12.男子と女子と
夏以降、特に変わった出来事もなく季節が巡り、日向達は5年生となった。
学年が上がり変わったことと言えば、放送委員会に入った事ぐらいで、変わらぬ日常を過ごしていた。
「ゆうちゃん、中学校どう?」
「またそれかいな…どんなけ心配なんよ」
「中学校って大変そうやねんもん」
「大丈夫よ、部活もまぁ、楽しいし…朝練行ってくるわ」
中学校のジャージを着て家を出る夕陽を見送り、自分も少しの気怠さを感じながら出発の準備をする。
心配し過ぎなのだろうか?
記憶の中の夕陽より、楽しそうにはしてるが…
姉の学年に知り合いでも作っておけば良かったと思いながら、去年より少しだけ大きくなった歩幅で通学路を歩く。
春樹の家のインターフォンを鳴らし家に入ると、百合子さんは既に仕事に行っていた。
2階へ上がり春樹の部屋のドアを開けると、いつも通りベッドで寝ていた。
「もう起こしに来ること前提やん…起きろー、ウチかて眠いっちゅーねん」
ぺちぺちと頬を叩いて見るが、身じろぎをするだけで目を覚ます気配は無い。
また少し身長が伸びただろうか?
5年生になりしばらく経ったが、男女の成長の違いなのか、身長は頭一つ分離されてしまった。
「なかなか起きひんな…どうしよ……」
一応女の子らしくすると言った手前、乱暴な事は控えるようにしている。
毎朝起こしに来ているが、周りから見て大丈夫なのだろうか。
中学を卒業した時に、百合子さんに「夏野君が女の子だったら結婚させてた」と言われた事があるが……
「ふっ……無いな。水でもかけるか」
「!?……今水かけるって言った?」
「なんや、起きてたんかいな。はよ朝ごはん食べやぁ」
「いや、びっくりして今起きたんだよ…なんかダルそうだな…風邪?」
「いんや、熱もないし。朝ごはん、サンドイッチやったで」
春樹が朝食を食べてる間、暇なので髪をお団子にして遊んでいた。
色んなセットが出来るから髪を切るのが勿体無いと思ってしまうのも、男の時は考えた事も無かった。
「……?なんや?お団子珍しい?」
「いや、器用だなぁと思って」
「あぁ、ともちゃんがな、色々やってくれるうちに出来るようになってん。今ではウチも趣味みたいなもんや」
「そういうの見ると女子だよな。ひなはゲームとかの趣味は男っぽいけど」
「……たしかに、女の子っぽく無いかなぁ」
側から見たら、アクションゲームやラジコンで遊んでる日向は男っぽい趣味の女子だろう。
いまだにクラスの女子の話題について行けないこともある。
「いいんじゃね?藤宮もプラモとか好きなんだろ?そういう女子がいても良いだろ」
「うん……せやんな。ウチらしさっちゅーことで!」
男である春樹の目線から見て、変に映らないのなら問題無いのだろう。
2人で一ノ瀬宅を出て通学路を歩きながら、男子の下世話な話で盛り上がっていたところ、新しい女子のクラスメイト、八木実里が声を掛けてきた。
「やあやあご両人、相変わらず仲良いね」
「おはよ実里ちゃん。今男子の間では、女子にランク付けるのが流行っとるらしいで」
「あー、それ聞いた。アタシ怖くて聞いてない」
「そういやウチも聞いてないわ。いざ聞くとなると…ちょっと緊張するかも…」
思い返せば、今まで複数人から容姿の評価を下された事など無かった。
どうなんだろうか?自分的には、結構愛嬌のある顔だと思うのだが……
「ひなでもそういうの気にするんだな」
「ハル、お前はウチに票入れろよ。明日から起こしに行かへんぞ」
「何でだよ。てか、投票制じゃねーよ」
「えっ?日向が春樹を起こしに行ってんの?なんで?」
「えっ、まあ…遅刻しよるから…」
「ほへぇ……世話焼き女房じゃん。」
周りの人間には周知の事実だが、言いふらしているわけでも無いので、春樹を毎朝起こしに行ってるのは意外と知られていないのかもしれない。
実里は目を丸くして驚きつつも、納得顔でわざとらしく頷いた。
「そりゃ付き合ってるって噂流れるよ…君たち距離感バグってんね」
「男子と女子やからこその噂やなぁ……小5って男女はっきり分かれる時期やし」
「……そうなのか?」
「まっ、言うても人それぞれや。気にせんかったらええねん」
教室に着くと各々のグループに別れる。
ロッカーに荷物を置きにいくと、巴のランドセルが無かった。
だいたい一華と一緒に登校しているので本日はお休みだろうか。
「おはよーさん。いっちー、ともちゃんは?」
「ひーちゃんおはよう。ともちんはね……ともちんは…………えーっと」
「いや、無理にボケやんでええよ…」
「風邪です。朝見た時は結構辛そうでしたよ。お見舞いも来なくていいよって」
巴が風邪を引いてるとは珍しい。
