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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第八十九話 さらなる招待客

「なぁジーナ…確か今夜は、涼子さんとディナーに行くとか言って出掛けたよな?」


 六堂は、“既に酔ってる室富”をどかしてジーナに尋ねた。


 笑顔のジーナは、チチチと人差し指を左右に振る。


「Ah…Is a lie、サプライズのための嘘よ」


「嘘?」


「Yes。今夜のYouへのサプライズのため、リョウコが早めに仕事切り上げるからって、それまで彼女のマンションで待機してた。Sorry Sorry」


「…あ、あー、そう」


 六堂は苦笑しながら、人差し指で頰を掻いた。


 このサプライズを企画したのは美雪だったわけだが、彼女は姉を失った一連の事件で、解決までに、そして自分を助けてくれた人たちに“御礼をしたい”という気持ちから、このクリスマスパーティーを思いついたという。


 “何かしていないと姉を失ったことを考えてしまう”というのも、パーティーに向けて行動した理由の一つであった。


 そして何より、“その辛さ”は六堂にこそあるだろうと、彼に元気つけさせようとしたものでもあった。


 そのように思い立った美雪は、まず涼子に連絡を取り、パーティーの趣旨を説明。


 美雪の気持ちを理解した涼子は、ジーナ、佐久間、水戸に連絡。


 水戸は「家族を連れて行きます」と返事を。


 佐久間も「人質だった嬢ちゃんがねぇ、クリスマスなんてガラじゃあねあが、喜んで参加するぜ」との返事をくれた。


 そして話はジーナからラッドへ、さらにラッドから谷中へと伝わった。



 谷中は「それは楽しそうだ。私も行っていいんですかね?」と、カウンター越しにラッドに尋ねたそうだ。


 ラッドはおかわりの酒を出し、そして答えた。


「ここに男三人が来た時のこと憶えてますか?あの晩、谷中さんがいなかったら、六堂かれらもどうなっていたことやら…。ですから、一緒に招待を受けましょう」


 とはいえ、スターズブルーもイヴということもあり、予約で満席だった。


 たが、今夜はこちらのパーティーに来ることを優先するために、“スタン”という名の元弟子のバーテンダーに店のことを、急遽頼んだという。


 美雪が一番“連絡を取るのことが出来ないのでは?”と懸念していたのが、室富だった。


 だがそんな美雪の心配をよそに、室富はスターズブルーに酒を呑みに来ていた時にラッドから話を聞いたらしく、何だかんだと一番楽しみにしてたのではないかと思う様子だ。


 美雪自身は、室富が“殺し屋”であることは知らず、自分が人質にされていたあの現場ではヒーローにしか見えておらず、今夜は招待出来てよかったと、心から思っていた。


「…というわけよ、伊乃。」


 涼子が、今夜に至るまでのことを簡潔に説明し、六堂も一応の理解はしたが、ここにいる顔ぶれを集めた美雪の行動力にはただただ驚かされた。


「…な、なるほど。で、“ここ”を選んだのは誰なんだ?」


 六堂の質問に、涼子は拳を縦に口元に当てて軽く咳払いをした。


「…それは…私よ」


「え、涼子さんが?何でまた?」


「あのね、“急な貸切”に対応してくれて、伊乃が好きそうな店って言われて…、ここしか思い浮かばなかったの」


「いや、まぁいいんだけど、この店応援してるしさ」


「例えばスターズブルーでだと…美雪ちゃんいるからね。一応、警察官としては、バーに中学生と一緒にいるのは…あまり良くないかなって。水戸君み家族連れと聞いてたし」


「それも、そうか」


「そうよ。何かあったら、マスターにも迷惑かかるし」


 涼子と話し込んでいると、山藤夫妻が六堂の側まて来た。


「リクちゃん」


「お、おう広太。千鶴さんも」


「リクちゃんには食べ慣れた物ばかりだろうけどさ、朝から頑張って準備したからねぃ。今夜は楽しんでちょうだい」


 広太は笑顔で六堂の肩を叩いた。


「ああ、どうも。そうさせてもらうよ。ところでさ、こんなこと訊くのあれだけど、“支払い”ってどうした?会費制にしてるのか?」


 六堂は口元に手を添えて小声で尋ねると、広太は肩を竦めた。


「いやぁ、どうなんだろう?実はね、もうお金はもらってるんだ」


「…え、そうなのか?」


「うん、店の口座教えてくれってあの娘さんに言われてさ、そしたらちゃんと振り込まれてたよ」


 美雪に払える額ではないだろうから、会費制をとっているの考えた六堂だが、“既にに振り込まれた”とはどういうことだろうかと思った。だがその答えはすぐに解った。恐らくこのパーティーにはスポンサーがついていると。


