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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第八十六話 帰宅

1999.12.20 -MONDAY-


 闇医者から、もう帰宅してもいいと言われた日の夕方。


 夕方といっても、濃い雲に覆われた冬。もう空は真っ暗だった。


 まだまだ痛む全身に、寒さが堪える。


 そして着いた自宅兼事務所。


 その目の前に立つ六堂は、深いため息をついた。その息は白く、吹く風は弱いがとても冷たかった。


 G-weaponの襲撃を受けてから、そのままの自宅兼事務所。


 解ってはいたが、目の前でそのことを考えるとため息しか出ない。


 “被害届は出さない”と涼子に伝えたので、セントホーク事件関連の一つとして捜査はされなかった。面倒なことを少しでも省きたかったからだ。


 幸いなのは、“玄関を開けた時”に襲われたため、建物の出入り口は無事なこと。


「ま、戸締まりが出来るから良しとするか…」


 六堂は玄関のセキュリティーを解除し、キーでドアを開け、中に入った。


 ごちゃごちゃの事務所。室富と一緒に吹っ飛ばされたのを思い出す、


 だが、十二月も後半を迎え、年末年始が近づいてる中、業者が修理に来てくれることは考えにくい。


 怪我もまだ完治していないこともあるので、仕事はしばらく休業かと考えながら、自宅のある二階へと上がった。


 二階でもG-weaponと戦いを繰り広げた。暗い中、薄ら見える真っ二つになったテーブルに苦笑し、リビングのソファーに脱力しながらドカッと座った。


――あー、俺の部屋もやられたんだよなぁ。しばらくこのソファーで寝るか…さむっ…


 六堂はここに帰ってきて、今、ようやく“本当に終わった”のだと実感した。


 去来する感情は、虚しさ、悲しさ。


 関わった事件としてはあまりに大きく壮大だったが、自分にとっては結局のところは恵の仇打ち。


 得るものはない。


 勿論、恵の謎の死に対して、しっかりとその犯人を見つけ、仇を打てたことは気持ち的には晴れる部分ではあるが、一人になり、壊れた暗い自宅に戻ると、感じる疲れは相当なものだった。


 六堂は深いため息と共に、ソファーの背もたれの上に頭を仰け反らせて置き、真上を見つめた。


「Hi…」


 天井を見上げるつもりだったが、ソファーの後ろに立つジーナが、真下を向いている。目が合うと、六堂は「ぉおっ!」と驚きの声を上げた。


「welcome home…おかえり」


「い、いたのか?」


 彼女の滞在用の荷物が、ここにあったので、取りに行けるよう彼女にキーを渡し、玄関のセキュリティーの指紋をパスするコードも教えてはいた。

 

 だが、てっきり涼子のマンションにでも行ってるかと思っていたので、いるとは思わず驚いた六堂だった。


「Yes」


「退院してから、ずっと?」


「Yes、Yes」


「…そうなのか。何もこんなメチャクチャなところにいなくてもさ」


 ジーナは笑った首を振った。


「私の借りてる部屋は何ともないし、シャワールームも無事。食事は外で済ましてたし、問題なかったよ」


「ああ…はは、そうか…」


 ソファーをぐるっと回り、六堂の隣に座るジーナ。


 少しの間、沈黙する二人。


「Isn't it spicy?」


 六堂の方を向いて尋ねるジーナは、片眉を下げて少し心配そうな表情だ。


「…え?と」


「Sorry…、リクドウ、辛くないか?」


「…あ、え、どうして?」


 六堂もジーナの方を向いた。


「Youからキー借りた時に、ここでも“やりあった”って聞いたけど、実際来てみて思ったんだよ。怪我もして、“この状態”のここに一人帰ってきたら、気落ちするだろうなって」


