表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
89/96

第八十五話 地下室

 涼子は今、薄暗い部屋の中、高級オフィスチェアに座りノートを読んでいた。


 今野が記していたノートだ。


 ここは代官山にある“今野邸”。


 “今野 秀麿の自宅”であり、涼子がいるのは彼の自室下にある秘密の地下だ。


 一人の部下も連れずに今野邸の家宅捜査に、涼子がやってきたのは昼過ぎ。


 それから既に三時間以上が経過していた。


 今野は独身だが、家には管理責任者の執事と、家政婦がいた。


 そして正門側にあるポリスボックスには警察官がおり、涼子が刑事だと分かると一礼をした。


「警視庁の坂崎です。この家の家宅捜査で来ました。“何”についてかは、言わずとも…ご存じですね」


 捜査令状を見せると、灰色の髪をした、黒色のスーツに身を包んだ五十代くらいの執事は頭を下げ、涼子を家の中へと通した。


「刑事さん…お一人なんですか?」


 廊下を歩きながら、尋ねる執事に、涼子は軽く頷いた。


「ええ」


「てっきり捜査道具を持った人たちや、段ボール箱を抱えた人たちが列を成して来るものと」


「…ああ…殺人現場の捜査や、特捜の捜査じゃありません。令状はここに入るために取りましたが、個人的に確認したいことがあるだけです。ついでに言うと、私はあなたたちが事件に関与しているとは考えていませんからご安心ください」


 今野が企てた一連の事件について、部下を大勢引き連れて屋敷中を捜査しても意味はないだろうと考えた涼子は、あえて一人で来たのだった。


 兵器の研究開発は、庄司エンタープライズ内で行っていたことは判っている。黒幕たちの秘密会議も、ハイウェーブの倉庫の地下部屋で行っていたことも知っている。


 計画が外部に漏れないよう、ましてやG-weaponのことは一切知られることのないようにしてきた今野のこと、執事や家政婦に何か重要なことを任せることも、漏らすこともないだろうと涼子は考えていた。


 涼子はただ、消えゆく“ベルダの意志と記憶”に教えてもらった通り、今野の自室の床下にあるという地下を確認したかったのだ。


 “ベルダの意志と記憶”曰く、古代文明の支配者と、この国を支配せんとしていた今野は違うらしい。その今野の計画を阻止した者として、“国取り”後のことを知れとも言われた。

 

