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牧野さんに寺のことを調べてもらっている間にもう夏が終わろうとしている。

まだ暑さが弱い梅雨前の過ごしやすい時期に行ったというのに風が心地よく乾いた空気に変わるほど秋の表情が出てきても未だ解決していないのは牧野さんが怪談を生業にしている為だ。

「夏は稼ぎ時なので」とほとんど連絡は来ない。

林田くんも毎年夏になると彼とは連絡が取りづらいとボヤいていたがたまに進捗が来てちゃんと調べてくれていることが分かって安心した。ありがたいことにあのお寺はオカルト界隈では結構有名なお寺らしく、誰もが知っているような有名人が怪談イベントを行ったこともありもしかすると彼の知り合いがお寺に話を通してくれるかもしれないと最後に連絡が来たとき言っていた。

そろそろ夏が終わる。きっと良い方向に事が動く。そう信じていた。


その日、涼しい朝の改札窓口に私は立っていた。

しょうがないさんも昨日は騒がしかったが「しょうがない」は言っていない。今日は何事もな定時を迎えられる可能性が比較的高い。気持ちの良い朝だ。そう思っていると電車がホームについたのか改札に降車したお客様たちが流れてきた。その流れから外れてこちらに一人向かって来るのが視界の端に見えてそちらに目を向けるとそれは牧野さんだった。私と目があった彼は焦った表情で駆け寄ってくる。

「佐藤さん、すみませんさっきメッセージ入れたんですけど既読つかないから来ました。ちょっとマズいことになったかもしれません。初めて会った時のカフェで待っています。優樹も呼んでます。」

気持ちの良い朝、一瞬で私は不安に包まれた。


定時になり急いで着替えを済ませて駅を後にする。外に出ると改札で感じていた日陰の涼しさはなく強い日差しに触れた肌がすぐに熱くなるのを感じた。

小走りでカフェに着くと窓際の席に牧野さんと林田くんが座っているのが見え、合流する。私が席に着くと今日休みだった林田くんは眠そうにも機嫌が悪そうにも見える顔をして牧野さんの肩を小突いて話すように促す。

促された牧野さんはこちらにスマホを向けて動画を見せてきた。

画面に見覚えのある砂浜。

岩の前にいる若者が「今日はこの下に埋まってる即身仏を出します。」と言うと岩の横を大きなスコップで掘り始める、という動画だった。

映像を見て絶句していると牧野さんは動画を止めた。

「迷惑系ってやつです。昨日の深夜に配信されたものですぐに視聴者が通報してくれて1m程掘ったところで警察が到着して即身仏は出ませんでしたが管理しているお寺が凄く怒っていて一切の取材や相談を断る、この海岸も一般公開を今後しないと昨日の夜にコメントを出しました。」

「じゃあ、もうこの件は調べるのが難しいってこと?」

そう聞くと彼は残念そうに頷いて俯いた。

どうしたものかと私も黙る。するとしばらく牧野さんの隣で話を聞いているのかいないのか分からない態度で不貞腐れたように座っていた林田くんが自分のスマホを見てから店内の入り口の方を見て手を挙げる。

振り返ると佐伯助役がこちらに向かって軽く手を挙げながら向かってきていた。

「助役、当直明けで来てもらってすみません。」

「いいよ。動画見たけどあれは怒って当然だよね。お寺も尼さんも。あ、はじめまして、佐伯です。」

助役は林田くんと会話しながら牧野さんに挨拶して私の横に座った。林田くんはさっきまでのつまらなそうな態度から一変して弾んだ声で話しを始めた。

「俺、もしこれで岩の下に”いる”なら助役には怒ってるの見えるんじゃないかなって思ったんすよね。」

確かに。霊感のない私たちにはこの動画はただの迷惑行為でしかないがしょうがないさんのことをはっきりと視認して恨みを感じ取れる助役や弟の貴司さんには私たちには見えないものが見える可能性が高い。

