14.普通の女の子として
「痛ったぁ……つぅぅぅ……」
1日明けて、日向は学校を休んだ。
昨日の事があって、正直学校に行くのが嫌というのもあるが、それ以上に体調が優れなかった。
「初潮を迎える」女になったからには、いつかは来ると思っていたが、タイミングは最悪だった。
「風邪やと思ったんやけどなぁ……」
「ひなちゃん、湯たんぽ持ってきたでぇ」
母の陽子が、湯たんぽと軽食を持って部屋に入ってくる。
初潮を迎えた事を伝えた時は喜んでくれた母だが、日向の顔色を見て何かを察してくれたのか、あまり触れないないようにしてくれている。
「ありがと、お母さん…あっ、結構気持ちいいかも……」
「ゆっくりしててな。なんか欲しいもんあったら何でも言ってな」
「うん、ありがとう。ごめん……ちょっと横になっとくわ」
皆んなこんなに痛いのだろうか?
それとも重い日はもっとしんどいのだろうか?
何でか涙も出てくるし。
世の女性が男に生理を体験させたいと言うのが、少し頷ける。
今は何もやる気が起きないし、起き上がるのも嫌だ。
「なにこれ゙ぇ…泣きたくないのに涙がぁ……」
「そういうもんやから大丈夫やで、ちょっと寄って、隣行くから」
「ゔぅぅ、お母さん好きぃぃ」
母が隣で一緒に寝てお腹をさすってくれる。
こんなに甘えて大丈夫だろうか、凄く申し訳ない気持ちになってくる。
これから毎月こんな気分になるのだろうか?
何も考えたくないのに、昨日の出来事も頭から離れず、頭の中がぐちゃぐちゃになったみたいだ。
「生理ってこんなん?もうしんどいわぁ……女の子辞めたいぃ……」
「初めてにしては重めやなぁ、軽い痛み止めあったかなぁ…」
そう言うと、部屋から出ていき薬を探しに行った。
母がいなくなり1人になると、とんでもなく寂しくなる。
どうしたら辛くなくなるのか、誰でもいいから代わってくれ。
そう言えば、あれから教室はどうなっただろう。
クラスは元通りになるのだろうか?
一華と巴が学校に来てたら、怒ってくれるだろうな。
あんなアウェイの中、自分の味方をしてくれた実里と健人は大丈夫だろうか?
バカみたに大声で言いやがって、前田には一度説教だ。
春樹は………
「痛っ……ハァ……」
アイツとは、しばらく顔を合わせたくない。
男だろうが女だろうが、友達にである事に性別は関係無いだろう。
だいたい何だ男女って、自分らしくある事を否定しないでいてくれたクセに、誰も好きにならないって……
「ひぐっ……なんなんよぅ……グスッ……」
好きで女になったわけじゃない。
男に戻りたいと何度願ったことか。
わけも分からないまま、この時代にこの身体で必死に生きてるんだ。
それなのに友達も自由に選べないなんて、あんまりじゃないか。
「グスッ…うぅ………もう嫌」
どんな顔して学校に行けばいいんだろう。
泣いても泣いても涙が出てくるのは、生理中のホルモンバランスの乱れのせいだ。
そうじゃないなら、男の夏野日向はどこに行ったというのか。
カーテンも閉め切った薄暗い部屋は、まるで外との繋がりを拒絶しているようだった。
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下の階の話し声で目が覚める。
いつの間にか寝てしまっていたのか、時計を見ると16時を過ぎていた。
寝て頭がスッキリしたのか思考は割と冴えているが、昨日の事を思い出すと暗い気持ちになる。
晩御飯に呼ばれるまでは布団から出ないでおこう。
そう思っていると、部屋の扉がキィっと音を立ててゆっくりと開いた。
「……ひーちゃん?起きてる?」
「ひなちゃーん、大丈夫ー?」
「あ…2人共、風邪大丈夫なん?」
「あ、起きてた。うん、私たちは大丈夫だよ」
一華と巴が近くまで来てくれて、しばしの無言が訪れる。
2人になんて言おう。昨日の出来事を説明しようにも、どこから説明したらいいやら……
「ひーちゃん、ごめんなさい。大変な時に一緒にいられなくて、ごめんね…」
「いっちーは悪く無いって!」
「私も、ごめん。ひなちゃんの事支えるって思ってたのに。学校でね、話し聞いたよ。辛かったよね。」
「ともちゃんも!大丈夫やって、ウチそんなに……」
2人の視線はまっすぐ日向を見ており、純粋に自分の事を心配してくれてるのがわかる。
この2人相手に誤魔化した所で、また怒られるだけだろう。
包み隠さず、話す事にする。
「……めっちゃ泣いちゃった。明日から学校行くん嫌やもん」
