17.日向の秋2
結局、自分の思い上がりだったのだろう。
春樹にとって、日向はクラスにいる女子の1人で、気まずくなったら距離をとって、そのまま関わりを絶ってもいい、そんなクラスメイトの1人。
最後に自分に関わるなと言ってやった。
これでアイツが気負うものもないだろう。
綺麗さっぱり、おしまい。
「………お腹すいた」
あんな状況でカレー作りに戻るはずもなく、そのまま担任に連れられ部屋に帰ってきたので、朝から何も食べていない。
しばらく日向から話を聞こうとしていたが、放っておいて欲しいと告げるとクラスに戻っていった。
今頃は皆んなで夕飯を食べている頃だろう。
このまま朝まで眠って、起きたらバスで帰る。もうそれで良いだろう。
宿泊研修が終わったら、1人で登校して、普通に学校に通って、1人で家に帰ったらいい。
そんなことを思っていると、部屋の扉が開いてカレーの良い匂いがしてきた。
「ひーちゃん…起きてますか?」
「いっちー…ともちゃん……」
「お腹すいてない?ご飯持ってきたから一緒に食べよ」
2人はお盆に昼に作ったカレーと、夕飯に出たであろうおかずを持ってきて机に置いて、のそのそとベッドから日向が出てくるのを、2人は黙って見ていた。
「…………」
「大丈夫…じゃないよね。ごめん」
「あの後、一ノ瀬君も先生に連れられて部屋に戻ったみたいです」
「……ああ、そう」
ぐぅとお腹が鳴り、誰からともなく席に着き食べ始める。
3人は無言で食事を続け、食器の音だけが静かな部屋に響いていた。
半分ほど食べ進めたところで、料理にに目を落としたまま日向が重たい口を開く。
「ごめん、いつもこんなんで…」
「………ひなちゃんはさ、多分、私たちより色んなこと考えてるんだね。だってさ、半年も口聞かなかった相手に、ちゃんと向き合ってるんだもん。私だったら、出来る自信無いよ……」
「私もともちんも、ひーちゃんがいつも一生懸命なの知ってますから……頑張り過ぎて疲れちゃうのはしょうがないですよ。そういう時の為の私たちですから」
「うん……あ、せや、2人はさぁ…アイツと普通に接したってよ……ウチのこと気にせんと、じゃないと、気まずいやんか……」
日向がそう言うと、2人は顔を見合わせた後困ったような顔でこちらを見た。
2人と春樹の間には、特に壁は無いと思うのだが…
「えっとね、その…一ノ瀬君、今女子の間ですごいことなってて。なんと言うか……悪者みたいな」
「は!?なんでやねん!……あっ」
思い当たるふしがあった。
自分があんな所で泣いたから、それを皆んなが見ていたから、そういう構図に見えてしまったのだろう。
「どうしたらええんよ…もう分からへん……」
「今は、とりあえず噂が過ぎるのを待つしか無いかも知れませんね……」
次から次へと、どいつもこいつも、人の気も知らないで勝手なことばかり……
それは、自分にも言えることだろう。
春樹の事を考えないで、自分の言いたい事を叩きつけた。
でも、目を逸らされた。それが答えじゃないか。
人のことを無視するような奴だ。
「ええ奴やのに……」
男だ女だと言ってレッテルを貼って、人のことを拒絶するような奴だ。
「優しい奴やのに……」
炭をばら撒いたら、一緒に拾ってくれた。
「…………アイツは、どうしてんの?」
「うん……一応、夜のオリエンテーションには出てたよ。キャンプファイヤーは……どうだろ」
「………行かな」
そう言うと、残りの夕飯を急いで食べ出す。
一華と巴はポカーンとした顔で日向を見ており、全て平らげた日向は2人を見てニコッと笑った。
「カレー、美味しかったよ」
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3人で教員の部屋に訪れると担任が待機しており、体調を聞かれたりはしたが、事情は聞かないでいてくれた。
担任に連れられ施設から少し離れた広場へ行くと、既にキャンプファイヤーの炎が勢いよく立ち上っており、皆んなで歌を歌っていた。
春樹の姿を探すがなかなか見つからない。
「あ、日向ぁ…大丈夫だった?ごめんねぇ」
「桜ちゃん、心配かけてごめんなぁ。今は平気よ」
何人かのクラスメイトが日向を見ると声を掛けてくれる。
皆んな一様に心配してくれており、やはり昼間の件はかなり目立ってしまったと思い後悔した。
中には春樹に怒っている者もおり、なんとか弁明しておいた。
「はーい!では次の曲ではダンスを踊りますよ!体育でやった出席番号の男女ペアで集まってください」
「日向いけそう?体調大丈夫?」
「う、うん…」
日向は、草太とのペアでダンスを踊ることになっており、曲が始まる。
全く身が入ってないダンスに付き合わせて草太に申し訳ない。
アイツはどこだ、もしかして来ていない?
