21.恐怖を超えて
一昨日は膝の下まで積もっていた雪は、働き者の太陽でも除雪しきれず地面こそ見えているものの、まだそこかしこに残っていた。
しばらく雪合戦は辞めておこう。そう心に誓った日向は、いつも通りの道を、いつも通りの時間に、いつも通りのペースで歩いていく。
予定調和のような行動に1つ、いつも通りでは無い出来事が起きたので、日向はそのイレギュラーに声をかけることにした。
「おはよ。早起きして偉いやんか。昨日はごめんなぁ……」
珍しく家の外で待機している春樹に声をかけるが、何やら思い悩んでいるような様子で、こちらの呼びかけにも反応しない。
無視されているようにも見えるこの構図に、日向は少し前の出来事を思い出して不安を覚える。
「えっと……ご、ごめん……なんか怒らすようなことした?」
「えっ?あっ、おはよ!悪い、考え事してた」
「な……なんやねんなぁ……ハルの無言怖いわぁ……」
「ごめんごめん……行くか」
そう言うといつも通りの道を、いつもよりも少しだけ早い時間に、いつもより少しだけ遅いペースで2人で歩いていく。
2、3歩前を歩く春樹は、他愛のない話をするでもなく物思いに耽っている。
怒ってはいないようだが明らかに様子がおかしく、その事について話題を振ろうとも上の空で、何があったのか日向には話してくれなかった。
しばし無言での登校が続き、気まずい空気と疑問を残したまま、5年1組の教室へと到着した。
「おはよーさん、復活したで」
「あ、良かったぁ。おはようございます。体調どうですか?」
「おかげさんで良うなったよ……あれ、ともちゃんは?」
「ふふふっ、算数の宿題持ってくるの忘れてて、今職員室に届けに行ってます」
雑談をしながら荷物を下ろしていると、春樹は小さく挨拶をしてそのまま自分の席の方へ歩いて行った。
一華も不思議そうに背中を見送り、日向に疑問を投げかけてくる。
「一ノ瀬君、どうしたんですか?なんだか…元気が無いような……」
「そうなんよなぁ、怒ってるわけでも無いし.……」
「あー!ひなちゃんだ!」
春樹について一華と話していたところ、職員室に行っていたという巴が教室に帰ってきた。
日向を見つけるや否や、羽交締めにするような勢いで日向を抱きしめるとそのまま軽々と持ち上げ、ブンブンと振り回した。
「ひなちゃんごめんよぉ!私が初詣誘ったばっかりに…
39度って聞いて、心配で心配で!」
「おわー!!ともちゃん!下ろして!怖いっ!怖いって!」
しばらく空中を彷徨った後、巴は一仕事終えたとばかりの顔をして日向を下ろした。
「ふぅ、おはよ」
「なんなんよ……おはよ」
「ほんと、ごめんね?新学期早々休ませちゃって。ほんと、申し訳なくってさ…」
「いや、ええよ。ほんまウチ、楽しかったんよ。皆んなとああやって遊べんのも、冬休み少なかったし」
「そう言ってくれると、助かるよ……あ、そだ、一ノ瀬君からも聞いた?プリントのついでに謝っといてって言ってたんだ」
「プリント?なんのプリント?」
「え?昨日もらったプリントとか時間割表とか、一ノ瀬君、ひなちゃん家に届けに行ったよ?」
「……………ハルが?」
昨日は、なかなか熱も下がらず昼過ぎから夕方まで寝て過ごしていた。
とすると日向が寝ている間に春樹が家に来たということで、そのプリントとやらは日向は受け取っていない。
「…………」
「どしたの?もしかして、一ノ瀬君となんかあった?」
「いや……うん………うん……」
チラリと春樹の方を見るが、こちらの様子には気づいていない。
何か思い悩む事があって、その事で頭がいっぱいなのだろう。
これは、言い逃れ出来ないかもしれない。
「……………きひひ」
笑っている日向の目は追い詰められた獣のようで、それでいてイタズラを思いついた男の子の様でもあった。
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気づいたら放課後になっていた。
特に体調に問題は無いのに、足が鉛のように重たい。
昨日の事が、頭から離れない。
どう考えても普通じゃないし、ありえない事だと思う。
でも、色んなピースが合わさるように、今までのアイツの言葉が、行動が、昨日見てしまった物で答え合わせをさせられたように思った。
思えば、初めて会った時から変な奴だった。
まるで俺のことを知っているみたいに距離を詰めてきて、旧知の仲かのように息が合う。
それがアイツとの自然な距離感なんだと思っていた。いや、思わされていた?
