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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第八十四話 戦いを終えた涼子


 話は一週間前に遡る。


 今野との戦いを終えた涼子は、佐久間やSITが現場を制圧するのに合わせ、姿を見られぬように立ち去っていた。


 そして、愛車ポルシェで埠頭の倉庫に戻ったのだった。


 また倉庫内の亜空間ボックスの中に入り、ウェポンズ・ブレイカーを元のあった位置に戻すと、再び空間の中央で、静かに宙を浮く剣。


 そしてブーツと戦闘服を脱ぎて、下着姿、素足になり、深い、深い、ため息をついた。


「終わった…」


 そう小さな声で呟く涼子。


 結んでいた髪を解き、下ろした髪が顔を覆うと、どっと疲れを感じた。


 ウェポンズ・ブレイカーとのリンクは、相当に心身に疲労感を残す。古代人ならば、起きないことなのかは涼子も解らないが、正直なところを言えば、このまま布団にくるまって、一切何も考えずに眠りたい気分だった。


 だが、疲れは“それ”だけではない。


 取り込んだシャドーメモリーズのプログラムに従い、“古代兵器の破壊”自体はこれまでもやってきたことだが、今回は色々なことがありすぎて、まだ頭や気持ちの整理がつかないのであった。


 古代兵器による悪業があまりに身近で起きたということ。最初はただの大きな事件で、そんなものが関係しているとは思いもしなかった。


 そして日本で国家転覆を狙った計画であったこと。今野の計画は、その成功の可能性が低かったとは思えないものだった。


 だが何より、中でも恵の死と、古代文明を直接知る“ベルダの記憶”と話をしたことは、今回の件で最も大きく動揺することであったと言えた。


 だが…終わったのだ。


 勿論、警察官として処理しなければならない仕事は沢山ある。


 また個人的にも、エゼルのことを調べるために、シャドーメモリーズのあった遺跡に行くことも考えてはいる。


 それでも“一区切り”という意味では、終わったと言えた。


 涼子が、元々着ていたスーツとヒールを持ってピタピタと亜空間ボックスの外に出ると、スペースの仕切りに使う石膏素材が、まるでデジタル処理でもしているような動きで、細かいパズルが一ピースずつ繋がっていくように、空間は再び閉じていった。


 そしてそのまま倉庫内の自室に行き、棚から救急箱を取り出すと、それをテーブルに置いて、涼子はソファーにドカッと座った。


「…いつつ」


 今野に斬られた腕は深手だった。止血のために、救急箱の中にあった包帯を巻いて締め付けると、かなりの激痛が走る。


 本来ならば、縫わなくてはならないような深手だろう。


 しかし、涼子の身体は治癒機能が高く、治りが早い。シャドーメモリーズによる影響なのだろうが、怪我や病に強く、細胞再生のスピードと維持が常人とは異なるようで、恐らくは年齢より若く見えるのもそのためなのだろうと、涼子自身感じていた。


 包帯を巻き終え、服を着た涼子は、携帯で、自分が立ち去った現場であるハイウェーブの倉庫及び地下にある秘密の会議部屋にいる佐久間に電話を掛けた。


 要件は、“自分が現場に到着するまで指揮の代理を”ということ。


 そして次はクルーザーで沖に避難している水戸たちに連絡を入れ、“全て終わった”ことを伝えた。


 最後に、メモリーから六堂の番号を検索し、ボタンを押した。


 …三回、四回とコールはするが、なかなか出ない。


(まさかあいつ、大佐にやられたのか…)と、少し心配をする涼子。


 だが、十回目のコールが鳴ったあとにようやく電話に出た。


『Hello、リョウコぉ』


 だがその声は六堂ではなく、ジーナだった。


「…は?ジーナ?あなたジーナなの?」


 スターズブルーのスタッフルームで寝ているものと思っていたジーナが電話に出て、当然涼子は驚いた。


『Wait a second 、スピーカーにするから』


 どうやら電話の向こう側は、車で移動中らしい。


 大佐との戦いでボロボロらしいが、六堂の声も聞こえ、ホッとした。


 今は“室富の運転する、ラッドの愛車”にジーナと一緒に移動中ということだったが、どうして“そういう奇妙なこと″になっているのかの説明は、六堂が掠れる声でしてくれた。


「…ということだよ涼子さん」


 涼子は、話を聞きながら自分もスピーカーにし、携帯電話をテーブルに置くと、ブラウスの上から警察支給の拳銃の入ったホルスターを装着した。


「そ…、とにかく無事でよかったわ」


「涼子さんもね」


 涼子は電話を切るとヒールを履いて、乱れた髪を整えた。


 手始めに片付けないといけない“事件現場“は、まずは倉庫ここだった。


 武器、弾薬も置いてある法を犯した倉庫。あまり人に知られたくない場所なのに、自分が手に掛けた部隊零の戦闘員の遺体が四人分あるわけだ。


 川島が余計なことしなければ、ここで戦闘などせずに済んだのだが、(あとであいつ二、三発殴りに行くか…)とふと考える涼子。


 だが少しして、“本当の”庄司エンタープライズのカンパニーズアーミーが倉庫に数名やってきたのだった。


 弥からの命令で派遣されたらしく、隊長を名乗る男から手渡された携帯電話から、弥自身から事件解決の礼の言葉と、そして倉庫にある遺体処理に関しては、派遣したカンパニーズアーミーが何事もなかったように上手く処理してくれる約束の話をしてくれた。


 涼子は、携帯電話を隊長に返すと、倉庫はカンパニーズアーミーたちに任せ、マリーナに出向いて水戸と合流した。


 二度も恐ろしい目にあった木戸家の母と子供達は、涼子からの連絡に半信半疑だったようだったが、彼女と直接会うと少し安心したようだった。


 その後に事件関連の聴取はあったが、母親と子供たちが、真相には関係のないことを知っていた涼子の計らいで、形式的なもののみで、大した時間は取らせないようにしてくれた。


 またクルーザーを操縦していた羽根 岩之助を名乗ったホームレスの老人は、マリーナに停泊させた直後に、静かに姿を消していた。


「警部補、すみません。気づいた時にはもう姿がなく…」


 水戸は謝るも、涼子は特に気にしてはいない様子だった。


「ま、いいさ」


「でも彼、“ハネガン”って、運び屋…犯罪者だったことは事実なんでしょ?放っておいても?」


「いいや、あの老人がハネガンだと言う証拠はない。仮にそうだとしても運び屋については時効だ」


 “運び屋ハネガン”、佐久間から聞いた話にはまだ続きがあった。


 ハネガンは、ある猟奇殺人犯の海外逃亡の仕事を受けつつ、海に沈めたことがあるというもの。そんな殺人犯の逃亡を許せなかったハネガンの行動だったのか、詳細は知る術はない。


 ただ、その仲介を担った暴力団組織から逃げるために足を洗ったとも噂されているという。


「部隊零の戦闘員がモーターボート二隻で、海への捜索隊も出していたんだ。見つからなかったのは、あの羽根さんのお陰だ。それに彼の過去のことを問う必要は、少なくとも私たちにはない。どんなことをしていたとしてもな」


 この運び屋ハネガンの話には、涼子に元ネタを話したことのある佐久間が、後に食いついてきたのは言うまでもなかった。



 ちなみに、誰に知られることもない話であはるが、数日後、マリーナから姿を消したホームレスの老人こと、羽根 岩之助は、上野に来ていた。


 真剣に自分が警察に追われるとも思ってはいなかったが、上荻に戻ることはせず、上野界隈でも人当たりが良くて有名なホームレスの友人を頼って、しばらく厄介になろうというものだった。

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