19.冬休みの思い出
1月6日冬休み最終日
一歩一歩踏み出すごとに雪を掻き分け、足の裏に心地良い感触が帰ってくる。
前日の昼前から今朝まで降り続けた雪は田舎街を普段とは違った景色へと染め上げ、除雪作業が間に合っていない車道には、こんな日に出歩く物好き達が通った轍のみが作られていく。
明日に3学期の始業式控える日向は、ここいらじゃ記録的な程の積雪を小さな足で蹴飛ばしながら、春樹を連れて歩いていた。
「ひゃー、どえらい積もったなぁ……」
「結構降ってたもんな。これ、皆んな来れるのか?」
新年を迎えて、それぞれの家の用事等がある程度片付いた子供達は、巴からの呼びかけでクラスメイト数人を集めて初詣に行く事なった。
年末年始と炬燵に入って冬休みを過ごしていた日向にとって巴からの電話は、外に出る口実として有難いものだった。
「おぉ、意外と人来てんねやな。ハル、お姉さんとはぐれたらあかんで」
「だから俺の方が誕生日早いって……手でも繋ぐか?」
「うっ……や、やめぇや……おちょくらんといて…」
「ふふっ…………なぁ、ひな……」
「おーい!ひなちゃーん!」
春樹が何かを言いかけたところで、少し離れたところから巴に声をかけられる。
春樹に目で確認をすると「また話す」と返ってきたので、気になりつつも、10人程いるクラスメイト達と合流する事になった。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。皆んなもう集まってたんやな」
「あけおめ!一ノ瀬君も。2人ともお正月どうだった?」
「ゴーロゴーロしてたよ、昨日買いもん行った時たまたま健人と会ったで」
「明けましておめでとうございます。青葉君元気でした?今日は来れなくて残念ですね」
新年の挨拶をしながら人集りの方へ歩いていく
年が明けて6日も立つにもかかわらず、拝殿の周りは結構な人数の参拝者がひしめき合っていた。
「初詣って言うても2回目なんよなぁ……」
「俺も、父さんと母さんと行った」
「皆んなそうだよねぇ……まあ口実だよ。冬休みあんまり会えなかったからさ。って言っても明日から学校だけど」
日向達の番が回ってくると各々賽銭箱に小銭を投げ入れ、二礼二拍手のあと今年2度目となるお願い事をする。
皆んなが参拝を終えた中、一際長く手を合わせていた日向に一同が声をかけようかと思いだした頃に、一礼をして合流した。
「すんまへんすんまへん。ほな行こか」
「お願い事長かったね。日向は何お願いしたの?」
「んー、健康祈願とか?あとはまあ、平和な未来がありますようにって感じかな?」
少しはぐらかす様な物言いに、草太は疑問符を浮かべながらもそれ以上は聞かなかった。
日向の周りの交友関係は1度目の人生と大きく異なっている。
ヨモギの時の様に関係ない人間が起こす行動に大きな違いは無いが、5年1組の中でいえば、色々なズレが出てきている。
特に仲の良く無かった者同士が恋人同士になっていたり、その逆もまた。
それ自体がいい事なのか悪い事なのか判断に困るところではあるが、いつか、何か大きなズレが出てしまうのではないかと不安になってしまう。
「どうした?」
その内の最大のズレとも言える親友が、唐揚げを食べている。
春樹が自分に恋心を抱くことは、全くと言っていいほど予想していなかった。
これから春樹とどんな距離感で接するのが適切なのか、すぐにでも全てを打ち明けて、元男だと幻滅してもらうのも考えたが……
「いっこちょーだい」
「はぁー?自分で買えよ……」
そう言いながらも爪楊枝に刺さった少し小さめの唐揚げを差し出してくる。
春樹があれ以来無理に距離を詰めてこないのをいい事に、今の関係に甘えてしまっている。
期限は決めている。中学卒業まで。
一華がイジメられる事なく中学を卒業して、最悪の未来が訪れなくなったら、その時は春樹と一華と巴には自分の事を話そうと思う。
それまでもう少しだけ、心地良い皆んなとの今の関係を……
「あむっ、あっつ!?はふっ、はひぃ」
「おい!自分で持てよっ!落ちる落ちる!」
「ふぅ....うああごの皮ベローンって……いひゃい……」
「お茶飲んどけよ……ったく」
手渡してくれたお茶を流し込んで口の中をゆすぐ。
それでもまだヒリヒリしている口内に顔を顰めていると、一華達が困惑した表情で日向達を見る。
「ふたりって、本当に付き合ってないんですよね?やっぱり……」
「ほんと、距離感バグってるよね。まあ、それが2人の距離感なんだろうけど……」
「私はねー、もう言わないって決めたんだ……前田の時みたいになったら嫌だし……」
実里は本当にあの時のことを後悔しているようで、前田とはあれ以来距離をとっていた。
