10.誕生日の女の子
右を見ても左を見ても大量の下着がディスプレイされており、マネキンまでもが下着姿……
いたたまれない思いを抱きながら、日向はおずおずと店内に入っていった。
「ともちゃん!ウチあかんことしてる!悪いことしてる!」
「何言ってんのさ、ほら行こ」
日向がまだ入り口付近で滞留している間に、一華と巴はズカズカと店の奥に入って行くと、何の躊躇もなく店員に声をかけた。
「すいません。この子の…あれ?あ、ひーちゃん、早くおいでよ」
「うぅ…ようそんな自分の家みたいに歩けんなぁ……ウチ目ぇのやり場に困るわ」
「この子初めてで、採寸してあげてください」
「わかりました。では、こちらで測りましょうね」
店員のお姉さんと一緒に試着室に入り、上の服を脱ぐ。
そういえば人に胸を見せるのは初めてかもしれない…変じゃ無いだろうか?
これから大きくなってきたら、また別の悩みも出てくるのだろうか…
「じゃあ、測っていくね。ちょっと冷たいよ」
「ひぇっ……うー、あかん恥ずかし過ぎる……」
「大丈夫だよ、私も同じぐらいの時に買いに来たなぁ」
「なんか、先っちょが痒くなるんです。変じゃ無いですか?」
「それならワセリンを塗ったりして保湿するのがいいかな?あとは、肌に優しい素材のブラが良いと思う。」
「あ、えっと…おまかせします……」
採寸が終わり、お姉さんに説明を受けながら候補をいくつか持って来てもらう。
ショーツはもう慣れたし、ブリーフみたいなものだと思いあまり抵抗もなかった。
でもコレは、少し難易度が高い気がする。
「それで?ひなちゃんどれにする?」
「シ、シンプルなやつで!この3つセットのヤツでいいです!」
「可愛いヤツにしたら良いのに…でも、いっぱいあった方がいいですね」
2人にお会計を任せ、一枚は付けて帰ることにした。
「おぉぉ…すごいすごい、痛く無いし……おほー!動いても擦れへん!」
「あんなに恥ずかしがってたのに……」
「おーい!ハル!」
店の外で待つ春樹のところまで走って行く。
まだ恥ずかしいのか、あまり目が合わない。
「お、おう。どうした」
「ハル、ブラジャーは凄いぞ!」
春樹が吹き出し、百合子さんにチョップされた。
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もうもうと湯気立つ露天風呂に、片足を少し浸し温度を確かめる。
少し家の風呂より熱めの湯加減に満足し、全身をゆっくりと浸けていく。
ふぅーっと息を吐き空を見上げると、夕焼けに染まる雲が目に留まる。
「綺麗やなぁ、女湯の方が風情あるやんか」
「えっ、男湯がどうなってるか知ってるんですか?」
晩御飯の後、家の風呂では3人で入るには手狭だったので、近所にある銭湯に来ていた。
ここは小さい頃から通っており、帰省した時もたまに立ち寄るぐらいには、よく利用する銭湯だった。
もちろん、女湯の方は初めて入ったが。
「えー?あ、ハルに聞いたんよ。男湯は屋根ついてるし、隣の林から木が邪魔してあんまり空見えへんって」
「ほんと一ノ瀬君と仲良いよねぇ、私的にはちょーっと嫉妬しちゃうんですけど?ねぇ、いっかちん」
「ともちんの言う通りですよ!その、ほんとに付き合って無いんですか?」
「ひょぇ、またそれかいな。無い無い、ええ奴やけど、アイツはそのうちええ人見つけるで」
そう言い、温泉を楽しみながら自分の体を見下ろす。
少し膨らみ始めた胸や体つきは、これまでと違い女性らしくなってきたのだろう。
複雑な気持ちを抱えながらも、少しこの成長を嬉しく思う自分もいる。
「もうちょっと、大っきい方が…」
「大丈夫じゃない?ほら、私もそんなに変わらないし!」
「ちょい!恥じらい持ってや!」
「女の子同士だし良いじゃないですか」
「ウチが恥ずかしいの!今日かてめっちゃ勇気出して来たんやで…」
目のやり場に困った日向は、端の方へ移動して背中を向ける。
