマークで旋回するとき、先行艇が上げる水しぶきってハンパじゃないの。前なんて一切見えない。でも、その恐怖をねじ伏せて艇と艇の隙間に突っ込んでいかないと、上の着順には行けないのよ」
丹沢「恐怖心との戦い、か……」
爽香「そう。だから次は、プールで転覆の練習をするわ!」
爽香はプールサイドの淵に仁王立ちになった。
爽香「今からあたしがここに立つから、二人で前後左右、いろんな方向から突き落として!」
由利「転覆の練習……本気か?」
爽香「当たり前よ! 転覆を恐れて小さくなったら、一生6着(最下位)なの。事故で命を落とす危険はあるけれど……それを恐れてちゃプロになんてなれない」
丹沢「『命を落とす』の『落とす』は、水に落ちるから来てんのかな?」
爽香「丹沢さん、今そういう雑学いいから!」
爽香の決意は固かった。落水した瞬間のパニックを防ぎ、ヘルメットを装着したままの水中呼吸に身体を慣らす――すべては生き残るための訓練だった。
丹沢「よし、行くぞ!」
響き渡る叫び声と共に、不滅の友情を結んだ三人の、あまりにもシュールなラブホテル密着特訓が幕を開けた――。
丹沢が横合いから全力で体当たりをかました。
ドザァァァン!!
爽香の身体が真横から水面を叩く。激しい水音が響いた。爽香は水中で15秒耐え、ゆっくりと浮上してくる。それを、何度も、何度も繰り返した。体力が削られていくのが目に見えて分かる。
爽香「はぁ、はぁ……ッ。ねぇ、次は……あたしが水面に真っ直ぐ浮かぶから、二人で丸太みたいにぐるぐる回して……最後に沈めて」
由利「それ、どういう意味があるんだ!?」
爽香「落水した時に、上下左右の方向感覚を失わないため! 自分の艇がどこにあるのか、水面がどっちなのか、瞬時に判断できないと死ぬの!」
丹沢「……壮絶だな」
爽香「自分の命は自分で守るの。何が起きても他人のせいにしない。全部、自己責任だから!」
『自己責任』――その重い言葉を残し、爽香はプールへと身を投げた。




