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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第八十一話 殺人鬼、宮原の手口

「私はセントホーク事件黒幕側の人間です。つまり、佐々木さんを内通者にした側ですから…」


 よくよく考えてみれば、“あの佐々木”を内通者にしていたのだから、弥も…、いや黒幕たちも彼の周辺の事情は色々知っていても当然なのかと、六堂は思った。


「…まあ要するに、内通者として使うにあたり、何かあいつの“弱み”でも握っていた、そういうことなんでしょう?」


「…一つはそう」


「で、どんな弱みを握ってたんです?」


 弥は眉根を寄せて難しい表情を見せた。


「…彼は…そう、職務外で人を一人殺していましてね」


 捜査過程で脅迫や暴力を使う傾向はある刑事ではあったが、あくまで仕事上のこと。職務外で殺人とは、その話にはさすがに六堂も驚いた。


「マジ?」


「ええ、本当です」


「よく…これまでバレずにいたな…」


「疑われてはいましたよ。だから内調が入った過去がある。理由はその件だ」


 六堂は、殺した相手についてはすぐに察した。それが“方不明になった宮原”であると。


「殺した相手ってのは…やはり」


「ええそう…、宮原です」


 現在、佐々木は、取り調べで“内通者になった経緯”を素直に話しているという。


 その内容で重要なことは、宮原が行方不明になった件について、自分が殺したと認めていることだ。


「…今、佐々木さんが“宮原殺しに”ついて話していることは坂崎さんから聞きました」


「過去に内調が入っても何も出てこなかったんですよね。いくら佐々木とはいえ一般人を殺害してよく隠し通してきたもんだ…。いいや…違うか…、副社長…あなたは“弱み”と言いましたね」


「…飲み込みが早いですね。そうです、我々が…まあ正確には部隊零が、宮原殺しの“痕跡”を全て消しました」


 六堂の脳裏に、目出し帽の兵士のシルエットが浮かんだ。


「で、そもそも佐々木の殺人についてはどうやって知ったんですか?」


 六堂の質問に対して、ここで弥の口から出てきたのが、“ナノマシン”だった。


 庄司エンタープライズは、ロス支社から流出したナノマシンを追っていたという。技術漏洩を危惧してのこと。方々手を尽くし、幾つかは回収したものの、全てを見つけ出すことは簡単なことではなかった。


 そんな中、流出した内の一セットが日本に入ったことを突き止めた。


 それが何と宮原の手にあったのだった。


 大学の研究室名義で、研究用に入手したということになっていたらしく、宮原個人が所有していることを知るまでに、更に時間を要したのだった。


 そして宮原という個人を特定するまでに、既に入手したナノマシンを殺人事件に利用していたのだった。


「よく分からないな…。ナノマシンを手に入れて、それをどうやって殺しの道具にしたのだろう?」


「それは…“幻覚剤”を用いて、です」


「幻覚剤?」


 宮原の殺害方法は、ナノマシンを使って特定の誰かに“幻覚剤を投与“するというものだった。


 被害者遺体の警察の司法解剖では何も出なかった。


 しかし庄司エンタープライズの化学部門では、回収したナノマシンから、“サフォニホ″という成分から生成される幻覚剤を特定していた。


「サフォニホ?聞いたことない植物だな…」


「かなり珍しいですから。それにサフォニホ自体は触れても問題はなく、仮に食べても腹痛や下痢を起こすことはあっても、中毒になるようなことはないので、危険という認知はされていません」


 サフォニホは、南米産の珍しい植物である。抽出された液の中から更に分離したごく微量に採取できる成分に幻覚作用があり、それを濃縮したものに初めて強い効果が現れるが、一つや二つからそんな簡単に集められるものではないので、まとまった量を作るのら容易いことではなかった。


 ただ、1970年代にアメリカでこの研究をしていた化学者がいたが、実験中に試験的に投与した助手が死亡する事故があり、逮捕され、研究は中止となっていたということがあった。


 それ以降、どこかで“その幻覚剤”が研究されることはなく、世に出回っている情報も乏しいものだった。


 しかし宮原は、この幻覚剤を持っていた。


「宮原の、その幻覚剤の入手経路は?」


 六堂の質問に、弥は複雑な表情を見せた。


「経路はないのです。宮原は、大学の研究室て自分で幻覚剤を作ったのです。どこで知ったのか、サフォニホ幻覚剤の生成法を調べ上げていたのです」


「…自分で?」


「彼の専攻は、植物学。周囲に疑われることなくサフォニホを輸入し、研究をしていたのですよ…」


「とんでもない大学生だな」


「ええ、その通り。宮原は世間ではいい人間で通っていて、住んでいたアパートの近所での評判もよかったが…」


 庄司エンタープライズがカンパニーズアーミーを使って調べたところ、宮原にはもともと人間性に問題があったという。


 宮原は子供の頃から、生き物を殺すことが大好きな、いわゆる“サイコパス”というものに該当する人物であることを知った。


 だが、どうやら高まる殺人欲求に対し、葛藤しつつも“人間だけ”は抑制してきたことが、隠してあった日記で知ることが出来たという。“そんなこと”で人生を刑務所や精神病院で過ごすつもりは微塵もないらしく、とても賢く計算高く、強い精神の持ち主だということを知った。


