22.恐怖を超えて2
いつかは話さないといけない事、向き合わないといけない現実を前に、親友が勇気をくれた。
一緒にいてくれると言ってくれた。
その覚悟に応えたい。
「……まず、ウチが何で、ちょっと未来の出来事をある程度把握してるか。何でやと思う?」
「………俺は、未来から来たと思ってる。たびたび言ってたし」
「うん……せやなぁ、ほぼ正解や。それでだいたいの事は説明がつくしな」
「ほぼ…っていうのは?」
「……多分、パラレルワールドってヤツやと思う。ウチは、だいたい20年後の意識を持ったままこの世界の夏野日向に乗り移った、別の世界の20年後の夏野日向や」
「……?パラレルワールドってのは?普通に、タイムスリップとかじゃないのか?」
「ややこしいよな……だって、前のウチは男やってんもん。こっちでは女の子として生まれてるけど」
「………??はぁ?なん……いや、そうか……だから男子っぽい感じなのか!なるほど!!」
「っびっくりしたぁ…急におっきい声出すなや……」
自分の中で色々と合点がいったのか、春樹はスッキリしたような顔で日向の今までの行動を振り返った。
しかしあることに気づいて、今度は顔を青ざめさせた。
「………ってことはさ……じゃあ、ひなの心は男なのか?」
「……それは、ウチにも……分からんのよ。お前と遊んでる時は男っぽい自分が出るし、ともちゃんとかいっちーと遊んでる時は女の子でいたいもん……」
「……」
「でも……少なくとも、ハルに好きって言われた時は……びっくりしたけど、嬉しかったよ……」
自分で言ってて恥ずかしいけど、包み隠さず話すと決めたので、本音を言う。
嬉しかったし、胸が高鳴った。
女の子扱いしてくれて喜ぶ、ただの女の子のように。
「でも、ウチは恋人になったりとかは無理やねん」
「……それはなんで?」
「だってウチ、結婚してたもん」
「は?」
「子供もおったし」
「はぁぁ!?」
「そら30歳やで?結婚しててもおかしないやろ」
「だ…誰と……誰と結婚して……」
「ハルはまだ知らん人やなぁ……高校の同級生や」
高校を卒業して大人になってから付き合い出した人だし、その後にハルとも知り合っているので、今のハルはまだ面識がない。
「グググ……強敵過ぎんだろ……」
「ごめんなぁ……ウチ、結構一途なんよ。アイツのこと、愛してるし」
「ぐえっ……やめてくれ……死にたくなる」
「くふふ……ハルとは、ずーっと一緒におったで?30歳なっても一緒にゲームしてたし。一緒に旅行も行ったよ」
「そっかぁ……うん、その俺も、幸せだったんだろうなぁ」
「せやなぁ………ハルも結婚してたで」
「あぁぁ!?サラッと言うなよ!!頭おかしくなるわ!!!」
「やかましいな……人のこと聞くんやから自分のことも聞けや」
「知らねーの!俺は!……ちなみに誰と?」
「それは言われへんわ!言うたら変に意識するやろ?まだ会うてもないしな!」
春樹には春樹の相手がいて、子供こそいなかったけど結婚して半年ぐらいの相手がいた。
よく家にも2人で遊びにきていたし、自分もよく知ってる人だ。
情報量が多過ぎて目を回していた春樹は、大きく深呼吸をして自分を落ち着けた後、次の質問をしてくる。
「それで、ひなはどうやってこの世界に来たんだ?20年も経ったらタイムマシンとか、そういう技術があるのか……」
「あぁ……それも踏まえて聞いてくれよ。こっからは聞くも涙、語るも涙、2年と半年のひなちゃん大冒険譚を……まあ座りや」
大きな木の下で2人並んで、吹き抜ける風が冷たいからと、ぴったりくっついて話し始めた。
前世での夜、突然の頭痛の後、病院で目が覚めて混乱した事。
一華と再開して、自分を騙して生きてきたと自覚した事。
巴に叱られて、今の自分に向き合おうとした事。
その他にも色々、今日に至るまでのおおよそ全てをを、時間をかけてゆっくりと話した。
いつのまにか空は、赤と青の混ざり合った綺麗な藍色になっていて、放課後というには遅すぎる時間となっていた。
「———そん時にともちゃんと………今日はここまでやな……夜なってまうわ」
「あー、母さんに怒られるなぁ」
「せやなぁ、ウチお母さんとそんなに歳変わらんのになぁ」
痺れた足に力を入れて立ち上がり全身で伸びをすると、続くように春樹も立ち上がる。
しばらく座っていたままだったからお尻が痛い。
「………結局、この世界に来た理由は分からないままなのか?」
「……ええねん。一華さ、ええ子なんよ。幸せになって欲しいから……あの子の未来を変えるためってのが理由で、それで十分」
「そっか……手伝えることあったらさ、言ってくれ。親友だろ?」
「うん……」
小学生の出来ることなんて限られてるし自分の方が年上のつもりなのに、やっぱり頼りになるなぁ……
コイツが自分よりも大きくなったから、余計に感じるのだろうか?
