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LIFE Re plan  作者: ちっこい日の出
小学生編
18/58

17.日向の秋2



 結局、自分の思い上がりだったのだろう。

 春樹にとって、日向はクラスにいる女子の1人で、気まずくなったら距離をとって、そのまま関わりを絶ってもいい、そんなクラスメイトの1人。

 最後に自分に関わるなと言ってやった。

 これでアイツが気負うものもないだろう。

 綺麗さっぱり、おしまい。


「………お腹すいた」


 あんな状況でカレー作りに戻るはずもなく、そのまま担任に連れられ部屋に帰ってきたので、朝から何も食べていない。

 しばらく日向から話を聞こうとしていたが、放っておいて欲しいと告げるとクラスに戻っていった。

 今頃は皆んなで夕飯を食べている頃だろう。


 このまま朝まで眠って、起きたらバスで帰る。もうそれで良いだろう。

 宿泊研修が終わったら、1人で登校して、普通に学校に通って、1人で家に帰ったらいい。

 そんなことを思っていると、部屋の扉が開いてカレーの良い匂いがしてきた。


「ひーちゃん…起きてますか?」


「いっちー…ともちゃん……」


「お腹すいてない?ご飯持ってきたから一緒に食べよ」


 2人はお盆に昼に作ったカレーと、夕飯に出たであろうおかずを持ってきて机に置いて、のそのそとベッドから日向が出てくるのを、2人は黙って見ていた。


「…………」


「大丈夫…じゃないよね。ごめん」


「あの後、一ノ瀬君も先生に連れられて部屋に戻ったみたいです」


「……ああ、そう」


 ぐぅとお腹が鳴り、誰からともなく席に着き食べ始める。

 3人は無言で食事を続け、食器の音だけが静かな部屋に響いていた。

 半分ほど食べ進めたところで、料理にに目を落としたまま日向が重たい口を開く。

 

「ごめん、いつもこんなんで…」


「………ひなちゃんはさ、多分、私たちより色んなこと考えてるんだね。だってさ、半年も口聞かなかった相手に、ちゃんと向き合ってるんだもん。私だったら、出来る自信無いよ……」


「私もともちんも、ひーちゃんがいつも一生懸命なの知ってますから……頑張り過ぎて疲れちゃうのはしょうがないですよ。そういう時の為の私たちですから」


「うん……あ、せや、2人はさぁ…アイツと普通に接したってよ……ウチのこと気にせんと、じゃないと、気まずいやんか……」


 日向がそう言うと、2人は顔を見合わせた後困ったような顔でこちらを見た。

 2人と春樹の間には、特に壁は無いと思うのだが…


「えっとね、その…一ノ瀬君、今女子の間ですごいことなってて。なんと言うか……悪者みたいな」


「は!?なんでやねん!……あっ」


 思い当たるふしがあった。

 自分があんな所で泣いたから、それを皆んなが見ていたから、そういう構図に見えてしまったのだろう。

 

「どうしたらええんよ…もう分からへん……」


「今は、とりあえず噂が過ぎるのを待つしか無いかも知れませんね……」

 

 次から次へと、どいつもこいつも、人の気も知らないで勝手なことばかり……

 それは、自分にも言えることだろう。

 春樹の事を考えないで、自分の言いたい事を叩きつけた。

 

 でも、目を逸らされた。それが答えじゃないか。

 人のことを無視するような奴だ。


「ええ奴やのに……」


 男だ女だと言ってレッテルを貼って、人のことを拒絶するような奴だ。


「優しい奴やのに……」


 炭をばら撒いたら、一緒に拾ってくれた。


「…………アイツは、どうしてんの?」


「うん……一応、夜のオリエンテーションには出てたよ。キャンプファイヤーは……どうだろ」


「………行かな」


 そう言うと、残りの夕飯を急いで食べ出す。

 一華と巴はポカーンとした顔で日向を見ており、全て平らげた日向は2人を見てニコッと笑った。


「カレー、美味しかったよ」



————————————



 3人で教員の部屋に訪れると担任が待機しており、体調を聞かれたりはしたが、事情は聞かないでいてくれた。

 担任に連れられ施設から少し離れた広場へ行くと、既にキャンプファイヤーの炎が勢いよく立ち上っており、皆んなで歌を歌っていた。

 春樹の姿を探すがなかなか見つからない。


「あ、日向ぁ…大丈夫だった?ごめんねぇ」


「桜ちゃん、心配かけてごめんなぁ。今は平気よ」


 何人かのクラスメイトが日向を見ると声を掛けてくれる。

 皆んな一様に心配してくれており、やはり昼間の件はかなり目立ってしまったと思い後悔した。

 中には春樹に怒っている者もおり、なんとか弁明しておいた。


「はーい!では次の曲ではダンスを踊りますよ!体育でやった出席番号の男女ペアで集まってください」


「日向いけそう?体調大丈夫?」


「う、うん…」


 日向は、草太とのペアでダンスを踊ることになっており、曲が始まる。

 全く身が入ってないダンスに付き合わせて草太に申し訳ない。

 アイツはどこだ、もしかして来ていない?

