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探しているもの

それからしばらく経った頃、佐々木くんが謹慎から帰ってきた。

佐伯助役がかなり間に入ってくれたらしく、謹慎以外のお咎めがなかったことは良かったが高木さんはそれが腑に落ちないらしくなんだかグチグチと裏で言っているようだ。

しょうがないさんを感じていない人たちは私たち側を一種の集団催眠にかかっているとかオカルトマニアだと思っていて理解はない。今後佐々木くんが仕事をしづらくならなければ良いのだが。

一方、林田くんは前よりもしょうがないさんに対しての恐怖が薄れたように感じる。前まではしょうがないさんのことを調べることは反対していたように見えたが、最近は積極的にネットに情報がないか探しているようで顔を合わせる度に「佐藤さん、この話どう思います?」と共有してくれる。

佐々木くんには聞くなよと釘を刺しておいたがなんとなく不満そうだったのが気にかかる。

さすがに佐々木くん本人に協力させたりはないとは思うが、異様にのめり込む姿に不安を覚えた。


そして、すぐにその不安は的中した。

その日、終電対応後に改札窓口を閉鎖して佐々木くんと事務所に戻ると焦った様子の佐伯助役に声をかけられた。

「林田くんの部屋の窓に貼りついてるみたい。おかしい。林田くんって見えるんだっけ?」

「いや、聞こえるだけだと思います。」

「おかしい。なんかしたのかな。ごめん。林田くんの部屋確認したいから佐藤くん一緒に来てくれない?僕嫌われてるんだよね。」

「えっ、林田くんに?」

「違うよ。しょうがないさんに。」

林田くんに嫌われているのかと思って一瞬驚いたが違ったようだ。怪異に嫌われているのもよく分からないがそれは置いておいて一緒に確認しに行くことは了承した。


事務所で佐々木くんと別れ、助役と宿舎に入ると今日は一段と暗い雰囲気に感じる。

助役は私を連れて林田くんの部屋の前に来た。偶然にも佐々木くんが窓を割った部屋だ。

助役は小声で「ごめん、ドア越しに林田くんに声かけてくれない?出来れば林田くんにドア開けてもらいたい。」と頼んできた。不思議に思ったが私はドア越しに「林田くん、起きてる?開けてもらっていい?」と声をかけてみる。するとすぐに「起きてますよ。どうぞ。」と中から声がした。

それを聞いて私が開けようとドアノブに手をかけると助役が私の手を掴んでやめさせた。

助役は小声で「一旦事務所に戻るよ。」と行って戸惑う私を連れて宿舎から出て事務所に戻るとすぐ監視カメラのモニターを確認し始めた。

「うん、やっぱり開けなくて正解だった。まずいなあ。」

「どういうことですか?」

そう聞くとやっと彼は状況に着いていけていない私に説明してくれた。


「割れた窓に頭突っ込んでたから嫌な予感がしてたんだけど一回通れた空間は仕切りがあっても通れるようになるっぽいね。霊道が通るってこういう感じなのかな?今まで入ってこなかったところを見ると中から何かアクションを起こす必要があると思うけど。」

「仮眠室にしょうがないさんが入ってきたってことですか?なんで?」

「いや、まだ全身入ってないから林田くんが話しかけた…とか?」

確かに最近の彼のしょうがないさんに対する気持ちは恐怖よりも同情に近いものがあった。かといって何故。

「でもさっき林田くん普通に起きて喋ってましたよね?別に大丈夫なんじゃないですか?」

「あれは林田くんの声じゃなかったよ。」

そう聞いて鳥肌が立つ。私には林田くんが話す声にしっかり聞こえていたからだ。

「だから僕は嫌われてるんだ。どんなに”あれ”が真似ても僕には効かないからね。」

詳しく聞くとどうやら普段私たちにはしょうがないさんの声は低いしゃがれ声に聞こえているがそもそもそれが彼にはそう聞こえておらず彼には一貫して中年女性の声に聞こえるということだった。

「さっきのは、林田くんの声を真似てるしょうがないさんってことですか?」

「そう。僕が話しかけると黙るから駄目なんだ。説明しなくてごめんね。今から怪異と話してもらいますって宣言するのもなんか違う気がして。」

「勘弁してください…。というかじゃあ林田くんは今どうなってるんですか?助けないと。」

部屋の中が見えない為、今の林田くんの様子がわからなくて焦る私に助役は一旦夜明けまで待とうと提案した。

彼が言うには、窓が割れていた時は夜通し嬉しそうに何度も頭を出し入れしていたが朝が来るとそれを止め、線路脇に戻っていたそうだ。

もし同じパターンなら太陽さえ出れば林田くんは解放されるのではないかと、そう思ったらしい。

しばらく事務所にいたが「心配なのは分かるけど僕が監視カメラ見ておくから佐藤くんは寝な。」と言われ私は宿舎で仮眠を取ることにした。

宿舎は佐伯助役と入ったときと変わらずいつもより何か寒いような暗いような、変な雰囲気だった。


5時、本来ならもう少し遅く起きても大丈夫だが林田くんが心配で早めに起床して事務所に向かうと佐伯助役が眠そうにしていた。

「おはよう。林田くんもう起きてきて改札にいるよ。詳しいことは彼に聞きな。」

ひとまず仕事が出来る状態ということで安心した。

急いで改札窓口の休憩室に行って林田くんに挨拶すると凄い勢いで話し始めた。

「佐藤さん!!なんで助けてくんないんですか!」

「助役が一旦待てって…。というよりも林田くんがしょうがないさんに何したの?」

「…話しかけたんす。そこにいるのかって、娘を探してるのかって。」

意外にも大胆なことをしていて本当に驚く。

その話しかけた瞬間から4時頃まで金縛りになって動けなかったということだった。

「佐伯助役にもうあれに話しかけるなって怒られました。俺の声真似して佐藤さんと喋ったの聞こえて本当に怖かったっす。もう二度としません…。」

解放されてよかった。そう伝えると彼は少し寂しそうな顔をした。どうしたのかと問うと林田くんは「やっぱりしょうがないさんって娘を探す夫婦に関係あるんじゃないですかね。」と言う。何故そう思うのか私は彼に問いかける。

すると、彼はこう答えた。

「だって、俺が話しかける前に言ってたんです。」



「『烏はどこ行った』って。」


もし、”あれ”があの話の娘を亡くした母親だとしたら、

どれだけ長い年月あの場所で娘や烏のことを探して彷徨っているのだろうか。私はそれを聞いて恐怖よりも切なさを感じた。

いつか、報われる日が来てほしいとそう思ってしまった。

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