 店の引き戸がガラガラと開いて、現れた人物。


「どうも!遅くなってすみません!」


 聞き覚えのある声に、振り返る六堂。


 外からエンジンの音が聞こえ、ハザードが点滅する光が見えたので、誰か来たのたろうとは認識していたが、引き戸を開けたのは弥だった。


――あー…なるほどね、そういうことか


 美雪と弥は、あの事件以来、親しくなったと聞いていたが、思えば実際に美雪を救ったのは自分ではなく弥なのだと、改めて認識した六堂。きっと二人の間に何か交わされたことがあるのだろう。


 スターズブルーで弥と酒を呑み交わした晩に、自分の将来の秘書に推薦すると冗談分で美雪を誘ったらしいことを聞いた。


 美雪は、考えておくと返したらしかった。


 しかし、弥の登場にこそ驚かなかった六堂だが、彼が明日美の乗った車椅子を押していることにはさすがに驚いた。


「あ、明日美さん!?」


 見舞いに行った時よりは幾分か顔色がいいように見えた明日美は、小さく手を振った。


「こんばんは、六堂さん」


 まだ弱々しいが、明日美は笑顔を見せた。


「彼女がね、“どうしても行きたい”と言うので、今夜は連れきました」


 弥は、南行徳まで明日美の迎えに行って、遅れたということだった。


 このパーティーのことを知った明日美は、容体を診てくれている医者の玲子から外出許可をもらったのだ。


 まだ無理は出来ず、長くは居られないが、“それでも”ということで、弥は部下に車椅子ごと乗れる福祉車両を用意させ、ここまで来たとのことだった。


「すまないが、私と明日美さんは一時間くらいで帰らせてもらいます」


 車椅子が引き戸のレールを傷つけるといけないと思った六堂は、弥と屈んで持ち上げて店内に明日美を入れた。


 中に入った明日美の姿を見たジーナは、庄司エンタープライズ本社で、彼女に命を救われたことの礼を直接伝えたかったようで、手を握りながら、「you are your benefactor appreciate」と言った。


 明日美も「あなたが無事でよかったです」と手を握り返した。


 二人のやりとりを見た室富は、フッと小さな笑みを見せた。


「美雪さん、今夜はお招きありがとう」


 弥に礼を言われると、美雪は慌てた様子で首を振った。


「い、いえ!“こちらこそ”、本当にありがとうございます!」


 美雪が慌てた様子で、深々と頭を下げた。


 今回のパーティーについて、六堂の推測通り、やまひろ食堂に全額支払いをしたのは弥であった。


 美雪は、一連の事件で巻き込まれた中で、世話になった弥にもぜひクリスマスパーティーに来て欲しいと、連絡を取っていた。


 弥としてみれば、逆に迷惑を掛けた美雪に何か形のある謝罪をしたく、そのいい機会だと、今夜の費用を全額出させてくれと申し出たのだ。


「ぜ、全額ですか?嬉しいんですけど、いいんですか?結構な人数呼ぶつもりですよ」


 まだ子供の美雪は、弥の“金持ちぶり”のスケールが理解出来ず、不安で尋ねた。


「はは、心配しなくていいよ」


 弥は一言、そう返したという。

 

 “個人の財布”で、高級ホテルで大人数を呼んでのパーティーも可能な弥。大衆食堂の数日分の食材を買い上げてるくらいは、何でもないことを後から知った美雪は、改めてその“金持ちぶり”に驚いたと後日語っていた。 