「大丈夫だよ。私といっかちんがいるからね」
「ハルのことも……悲しかった」
「一ノ瀬君のこと、怒っておきました!ビシッと!」
「いっかちん怖かったよー、実里ちゃんから事情聞くや否や、一ノ瀬君の胸ぐら掴みに行ってさぁ」
「あ、ちょっと!そんな事まで言わなくていいんですよ!」
いつも通りの彼女たちに戻って、目の前でぎゃーぎゃーと戯れ出す。
変わらず側に居てくれる。それがどれだけ心強いか、心に火が灯るように明日の不安がかき消える。
「ぷふっ……いっちーってさ、たまに凶暴になるよな」
「凶暴!?ひーちゃんに言われたくありません!いつもひーちゃんのこと誰が止めてると思ってるんですか!」
「いっかちんは一線越えると怖いからねぇ。今日、前田にもね……」
「ともちん!やめなさい!」
2人のやり取りを側からゲラゲラ笑いながら見ていると、いつの間にかお腹の痛みも和らいでいた。
明日はいつも通り学校に行こう。
辛くなったら、2人に励ましてもらおう。
日向が自分らしくいる事を受け入れてくれるこの2人がいるなら、誰にも自分を否定させない。
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「ふぅーーー、よしっ」
深呼吸の後、春樹の家のインターフォンを鳴らす。
この前と同様、百合子さんが出てきて対応してくれた。
「あら、日向ちゃん。体調大丈夫?あの子まだ寝てるわ」
「百合子さん、ごめんなさい。実は…ハルと喧嘩しまして……」
「えぇっ!?え、体調悪いって、け、怪我とかしてない!?大丈夫!?」
「ふふっ、流石に殴り合いじゃないですよ…でも、しばらく許せそうになくて、しばらく起こしに来ないと思います」
「そっかぁ…うん、ごめんね日向ちゃん。うちの子にも言っておくわ。わざわざありがとうね」
「百合子さんも、お仕事忙しいのにすいません。お願いします」
ちらりと2階の窓に目をやるが、まだ寝てるのだろう。
しばらく春樹とは顔を合わせたくない。
無理に距離を詰めてもお互いの為にならないだろう。
「それじゃあ、いってきまーす」
「うぅ…いってらっしゃーい……」
ドアがパタリと閉まり暫くすると中から大声で春樹を呼ぶ声がした。
いい気味だ、しばらく反省していろ。
少しの不安を抱えた足取りで学校への道をゆく。
当分、この道を1人で歩く事になるのだと思うと、やはり少し寂しいな……
学校に着くと校門の近くの花壇に一華と巴が座っていた。
恐らく待っていてくれたでだろう2人に、勇気が湧いてくる。
「いっちー!ともちゃん!おはよーさん!」
「あ、おはよ!ひなちゃん!大丈夫そうだね」
「おはようございます。一緒に行きましょう」
下駄箱で上靴に履き替え、5年1組の教室がある2階へと上る。
この上靴も少し小さくなってきた。
身長もちょこっと伸びてきている。
まあ、結構小さい方ではあるけど……
でも、まだまだ子供なんだから、これから大きくなるだろう。
教室の前に来て、また深呼吸をする。
大丈夫、2人がいてくれる。
「ひーちゃん、大丈夫?」
「うん、いける」
ガラッと扉を開け一歩二歩と中に入ると教室の反対側に前田がいた。
「あ、夏野……その……」
「ともちゃん、これ預かっといて」
「えっ?うん…どうし…」
巴の返事もそこそこに聞いて、全速力で走り出す。
一歩、二歩、三歩——六歩目で破れた上靴を気にも止めず、思い切り踏み込んで飛び上がる。
そのまま、前田の胸に目掛けて渾身のドロップキックを叩き込む。
「ごえぇっ!!」
「ぐえっ」
「ひ、ひーちゃぁん!なにやってんですかぁ!?」
「ひなちゃん!?ちょっとぉ!!」
ドロップキックって綺麗な着地無理じゃないか?
思いっきり腰と肩を打った。
まあそんな事はどうでもいい。
「おうこらボケ……」
「いてぇ…な、何だよ謝るって!」
「あぁ!?お前……よくもウチの友達おちょくってくれたなぁ!!いてこましたるわボケェ!!」
「そんなんだから男女って言われるんだろ!」
「……ハッ!どうでもええねん!なんと言われようが、これがウチや!夏野日向をナメんなや!!」
誰が呼んだのか担任はいつもより早く教室に来る事になったが、それまでの間、周りの静止を振り切って大喧嘩をしてやった。
担任からは配慮されつつもお説教をくらった。
まあでもいいじゃないか、まだまだ子供の喧嘩なんだから。
晩御飯の鶏のパン粉焼きを作りながら投稿しております。




