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海

数日後、林田くんが従兄弟の牧野さんに情報共有をしたらしく休みの日の昼間、私が家で一人で食事をしていたらビデオ通話がかかってきた。

彼等は近所に住んでいてよく一緒にいると言っていたが今日は別々のようで牧野さんはカフェのような背景でなんだかざわざわした場所にいるようだが林田くんはソファーに座って少し眠そうにしている様子だった。

「やっぱりあの昔話は関係があったみたいですね。」

牧野さんは見立てが合っていたことに満足そうにしているが林田くんはまたムスッとして不満げだ。彼はしょうがないさんの夫にかなり腹を立てているようで助役たちの話を聞いたあとも「あの夫に天罰が下ってなかったら俺も怨霊になりそうっす。」と怒っていた。

「もう、手立てはないんですかね。」

私がそう言うと牧野さんは「娘か夫と引き合わせられたら良いんですけどね。」と考え込み始めた。

私はその間に前に彼から渡された資料をペラペラと捲っているとつまらなそうにタブレットを触っていた林田くんが「あの、これって娘だったりしないんすかね。」と言ってグループトークにリンクを送ってきた。

リンクを押してサイトに飛ぶと洞窟の怪談で、○○県から近い場所だ。

『明け方になると女の啜り泣きが聞こえる』

『女の金切り声がした』

ネットの情報があるのはこれだけだ。ここからは結構距離があるし私たちに霊を確認する術もない。

牧野さんが「これだけじゃ、わかんないよなあ。」と言うと彼は残念そうにまたタブレットを触り始めた。


しばらく話していたが何も良い案が出ずに通話を終了して私は布団に倒れ込んだ。

最初は好奇心だけだったが今はどうにかしてやりたいと思っている。しかし私たちには何かをしてあげられる力も知識もなく、ただただ途方に暮れるしかない。自分の無力さを感じているうちにいつのまにか私は眠ってしまっていた。


私は夢で小さな村にいた。

上空で烏が羽ばたいている。

後ろから男の声がして振り返るとニヤニヤとした男が「東に行こう。」と話しかけてきた。

強い嫌悪感と焦燥感に襲われている。

気持ち悪い。この男も、この村も。


気がつくと森の中を歩いていた。いや、きつい傾斜を登っている。ここは山だ。目の前をさっきの男が歩いていて時たまニヤついた顔でこちらを確認するように見てくる。

男が崖に立ち「あそこだ。」と笑いかけてきてそちらを見ると同時にゴツッと鈍い音がして視界が暗転した。



ハッと目が覚めると部屋は薄暗くなっていた。

時間を見ると17時46分。1日を無駄にしてしまったことよりもさっき見た夢で感じた嫌悪感がまだ体に残っているようだった。

私の妄想なのか、それとも。



気持ちの悪い夢を見た翌日、私は久々に日勤で、18時に帰る予定だったが出勤すると体調不良で高木さんがいない。

「ごめん佐藤くん、急遽なんだけど今日僕と夜勤やってくれない?高木さんの代わりに。」

佐伯助役に頼まれて仕事や助役が嫌なわけじゃないが高木さんの代わりというのがなんとも癪に触ると思いつつも了承した。


その日の終電間近、助役に変な夢の話をした。

彼は私の話をうんうんと聞いた後に「僕も、たまに変な夢を見るよ。」と言った。

「僕の夢には海が出てくる。そのときの僕は若い女性なんだ。複数人の男に腕を掴まれて荒れた海に引きずられていく。必死に抵抗しても叫んでも波の音が声を掻き消して誰も気付いてくれない。何度も殴られて意識が遠退いて目が覚めるんだ。」

