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助役の秘密

仕事中、佐々木くんの復職祝いに当直明けに数人で飲みに行こうかと言って朝からやっている飲み屋を近辺で探していると佐伯助役が自分の弟がこの駅の近所で朝から飲める居酒屋を経営していると教えてくれてじゃあそこに行こうという話になった。

お店の予約は助役が直接弟さんに連絡してくれるというので私と林田くんと佐々木くん、そして佐伯助役の4人で翌朝の仕事終わりでお願いした。


翌日の朝9時半、助役以外の3人でお店に向かった。

助役は1時間ほど残業してから合流するらしい。

駅前広場から見える雑居ビルの外階段を下ると居酒屋の入り口があり、ドアには『本日午前中貸し切り』の札がかかっている。

ドアを開けるとまだ20代前半くらいに見える若い女の子が「あ、いらっしゃいませ。ご予約されてますか?」とこちらに出てきた。佐伯助役の紹介で…と伝えると「どうもー。兄がお世話になってますー。弟の貴司(たかし)ですー。あれ、兄ちゃんいないの?」と店の奥からガタイが良い男性が出てきた。助役にあまり似ていないが弟さんなんだろう。

私たちは貴司さんに簡単に自己紹介すると小上がりの座敷に案内してもらった。

すぐに注文したビールが運ばれてきて助役には悪いが先に乾杯させてもらう。

「佐々木くん大丈夫だった?高木さんのこと気にしなくて良いよ。全員にああいう態度の人だからさ。てかあの人空気読めてないんだよな。」

まだ一杯目だというのに林田くんが高木さんの悪口を言い始める。好き放題言えるのは貸し切りの特権だ。


30分ほど経った頃、お店のドアが開き、佐伯助役が入ってきた。

すぐに貴司さんがこれ兄ちゃんの分ね。とビールを運んできて全員揃ったところでもう一度乾杯する。

「助役思ったより早かったすね。」

「なに?皆で僕の悪口言ってた?」

「いや、高木さんの悪口しか言ってません。あと、客。」

「ああ、僕もそれ参加して良い?あの人本当何?昨日もさ…」

早々に林田くんと佐伯助役が意気投合している。この2人は似ていないようで若干空気感が似ていて揃うと面白い。


飲み会開始から1時間強、全員程よく酔っぱらってきた頃、佐々木くんがポツリと「俺、しょうがないさんに話しかけられたんです。」と言った。

談笑していた他の3人が黙ってそちらを見ると彼は話を続けた。

「あの日、高木さんが不機嫌で。嫌だったけど宿舎に行ったんです。シャワーを浴びてから仮眠室に入りました。カーテンも閉まってるししょうがないさんは静かだったので一旦無視して寝たんです。」

3人とも黙って聞いている。カウンターの方をチラッと見ると貴司さんも真面目な顔をして彼の話を聞いている様子だった。

「夜中2時過ぎくらいだったと思います。窓の外から話し声が聞こえて起きました。最初はあまり聞き取れませんでしたが徐々に聞き取れるくらいはっきり「うちのお父さんを知りませんか。」って話しかけてきたんです。その瞬間に頭の中に直接映像が流れ込んできて気がついたら窓を叩き割ってました。」

林田くんが「やっぱりあの話の奥さんなんじゃないですか?」と私に話しかけてくる。

夫婦でお母さんお父さんと呼びあう夫婦は確かにいるが…。


「実は、僕と佐々木くんが見えているものって少し違うんだ。佐々木くんには汚い着物を着た初老の女性に見えてるよね。」

今までしょうがないさんの話はしたがらなかった佐伯助役がしょうがないさんの話をし始めたのが意外だった。変に口を出して話の腰を折らないように私たちは慎重に相槌を打つ。

「あれは、娘を殺されて自分も殺された妻の夫への恨みの具現化なんだよ。僕には大きな烏の胸元に女性の頭が付いた化け物に見えるんだ。佐藤さんと林田くんは話を聞いてる限り、○○県の昔話のこと知ってるね?ろくでもないよあの話の真実は。」

林田くんが「どういうことですか?助役は何を知ってるんですか?」と聞くと貴司さんがカウンターから出てきて

「父親が小銭稼ぎで美人の娘を村の男衆に売ったんだ。娘は強姦された後に隠蔽の為、殺された。それを知った妻は当然狂った。妻を煩わしく思った夫は山に住んでる乞食に金を渡して仙人のふりをさせて烏が言ったと妻を騙し、適当な山の中で殺した。それを知った妻の妹が姉と姪のことを神様が見つけてくださるように、と建てたのがこの駅が出来る前に大雨でなくなった神社。残ってた話の原本は全部流れてしまって何も残ってない。残念ながら神様に助けてもらえずに残ったのはあの化け物ってこと。」と平然と言うので驚いて助役以外の3人で唖然としていると続けて助役が「その神社の最後の神主が僕たちの曾祖父なんだ。」と言った。


その後、助役と貴司さんは私たちに詳しい話をしてくれた。

神社で保管していた手記はないが、しょうがないさんは『烏明道神(からすみょうどうじん)』という名前で元々神社に祀られていたが、神社が倒壊。

小さな祠を建てていたが土地が買収された際に地鎮祭のあとに取り壊され、正しい処置がされてないままあの場所に取り残されているらしい。

「じゃあ、正しい処置ってのをすればいなくなるんですか?」

林田くんが聞くと助役は首を横に振った。

「人の魂を喰らいすぎて駄目だね。どんどん禍々しくなってる。」

「魂?」

「沿線上で人身事故が起きると自分への捧げ物だと思って喰ってるんだよ。」

「あれは全部しょうがないさんが殺してるってことっすか?」

「さすがに全部じゃないよ。前までは確かにたまに自分でホームから落としてたみたいだけど。僕が勤務してからはホームに上れないように貴司に細工してもらった。だから嫌われてるんだけどね。」

どうやら貴司さんはそういった力があるようだ。

このまま大事にならなければ良いと思っていたが年々邪悪になり娘を奪われた恨みが増幅し、宿舎を覗いて夫を探しているということだった。


じゃあ、どうすればいいのだろうか。

当たり前だがその鬼畜な男はもう死んでいるのだから解決はできない。

事実を知ったところでどうしようもないんだと私たちは途方にくれてその日はお開きになった。

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