 執事に、今野の部屋へと案内され、一人になると涼子は「さてと…」とため息混じりに呟くと、屈んでフローリングをコンコンと叩きながら、地下が本当にあるか調べ始めた。


「ここも違う…か」


 見つけるのには少し時間が掛かった。


 最初は部屋の真ん中の床が開くのかと思っていたが見当違いで、端から端へと調べることとなり、結局はベッド横の床下にその扉はあった。


 薄めのマットを捲ると、床を指で引っ張り上げる金具が埋め込まれており、開けると、木造の狭く急な階段が下へと続いていた。


「…へえ、本当にあった」


 内ポケットに入れていたペンライトで扉の周辺を照らすと、スイッチが目に入ったので押す。すると階段から下の部屋まで電気が点灯した。


 下へ降りると、高級な机があり、その上にはノートやファイルが何冊も置いてあり、そして壁には無数の紙が貼ってあった。


「これは…」


 壁に貼ってあるメモや写真を見て驚く涼子。


「…この場所を最初から知っていれば、セントホーク事件の流れや繋がりも、すぐに判っただろうにな」


 クァ・ヴァーキ教について詳しく調べられたメモや写真、記事の切り抜き等、代表の浦林のことはもちろん、幹部全員分、警察の知る以上の情報が壁に貼ってあった。


 それだけではない。裏社会の人間についても色々調べていたようで、黒木、木口、ジャッド兄弟を含む腕の立つ人物たちのメモも、壁にびっしり貼ってあった。


 また、原子工学についての参考書や資料が積み上げられていた。


 黄ばんだ古い書類は“部隊零”に関連するもので、どうやら“どこに”あの強化兵士たちの拠点があるのか、手掛かりになりそうだった。


 どうやらこの地下室にある物は、今野独自で揃えたもので、人には見せていないだろうことが窺えた。


「ここで一人考えていたのか…国家転覆クーデターのこと、そして未来の国のこと…」


 そして今、涼子が目を通していたのは、実際に日本という国を手に入れたあとの計画が書かれたノートだ。


 日本を手中に治めた後の、政策や、新たなエネルギー事業を始めとする国の土台ついて、とても興味深いことが記されており、この三時間ゆっくりと読んいた。


 今野が思い描いた未来の日本について書かれたそれを読んでいると、正直、とても複雑な思いに駆られる涼子だった。


 今野 秀麿という人物は、もともとは権力に関わることを拒否して生きてきたことは、戦いの前の本人の話から知っていた。


 それは、家柄のために幼い頃から見てきた日本政財界という伏魔殿が嫌だったからであり、ベルダの意志と記憶、つまりスペスメモリアと融合する前から、自らがそんな歪んだ国を“何とかしたい”という考えがあった。


 だだそれは、現実的な話ではなく、あくまで妄想に留めていたこと。


 日本という国を変えるには、根深く巣食った闇のルールからなる現政府から国を奪うこと、つまり根本から変えねば意味がないことを今野は知っていた。


 ようするに国家転覆クーデターだ。


 ルールに則り、正攻法でやっては不可能だと…。仮に可能だったとして、何十年掛かるか分からない。


 国を本当の意味で変えるには“革命”を起こす必要があったが、しかし政界と深い繋がりの資産家の息子である今野とて、国が相手では所詮は“ただの金持ち”。


 だからこそ自分の思いを妄想だけに留めていた今野。


 そんな中、“ベルダの意志と記憶”を手に入れたことで、強い支配欲と、古代文明という知識を手に入れ、頭の中で描いていた国家転覆クーデターを実行に移した。


 だが”その計画”は壮大且つ驚異的な反面、一般人に及ぶ被害は最小に留めたものであり、短い時間、期間で効率を最大限考えたものであったことは、本人の話に加え、ノートを見てよく理解できた。


――…確かに、あの時聞いた限りでは、G-weaponを使った首都制圧作戦は、短時間で行い、国に対して戦闘にすら持ち込ませないものだったな…


 そして、今野が考えるその後の政策について、涼子は時間が過ぎるのを忘れて読んでいた。


 今野は、大企業や宗教団体等と癒着し、国を私物化し、自分達の保身や、懐を肥やすための政治のあり方、政治関係者を、本当に酷く嫌っていたようで、そのことはノートにも書かれていた。


 特に長年政権を握り続けてきた“自由正導党じせいとう”が長年作り上げた、経団連の言うことを聞く代わりに、選挙の票を確実に得るシステムについて、細かく記されていた。


 そのシステムの影響で、今後の日本の将来が泥舟になることを大きく懸念していたようだった。


――これは…笑えるな。経団連からの要望書…その内容たるや…


 “金持ちをより金持ちに“、政府がそれを叶える代わりに、選挙の大きな組織票と、選挙落選した場合と、引退後の天下り先の約束。


 更に、国民に反発されないよう時間を掛け、慣れさせるよう少しずつ薄く税金を取れという、1985年当時の政府宛てに送られたという経団連が考えた“消費税30%計画”。社会保障費として国民から“平等に”という言葉で濁し、金を搾取する代わりに、大企業からは儲けた分を留保させるよう税金は殆ど取らないようにさせる約束。


 その影響で日本経済が衰退した場合、政府と癒着してる大企業には海外に拠点を移し、技術は他国に切り売りすることで安泰させるという、そんな計画。


 今野が危惧していたという政府の計画については多々記されていたが、この二つ三つを読んだだけでも、日本の未来から“夢”という言葉を失わせるには十分だった。


――…今野はこれらを変えたかったということなのか


 別に書かれた個人的な日記と政策案とが一緒になったようなノートを読むと、今野は“独裁の理想”を目指していたことが窺えた。


 独裁国家のメリットは、国会を通さずとも独裁者の意思で国家を動かせること。


 民や国の利益を考える人物が、日本の独裁者となれば、今のように国会中に居眠りしているような輩たちがやってる中身がない上に、時間も予算を食う無駄な話し合いの必要なく、自分の命令一つで国が動かせる、今野はそういう野望があったようだ。


