真相を追う仲間
スマホの着信音で目が覚めた。
辺りはすっかり暗くなっていて寝過ぎてしまったな、と思いながらスマホの画面を見ると林田くんからの電話だった。
彼とは普段仕事以外で交流することはほぼないが一応連絡先だけは交換していたことを今思い出した。
「はいもしもし。」
「お疲れさまですー。あれ、佐藤さんもう寝てました?すみません。」
そう言われて時間を見ると20時15分。本当に思っていたよりしっかり寝てしまっていたようだ。
「大丈夫。それよりどうしたの。珍しいね。」
「今、従兄弟が家に来てるんですけどしょうがないさんのことめっちゃ気になるみたいで。佐藤さん調べようとしてたしなんか分かったかなーって。すみません。電話しちゃいました。」
林田くんはなんだかいつもより陽気な口調で喋っている。きっとお酒を飲んでいて衝動的に私に電話をかけたんだろう。
「あの後、一人で図書館に行ってみたけどあんまり収穫はなかったよ。おばけ好きな人?」
「うーん、そういうのを調べて話してる人?です。」
彼は電話の向こうで従兄弟さんに何も分かってないってー、と伝えている。
「なんか、従兄弟が佐藤さんと話したいって言ってるんですけど代わってもいいですか?」
「えっ?いいけど…。」
理由は分からないが林田くんの従兄弟と話をすることになった。彼は、いや、彼らはおそらく相当酒に酔っているに違いない。
「もしもし、優樹がいつもお世話になっております。従兄弟の牧田圭吾です。」
思っていたより落ち着いた声で電話口に出てきて驚く。こんな状況になるくらいだからもっと泥酔しているかと思ったが聞いている限りは全く酔っていなそうな、しっかりした声だ。声を聞く限りは私と大して歳も変わらなそうで、30代前半から半ばくらいだろうか。
「こちらこそお世話になってます。佐藤昂です。」
そう返すと牧田さんは一拍置いて本題なのですが、と話を始めた。
「しょうがないさんのこと、僕も一緒に調べてもいいでしょうか?」
「えっ、それはなぜ…。」
「私、動画投稿サイトやイベントで怪談を話すことを副業でやっていまして。」
なるほど、話のネタになるから実際に起きている怪奇現象に興味があるのだろう。
「いいですけど、部外者は宿舎や線路内には入れないので現地調査はできませんよ。」
「分かってます。現地は佐藤さんと優樹にお願いしてもいいですか?僕は他で情報を集めて共有します。どうですか?必要なら知り合いに霊媒師もいますよ。結構インチキっぽいですけど。」
電話の向こうから林田くんの「俺やだよ二人でやってよーー」と嫌がる声が聞こえてくる。
一人で情報を集めるのは正直限界を感じていたし私も完全に興味本位で調べている。
「…もしどこかで話したり、調査する時に会社名とか駅名、社員の個人名を公開しないと約束していただけるなら。」
「もちろん。お約束します。じゃあ明後日の朝、佐藤さんの仕事が終わる時間に駅前のカフェで待ってます。優樹に代わります。」
と嬉しそうに林田くんに電話を代わった。
「俺、いやっすよ…。佐藤さん…。」
「林田くん意外に怖がりだもんね。」
「慎重なんです。じゃあ電話切りますね。ありがとうございました。」
林田くんとの通話が切れて結構とんでもない約束をしてしまったと少々後悔するがこのまま自分だけで調べて何も分からないより、誰かと協力して冒険している感じがあって楽しそうだ。
怪異への恐怖よりも好奇心が、どんどん侵食されていくのを、感じた。
翌々日の朝、私は仕事が終わって駅前のカフェに向かっていた。
宿舎の現状は変わらず、気にならない者は宿舎を利用している状態で数人の声が聞こえる職員は休憩室に避難して仮眠をとっていた。
窓を修理する業者が午後に来るらしいが業者の方が何も感じない人であることを願うしかない。
カフェに到着して辺りを見渡すと窓際に座っている男性がこちらに向かって手を挙げた。昨日今日は休みの林田くんも男性の隣に座っている。
近づくと林田くんが「従兄弟です。」と嫌そうに紹介してくれた後、男性は立ち上がって「牧田です。来てくださってありがとうございます。」と私に向かって言った。
座ってコーヒーと軽食を注文すると牧田さんが話し始めた。
「で、しょうがないさんのことなんですけど、昨晩はどうでした?」
「昨日も前回と変わらずでした。見える助役がいなかったので詳しい様子は分かりませんが。」
そう私が答えると机の上にA4用紙が10枚程度重なっていて左上にホチキス留めがされた、如何にも「資料」といったものを出した。
「一応、それっぽいものを何個か調べてきました。詳しいことはあまり分かりませんでしたが、神社のことも少し書いてありますよ。」
「どうやって調べたんですか?」
「主にネットですね。後は仲間内でこの地域の怪談とか妖怪とか何か面白い話がないか聞いてみました。」
資料を開いて神社についての記載を見てみるとそこには『神社の話』と書かれている。
「確定じゃないんですけど、この地域の昔話に神社が出てくるんです。チラッと出てくるだけだからこれかも?くらいの情報ですけどね。一応次のページにあります。」
ページを捲って確認すると台詞らしきものが書かれている。
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ここの鳥居にいつも鳥がぎょうさんとまってる。
悪人くぐると糞落とす。
善人くぐると金が降る。
群れの長は大きな烏。
神主の声真似て、賽銭泥棒追い払う。
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「これだけ?」
「これだけです。」
期待したけれどあまりにも内容がない。
一旦神社以外の情報を見るためにページを捲ると一体の小さな地蔵の写真が出てきた。
説明を読むとどうやらこれは駅からは離れているが同じ市内にある山道の途中にあるものらしい。
「ここは近くに崖があるんですけど昔から自殺がかなり多い場所なんです。関係あるのかは分からないですけど念のため市内にあるこういう類いのものは纏めてあります。」
なるほど。ひとつひとつ真剣に見るより何となく気になるものから見ていこう。そう思いパラパラと紙を捲りながら私は牧田さんに「この中で牧田さんが気になる情報はありましたか?」と問うと彼は資料の5枚目を私に見せてきた。
そこには『烏の大予言』と書かれている。
「これは隣の市なんですけど烏が大きな地震を予言して村の娘を救った話なんです。」
「なんか良い烏の話多いですね。」
二人でそう話していると牧田さんの隣に座ってつまらなそうにしていた林田くんが急に会話に入ってくる。
「その良い烏と”あいつ”はどう考えても関係ないでしょ。」
「でも優樹、しょうがないさんも予言をするだろ。」
「あれは予言じゃないだろ!絶対あいつが殺してるよ!」
となにやら従兄弟同士で揉めている。
確かに「しょうがない」と言った日に事故が起きるところは予言にも思える部分でもある。
しかしその烏と違うのは予言するだけで事故を防がないという部分だ。
しょうがないさんが烏側だと仮定すると事故を起こしている原因が別物の可能性があると考えることも出来るのだ。
ただ、末田さんが証言している「女」という点が烏とは全く異なる。
黙ってぐるぐると考えていると林田くんが「圭吾!佐藤さん眠そうじゃん!もう今日は解散しようよ!すみません本当!」と私が睡魔に襲われていると勘違いして気を遣ってくれた。
ひとまずその場は連絡先だけ交換して解散したが、
仲間は増えたけれど真相に辿り着けるのか、少し不安になりながら電車に揺られて帰った。




