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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第八十三話 憧れと恋心

 ベッドで寝ている明日美は、周囲に並ぶ機材のチューブやコードで繋がれていた。


「り、六堂さん!?室田さん!?」


 意識ははっきりしているようで、二人を見るなり驚いて体を起こそうとした。


 六堂はすぐに手のひらを前に出し、明日美が起き上がるのを止めようとした。


 銃撃戦の最中さなか、地下駐車場ですれ違ったのを最後に、どうなったのかを心配していた六堂は、心から喜んだ。


 弥は体が痛む六堂を気遣い、ベッド側に背もたれの付いた椅子を置いた。


 そこに座る六堂が、かなりキツそうな顔を浮かべるのを見て、室富が手を貸す。


 あの時、明日美は、警備に扮した部隊零の戦闘員が放った弾丸を、胸に三発喰らい、その場に倒れた。


 そして死亡が確認され、一度は死体袋に入ったのだが…、弥の指示で密かに別の場所に移送されていた。


 そこで医師である須田と、社外の技術開発スタッフによる蘇生活動が行われた。


 二年前、裏社会に身を置いていた頃の

明日美は、G-weaponの試作機に組んでいたチームメンバーが全員殺され、自らも胸をナイフで刺され殺されかけた。


 その時に、弥の部下であったカンパニーズアーミーに助け出され、表には出ていない最新の技術により、胸の一部を機械化し、九死に一生を得たという過去がある。


 庄司エンタープライズ本社ビルからの脱出の際に、六堂たちも聞いた話だ。


 今回命を失わなかったのは、奇しくもその時の手術による機械化のお陰のようだ。


 実際に、地下駐車場では交戦の末、三発もの弾丸を胸に喰らい心臓は停止した。


 防弾ベストを装着してはいたが、同じ胸部に三発。通常の防弾ベストは二発の被弾で、喰らった周辺の繊維が劣化する。三発目がそのまま、致命傷となったのだ。


 だが、心停止確認後のこと、明日美の心臓の機械化した部分は生命を維持し、脳への酸素供給を行っていた。


「…実は、明日美さんの心臓部の一部機械化は、G-weaponのものを盗み応用した技術なんです」


 そう語る弥は、さすがに“G-weaponほど高性能なもの”をそっくり真似は出来ないものの、今後の医療、例えば義手義足などに役立てないかと設計を一部盗み、独自に外部の技術に研究させていた。


 二年前に、その技術を活かし、“助かり用のなかった瀕死”の明日美の命を救ったわけだが、その際に心停止してもしばらくは生命を維持する機能を試作的に搭載していたというのだ。


 技術スタッフに言わせれば、“上手く行くとは思っていなかった”とのこと。


 また、機械化した部分が、弾丸によって損傷しなかった幸運が重なり、明日美はあの世に旅立つことなく、命をまた取り留めたという。


 明日美はゆっくり身体を起こし、六堂の手を握った。


 六堂が、かつて裏社会で恐れられていた存在“蒼光”であると気付いた、手の傷を見て、微笑んだ。


「…解決したのですよね。副社長からお話は聞いてます。あなたには相当無理をさせたと…。お身体、大丈夫ですか?」


 尋ねる明日美に、六堂は苦笑した。


「君がそれ言うか?」


 複数のチューブやコードで繋がれた明日美を見て、六堂は自分の怪我など、大したことないという雰囲気を見せた。


 室富は、自分を指差して「俺の心配はしてくれないの?」尋ねた。


「はい、六堂さんと違って何か元気そうなので」


 あの受付に立っていた時の、品のある笑顔で答えてみせる明日美。


 そして笑い合う三人。


「あ…、ところで、ブロンドの女性はご無事ですか?」


 庄司エンタープライズ本社ビル脱出の時に、深手を負っていたジーナのことを気に掛ける明日美に、無事であることを伝えると、嬉しそうに笑った。


「六堂さん、約束…憶えてますか?」


 目線を落とし、すこし言い出しにくそうに尋ねる明日美に、六堂は頷いた。


「ああ、再会記念の呑みの話な」


 六堂が答えると、明日美は受付の時とは少し異なる、子供のような笑顔を見せた。


「はい!Étoile d'argentエトワール・ダルジャン、今度行きましょうね」


 明日美は、六堂が裏社会時代に身につけていた刀士の技法を、今は使えないことを知らずに、セントホーク事件を解決し、弥の戦っている派閥を、何とかしてくれることを信じて命を賭けた。