「さあて、やまひろのご主人!今日は私もお手伝いしますよ」


 ラッドはシャツの袖を捲りそう申し出ると、広太は両手のひらを前に出して首を振った。


 ラッドが洒落たバーの経営者オーナー兼バーテンダーだと紹介を受けていた広太は、恥ずかしさに後頭部を掻いた。


「いやいやいや、うちみたいな店ではやることもないでしょう。ゆっくり楽しんでくださいよ」


「ははは、何を仰いますか。あなたも私もジャンルは違えど、お客さまに飲食というサービスで満足していただく立場にあるもの同士ですよ!」


 背筋がピンとしており、とてもスマートなラッドの発言に謙遜する広太は、「それでは…」と頭を下げた。


「さっ!店の主同士が仲良しになったところで、はやく始めようぜ!な!な!」


 大声でスタートを急かす室富。


 感動の再会、意外な顔合わせと、賑やかに宴が今にも始まろうという、やまひろ食堂。




 その静まり返る外に、一人の怪しい人影があった。



 メディアだ。


 闇深いセントホーク事件が背景にありながら、庄司エンタープライズの社長に就任した弥。


 現在も取り調べを受け、裁判が待っていることを受けて、セントホーク事件との関わりや、クァ・ヴァーキ教との繋がりなど、何かスキャンダルになることを掴もうと、メディア各社が彼を追っている。


 だが、弥はあの手この手で隙なく日々を過ごしてたため、尾行すらも許さないでいた。


 しかし今夜は、車椅子の明日美がいたためか、ちょっとした隙が出来たのだろう。


 一人のベテラン記者に行き先をつけられてしまっていた。


「…庄司弥あいつめえ…セントホーク事件に関与してるくせにドンチャン騒ぎたぁ太え野郎だ。しかもこん“ショボい食堂”で…。ここなら見つからねえと思ったか」


 小声で独り言を口にする記者の中年男は、店のすぐ側にある都道の橋桁に隠れ、舌舐めずりをしながら、ピントと絞りを調整しながらカメラを構えた。


「…ん?」


 スクープとなるネタが手に入るとに ニヤついていた記者の男。


 しかし、レンズから覗くその先に、制服姿の女子高生がVサインを出してこちらを見ていることに、笑みは消えた。女子高生は完全に“カメラ目線”で、こちらを認識しているようだ。


「な、何だ!?あいつ」


 男がカメラを顔をから離すと、今度はそのカメラが手からスッと離れ宙に浮いた。


「…っ!?」


 突然のことに驚く記者の男。


 首に掛けていたストラップを背後から引っ張り上げられていることに気づいた男は、誰の仕業かと勢いよく振り返った。


「な、何だお前ら!?」


 目に入ったのは、二人の男。


 夜だと言うのサングラスを掛けた体格ガタイのいい男…、六堂の裏社会時代の仲間、渡辺だ。


 もう一人は、少し細身の洒落た雰囲気のチャラそうな男…、こちらも裏社会時代の六堂の仲間、木崎だ。カメラを取り上げたのは彼の方だった。


 ちなみに、カメラのレンズの先に見えた女子高生は、木崎の彼女の瑞希だ。


「“何だ”はこっちのセリフだぜ、おっさん。何を撮ろうとしてるんだ?」


 木崎は苦笑しながら記者の男に問うた。


「…あ?そんなこと、お前らに言う必要ないだろ」


「いいや、あるんだなぁ、これが。世間を賑わすのに最高の社長ネタがあの店にいるって知って来やがったクチだろ?どう見ても、食堂の記事を書くためには見えねえしな」


 木崎がそう言うと、渡辺は黙ってジャンパーを捲り、拳銃の入ったホルスターを見せつけた。


「じ、銃!」


「ああ、悪いことは言わねえ。今夜は今すぐ帰れ」


 木崎は手でシッシッ、と手で払う仕草をしてみせた。


「はっ!銃が怖くてジャーナリストが出来るかよ!俺は天下の帝西新聞の記者だぞ。いいのか、大口スポンサーのコネも沢山ある。そんな真似してただで済むと思ってるのか!カメラ返せ」


