31.幸せな学校生活は
今回から中学生編です!
頑張って書きますわぁ!
まだシワのついてない少し緑がかったブレザーに袖を通しネクタイを調整する
姿見に映る制服姿はいまだに見慣れず、普段着を着ているのとはまた違った女の子らしさがある。
どこからどう見ても女子中学生の自分を見て気恥ずかしさを感じつつも、嬉しい思いを隠しきれずにくるりとその場で回る。
「うっ、可愛い……」
「自分で何言うてんの……まあ似合ってるけど……」
姉の夕陽から呆れの混じった目を向けられるが、しょうがないじゃないか。やっぱり制服は良い物だ。
前の思考と違うのは「制服を着た女の子が良い」では無く、純粋に可愛い制服を着たいと思うようになったところだ。
入学式から三日経ち、久々に締めるネクタイにも慣れ始めたというのに、出発前と帰宅後は姿見の前に来て自分の制服姿を再確認してしまう。
それぐらい日向は中学校の制服を着られるのが嬉しかった。
「ほら、私、先出てまうで?早よしぃや」
「あぁん、ゆうちゃん待ってぇな」
自転車に乗っての登校、無駄にベルを鳴らしながら緩い坂道を下っていく。
夕陽はバスケ部の朝練で、日向は春樹を起こしに行くので二人での登校も久しぶりに再開した。
「なぁゆうちゃん、これスカートどうしたらええの?お尻に敷くん?それかサドルにお尻つけんの?」
「お尻に敷いたらええよ。そうせんと風でブワーってなってパンツ見えてまうで……それか短パンでも履いとき」
その光景は見た事がある。
しかし歩いてるスカートが風で捲れるのを見ると嬉しいのに、自転車で捲れ上がったスカートは可哀想が勝つのは何故だろうか。
久しぶりにこんな低俗な思考をしているのも、自分が今制服を着ている事実に、妙な高揚感を感じているせいなのだろうか。
「ふぃー、ほないってらっしゃい!」
「はーい、いってきますー!」
日向と別れるや否や、立ち漕ぎに切り替えて走り去る姉を見送ってから春樹の家のインターフォンを押す。
早くもルーティン化された朝のこの流れは、一体いつまで続ける事ができるだろうか。
一抹の不安を過らせながらも、もう暫くは楽しい中学校生活を送らせてほしいと思う。
事が起こるまで、もう暫くは。
部屋に入るとベッドの上で、布団に包まり簀巻きになった親友を発見する。
横たわったミノムシのような姿で口を開けて寝てる間抜けな横顔を見て、声を殺して笑ってしまう。
こいつはいつになったら自分で起きる事が出来るようになるのか、少なくとも中学卒業までは自分が毎朝起こしていた。
「ハル!朝飯に足生えて逃げてったぞ!捕まえろ!」
「うがっ……」
カーテンを開けて朝日を部屋に迎え入れ、掛け布団を勢いよく剥ぎ取る。
すると昨晩はそこそこ冷えていたはずなのに、春樹はパンツ一枚で姿を現した。
剥ぎ取った掛け布団が力無く床に落ちた数秒の後、我に帰った日向が大声を上げた。
「なぁんでパンイチやねん!!あほぉぉ!!!」
「えっ?えっ?なに?」
状況を理解してない春樹が薄目を開けてキョロキョロしている。
そうしている間に騒ぎを聞きつけた百合子さんが恐る恐るといった様子で部屋のドアを開けた。
「ど、どしたー?日向ちゃん何かあった?」
「ゆ、百合子さぁん……ハルが、パンイチで……掛け布団バサって」
「待て、それは違うおかしい。絶対違う」
「春樹?あんた……それはいけない事だからね?」
百合子さんに怒られる春樹は、納得がいってないような顔でこちらを見ているが、言いたい事があるのはこちらも同じだ。
小学校のプールで見たのとは違うパンツ一枚の男の身体は、なんだか見てはいけないものを見たようで、自分が起こしに来るのも分かっているはずなのに……
ひとしきりの説教が終わって春樹が朝食を食べてる間、先ほどの事もあってお互いに相手の出方を伺いつつ、テレビを見ながらゆっくりとした時間を過ごしていた。
適当にチャンネルを合わせた通販番組が放送されており、有名なブランドから新作のヘアブラシが出ると紹介されていた。
「…………ほーん」
「……欲しいのか?」
「うん、でも絶対高いで……ほら」
「たっか!たかがブラシで……」
「アホお前、綺麗にするんはお金かかんねんで!お小遣いはたいてんのよ」
ずいっと頭を見せると気の抜けたような声が頭上から聞こえる。
男の時の自分でもピンとこなかっただろうから、春樹の反応も仕方ないのはわかるのだが、それでもやっぱり褒めて欲しい気持ちもあるのだから、つくづく面倒くさい女だと思う。
「どう……?結構……頑張ってんねんけど……」
「サラサラ……凄いな。どうやったらこんな艶々になるんだ……」
「ふふっ……せやろ?ウチの自慢の子です」
「…………ほんとに、なんでっ」
百合子さんが物言いたげに頭を抱えているのを、申し訳ない気持ちで笑って誤魔化す。
春樹が食べ終わったので出発する事になった二人は、百合子さんを置いて家を出た。