 一連の件について、自分だけの力で解決したわけではなかったが、大佐との戦いで失われた刀士の技法が使えた瞬間があったのは、あるいは明日美のそういった気持ちが起こした奇跡であるのかもしれないと、六堂は考えた。


 全く現実的な考えではないが、この世には信じられないことが多々あることもまた事実であり、六堂は“そういうこと”にしておこうと決めたのだった。


 今後、明日美は全快次第、弥の秘書になる予定だという。勿論、弥の司法での戦いの結果によっては、身の振り方は変わってくるが、裁判結果が悪い方に傾く

場合も、明日美の道行に不便がないよう、弥は援助を惜しまないと約束をしてくれているとのことだった。


 明日美との面会を終え、再び診療院まで戻る道で、ハンドルを握る弥は意外なことを口にした。


「…六堂さん、私、彼女にプロポーズをしようと考えてます」


「え?」


「歳も離れてますし、私は明日美さんを部下として使った上役に過ぎませんが、彼女の強さと、あと…あの美しさに、惚れてます」


 それを聞いて大笑いする後部座席の室富に、六堂は苦笑した。


「…おいおい室富、笑う話か?」


 室富は六堂の座る座席のヘッドレストをパンパン叩いた。


「いや、悪い悪い、だってよ、副社長このひとあまりに真面目に言うもんだからよ」


 弥は顔を強張らせ、少し赤面をした。


「こいつの言うことは気にしないでください、副社長。いいんじゃないですか。遊び人のふりして“望まぬ女遊び”ばかりしてたんでしょ?今は、真剣な恋をしてみても」


 六堂がそう言うと、弥は前を向いたまま苦笑した。


「…ありがとう。でも、彼女はね…あなたに気があるんです」


 六堂は、訝しい顔をしたが、室富は軽く頷いた。


「…俺に?いや…それはない。彼女との接点は、殆どない」


「いいえ…、彼女が私に、裏社会の凄腕“蒼光”がセントホーク事件に介入しているという報告をしてきた時に、それは感じました」


 明日美は、受付で六堂と会い、すぐに昔一度会った蒼光だと気づいた。


 だが“それとは別”に、六堂に惹かれた気持ちもあった。


 ジーナは、明日美が六堂の左手を見て“結婚指輪を確認した”と勘違いしてはいたものの、気があるということ自体は間違いではなかった。


 それと同時に、戦士としての彼女は、蒼光への憧れも持っていた。


「副社長、ひょっとして、我々の戦いに切り札になりえる人物がいるかもしれません」


 弥にそう報告してきた際の明日美は、裏社会においての蒼光の存在について詳しく説明したという。その時に明日美の個人的な感情も含まれていることに、弥は気づいていた。


「副社長…、彼女はあなたを信じて戦っていました。そして俺が何とかしてくれると命を賭けましたが…、それはあなたへの忠義心あってのこと。もし俺に気があったとしても…そんなあなたから素直な気持ちを伝えられて、嬉しくないことはないと思います」


「そ、そういうものですか?」


「ええ。どの道、俺は明日美さんと付き合う気はありませんから…、まずは誠心誠意、向き合って気持ちをぶつけて下さい」


 この後、弥と明日美が夫婦になる時に、六堂の“この言葉”が式の挨拶で読み上げられるのは、何年か先のことであった。

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