助役の話を聞いて何となく、しょうがないさんの娘のような気がした。

そう思って助役の顔を見ると私の気持ちを察して「だよね。僕もそう思うんだ。でも確かめようがなくて。」と寂しそうに呟いた。


数日後の午前中、私は一人で○○県の○○海岸に来ていた。

何も見つからない可能性が高いので誰も誘わなかったが案の定何もない気持ちの良い海岸だ。

遊泳が出来るエリアの砂浜を一人で歩いて写真を撮っていると同じように一人で写真を撮っている同世代くらいの女性とすれ違う。

そのまますれ違うのはなんだか気まずく感じ、軽く会釈をすると向こうもニコッと微笑んで会釈を返してくれた。


しばらくうろうろしてお腹が空き、早めの昼食をとろうと近くの食堂に入った。

おすすめと書いてある日替わり定食を頼んで待ちながら海岸沿いで撮った写真を見返していると隣に座っている女性に声をかけられた。

「海、お好きなんですか?さっきたくさん写真撮ってましたね。」

先程砂浜ですれ違った女性だ。

「いえ、ちょっと気になることがあって来たんですけど、海沿い歩くのって結構良いですね。」

話を聞くとその女性は海が好きで色々な海を見に行くのが趣味らしい。

ひょっとして、と思い「何か悲しい物語がある海とか逸話が残ってる海岸とか近くにあったりします?」と聞くと女性はうーん、と少し唸って考えた後に「悲しいというか、酷い目にあった過去がある尼の話なら県境の海沿いにありますけど…。」と簡単に内容も教えてくださった。

その後は適当な世間話をして食事を終えてすぐに店を出て海岸沿いのバスを調べると県境までのバスが数分後に来ることが分かり、全速力で走った。明日は筋肉痛かもしれない。


一時間ほどバスで移動して、私は県境の海岸に辿り着いていた。

景色はずっと海で変わらないのに先程よりも見通しが悪いというか、岩や木々に視界が遮られる作りになっていて人気がない。

食堂で聞いた話を思い出しながら写真を撮ってそういえば今日は佐伯助役も休みだったな。と思い出して写真だけ送っておくことにした。

休みの日はいつも家族と出掛けると言っていたし、きっとすぐには既読がつかない。

なんだか冒険しているようで不思議な気分のままふらふらとしめ縄がかかっている大きな岩の裏に回ると目立たない大きさの石碑と石碑にまつわる小話が書いてあった。

『拐われて男たちに乱暴され、この海岸に捨てられた少女が近くの寺の和尚に拾われた。数年修行して身を清めた後に尼になった少女は自分のことをきっと両親はまだ探しているだろうと思ったが故郷に立ち寄ると両親はもうそこにはいなかった。そこで両親は自分のことを捨てたのだと気付いた尼は、再びこの海岸に戻り、即身仏となった。今もなお、尼はこの大岩の下で永遠に平和を祈っていると言われています。』


昼食をとった食堂で女性に聞いた話と同じ内容だ。

念のため写真を撮っておく。ネットで検索をかけるとこの尼が修行したと言われている寺はまだあるらしくここから歩いて20分ほどだった。

寺も行ってみよう。そう思い立って寺を目指して歩く。

15分後、案外早く着いた。しっかり管理されているようで綺麗で大きい。私はこういった建造物には詳しくないが、厳格な雰囲気も感じた。


見渡す限り誰もいない。この寺を管理しているお坊さんなども見当たらず、写真を撮っているとスマホにメッセージが届いた。

「この海だ。僕の夢に出てくるのは。」

尼は、しょうがないさんの娘だ。

佐伯助役の返信を見てそう確信した私は寺を後にした。



同じ道を歩いてバスや電車を乗り継いで帰っている途中、牧野さんと林田くんに今日撮った写真と情報を共有した。

牧野さんから「なんで誘ってくれないんですか。」と拗ねたような返信が来たが寺と尼の詳細を調べてもらえないか頼むと快諾してくれた。林田くんは既読だけで返信はなかった。


もし、母と娘が再開出来る日が来たらどんなにいいだろう。二人の悲しい結末が、数えきれないほどの年月を越えて解決できる日がそう遠くないのかも知れない、

夕暮れになり混んできた帰りの電車内で私は一人、希望を感じていた。

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