 部屋は暗いが、目が慣れてきたからか、眉毛を八の字に苦笑するジーナの表情がより見えてくると、六堂も思わず苦笑した。


「そう、だな。確かに…気落ちしかけてた」


「やっぱり」


「よく分かるな…」


 二人はクスクスと笑い合った。


 六堂は前屈みに、両腕を両膝に乗せて正面を向いた。


「君がいてくれてよかった…。巻き込んで、深手を負わせてしまったことは、本当にすまないと思っているけど…」


「No… not to worry」


 ジーナは、優しい笑顔を見せると、首を振った。


「いいや…本当にすまない。どうしようもない奴さ、俺は…」


 だが六堂は、下を向いた。


「ジーナを巻き込んだ今回の件、俺は単なる私情でしか見ていなかった。事件の真相なんて本音で言えばどうでもよかった」


「You don't have to talk…言わなくても、いい」


 そう言うとジーナは人差し指を真っ直ぐ立て、自分の唇に当てた。


「最初から何となく解っていた」


「…え?」


 六堂は前屈みのまま、少しジーナの方に顔を向けた。


「私が日本に来た最初の日…セントホークでwiped out… Ah、全滅した警察の特殊部隊に、親友がいたと言った。依頼されたわけでもない事件を調べるの、その人のためだと思った」


 六堂は左上に目をやり、考える。いつ彼女に“そんなのこと”を言ったか忘れてしまっていた。


「…そうか、“親友”か。俺ジーナにそう言ったのか」


「Yes…。でも今はもう少し知ってる。リョウコから聞いた」


 ジーナがそれだけを言うと、六堂には大体伝わった。きっと彼女は、“益田 恵という人物”のことも、“自分と恵の関係”のことも、知ったのだろうと。


「…そうか。聞いたか」


「Yes…」


 六堂は悲しそうな目で、薄らと微笑んだ。


「…正直、俺、冷静さは欠いていたし、まともではいられなかったんじゃあないかと思う。でも…タイミングよく君がいた。なんつーかな…前向き?いや、明るいって言うのか…なんだかジーナの持つ雰囲気に、支えられていた」


「it's more than anything…、私の人柄キャラが役立てていたなんて」


 ジーナははにかんだような笑顔を見せた。


「でもな、俺は君の“そこ”に甘えてしまっていた」


 視線を落とす六堂の言葉に、ジーナは自分の手のひらに、立てた拳でポンと叩いた。


「ああ…!あの時、リクドウ、私に“それ”を言いたかったんだ?」


「今度は何?俺何か…言った?」


「Ah…、治療を受けて、バーで寝てた時、私あなたに謝った。その時、“謝ることはない”と枕元で言った。その時、何か言いかけてたけど、お店の方へ行ってしまって」


 弥がスターズブルーに現れた時だと、それは思い出せた六堂。


「…それは、ああ…憶えてるな。そう、“今言ったこと“を言おうとしていたんだ」


 ジーナはそれを聞き、数回頷いた。


 そして前屈みなっている六堂の頭を引っ張るように胸に抱き寄せた。


 目を丸くし、驚く六堂。


「OK OK、誰でも弱ることもあれば、支えが必要なこともある。defense instinct…人は自分が壊れてしまわないように、何かに依存することもある。いいよ、それが私なら。リクドウ…いっぱい苦しんだんでしょ」


 ひんやりと寒いリビングの中、抱きしめるジーナの腕の中はとても温かった。


 六年前、六堂が高校三年の頃の話。


 彼は大切な存在を失った。


 “妹”だ。


 恵の無二の親友でもあった。


 自室のフォトフレームの中に写る三人は、六堂と妹、そして恵。


 三人は幼い頃から一緒に過ごすことが多く、本当に仲が良かった。


 だが、それを“阿修羅 才蔵”という男に壊された。


 妹は、六堂の目の前で、その男に殺された。


 悲しみに暮れたあの時、今と同じように暗い部屋にいた。そんな時、恵が自分の胸に抱きしめてくれた。


 六堂はジーナの優しさに触れ、そのことを思い出していた。


「ごめん…」


 六堂は首の力を抜いてそのままジーナの胸に寄り掛かった。


「What happened?」


「あ…いや、もう少し、もう少しだけ、このままでいてもいいか?」


「Yes…、 You can pamper me」

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