5.優しいトラウマ
昨日は家に帰ると、春樹が体調が悪いと電話を入れてくれたみたいで、母に心配をかけてしまった。
本当にアイツは小学3年生なのか?
自分の小学3年生のときなぞ、傘を振り回して棒でウンコをつついていた記憶しかないが……
「ともちゃん…昨日、ごめんな…」
「ひなちゃん!昨日大丈夫だった!?顔色悪くてびっくりしたよ!いっかちんも心配してたよ…」
翌日、巴に昨日のことを謝罪した。
転校初日から随分と気にかけてくれたのに、アレでは気分を害してしまったかもしれないと思ったが、心配してくれていた。
「う、うん…あの後な、ハルに途中まで送ってもろたんよ。心配かけてごめん。」
「そっかぁ、体調悪かったら言ってね!私保険係だから、保健室まで一緒に行くよ!」
「ありがとう、もう大丈夫やで!」
「それにしても一ノ瀬君かぁ、2人とも仲良いよね?もしかしてぇ…一目惚れとか…」
「女の子はすーぐそうやって恋愛に結びつける!ハルは友達やって!ご近所さん!」
「ひなちゃんも女の子でしょ!こんなに可愛いのに、髪の毛ちゃんとしようよ!」
そう言うと、巴は適当に束ねているだけの日向の髪をほどいて、三つ編みを作り出した。
前世の知識もあり、服はある程度整った格好を出来るのだが、髪型に関してはいつも適当である。
「昨日ねー、帰ってからひなちゃんの為にヘアアレンジの本読んで練習したんだよ?褒めていいんだよ?」
「偉い偉い、ほいで、読書感想文はどないなったんや?」
「ヘアアレンジの本で書いた!」
「そんなんでええんか...てか、よう原稿用紙埋めれたな」
「ひなちゃんのこと書いておいたよ!先生笑ってた!」
「ふふっ、ともちゃんはカワイイなぁ」
「ひなちゃんの方が可愛いよ!」
周りから見たら、女の子が2人で髪の毛を結いながら笑い合っているという女子特有の空間になっている。
(結構ウチ、ちゃんと女の子できてるんちゃう?)
「できたー!どう?」
手鏡を渡され、完成形を確認する。
いわゆる普通の三つ編みおさげなのだが、急に女の子らしい髪型になったのと、可愛くしてくれた事が嬉しくて気恥ずくなってしまった。
「可愛くなったでしょ!三つ編み練習したの!」
「う、うん……ありがと…」
「一ノ瀬くーん!ひなちゃんの髪型どうー?」
「うぇっ、あほあほ!呼ばんといて!」
巴が、離れたところで本を読んでいた春樹を呼んだ。
「ひながどうしたの?」
「じゃじゃーん!可愛くなったひなちゃんです!どう!?」
「えっ…うん……まあ、可愛いんじゃない……?」
「私の自信作ですからね!」
「見やんといてぇやぁ……こんなもん照れるに決まってるやろぉ……ハルも答えんでええねん!」
日向は、春樹にも褒められてますます顔が真っ赤になり、机に突っ伏してしまった。
(恥ずかしいわぁ…女の子ってこんな感じなんかぁ…)
その後も、前髪を手で直しては恥ずかしくなり両手で顔を覆っでは巴にニヤニヤされたり、授業の合間のトイレで鏡をみてドキドキしながら髪の毛をイジったりしていた。
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昼休み
日向は隣のクラスを覗いていた。
昨日のことがあり、正直なところ一華に話しかける勇気が出ない。
第一印象は最悪、もしかしたら話しかけて更に嫌われる可能性だってあるのだが、何もしないワケにもいかないので、ちらちらと様子を伺っていた。
しかし、目当ての人物は居なかった。
(まぁ昼休みやしなぁ、どっかで遊んでるんか?)
「あのぉ…」
「わひゃっ!」
背後から一華に声をかけられ、飛び上がる。
いきなりの事に驚き、ファイティングポーズを取ってしまった。
「あ、あのっ、これは…」
「ふっふっふ…」
芝居掛かった笑い方をした後、すぅっと向こうもファイティングポーズを取った。奇しくも同じ構えだ。
「倒しに来たワケですね、ともちんの親友の座をかけて」
「えっと、ちゃうんよ…昨日の…」
「問答無用!とうっ!」
ノロノロとした動きで一華がチョップを繰り出してきた。
一応、本人としては全力で攻撃しにかかってきている。
落ちてきた手刀の外側に体を滑り込ませ、相手の動きを利用しつつ背後に回る。
そのままガラ空きの首元に腕を回し、自分のトラウマとなった人物に、チョークスリーパーをかけた。
「ぐぇぇえっ!!くるしっ!ギブギブ!」
「藤宮さん…昨日な…ウチ変な態度取ってもーたよな……」
「おえっ、うぅ……」
「ほんまにごめん…都合のいい話かもしれんねんけど……ウチ藤宮さんとも仲良くしたいねん!あかん…かなぁ……?」
「…………」
「そうやんなぁ……ウチ、勝手な事言ってるよな……でもな、友達になりたいってのはホンマなんよ……」
「ひな、藤宮死んでるぞ」
「おっ?ほんまや」
ぱっと腕を解くとそのまま前のめりに倒れていった。
そういえば巴が保健係だったなぁと思っているとガバッと起き上がって服をパタパタとはたいている。
「ともちんのこと……よろしくね……」
そのまま目に涙を浮かべて走り去っていった。
そのポケットからころんと目薬が落ちたのを見て、そういえばこういうごっこ遊びを一緒にしてるうちに仲良くなったんだったなぁと思い出した。
「息ピッタリだったじゃん」
「まぁ、流れに身をまかせて…」
「仲良く出来そうで良かったな」
「うん…ほんまに……」
色々悩んだが、今のは一華なりの挨拶みたいな物なのだろう。
ああやって一華が歩み寄ってくれたのだ。
ならば、こちらが変な態度でいてはいけないだろう。
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放課後
「ともちん!夏野さん!寄り道して帰りましょー!」
「……」
「ほぇー!いっかちん!いつの間にひなちゃんと仲良くなったの!?」
「ふっ…!敵の敵は味方!」
「ちょっと意味がわかんないよ!?」
わーわー騒ぎながら下駄箱へ向かう。
初日の謎を残しつつも、こうして仲良くなれた事と、一華の優しさに感謝した。
「てかさてかさ!夏野さんって呼び方はどうなのよ!友達にしては普通すぎじゃないかなぁ?」
「やっぱりそうですか?じゃあ…ひなちゃん?」
「ぶっぶー!ひなちゃんは私が使ってるからバリア張ってます!」
「なんやねんバリアって、呼び方にバリアって張れるんか?鬼ごっこでしか使った事ないわ」
「そうですねー、じゃあー"ひーちゃん"ね!」
前世では普通に「日向」と呼び捨てだったが、女の子同士だと距離感が違うのだろうか。
胸がチクリ痛む、前世で見捨ててしまった一華が、まだ元気でいる。
今度は間違えないと誓ったのだ。
2人の手をぎゅっと握って歩き出す。
「…ウチ、2人と、もっと仲良くなりたいわ」
「うん!仲良しにバリア張る!」
「それは仲良くなれるの?なれないの?」
近所の公園横の駄菓子屋への道、2人の手を引っ張りながら、まだ夏の終わりを感じさせない雲の下歩いていく。