期待して助役の顔を見つめると「僕はこの動画には何も見えなかったよ。」と言った。なんだ、と少し落胆すると彼は「そんなあからさまにがっかりしないでよ。この動画にはなにも感じないってだけ。」と意味深なことを言いながらテーブルの呼び出しボタンを押して店員を呼び、アイスティーを注文してから彼はそのまま話を続けた。

「この後の動画は皆見た?今日の早朝にこの配信者が謝罪しにお寺に行って追い返されるやつ。アーカイブがさっき出たよ。」

すぐに牧野さんがスマホで配信者の最新動画を表示して4人で画面を見つめる。

配信者がお寺の入り口で大声を出して謝罪の言葉を叫んでいる。反省は見られない不愉快な映像だ。

「流石迷惑系って感じだよね。」

「なんだろう。既視感ありますね。」

こういった頭のネジが数本飛んだような人間は時たま駅に理不尽なクレーマーとして現れる為、多少は見慣れているからか助役と林田くんは平然としているが牧田さんは心底不愉快そうに顔をしかめていて全員が同じ動画を見ているように見えないのがなんとも不思議な光景だ。

動画の中でしばらく配信者が叫んでいると寺の門が開いて中からいかにも威厳ある和尚、といった服装をした50代くらいの男性が現れて「お引き取りください。」と言ったところで助役が「ここ、この人の後ろにうっすら尼さんがいる。」と画面を指差すが当然私たちにはなにも見えない。

彼が言うにはこの男性の後ろにいるらしく「お引き取りください。」と言った声に女性の声が重なっているようにも聞こえるということだった。

その後、警察が来て配信者が注意を受けて動画は終わった。

「尼はいるけどあの岩の下には埋まってなさそうだね。ああやって即身仏にイタズラされないようにするためのフェイクなんじゃないかな。でもあんまりはっきり見えなかったしお寺の敷地内にはいなそうだな。近くに何か形見とかがあるだけかも。」

テーブルに届けられたアイスティーを飲みながら彼はそう言うと林田くんが「形見があるとしたら、どうにか借りられないですかね。」と無茶なことを言い出す。今の状況では確実に無理だろう、と言うとそうっすよね、と残念そうに目を伏せた。

牧田さんに目をやると一心不乱に何かメモをとっている。旅行の時もこれをやっていたな、そう思ってなんとなく見ていると急に書くのをやめて「ちょっと考えがあるので佐伯さん、この後お時間大丈夫ですか?」と助役に問いかけた。助役がいいよ。と返事一つで了承するとその場で助役を連れて店を先に出ていった。

私と林田くんと顔を見合わせて困惑しながら急いで会計を済ませて外に出るともう2人はいなくなっていて牧野さんに何度か連絡を入れたが返答がなかったため、仕方がなく解散となった。



その日の夕方、自宅でシャワーを浴びて浴室を出てスマホを確認すると10分前に牧野さんから着信があったことに気づいた。

急いでTシャツを着て髪を乾かしながら「どうしました?」とメッセージを送ると今度は佐伯助役から電話が入った。

「はい、佐藤です。」

「あ、佐伯ですー。ごめんねー当直明けなのに電話して。」

「大丈夫です。まだ牧野さんと一緒ですか?」

「うん。佐藤くんごめんなんだけど明日の休みは予定ある?」

「特にないですけどどうしました?」

「昼前に駅に来てほしいんだ。お寺に話つけてきたから、明日住職さんが来てくれるって。」

牧野さんと佐伯助役はあのまま寺に行って住職に話をどうにか聞いてもらったということらしい。真偽を確かめる為に住職自ら駅に来て確認がしたい、実際に宿舎に寝泊まりしている駅員でしょうがないさんの声が聞こえている人もいた方がいいかもしれないと考えて念のため私が待機することになった。

「佐々木くんとか見えてる人の方がいいんじゃないですか?」

「いや、佐々木くんはもう見せない方がいい。実害出てる人に頼めることじゃないから。じゃあ、申し訳ないけどお願いね。じゃあねーおやすみ。」


軽く挨拶をして助役との通話が終わった。思ってもいなかった急展開に驚きながらも明日なにかが変わるかもしれないという期待が強く、私は年甲斐もなく久しぶりに明日が楽しみな気持ちになっていた。

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