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ただの男性

「え…」


メイはサラリと終わるはずだったため、エルガーが引き下がらないとは思ってもいなかった。

なんの思入れのないメイにエルガーは何が良くて惹かれたのだろうか。


「仕事に精を出していたため、はじめはなんとも思っていなかったのですが、実はかなり乗る気になりました。領地にいる為、お噂はあまり聞かないのですが、真面目で貞淑な方だと伺っておりましたし、なにより領地運営に興味があるとか。私の求めていた妻の像そのものです。」


メイは何が起こっているのかわからない。


「その手、土仕事をしたことありますよね?」


エルガーが指摘されて、メイは慌てて手を隠す。

確かに昨日はローズガーデンの手入れをしていた。


「恥ずかしい手です。」


棘で傷ついていたし時には土を運んだりもしていたので、メイの手は令嬢の絹のような肌の手ではなく、あまり綺麗とは言えなかった。

他の人は庭師に任せたり指示をしているだけかもしれないが、他人任せに作ったローズガーデンを自分が作ったなんてメイは思えない。

力仕事も害虫駆除も剪定も、はじめは騒ぎながらしていたけれど、手をかけた分だけ薔薇達が応えてくれるように綺麗に咲く。

メイはそれが嬉しかった。


「領地運営では家族みんなで時には綺麗とは言えない仕事もしなければならないこともあります。パーティー大好きなご令嬢にはきついかもしれません。だからこそ貴女のような人が良いのです。」


爽やかな笑顔をエルガーがメイに向ける。

なんだか圧力を感じるのはみなぎる自信と筋肉のせいだろうか。


「いや…でも…」

「それは心に決めた人がいるからですか?」

「いえいえ、それは全くありません!」


メイはリオンの顔が浮かんだが慌てて打ち消した。


「あまり無理強いするのもよくないですからね。先ずはお見合い関係なく、友人からはじめませんか?」


エルガーはメイの手を取り、手の甲にキスをした。

すぐに頭がカーッとなって熱くなっていくのを感じる。


「噂通りの方ですね。」


エルガーは真っ赤になったメイに微笑みかけた。


恋愛感情ではないかもしれないが、私を求めてくれる人…


メイも好意を持っているだけではないが、急にエルガーを男性として意識して赤面してしまった。

嫌な人でも安全圏内にいる人でもない、ただの男性。


私は勉強不足なのだわ。


メイは何故だかリオンに会いたくなった。


「メイ様、大丈夫でしたか?」


来て早々リオンは私の両手を握りしめた。


「全然大丈夫でしたよ、リオン様。あ、でも何故か友人になりました。」

「友人?それが手口というものです!」

「大げさですよ。」

「大げさではないです!しかも、今日のメイ様は絶対に他の人に見せたくないです。」


リオンがメイをぎゅっと抱きしめた。

メイは何故だかホッとした。

慣れないことをして気疲れしていたのだろう。

メイもそっとリオンを抱きしめた。


「似合わないでしょう?メイドに任せていたらこんなことになってしまったの。」

「メイ様は美しいです。他の男に見せたくないほどに。」


リオンは少し顔を離してメイと見つめ合うが、リオンの天使のような美貌によって説得力は皆無だ。


「ふふ…」


メイは思わず笑ってしまった。

あの倒れた時とは違って、リオンとの身長差もはっきりわかる。

それがとても安心する。


「私は真剣ですよ!」

「怒らないで、リオン様。私、リオン様といて安心したのです。」

「それは嫌です。」


リオンがメイの指を弄ぶ。

何かスイッチを入れてしまったみたいだ。

優しくメイの指をなぞるように触れ、互いの指を擦り合わせるように絡め合わせる。

それを弄ぶと言わずに何と言うのだろう。

くすぐったくて離したいのに、逃げようとすると離してくれない。


「お見合い相手から触れられたりされませんか?」

「…無いです。」

「何も?」

「挨拶くらいです。」

「挨拶は手の甲に、ですか?」


リオンが弄んでいる手をメイとの間に見せつけるように持ち上げる。

メイが答えられずにいると、リオンは手の甲にキスをした。

そして指先へと舌を這わせていく。

メイはフラついてしまい、リオンに体を預けるような形になってしまった。


「緊張しましたか?」

「…緊張というか…頭がぼーっとします。」

「まぁ、いいでしょう。今日は泊まっていってもいいですよね。」

「それはダメです。」


こんなに可愛くて幼い子に翻弄されている。

これは自分の経験不足のせいではない、と思う。

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