6年生の頃2人は付き合っていると言う噂があったが、これも日向の存在で出来てしまったズレなのだろう。
「ウチはもう周りの事は気にせんって決めたから、コイツとは、これからもこんな感じや!」
「うん、俺も。ひなとは距離取らないって決めたんだよ……まあ、俺は好きなんだけど……」
「あっ!サラッと言うな!!要所要所で言うな!恥ずかしいやろ!!」
足元の雪をかき集めて春樹に投げると、そのまま後ろにいた実里に命中する。
一瞬の沈黙の後、まるで示し合わせたかの様に全員が雪玉を手に持つ。
ここでは他の人に迷惑がかかると、少し開けた場所に移動しながらも、お互いを牽制する事は忘れない。
誰が味方で、誰が敵なのか。
曖昧な状況下では隙を見せた者から死んでいくだろう。
「いっちー、分かってんな?」
「はい、ともちんとひーちゃんはぁぁああ!!?」
色良い返事をもらうよりも先に、一華の背中に雪玉を入れる。
ここは戦場で、隙を見せた者から死んでいくと言ったはずだ。
「いっかちん!……ひなちゃん?なにを!?」
「がぁっ!?どうし……て……?」
「すまんなぁ、あんまりにもガラ空きやったから……恨んでくれても構わんよ……ぶえっ!?」
木の影に身を潜めていた桜が投げた雪玉が、日向の横顔に命中した。
ばたっと大袈裟に倒れた日向に追い打ちをかける様に、実里と桜が接近しながら雪玉を投擲してくる。
「実里の仇だよぉ、くたばってねぇ」
「死んで無いけどね!くらえー!ぶはっ!?」
死体に鞭打つ2人を横から春樹が仕留める。
乱戦になりつつあるこの場で、唯一自分の立場をはっきりとさせた男である。
「俺は……俺の好きな人を守るッ!!!」
「お前ぇ!!ネタにしてるやろ!!自分の気持ちもっと大切にせぇや!!!」
そこからは本当に乱戦となって誰彼構わず雪玉を投げまくり、冷え切っていた体を湯気が経つほど温めた。
太陽が真上あたりに来た時、誰かのお腹が鳴ったことによって終戦を迎えた。
「はぁ…はぁ……あかん、びっちょびちょや、帰ってお風呂入ろ」
「ふぅ…ふぅ……終わったら寒くなってきたな……早く帰ろう」
「私はっ……冬休み最後に……思い出できて良かったよ!!」
「うぅ……私は背中が1番ダメージ受けましたぁ」
「明日また学校で」と皆んなに別れを告げて家路を歩く。
きた時に出来ていた轍は、除雪作業によってすっかり無くなっていた。
明日からまた学校だ。
3学期が終われば、小学校最後の年がやってくる。
「楽しかったな。俺、今のクラス好きだわ」
「色々あったけど、ええクラスやんな。でもまあ、来年も変わらんメンバーでおれるやろ」
一華も巴も、健人、実里、桜、草太…はどうだったか……ともかく、6年生も楽しいメンバーでやっていける事を日向は知っている。
少しズレてるからといって、新しく出来たこの世界もそう悪いものでも無いだろう。
日向の確信を持って放った言葉に、春樹は少し迷いながらも前を歩く日向に声をかける。
「…ひな、あのさ………」
「んー?どしたんよ?」
振り返った日向は、翌日からの学校生活に想いを馳せて、今この時を楽しんでいる。
そんな日向の心が、笑顔を通して春樹に伝わる。
「………明日からも、よろしく」
「うん!よろしゅう!」
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あの後は真っ直ぐ家に帰ってお風呂に入り、新学期の用意と持ち物の確認をし終わる頃には、夕飯の時間になっていた。
疲れたためか、寝ぼけ眼を擦りながら晩御飯を食べ終わり、家族でテレビを見ていると夕陽が顔を覗き込みながら日向に声をかけてきた。
「ひな、眠いんちゃう?目がうつろやで」
「うぅん……そうかなぁ……」
頭がぼうっとして、テレビの内容もあまり入ってこなくなってきた。
明日に備えて、今日は早く寝る様にしよう。
「おやすみ、皆んなも夜更かしはあかんよぉ……」
「ふふっ、ひなちゃんおやすみ」
フラフラとした足取りで部屋に戻り、そのまま布団に入る。
思った以上に疲れていたみたいだ。
体も思った通りに動かない。
「……あ、せや…日記……」
鍵付きの引き出しを開け、日記を中身をバサっと取り出すが、鉛筆が見当たらなくて辺りを探す。
「あ…あれ……?あかん、ちょっと……しんどいかも……」
日記は、明日まとめて書こう。
大丈夫、寝て起きたら治ってるはずだ。
新学期早々、風邪を引いて休むなんて嫌だ。
布団に入り少し寒気を感じながら、そういえば子供時代は、よく風邪を引いてたなぁと思い出しながら眠りについた。
毎日1話投稿したいけど、なかなか難しいなぁ