自分が知る限りでは初めてだが、確かにクラスでは先日から風邪が流行していた。
「ひーちゃんは大丈夫ですか?」
「ちょっと頭痛いぐらい、大丈夫やろ」
「もう…辛くなったら保健室行ってくださいね」
「うん、やから体育は見学や。キックベース楽しみやってんけどなぁ」
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4時間目、体育の授業
クラスメイトが楽しそうに授業を受けているのを、少し離れたところで見ている。
暇な時間を過ごすことになると思っていたが、隣にはもう1人の見学者、青葉健人がいた。
「なんや、お前も見学かいな」
「おぅ……」
「愛想悪っ。なあ、マルバツゲームしよーや」
「お前ほんとに意味わかんねぇ」
困惑する青葉を無視して、日向は彼の近くにゲームのマスを描き、真ん中に丸を描く。
日向の促すような視線に、青葉は仕方なく丸の横にバツを描く。
「お前、気まずいとかねぇのかよ」
「んー?ウチはもう気にしてないで」
「……悪かった」
「やから気にしてないっちゅーねん。あ、でもいっちーは許してないで…見てみ、あの顔」
2人で授業をしてる方を見ると、一華が踏み潰した虫でも見るような目でこちらを見ていた。
わかってはいた事だが、一華は今だに許してはいないようだ。
「うぐっ……」
「キヒヒ……いっちーは頑固ちゃんやからな。なかなか許してくれへんでぇ」
「……何でお前は普通に話すんだよ」
「せやなぁ、ずーっと嫌いってのも面倒くさいし…お前あれから孤立気味やろ?そこで、ウチと仲直りしたら友達出来るきっかけになるやん」
日向は昔から、出来るだけ自分がいるコミュニティは平和であって欲しいと無意識に動く癖がある。
人に腹を立てる事もあるし、喧嘩をすれば顔を合わせないようにもするが、一度関係が出来た者を遠ざける事が苦手であり、仲を取り戻そうとする。
今回も同じクラスという括りを、ある程度平和に保とうと考えての事だ。
「お前、いい奴だったんだな」
「なんや今更かいな。友達の為にヤンキーと殴り合う奴やぞ。ええ奴に決まっとるやろが」
「いや、ごめんって」
「イタタッ!ほっぺた痛なってきたわぁ。誰かさんが殴ったせいで」
「くそっ、謝る事しかできねぇ」
青葉の背中をバシバシ叩きながら大笑いする日向。
担任含め、クラスの殆どがその光景を見ており、去年あった窃盗騒ぎから続いていたある種の緊張感が、少しだけ和らいだ気がした。
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「私はひーちゃんほど心が広いわけじゃないですからね!」
体育が終わり給食の時間、コーンスープに浸したコッペパンを齧っていると、一華がそんなことを言い出した。
「んあ?健人のこと?」
「な、名前呼び……そ、そうです!私は許してませんから!」
「そらそうやろ、ウチも自分のやったらめっちゃ怒ってるよ」
基本的に人と仲良くなりたい日向は、その分悪意にも敏感だ。
子供で魔が刺したとはいえ、私物の窃盗なんて悪意の塊を自身に向けられたら、結構傷つく。
「もうちょっと一緒に怒って下さいよぉ」
「ごめんごめん、お詫びにぎゅーってするから許して」
「そ、そんな事で誤魔化されっ、あわわわ」
もがく一華を後ろから抱きしめることで、一連の流れを誤魔化す事に成功する。
この上なく御し易い。
「もう……そういえばひーちゃん、あんまりご飯進んでませんね。いつもは早く食べ終わっちゃうのに」
「あー、うん、なんかあんま食欲無くてなぁ。頭も痛いしホンマに風邪かもなぁ」
「明日はお休みかもしれませんね…そういう私もちょっと喉がイガイガしてきました」
「給食残すんはなぁ、あ、せやハル!パン半分食うてくれ!」
少し離れた所で、男子と給食を食べてる春樹に声を掛ける。
日向がパンを半分に千切って持って行くが、どういうわけか春樹が目を合わせようとしない。
「いや、いいよ」
「えっ、なんでやねん。お前いつも腹減った腹減った言うてるやんけ。助けてちょーだいな」
「だからいいって!」
「あぇっ」
変な声が出た。じゃない。
普段の春樹なら「サンキュー」と言って受け取るような他愛のない事だと思うのだが、結構な音量で拒否されてしまう。
何か気に入らない事でもあったのだろうか?
「びっくりしましたぁ。どうしたんでしょう?」
「……なんやアイツ、イライラしおって、生理か?」
向かいに座る一華が勢いよく牛乳を吹き出し、結果的に日向の給食は全て食べられなくなった。
担任の先生にも、一華にもすごく怒られました。
私事ですが、小学校から中学校まで、毎日お越しに行ってる幼馴染が本当にいました。