 今野は、これから衰退国家となるであろう日本を、自らの思い描く理想郷に、つまり現状の豊かで経済大国のままの日本にすることを目指していのだ。


 “資源のない日本から、技術を他国に売り、国内の雇用が減ることで、十年、二十年とそう遠くない未来は、その社会は地獄絵図と化すだろう“


 そんなことが繰り返し書かれていた。


 涼子は、このノートを机に置き、背もたれに寄りかかった。


 現政府から、“国を盗もう”というのだ、そのやり方は過激だ。その犠牲となった人間は少ないとはいえない。その中に恵がいる。


――今野からしてみれば、まだ見ぬ未来の日本人のことを考えた革命だったのだろう。彼にとって恵ちゃんたちは必要な犠牲ということなのか…


 一刑事である涼子に、政府の闇は分からない。祖父の立場を使えばある一定のことは知れるかもしれないが、闇の深さはそのレベルには留まらないだろう。


 判ったことは、“スペスメモリアと融合した今野”は、古代文明に生きたベルダとは違ったということ。


 スペスメモリアの中にあったのは、あくまで意思と記憶。権力で圧政を強いた人物そのものではなかったということ。融合後の土台ベースは、今野そのものだったということ。


――どう見ればいいのだろうか…


 涼子はため息と共に、ノートをパタリと閉じた。


「さて、ここにあるものは、証拠品にしていいものかどうか、悩むわね」


 留置された今野は、何も喋らず、脱力したようにぼうっとしているだけであった。


 スペスメモリアの融合の後遺症なのか、それともベルダの意思と記憶が消え空っぽになった自分に絶望しているのか、それすらも答えてはくれない。


 この地下室にある物は、“本当の今野”の意思だけで集めたり、記した物というわけではないだろう。“ベルダの意志と記憶”の力があってのもの。


 警察に押収させても無意味な気もした。


 悩んだ涼子は、上の部屋に上がり、携帯電話を取り出すと、電話を掛けた。


 相手は弥だ。


 長年、国取りのための黒幕側にいた弥。ここを見せて、どうするか相談するのに一番だと考えた。


 会社の立て直しや、事件の取り調べ、裁判準備等、多忙な中にいた弥だったが、涼子の話を聞き、駆けつけてくれただった。


「お、いたいた」


 電話を掛けてから二時間程が過ぎた頃、再び地下室で色々と目を通していた涼子を上から降りてきた弥が声を掛けた。


 スーツではなく、ラフなカジュアル服装に、一瞬、涼子は彼だと分からなかった。髪もボサボサだ。


「副社長…誰かと思いました」


「すみませんね、坂崎さん。マスコミが嗅ぎ回ってますから、こんな格好なんです。スーツ来た影武者数名が、都内を移動しています」


「ああ…なるほど。ここのこともマスコミにな知られたくはないですからね…、あなたのそういう用心深いところ、助かります」


 弥は降りてきた地下室を見渡した。


「しかし、凄いなここは」


「ええ、本当に。あなたに来て頂いて助かります。私が判断するには手に余る物ばかりで」


 どうやら弥もここの存在は知らなかったようだ。そもそも、今野邸に来たことすらなかったという。それだね今野は用心深かったということなのだろう。


「ああ、そうだ、坂崎さん。私、副社長から社長、庄司エンタープライズの代表取締役に就任しました」


 まだまだガタガタの会社だが、新たな役員と、海外で展開される支社からの支持も得て、代表になったということだった。


 これから一連の事件で有罪判決になる可能性もある人物を、代表にすることは、社会からの目も考えてもよくないと、反対陣営もいたが、弥は自らの考えをじっくりと話して、説得したという。


「そうですか。更にお忙しくなるところ、呼び出し申し訳ないです」


「お気になさらずに。坂崎さんの計らいで、裁判は優勢になると弁護士も言ってました。あなたには感謝しています」


 二人は、この地下室にある物を、どう扱うか、利用する物、焼却する物と、じっくりと話し合いを始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