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11.前を向いて



 これは夢だろう。

 意識がある夢というのは初めての事だった。

 薄くモヤがかかったような視界が、自分の置かれてる状況を把握させてくれた。


 (忘れてないよ……見んようにしてただけ……)


 自身を見下ろすと、見慣れているのに最近はご無沙汰だった、男の体となっていた。

 ゴツゴツした手に、丸みの少ない体つき。

 日向は今、自分が買った家のリビングにいた。


 (あの時のまんま……せや、2人は?)

 

 気づき、寝室の方へ向かう。

 廊下を抜け寝室に入りベッドを確認する。

 すると、2人は穏やかな寝息を立ててと眠っていた。


 (あぁ、良かった。)


 自身の生きる意味となった妻と息子。

 夢だとしても、モヤがかかっていても2人の姿が見れて、どうしようもなく愛しく思う。

 このまま、あの夜に帰る事は出来ないのだろう。

 それでも夢が覚めるまでは、一緒に居たいと思った。


「……あい」

 

 その時、鈍い音と共に頭が割れたような痛みを思い出した。

 思わず頭を抱えてかがみ込む。

 あの時何があったのか、未だに分からない。

 2人を残して、自分は死んだのだろうか?


 確認するのが怖い。

 確認したら、まるで本当の出来事になってしまうのでは無いか。

 心臓が、振り向く勇気を削り取るが如く早鐘を打つ。

 鉛のように重たい体で、ゆっくりと2人の顔を見る。



 ベッドには、誰もいなかった

 


 「ーッ!!!ハァッ……ハァ…っ」


 飛び起きると同時に、呼吸がどんどん早くなっていき、苦しくなっていく胸を抑える。

 分かっている。

 今見たのはただの夢だろう。

 だが、もし夢では無かったら?

 何が夢で何が現実なのか、自分でも分からない。

 もしかしたら、そもそも前の人生なんて無かったのかもしれない。


 「ひ、ひなちゃん?大丈夫!?」


 「凄い汗……ひーちゃん、大丈夫ですからね。私達がいますよ…」


 「あぃっ……息っ……」


 2人が肩に手を当て声を掛けてくれるが、先ほどの光景が頭から離れない。

 どれほどの時間そうしていたか分からない、外から新聞配達のバイクの音が聞こえてきた頃、体の震えが収まり、呼吸がまともに出来る様になってきた。

 早朝の3時ぐらいだろうか?

 2人を起こして迷惑をかけてしまった。

 

 「2人とも……もう大丈夫」


 「……ひなちゃん」


 「ごめんなぁ、度々こんなんで…もう大丈夫」


 「ひなちゃん、あのね」


 巴が叱るような口調で、ゆっくりと続ける。


 「私はひなちゃんの悩み、分かんないよ。でも辛いことがあるなら、辛いって言ってよ。それとも、私達ってひなちゃんにとって、弱音吐けないほど信頼ないの?」


 「ともちん、今はちょっと…」


 「ひなちゃんが、何か抱えてるのは見てて分かるよ。でも言ってくれなきゃ、分かんない事もあるよ。お願い、話してよ…じゃないと慰め方も分かんないよ……」


 しょうがないじゃないか、自分の気持ちを伝えるのが苦手なんだから。

 大人だから、自分を誤魔化して、周りに迷惑かけないようにする方が楽なんだから。

 子供の頃は素直な子と言われていた。

 思った事を言って、怒りたい時に怒って、泣きたい時に泣いて……

 だからか、この体になって何回泣いただろう?

 辛い事があると、すぐ涙がでてしまう。

 

 「……自分でも…どうしたらいいか分からんの……理由も……でも、しんどいよぅ…」

 