今は同性とはいえ、男女が曖昧な存在としては見るのも見られるのも、ソワソワして落ち着かない。
「ひーちゃんって、さばさばしてるのに結構照れ屋さんですよね。ピュアというか…」
「わかる。あとね、凄く大人っぽいんだけど、抜けてる所があって可愛いよね。私、転校初日にひなちゃんがランドセルぶちまけた時、絶対友達になろうと思ったもん。」
「まだ言うてる!もぉ〜忘れてぇや!あの時の事思い出したらお腹キュッってなんねん」
「なんだかんだ言いつつ、女の子らしい物に興味があるのも、見てて応援したくなります」
「あとはね、身だしなみにすっごい気を遣ってるよね!髪とか一生懸命梳かしてるの見てるとギューってしたくなっちゃう」
「わぁ!こっち来んといて!」
貸し切り状態なのをいい事に姦しく盛り上がる。
2人が近づいて来ては離れてを繰り返し、露天風呂の中をグルグル回っている。
いい加減出ようと、湯船から上がる。
「み、見やんといて…恥ずかしいから…」
「ムフフ…」
「良いではないか良いではないか」
ーーーーーー
家に帰り寝支度を済ませると、10歳としては寝ていてもおかしくはない時間になっていた。
しかし今日はお泊まり会、夜更かしの大義名分はあるだろう。
「ひなちゃんの部屋って、なんとなく秘密基地みたいだよね」
「狭くて物が多いからかな?一応片付けては居るけど…」
「居心地良いですよねぇ、大人っぽい雰囲気です」
「遊ぶもんは少ないけどなぁ、2人共ゆっくりしといてな」
そう言いながら勉強机に向かい、日記に今日の出来事を記していく。
思い返せば、皆んなのおかげで充実した誕生日だった。
ブラックコーヒーが飲めなかったことだけが唯一心残りだ。
「え!日記つけてるの?すごっ、まめだね!」
「私も言われて書いてたことありますけど…あんまり続かなかったです。」
「ウチもこんなに続けれるとは思わんかったよ。てか、なんか恥ずかしいから覗かんといてや?」
ルーティンと化したコレも、読み返せば意外と面白いし、ストレスの解消にもなるらしいので続けている。
そして、もしかしたらいつの日か、この身体を元の夏野日向に返す時が来るかもしれない。
仮にそんな事があれば、日記をつけていれば役に立つだろうと、辞める事も出来なかった。
日記を書き終わると、2人は寝転がりながら小さい声で話し込んでいた。
こちらに気づくと、新しいオモチャを見つけた様な笑顔になり手招きをしてくる。
「なんなん、ちょっと怖いんやけど…」
「ふっふっふ…ひなちゃんってさぁ、どんな人がタイプなの?ちなみに私は男らしい人が好き!あと、面白い人!」
「私は落ち着いてて優しい人がいいなぁって。理想は、私の趣味を一緒に楽しんでくれる人がいいです。」
これは、いわゆるガールズトークという奴だろう。
女の子のお泊まり会といえば、こう言う話題は鉄板だなのか……いや、男も修学旅行の話題は意外とこんなのばっかりだったか。
「タイプなぁ…結構バラバラやったかなぁ?まぁ、好きになった人には、尽くす方かも?」
「……という事は好きになった人、いたんですね?」
「……誘導尋問やん。そら、多少はあるよ」
「グググ……羨ましい…」
「ひなちゃん大人っぽいからねぇ、同級生では無さそう。年上かな?」
「それは秘密やわ、でも、一緒におってオモロい人がええかなぁ」
布団を被り3人で川の字になる。
その後もあれやこれやと話し込み、気づけば23:40となっていた。
豆電球を消し、完全に暗くなった部屋で2人の寝息が聞こえてくる。
幸せな誕生日になったと素直に思えるような良い日だった。
せっかくの小学生としての夏休みだ。
2度と戻るはずのなかった夏休みに帰って来たのだ。
それだけで、十分すぎるほど幸せな事だ。
明日は何をしようか、そんな能天気な事を考えていたから、罰を受けたのだろう。
こんな誕生日送りたかったなぁ