「ハル?」
「っ………」
「なんか、朝から変やで?どうしたんよ」
変なのはお前だろう。
目の前のこいつは今も何事もないようにいつも通りで、全部思い過ごしなんじゃないかと思えてしまう。
本当に変な事考えてるって分かってるし、全部俺の妄想であって欲しい。
「あ、せやハル。プリント!あと時間割表!昨日持って帰ったやろ?あれ持ってきてる?」
「あ……あぁ、持って…きてる……」
俺が震える手でプリントを渡すと、愛らしい笑顔でそれを受け取る。
「何で持って帰るんよぉ……昨日家まで来たんやろ?机にでも置いといてくれたらええのに」
「…………」
通学路の途中に生えてる大きな木の下で、爛々と輝く両目でこちらを見ている。
初めて、目の前の少女の事を怖いと思った。
何を考えてる?
何をしようとしている?
俺に何を求めている?
「ハル……」
夏野日向は自らの足元を指差しながら、ゆっくりと口を開いた。
「今からここにな、このでっかい木の、でぇっかい枝が落ちてくるんよ」
「な…にを……」
言っているんだ
「3…2……1……」
こいつはっ!!
「ひな!!!!」
考えるよりも先に走り出して、ひなを抱き寄せて思いっきり吹っ飛ばした。
何も考えずに飛び込んだからあちこち擦りむいたけど、そんな事はどうでもよくて、ひながした事がただただ悲しかった。
失いたくないと思ったんだ。1番の友達を。
「何で………何でそんな事するんだよ!!頭おかしくなったのか!!?死んだらお終いなんだぞ!!死んだらなぁ……死んだら………一緒に、いられないんだぞ……」
「ハル…あの……」
「俺はお前と居たいよ……この先………10年でも20年でも……別に、お前が何だっていいから……一緒にいさせてくれよ……」
コイツが何者で、何を抱えていたっていい。
この先何年経とうが、変わらず一緒にいられたらそれでいい。
悩みがあるなら聞くし、事情があるなら一緒に悩むから、だから、いなくならないでくれ。
「えーっと……ごめん、ハル……その、あっこ見て」
「すんっ……なんだよ?」
ひなの視線を辿って元いた位置を見ると、そこは先程と変わらず何もなかった。
「えっ?」
「いや、あんな?さっきのあれ、嘘なんよ」
「…………えぇっ?」
「ご、ごめん……まさか、飛び込んでくるとは思わんくて……ってか、離して…ください……」
「あ……悪い」
話している間、ずっと抱きしめる形にしてなっているのを、今になって思い出した。
手を緩めると、ひなはもぞもぞと体を捩らせ離れて行き立ち上がると、服についた土や砂を払い出した。
思ってた以上に柔くて、華奢で、良い匂いがしたひなは、服を払い終えると腕を組んでこちらに向き直ると、少女には似つかわしくない不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ほんで?どっから聞きたいん?全部?ウチの全部が知りたいと、エッチな奴やな」
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春樹は「ちゃかすな」と言うと、真剣な顔でこちらを見ている。
もう誤魔化すことも出来ないし、誤魔化す気もない。
全部話すって、覚悟を決めたつもりだったが、怖いな……
春樹は自分の話しを聞いてどう思うだろう?
騙されたって怒るかも知れないし、気持ち悪いって拒絶されるかも知れない。
口を開いても言葉が出てこず、喉が渇いて冷や汗が出てくる。
ああ、どうしよう……こんなにも不安な気持ちになるとは思ってもみなかった。
取り繕うつもりもないのに、素直に打ち明けるのが怖い。
すると、春樹が両手を握ってくれて、笑顔で不安をかき消してくれた。
「大丈夫、お前が何者だろうと、さっき言ったことが俺の答えだから」
「…………うん」
ありがとう。親友。
お前が俺に飛び込んできた時、俺は震えるほど嬉しかったよ。
さて、いざ話すとなるとどこから話せば良いのやら、原稿用紙があるわけでもないので、少しずつ言葉を組み立てながら話していこう。
次話に続きますが…
間に合ってないので明日書けたら投稿します!