 1年間、楽しくやってきた。

 しかし同時に、考えないよう蓋をしていた事もある。

 もしかしたら、あの幸せは無かったものだったのかもしれない。

 このまま2人とはお別れなのかもしれないと。


 「考えやんようにして……でも……」


 「グスッ…泣かないでよ……ほら、こっちおいで」


 「ごめん…しんどい……もう嫌や…辛すぎるよぉ……」


 「うん、また話聞かせてくれる?ひなちゃんが悩んでるの、私も辛いから…」


 「うん…いっちーも……一緒におって……」


 「あぃ。ひーちゃんの辛い思い、分けて下さい…」


 この世界で生きていくなら、向き合わなくてはいけない事がある。

 諦めたくは無い。希望は持っていたい。

 それでも今は、理由も聞かず一緒に涙を流してくれる2人に、ちゃんと報いよう。

 窓の外が少し明るくなる頃、3人は1枚の布団で窮屈なほど抱き合って眠っていた。



————————————



 「ウチな、ちゃんと女の子らしくするわ」


 朝食後の散歩中、3人で川に足をさらしながら、日向なりに今言える事を2人に少しづつ話していく。

 自分の弱い部分と、不安なこと、現実と向き合うために。


 「ひーちゃんはちゃんと女の子ですよ?」


 「ううん、ちゃうの、これは気持ちの問題」


 麦わら帽子から覗く表情は、いくらかスッキリした面持ちだった。


 「踏ん切りつかへん事がいっぱいあって、これはそのうちの一つ」


 「何悩んでたのか、ほんとは今知りたいけど?」


 「それは……ごめん、まだちょっと話せへんかな…」


 「えー?もう、秘密主義だなぁ」


 2人に全てを打ち明けたら、恐らく受け入れてくれるだろう。

 でもそれでは、2人に甘えているだけだ。

 自分も、2人を支えることができるようになれたら、その時はきっと。


 「あ、それとな、ウチな中学入ってちょっとしたら、多分無茶することになる」

 

 「……青葉君の時みたいにですか?」


 「わからん。でな、その時はウチのやる事、止めんといて。ちゃんと理由もあるから。それが終わったら、2人に話せたらいいなぁって…」


 「なんだか具体的に言いますね……危ない事なら、やめて欲しいですけど…」


 「そういえば一ノ瀬君が言ってたよ。『ひなはたまに未来のこと話す』って。もしかして、預言者?」


 アイツ……言いふらしてるのか。

 変に勘が鋭い奴なので注意しなくては…


 「ちゃうよ、未来人」


 「あっ、今何か誤魔化した?」


 「いーえ、誤魔化しておりませんとも、ウチといっちーは、20年後からきた未来人なんや!」


 「黙っててごめんねともちん……タイムマシンを作ったのは25年後のともちんだよ。」


 「もー!いっかちんも乗っからないでよ!」



————————————



 「ハル!お前、ともちゃんにウチの予言ごっこの話ししたやろ!」


 「あれごっこ遊びだったのかよ…」


 2人が帰った翌日、宿題をしていた春樹の部屋に押し入り問い詰める。


 「あんまり周りに言わんといてや!変な奴やと思われるやんか」


 「いや、男子の間ではもうすでに変な奴だと思われてるぞ?」


 「えぇ…なんでやろ……関西弁があかんのかな…」


 「そういう問題でもないと思うけど……っていうかどうした?今日は何か、その…」


 「ん?あぁ、この服?いっちーとともちゃんにな、女の子らしくしたいんやったら服からって。ワンピースって初めて着たけどええなぁ」


 特段珍しくもないノースリーブのワンピースだったが、普段の格好がボーイッシュなものばかりだったので、春樹からすると凄く女の子らしく見えた。


 「ちょっと心境の変化もあってな、ちゃんとオシャレしよっかなって、男の子から見てどう?似合ってる?」


 「うん……面と向かって言うの恥ずかしいけど、似合ってると思う…」


 「そ、そっかー、なんか嬉しいやら照れくさいやら…」


 しばし無言が続き目を逸らそうにも、逸らしたら本気で照れてるのがバレるみたいで、2人とも固まってしまった。

 その後も5秒ほど硬直状態が続き、パンクしそうになった頃、日向が根負けした。


 「あ、あかん、ゲームしよ、ゲーム…一回リセットしよ」


 「お、おう。せやな。」


 「イントネーションきもっ」


 気恥ずかしい空気を断ち切る為にも、2人でゲームをする事にした。

 春樹とこんな雰囲気になるとは思っても見なかった日向は、ソワソワして落ち着かない気分になる。

 そのままゲームを始めるが、気づけば元通りいつもの空気感に戻っていた。


 「コイツずっと空飛んでるよな」


 「これ来るかな?あ、多分こーへんわ。エリア移動」


 「狭いとこ行ったな……そういやさぁ…」


 「ソイヤッサ!はい、どした?」


 「心境の変化ってなんだったの?」


 「んー?あー、なんていうか、ちゃんとこの世界で生きましょうって感じかな、色んなものに向き合おうって」


 「ほー」


 「お、尻尾切れた」


 「……」


 「……」


 「それってさー」


 「んー?」


 「ごっこ遊びと関係ある?」


 唐突な核心を突く言葉に、心臓を鷲掴みされたようだった。

 バッと春樹を見ると、してやったりと言わんばかりの顔をしている。


 「お、おおおま、おまっお前!」


 「あ、ひな、力尽きたぞ」


 「〜〜〜ッッ!!どいつもこいつ子供らしく無さすぎやろっ!!」


 「いや、お前が言うなよ」


 「……ハルにも、そのうち言うから。待っとって!」


 「うん」


 ちょうど門限も近づいており、そのまま帰ることになった。

 昨日は一華と巴に慰められ、今日は春樹に手玉に取られ。

 これではどっちが子供か分からないじゃないか。

 まだバクバクと鳴る心臓を鬱陶しく思いながら、げんなりした気持ちで帰路に就く日向であった。



とりあえず投稿するつもりもなく書き溜めてたのですが、打ち止めですじゃ。

これからゆっくり投稿していきますじゃ。

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