春樹と共に過ごして来た時間が長くて、優しさも強さも知っているからだろうか?
力いっぱい春樹を抱きしめて、いっぱい感謝を伝える。
「お、おい……」
「ハル、ありがとうな……話しきいてくれて。嬉しかったし、話せて良かった。ほんまは自分から話したかったけど……受け入れてくれてありがとう。ズルいのも分かってるし、申し訳ないとも思ってる。でも、お礼させて」
「……俺も、話してくれてありがとう。今まで不安だったと思う。だから、俺も嬉しかったよ」
春樹に会えて良かった。そんな事は今まで何回も思ってきたことだけど、またちゃんとした絆で結ばれた事が、今は嬉しくて仕方ない。
この身体になってから涙腺も馬鹿になっているのか、すぐ涙が出てくる。
それを堪えるため、誤魔化すように春樹を抱きしめる。
「ほら、もうしばらく無いで。今のうちに堪能しとき」
「えっ、堪能していいの?やったー!」
「んん……」
春樹が少しかがんで、日向を抱きしめ返す。
一華や巴とは、また違った感覚での心地良さを感じながら、お互いの存在を確かめるように抱き合う。
「ちっさくて、柔らかくて、ひながいるなーって感じ」
「ハル……うぅ……」
「やっぱり、好きだなぁ……」
「っ…………」
胸がキュッと締め付けられて、抑えきれない思いを込めて抱きしめる。
こんなことしたら春樹に心臓の音を聞かれてしまう。
分かっているのに、今は離したくない。
少しの間そうして、どちらともなく包容を解く。
春樹は嬉しそうに微笑んでくれているが、正直こちらは顔を見られたく無い。どうせ真っ赤になっているんだから。
「さ、帰ろうぜ」
「うん……かえろ」
「…………手でも繋ぐか?」
「うっさい。ウチは一途やの……」
今更になって後悔の念が出てくる。
やらなきゃよかった。あんなの意識するに決まっているじゃないか。
だってこちとら…………女の子なんだから。
「ちょっと、こっち見やんといて……ほんまに、ほんっまに恥ずかしいねんから」
「くっくっく……意識してくれてるんだ?嬉しいなぁ」
「アホッ、ボケ、知らんっ」
場の雰囲気に乗せられただけ……
顔は熱いし、ずっと鼓動がうるさいし、やっぱりこの身体壊れてる。
でも、壊れててもいいかもしれない。
これだけあちこち異常が出てても、今怖いぐらい心地良くて幸せも感じているから。
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あの後、家に帰ると母にめちゃくちゃ怒られた。
寄り道にしては遅すぎるし、何かあったのではと心配をかけてしまった。当たり前だ。
家に着く頃には、日が落ちるのが早い時期ということもあって、辺りは暗くなっていたのだから。
どこに行っていたのか、誰といたのか、何をしていたのか、そんな事を聞かれたと思う。
日向が話を濁しながらも、それらの事柄について答えていると、あんなに怒っていた母が途中から何かに納得したような態度になって、しばらくして解放された。
まだ頭がぼぅっとしていて、ふわふわした気分だ。
日記になんて書けばいいのか分からない。
素直に書いたら、この気持ちに名前がついてしまいそうで怖い。
「はぁ……明日からどうしたらええんよ……」
机に突っ伏して自分の胸に手を当てる。
変えたい未来と、変えたくない未来がある。
今日あった出来事は、その後者を大きく揺るがすような、自分にとって不都合な事態の筈なのに。
「くふふっ……ちゃう!ちゃうんよ……ハルと?ないない!」
帰宅してから何度目になるか分からないその言葉を吐くと、下がらない口角と戦いながら日記帳を開いた。
書いては消してを繰り返し、何度も書き直しながら、今日あった出来事の言い訳だけでページを埋め尽くすことになった。