 大手新聞社“ 帝西新聞”の記者を名乗る男が騒ぎ立てると、渡辺と木崎は一瞬互いを見合い、そして笑った。


「悪いな、俺たちは大事な仲間の勝ち取った真実と勝利を、メディアのくだらねぇ利益のために印象操作されたかねえんだわ」


 木崎はカメラの蓋を開けてフィルムをひきぬいて、捨てた。


「あ!あっ!貴様!そんなことして本当にただで済むと思うのか!」


 記者の男が大声を上げると、背後から瑞希が近づき、口を耳元にそっと近づけた。


「おじさん、“痴漢”って騒がれたくなかったら、早くどっか行って」


 記者の男は目を広げて振り返る。その目に映る瑞希は、首を傾げてにっこりと微笑んだ。


「痴漢!?」


「うん。そこに二人も目撃者もいるしね、“きゃあ痴漢よ!”って」


 記者の男は、渡辺、木崎、瑞希と三人を順に見回した。接点のなさそうな三人組に見える男は改めて怪訝な顔をした。


「傭兵?ホスト?女子高生?何なんだこの組み合わせは…。お前ら、庄司の社長と何の関係がある?」


「話す気はねえ。あまりしつこいと、“痴漢”じゃすまなくなるぜ」


 渡辺は声を低くしてそう言うと、ホルスターの拳銃に手を掛けた。


 だが、たじろぎながらも記者の男は首を振る。


「あ、あの社長追うのに、こっちもかなり苦労した。ただでは帰れねえんだよ!」


 男のその様子に、木崎はため息をついた。


「誰がホストだよ、おっさん。ま、あんたも仕事だかんな。それについては一定理解してやる。だから…特別に代わりのネタをやろう」


「代わり?何だ?内容による。あの社長のネタより面白いんだろうな…?」


「うるせえ、ガタガタ贅沢言うな。渡辺こいつに頭撃たせんぞ」


「…ひっ!」


 記者の男は、「解った」と慌てて首を縦に振った。


「…よし、最初から素直になれや。で…情報だがな、前首相の“安部 陽三”…あいつ宗教団体“聖なる灯火”と深い関係がある」


 “聖なる灯火”、キリスト教を独自解釈している新宗教で、力のある教団だ。幽体離脱や超能力といったことを中心にカルト的な活動を行なっていることでも有名であり、訴訟問題も多く抱えている団体でもあった。


 記者の男は、その教団名を聞くなり、少し興味を示した顔をした。


「そ、それは本当か?」


「ああ。安部は団体からの大きな支援を受けているし、首相の任期中に検察に手を回して、教団との不法行為を幾つも闇に葬っている。それにな、野郎、カミさんいるのに教団の若い女複数人と関係を持っている。多分隠し子もいるなぁ。どうだ?」


「…待て、その話、証拠は何かあるのか?」


 木崎は首を横に振った。


「いいや。だが事実だ。どの道あんた、ここで渡辺このおとこにやられるか、そっちの真実を追うか二択だ。なら後者だろ?」


 木崎は、蓋を閉じると、カメラを記者の男に返した。


「さ、一分待ってやる。とっとと去りな」


 記者の男は、一瞬迷ったが、足元のカメラバッグを肩に掛けて足早に去って行った。


「…ふん、念のため見回っててよかったぜ」


 木崎が苦笑しながらそう言うと、渡辺は肩を竦めた。


「もうちょっと脅してもよかったんじゃないか?」


「いいや、ベテラン記者は簡単には折れねえよ。だけど、あいつに話した情報は本物だ。あいつが動けばメディアの矛先はあの新社長や庄司エンタープライズには向きにくくなる…」


「なるほど…。そこまで考えてのことか。ところで木崎、夕紀はどうした?あの喫茶店シークレットストーリーで働いてるの見つけたって?」


「あ?あー…、はは、そう。“来ない”ってさ。涼子さん通じて連絡あったよ」


 一連の事件について、陰ながら関わった、六堂の裏社会時代の元メンバー、渡辺、木崎、そして夕紀。


 渡辺と木崎には、携帯電話の方に“ぜひ来て楽しまないか?”と、涼子からの連絡があった。


 ただ、夕紀だけは携帯電話を持っていなかったこともあり、また少し“デリケートな問題”もあったために、涼子自身が喫茶店“Secret Story”に直接足を運んで、話を伝えた。


「せっかくだけど御免なさい、涼子さん…。さすがにそれ、伊乃に会うのが辛いかな。彼が好きだった人が亡くなって、その妹さんが主催のパーティー…複雑すぎですよ」


 夕紀はそう言って断ったそうだった。


 木崎が、涼子から聞いたその話をすると、渡辺は複雑な顔で苦笑した。


「そうか。ま、そうだろうな。六堂あいつとは、会いにくいか…」


 立ち話をしている渡辺と木崎に、「まだ行かないの!」と急かす瑞希は、二人の背中をドンっと押した。


「おっと、そうだな。悪い。さ!渡辺、瑞希、すっかり遅くなった。行こうぜ。我らが六堂の顔を見て、今夜は楽しもうぜ」

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