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7.バトルな鉛筆



 始業式から少し経ち6月。

 クラスの雰囲気が落ち着いて来た頃、休み時間に巴に髪を弄られながら、チラリと教室の隅を見る。

 春樹と青葉と他男子数名が、机の上で鉛筆を転がして何やら騒いでいた。

 鉛筆に書いてある文言でバトルするあれだ。


 (なっつかし〜、そういやこの頃めっちゃ流行ってたなぁ)


 「ひなちゃん、アレ気になるの?」


 「いんや、男子はああいうの好きやなぁって思って。ほいでも、いっちーはああいうの好きそうやな」


 「ふっふっふ…よくぞ聞いてくれました!見てください、私の子供たちを!」


 筆箱をひっくり返すとバラバラーっとバトルな鉛筆がたくさん出て来た。

 というより、他の筆記用具が何も入っていないのだが…

 専用の筆箱なのだろうか?そうであって欲しい。


 「うわっ、でっかいヤツもあるやんか!キャップまで!?いくら金かけたんや!」


 「私、親戚多いので」


 「いっかちんお年玉使って何買ってんのさ…」


 「おっ?女子もバトルできるの?一緒にやろうぜ!」


 一部の男子が、こちらに気づいてバトルを仕掛けてくる。

 こうなってしまえば、男女の壁などあってないようなものであり、一華は目を見開いて一本の鉛筆をチョイスした。


 「道具、有り無し、いかがいたしましょう」


 「いや、俺たち鉛筆しか持ってねーよ」


 「失礼、いざっ!!」


 「ともちゃん、トイレ一緒にいこっ」


 「そだね、あ、次の授業、私音読しなきゃ」


 白熱する一華を置いて、2人でトイレに行く。

 一華は見た目はフワッとしていて可愛らしいが、趣味は男の子っぽいところがある。

 プラモデルが好きだったり、男の子に混ざってドッヂボールをやったりもしてる。

 最近の日向はというと、2人にヘアピンを褒められると嬉しいので、せっせとヘアピンを集めている。



————————————



 放課後


 HRが終わり帰り支度をしていると一華が何やら焦ったような顔で何かを探している。


 「あ、あれぇ、どこいったんだろ…」


 「いっかちんどしたの?」


 「大っきい鉛筆が見当たらなくて…さっきの休み時間使ってないんですけど……」


 「んん〜、どっか紛れてるんちゃうか?ランドセルひっくり返してみよ」


 一華の持ち物を全て確認してみたが、目当ての鉛筆は出てこなかった。

 考えたくはないが、そういうことかもしれない。


 「……ちょっと悲しいです」


 「いっかちん、大丈夫だよ、明日皆んなに言ってみよ」


 「はい……弟と共有してるから、帰って謝らなきゃ…」


 とぼとぼと歩く一華を見送り、校門を出て少し歩くと春樹が待っていた。

 

 「どうした?ちょっと時間かかってたじゃん」


 「いやぁ〜、一華のな、あの魔王のでっかい鉛筆あったやろ?あれな、どうも誰かが盗ったかもなんよ」


 「うそ、そっかぁ、男子同士でもあるよ、ゲーム盗んだりする奴もいるし」


 「あぁ、山下やろ?アイツ手癖悪いんで有名やで」


 前世でアイツに何本のゲームをパクられたことか、RPGのセーブデータが勇者ヤマシタにされて帰ってきた時は、中庭に呼び出してぶん殴った覚えがある。


 「そうそう、手癖以外は普通の奴なんだけどなぁ…でも他の人も盗んでる奴はいると思う」


 「まぁなぁ、鉛筆ゆうても結構値段もするし……小学生やったら魔が刺す奴もおるわな…」


 「俺はやらないぞ?」


 「もしお前が人のもん盗ったら、女装させて登校さすからな」


 「恐ろしいこと考えるやがる…」


 それはそれで、見てみたい気もする…

 

