第2話 やっぱり初めてのデートは中学生よりましな程度?
喫茶店を出て、私たちは手をつないだ。
無言で差し出した手を彼女が握ってくれたのだ。
私は勇気を振り絞って彼女を見た。
彼女も私を恥ずかしそうに見た。
そこに偶然高校生のカップルが通りかかった。手を恋人繋ぎしていた。
私たちは思わず笑ってしまった。小説ではカップルが恋人繋ぎをしているのを見て主人公たちも恋人繋ぎをするのだ。
「本当にこんな偶然ってあるのね」
「ああ、見たからには仕方ないよね、リョウコさん」
私たちも恋人繋ぎした。
私は高校生カップルに感謝した。
「で、どこに連れて行ってくれるの?」
①街に行って映画デート
②ピクニック
③あじさい寺
「どれにする?」
これも小説と同じだ。
彼女はまた笑った。
「小説と同じなのね。じゃあもう決まっているわ」
私たちはあじさい寺行のコミュニティバスに乗った。始発からなのでバスの座席に座わることができた。
バスの座席は狭い。
私たちは太ももがくっついたままバスに揺られていた。離そうと思えば離させるのだが……もちろん手はつないだままだ。
「実は恋人繋ぎの他に、小指繋ぎとか、指先繋ぎとかいろいろ調べたんだ」
「へー、じゃあやってみる?」
まず、指先繋ぎを試した。彼女が私の指二本をつかんだ。
「これはいまいちね。小さな子供が親をつかんでいるみたい」
次は小指繋ぎだ。約束繋ぎともいう。
「これは良いけど、長く繋ぐと指が痛くなるわね」
最後に手首繋ぎだ。お互いの手首をつかむ。
「これは間違っているわ、これじゃ崖から落ちる遭難者を助けるレスキューよ」
スマホで調べ直してやり直した。
彼女は恋人繋ぎの状態から少し手を上に持ってきて私の手首をつかんだ。腕同士が絡まって密着度が高い。
「これは私たちにはまだ早いわね」
結局、恋人繋ぎに落ち着いた。
あじさい寺はすごく綺麗だった。
山の斜面を利用したあじさい庭園で白やピンク、青紫、赤紫の花がまだかろうじて咲いていた。
(あじさいの花がまだ咲いていてくれてよかった……ギリギリだ)
私たちは何度もスマホで写真を撮った。
小説ではここで高校生の百合カップルにツーショット写真を撮ってもらうのだが……
「近くに百合カップルはいないわね」
「リョウコさんは百合かどうかわかるんだ」
彼女はつないでいる手を少し上げ、見た。
「簡単よ、恋人繋ぎしてたらカップルよ」
「確かにそうだね。気付かなかった……」
「リョウコさんはもう『腐って』いないのかい?」
「私はドロドロに腐っているわ。リョウヘイさん、あなた百合小説とかBL小説とか書いてないでしょうね」
痛いところを突かれた。
「ノーコメント!」
「さては書いてるわね。あとで見せなさい!」
(見せたらドン引きするくらいの内容の小説だから見せられないな。いや、彼女なら喜んでくれるか……)
とりあえず、近くで写真を撮っていた高校生くらいの女の子二人組にお願いして、あじさいの花をバックにツーショット写真も撮った。
お礼に彼女たちのツーショット写真も撮ってあげた。
彼女たちは普通に友達同士だった。
「久しぶりに女子高生と話したよ。一人で行って、女子高生に声をかけたら『事案』だね」
「男が、女子高生に声をかける事案発生ね。ネットに載るわね」
あじさいの小道の中で、少し人通りが絶えた。私は彼女に勇気を振り絞って訊いてみた。
「ここでキスします? リハビリに」
「キスは三回目のデートと決めているんじゃないの。小説ではそうなっていたわ。リハビリに」
(そんな設定にするんじゃなかったかな……)
「あせっちゃだめよ。女の子には準備があるの。それに今、すごくドキドキしているのよ。このドキドキをもっと楽しみたい!」
「確かにそうだね、僕もドキドキしている。中学生みたいだ」
私はつないだ手が汗でしっとりとしているのを感じていた。
私たちは本堂に行ってお参りをした。手を合わせて彼女に聞こえるようにつぶやいた
「リハビリがうまくいきますように」
彼女は笑って私の真似をした。いや、私の小説のセリフを言った。
「リョウへイさんとのリハビリがうまくいきますように!」
私たちはバスで町に戻り、少しおしゃれな洋食屋さんで夕食を取った。私の行きつけだ。
「あそこがあなたがいつもいるカウンターね。確かにあそこなら一人で来れるわね」
ウェイトレスのおばさんが食事を運んできた。
「あら、今日はカワイイ彼女をつれているのね」
(おねえさんも私の小説の読者かな?)
「からかわないでね、おねえさん。僕の大切な人だから」
彼女は顔が赤くなった。
「リョウヘイさん、仕込んだの?」
「いいや偶然だよ。いくら何でもそこまでできないよ」
食事が終わってコーヒーを飲む。
「リョウヘイさん、明日はどうします? 二回目のデート」
「さては早く三回目のデートに行きたいんだね。わかりました。明日もデートしましょう!」
「リョウヘイさんもそう思っているんでしょう?」
私は否定しなかった。
(でもこのままいくと五回目には……いいのかな?)
その日は彼女とプライベート用のSNSのアカウントを交換し、私たちは別れた。
夜、彼女へメッセージを送った。
――『楽しかったよ。ありがとう』
彼女はすぐに返事をくれた。
『私も楽しかった! 明日も楽しみ!』――
私はずっとつないでいた手のひらを胸にあてて眠りについた。
股間にあてるのはさすがにやめた。