部屋で1人でいるかもしれない。
それなら、ここにいてもしょうがないか?
一曲目が終わり、教師が次の曲の説明をする。
いた。春樹がいた。
ダンスの輪には入っているが、ペアがいない。
もしかしたら、相手が一緒に踊ってくれなかったのかも知れない。
「…………ハ」
ハル!と声をかけようとして、そこから足を踏み出せなくなる。
また、拒絶されたらどうしよう。
目を合わせてくれないかもしれない。
なんなら、怒って罵倒されるかもしれない。
自分に声をかける資格があるのか?
2曲目が始まろうとする時、背中を向けた春樹が俯いて小さな声で呟いた。
「ひな……ごめん………」
するりと草太の手を解き、目で謝ると草太は「仕方ないなぁ」と言ってくれた。
そのまま振り返らず、もつれる足を前にだし、人を避け、春樹の所へ駆けて行き、手を握る。
「ハル!踊るぞ!」
返事は、さっき聞いた。
お前は、自分の中で向き合ってくれていたんだ。
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「ハル!踊るぞ!」
そう言って後ろから現れたソイツは、小さな手で俺の手を握った。
さっきまで消えてしまいそうな程か細かった心が、急に息を吹き返すようだった。
何でここにいるんだ?
部屋にいるって先生は言ってたのに。
関わるなって、俺がいっぱい悲しい思いをさせたから、取り返しのつかない事をしてしまったから、突き放されたのに。
何でお前は俺の両手を握ってくれるんだ。
「ひな……なんで………」
「ええからええから……ほら、ターンや」
手を片方離して2人でくるりと回る。
周りのクラスメイトが唖然とした顔でこちらを見ている。
そりゃそうだろ。あんな喧嘩してしまったんだから。
半年前のあの日から、ずっとそうだ。
前みたいな距離感で日向と一緒にいたら、周りが変に思う。
ただ近くにいるだけで、そんな目で見てくるんだ。
これから先成長していって年齢が上がるにつれて、もっと一緒に居辛くなる。
そうなった時に日向に迷惑をかけてしまう。
そうなるぐらいなら、今からでも……
「なぁハル……」
「……?」
「……楽しいなぁ」
そう言って微笑む日向を見て、ここ半年悩んだ事なんて、周りの事なんてどうでもいい事だと言われた気がした。
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2曲目が終わり、最後の曲はゆったりしたリズムだった。
皆んなが肩を組みながら歌っている中、身長差があるので春樹とは手を繋いだ。
周りの目なんてどうでもいい事だ。
春樹もずっと悩んでいてくれたのだろう。
それが分かっただけで、日向は満足だった。
あとはゆっくり、お互いの思ってた事を話そう。
それが終わったら久しぶりに2人でどこかに遊びに行こう。
一緒にしたい事が一杯あるんだ。それもゆっくり聞いてもらおう。
「ひな……その、ごめんな………」
「それはさっき聞いた…ウチもごめん。勝手な事ばっかり言って」
「いや、勝手なのは俺だって。勝手に距離とって、ひなの事考えてなかった…」
「いや、ちゃんと考えてくれてたやん。今やったらそれぐらい分かるわ」
真ん中の炎が小さくなっていき、1日が終わりに向かう。
濃い1日だった。1度目の人生ではただ過ぎていっただけの学校行事が、こんなにも大変なものになるとは思いもしなかった。
「それでもだよ……ごめんなさい」
「律儀なやっちゃで……まあ?ウチもだいぶ悩みましたわぁ……」
「そりゃ、そうだよな…一緒にいた奴から…急に好意向けられたら、普通に悩むよな」
「…………………………ぇ……………………」
最後の炎が消えて会場が暗くなる。
1日の終わりに皆んなが拍手をしている。
教師が終わりの挨拶をしている音が聞こえる。
「ひな?」
…………
………………
「えぇーーーーーーーーーーーーー!?!!?」
静かな幕引きとなるはずだったキャンプファイヤーは、少女の渾身の叫び声で幕を下ろした。
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「と、ともちゃん!!ウチをアイツから隠して!!」
「はいはい、ほら、行くよ」
「あぁっ!い、いっちー!アイツの目を潰してきてくれ!」
「分かりました!シュッ!シュシュッ!」
一華はのろのろとした動きで目潰しをかけたが、片手で払い除けられていた。
「何で今度は避けられてるんだよ……」
「何でって………アホー!」
「ひなちゃーん!バス乗りなよー!」
宿泊研修が終わり、各々の思いを乗せてバスが走り出す。
楽しかった者、やはり苦手だと思った者、友との関係が一歩進んだ者。
途中、景色が開けた場所から山が秋の彩りを見せる。
車窓に張り付いて外を見る日向の頬は、10月の山の紅葉のように真っ紅な装いを見せていた。
もっと上手く書けたらなぁと思った回でしたぁ