 部屋で1人でいるかもしれない。

 それなら、ここにいてもしょうがないか?


 一曲目が終わり、教師が次の曲の説明をする。

 いた。春樹がいた。

 ダンスの輪には入っているが、ペアがいない。

 もしかしたら、相手が一緒に踊ってくれなかったのかも知れない。

 

「…………ハ」


 ハル!と声をかけようとして、そこから足を踏み出せなくなる。

 また、拒絶されたらどうしよう。

 目を合わせてくれないかもしれない。

 なんなら、怒って罵倒されるかもしれない。

 自分に声をかける資格があるのか?


 2曲目が始まろうとする時、背中を向けた春樹が俯いて小さな声で呟いた。


「ひな……ごめん………」

 

 するりと草太の手を解き、目で謝ると草太は「仕方ないなぁ」と言ってくれた。

 そのまま振り返らず、もつれる足を前にだし、人を避け、春樹の所へ駆けて行き、手を握る。


「ハル!踊るぞ!」


 返事は、さっき聞いた。

 お前は、自分の中で向き合ってくれていたんだ。



————————————



「ハル!踊るぞ!」


 そう言って後ろから現れたソイツは、小さな手で俺の手を握った。

 さっきまで消えてしまいそうな程か細かった心が、急に息を吹き返すようだった。

 何でここにいるんだ?

 部屋にいるって先生は言ってたのに。

 関わるなって、俺がいっぱい悲しい思いをさせたから、取り返しのつかない事をしてしまったから、突き放されたのに。

 何でお前は俺の両手を握ってくれるんだ。


「ひな……なんで………」


「ええからええから……ほら、ターンや」


 手を片方離して2人でくるりと回る。

 周りのクラスメイトが唖然とした顔でこちらを見ている。

 そりゃそうだろ。あんな喧嘩してしまったんだから。

 半年前のあの日から、ずっとそうだ。

 前みたいな距離感で日向と一緒にいたら、周りが変に思う。

 ただ近くにいるだけで、そんな目で見てくるんだ。

 これから先成長していって年齢が上がるにつれて、もっと一緒に居辛くなる。

 そうなった時に日向に迷惑をかけてしまう。

 そうなるぐらいなら、今からでも……


「なぁハル……」


「……?」


「……楽しいなぁ」


 そう言って微笑む日向を見て、ここ半年悩んだ事なんて、周りの事なんてどうでもいい事だと言われた気がした。



————————————



 2曲目が終わり、最後の曲はゆったりしたリズムだった。

 皆んなが肩を組みながら歌っている中、身長差があるので春樹とは手を繋いだ。

 周りの目なんてどうでもいい事だ。

 春樹もずっと悩んでいてくれたのだろう。

 それが分かっただけで、日向は満足だった。

 あとはゆっくり、お互いの思ってた事を話そう。

 それが終わったら久しぶりに2人でどこかに遊びに行こう。

 一緒にしたい事が一杯あるんだ。それもゆっくり聞いてもらおう。


「ひな……その、ごめんな………」


「それはさっき聞いた…ウチもごめん。勝手な事ばっかり言って」


「いや、勝手なのは俺だって。勝手に距離とって、ひなの事考えてなかった…」


「いや、ちゃんと考えてくれてたやん。今やったらそれぐらい分かるわ」


 真ん中の炎が小さくなっていき、1日が終わりに向かう。

 濃い1日だった。1度目の人生ではただ過ぎていっただけの学校行事が、こんなにも大変なものになるとは思いもしなかった。


「それでもだよ……ごめんなさい」


「律儀なやっちゃで……まあ?ウチもだいぶ悩みましたわぁ……」


「そりゃ、そうだよな…一緒にいた奴から…急に好意向けられたら、普通に悩むよな」


「…………………………ぇ……………………」


 最後の炎が消えて会場が暗くなる。

 1日の終わりに皆んなが拍手をしている。

 教師が終わりの挨拶をしている音が聞こえる。

 

「ひな?」


 …………

 ………………

「えぇーーーーーーーーーーーーー!?!!?」


 静かな幕引きとなるはずだったキャンプファイヤーは、少女の渾身の叫び声で幕を下ろした。



————————————



「と、ともちゃん!!ウチをアイツから隠して!!」


「はいはい、ほら、行くよ」


「あぁっ!い、いっちー!アイツの目を潰してきてくれ!」


「分かりました!シュッ!シュシュッ!」


 一華はのろのろとした動きで目潰しをかけたが、片手で払い除けられていた。


「何で今度は避けられてるんだよ……」


「何でって………アホー!」


「ひなちゃーん!バス乗りなよー!」


 宿泊研修が終わり、各々の思いを乗せてバスが走り出す。

 楽しかった者、やはり苦手だと思った者、友との関係が一歩進んだ者。

 途中、景色が開けた場所から山が秋の彩りを見せる。

 車窓に張り付いて外を見る日向の頬は、10月の山の紅葉(もみじ)のように真っ紅な装いを見せていた。


 


もっと上手く書けたらなぁと思った回でしたぁ


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