 「今度の休みさ、一緒に服見にいかん?」


 「この流れで行くわけないだろ!」



————————————



 翌日


 教室に入ると、どよーんとした面持ちで一華が教室にいた。

 隣では巴が困ったような顔でオロオロしており、こちらを見つけると助けを求めてきたので、小さく挨拶を交わし声をかけた。


 「あー、いっちー?元気出しぃな。一緒に探すからさ」


 「弟に話したら…お姉ちゃん嫌いって…き、キライって……へ、へへへ……」


 「いっかちん落ち着いて!盗んだ奴はとっちめてやろうよ!!」


 「いや、盗まれたって決まったワケじゃないねんけどな?でもまぁ、色々聞いて回ってみよか」


 その日は休み時間を使って、男子に話を聞いてみた。

 昼休み、昨日一華と遊んでいた男子達にも話を伺ったところ、皆一様に知らないと言い教室を出ていった、日向はなんとなく心当たりがあった。


 「うーん、出てこないねぇ、間違えて持って帰るような大きさじゃないし...誰か隠してるのかなぁ?」


 「買い直すのは悔しいなぁ…あのセット、千円ぐらいするんですよ?なんかムカついてきました!」


 「……」


 「ひなちゃん、どしたの?なんか思いついた?」


 「…ん、まぁ、ちょっと隣のクラス行ってくるわ」


 「ひーちゃん、危ない事は、しないでくださいね?先生にも言ってみますので」


 心配そうにこちらを見る2人を教室に帰らせ、1人旧校舎の方へ歩いていく。

 物置と化した教室を抜けた先に少し空いたスペースがあり、そこは男子の溜まり場となっているのだ。

 何人かの男子がいるのを確認し、物陰から聞き耳を立てると、クラスメイトのようだ。


 「——そういや藤宮達、聞いて回ってたぞ。先生に言われたらダルくない?」


 「バレないでしょ、あ、でも持ち物検査されたら見つかるかも」


 「…あっ、もう昼休み終わりか、とりあえずここに隠しとくな」


 そして、昼休みの予鈴が鳴り男子が教室に帰っていくのを見計らい、例のブツを回収した。


 「男子ってアホやったんやなぁ、そういや結局だれが盗ったんやろか…」


 これにて一件落着と、上機嫌で教室に帰ろうとすると、振り向きざまに腕を掴まれた。

 びっくりして顔を上げると、青葉健人が余裕のない表情でこちらを見下ろしていた。

 

 「な、なんやお前、あー、お前やったんか?盗ったん」


 「そ、それ返せよ…」


 「あほか、これはいっちーのや、てか離せや」


 「返せ!!」


 ぐいっと腕を引っ張られると、体格差があり過ぎて簡単に体勢を崩して倒されてしまった。


 「痛った……お前、なんやねん!今更取り返しても担任にチクって終いやぞ!大人しく返せや!」


 青葉は明らかに動揺した様子で手元を見ていた。

 そして、ハッとした顔をしたと思ったら、鉛筆を膝で折り、校舎裏にある森へ投げてしまった。


 「あっ…」


 「ははっ…これでバレねぇよ」


 日向はさぁっと血の気が引いた。

 一華になんて言おうか、悲しむ顔が目に浮かんでしまい、気がついた時には思い切り拳を振り抜いていた。

 そのまま掴み掛かり押し倒そうとするが、逆に壁に叩きつけられる。

 少女として生まれて初めての喧嘩は、取っ組み合いとなった。


 「一華に謝れや!お前みたいなボケが!泣かしてええ奴ちゃうねん!!」


 「このっ、やめろって!!」


 青葉が日向を振り解こうとした手が頬に当たり、鈍い大きな音を立てる。

 口の端を切ったのか、拭った手にうっすら血が伸びた。

 痛い、喧嘩なんてするつもり無かったのに、何でこんな事してるのだろうか。

 体も小さくなって、もう男じゃ無いのに。


 「お前、絶対謝らしたるからなぁ…」


 「健人!!お前なにやってんだよ!!」


 立ち上がって青葉を睨み付けていると、廊下の方から春樹が青葉に掴みかかった。

 今度は2人が揉みくちゃになって、激しい争いになった。

 

 「ハル!あかんって!何でお前まで喧嘩すんねん!」


 「殴られたんだろ!?俺が代わりにぶん殴ってやるよ!!」


 そこへ教師がぞろぞろと来て、暴れる2人を数人で抑えた。

 後から一華と巴も到着したので2人が呼んだのだろう。

 春樹は口の中を切ったのか、教師に渡されたハンカチで口元を押さえていた。

 

 「だ、大丈夫か?ごめん…どうやってここ

……」


 「2人とも、デッカい声出してんだもん。教室まで聞こえてたんだよ…」


 「ごめん…」


 「いいよ、謝らなくて。ひなは?大丈夫か?」


 「うん…でも、ごめん……」


 自分の先走った行動により友人が怪我をしてしまったことを申し訳なく思い、顔を俯かせてしまう。

 大人だから、自分は大人だから上手く出来ると、取るに足らない事だと、高を括った行動の結果がこれだ。

 あちこちぶつけて、殴られた頬に今更になって顔をしかめた。




流行ったよね。魔王の鉛筆持ってました。


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