中学校までは遠いけど、自転車に乗って話しながら行く道は、少し物足りないと思うぐらいの距離だった。
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「そういえば、二人は部活どうすんのよ?」
教室にて、巴からの唐突な問いかけに、持っていたスナック菓子が口に入る寸前のところで止まる。
部活、全く考えていなかった。男であった時は春樹と一緒にテニス部に入っていたが、不真面目な部活であった上に顧問が一切見に来ないのをいい事に、コート脇に落とし穴を掘って遊んでいた。
そんな情熱も何もない部活に再入部するはずも無く、かといって他にやりたい事もない日向は、入学前は帰宅部一択だと考えていたが……
「……そういや強制やったな」
「私も迷ってるんですよ……どうしましょうか……」
「私はやっぱりバスケ部かなぁ!ゆうさん見て、やっぱり憧れちゃったよ」
そんな気はしていた。夕陽と四人でバスケをしたあの日から、やたらと巴からバスケに誘われる事が多くなって、市営の運動場やら児童館で遊ぶ事が増えていたから。
「ねっ!二人も一緒にどう!?三人でバスケやろうよ!」
「ウチはバスケやるには小っちゃ過ぎるやろ」
「私も……あんまりセンス無さそうですし……」
「えぇー……でもまあ熱量の差が溝を生む可能性もあるか……」
そんなにバスケに情熱を持っているのか……
部活も大事な青春の一ページで、打ち込める事があるのは非常に良いことだ。
三年生に姉がいるから面倒も見てくれるだろうし、巴の人見知りしない性格ならすぐに馴染めるだろう。
「それで?結局部活はどうするの?強制だよ強制」
「むぅ……あんまり時間取られるんも嫌なんよなぁ」
「私は文芸部にしようかなぁ……本読むの好きですし」
どこもそんなに興味が湧かない。
そもそも部活動を強制する意味がわからないし、選択の自由とやらはどこに行ったのだ。
スナック菓子を一華の口に運びながらそんなことを考えていると、天啓が降りてくるように一つの部活動を思い出し、二人にお菓子を見せながら宣言する。
「あ、コレや。コレにするわ」
「あっ、下さいよぅ……あむ」
「コレって……お菓子?」
「うん、料理部。お菓子作ったり料理作ったりする部活。確かそんなんがあったはず」
毎日毎日料理をするわけでもないので、一月に何度か活動があるかないかの緩い部活。
時間もそんなに取られないし、お菓子を作ったら皆んなに配るのも悪くない。そう思うと楽しみになってきた。
五月に入ると部活動が始まるので、それまでに入部届を出しておこう。
「えぇー……ヒナはてっきり運動部に入るものだと……エプロン姿のヒナ……ぷぷっ」
「確かに……ケーキ焼いてる日向……ぷっ」
「んん?ええんか?ひなちゃん特製クッキー焼いても二人にはあげんとこかなぁ?」
「……いっかちん、そっち持って」
「合点です!」
「あ!?ちょい!やめっ、あははっやめてぇー!」
二人に腕を押さえつけられ、両脇をくすぐられる。
なんとか逃げ出そうとするも身動きがとれず、されるがままになっているが、この二人とこうやって中学校生活を送れているのが楽しくて、幸せだ。
なんの憂いも無く、このままの三人で……
だが、そうはならないことを、日向は知っていた。
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スナックの油で汚れた手を洗う為に、トイレに行く途中でそいつとは出会った。
「ごめんってぇ……ヒナの作るクッキー楽しみにしてるからぁ」
「……調子のええやっちゃで……いっ、ごめん」
「痛っ」
「…………すまんすまん……大丈夫か?」
「…………」
ぶつかった相手はちらりとこちらを一瞥すると、そのままこちらを無視して立ち去ろうとした。
市川響子、こいつのことは覚えている。
話した事もあるし、激しく言い合いをした事もある。
こいつは三年間、一華をイジメ抜いたグループの一人で、イジメの主犯であり、悪意を悪気なく振るうような、そんな人間だ。
「……ちょっと、ぶつかったんだから少しは謝ったら?」
「トモ、ええねん。こういう奴は関わるだけで損や」
「あんたも言い過ぎよ!ごめんね市川さん……」
「さーせんっしたぁ」
「……」
そのまま立ち去っていく市川の背中に舌打ちをする日向。
他人に対してここまで悪感情を露わにするのが珍しい彼女の様子に、一華は驚いて恐る恐る問いかける。
「どうしたんですか……日向があんな……珍しいですね……」
「……どうしようもない奴もおんねん。ほんまに、どうしようもない奴がな」
「…………」
「ともちん?どうしたんですかボーッとして」
「あ、あぁうん……ごめん……行こっか」
そう言って取り繕うように歩き出す巴の瞳は、仄暗い不安の色を映していた。
その瞳の理由がわからない一華は、助けを求めて日向を見るが、日向の瞳もまた、底知れぬ不安を宿していた。