 佐々木の強引な取り調べに対し、真っ向否定し続けたことからも、その精神力の強さが想像出来た。


 その上で、宮原は欲求を我慢するだけではなく、“どうすれば”安全に欲求を満たせるかをずっと探していたようで、そんな彼にとって最高の物が、サフォニホ幻覚剤だった。


「その幻覚剤、具体的にはどういう作用があるのですか?」


 六堂の質問に、弥はまた間を空けた。どう説明をしたらいいか、迷っているように見えた。


「効果は人それぞれなのですが……実に“信じ難い”恐ろしい作用がある。摂取すると、恐怖を司る扁桃体に影響するのです。それも最悪の効果ですよ」


 多くの人が“恐れる”もの、“死”。


 絞殺、刺殺、病死、事故死…、イメージする恐怖は人それぞれ様々であろうが、扁桃体が異常に作用したその脳内で、死を体験するという。その体験は、身体に現実となって現れる。それがサフォニホ幻覚剤の恐ろしい作用なのだ。


 “物事”は全て、脳で電気信号によって、身体へ“感じる”ことが出来るわけだが、逆に言えば、脳それ自体に電気信号を発生させれば、触れてないものを触れてると感じたり、痛くないのに痛いと感じることになる。


 サフォニホ幻覚剤はそういうった脳内で起きた効果で、死への恐怖が現実に起きているような感覚に陥り、死に至らしめるのだ。


 例えば、ナイフで刺されたことを脳内で体験すれば、まるで本当にナイフで刺されたような傷が身体に出来て、失血死するというものだ。


 宮原から、殺人の“物的証拠が出なかった”のは、それが理由だった。


「…そ、そんなことあります?」


「信じられないのは当然だ。だが、本当なんだ。1970年代の実験記録を見たが、実に恐ろしい現象だったよ」


 弥の話を聞いても半信半疑の六堂は、室富と顔を合わせ、互いに首を振った。


「…で、幻覚剤を投与するとして、ナノマシン自体はどうやって被害者の体内に入れるのですか?」


 宮原がナース連続殺人事件の容疑者に浮上した最大の理由は、被害者の看護婦たちが勤務していたそれぞれの病院に出入りしていた映像が、監視カメラに映っていたことだった。


 少なくとも、何らか被害者の女性に近づくいたものとは考えられた。


「…ナノマシンは、皮膚からも体内に入れます。ですから、ターゲットに近づきさえすれば、どうにか出来たと考えています。短距離なら移動する性能はありますから」


 そう、もともと開発中だったナノマシンは医療目的。切除が難しい癌細胞などを除去するために、正確に癌だけに向かって体内を移動することができる性能をもっているというのだ。


 何より、証拠が出ないというのは、宮原に都合がいい。注射で幻覚剤を投与すれば当然刺した跡が残る。飲食物に仕込めば、やはりそのために何らかの脚が残る。


 しかし宮原は出入りの映像以外、誰かに直接接触した証拠はなかったのだ。


「なるほど…、ナノマシンの性能のお陰で、その宮原って人物には殺人の有力な証拠は何一つなしってことか」


「そしてこの件での重要なことは、宮原の手に掛かった被害者が看護婦たち以外にもう一人いたことです」


「…誰です?」


「佐々木さんの妻です」


「妻?佐々木の?ちょ…ちょっと待ってください」


 六堂はこの話がおかしいことにすぐに気づいた。佐々木の妻は難病で入院だと、最初に弥は言ったはずだと。


「…まあ、話を最後まで聞いてください」


 弥は手のひらを前に出し、六堂が疑問に思うであろうことへの質問を遮った。


 佐々木は、宮原を強引に逮捕までこじつけ自供させようとしたが、宮原は犯行を真っ向から否定した。


 しかし佐々木には、宮原の目を見て解ったという。


 “こいつは黒”だと。


「…で、先ほども言いました通り、佐々木さんは宮原に手を上げたのです」


「自白の強要ですね。ま、ここまでの話を聞いていれば、宮原に手を上げる気持ちも解らないではないですが」


「そう。しかし宮原の国選弁護士から暴行障害で起訴されかけたんです。が、宮原本人はそれを取り下げました」


 それから数日が経過き、佐々木が自宅に帰ると、妻が頭部から大量の血を流して倒れていたという。


「…取り調べの時の暴力に対する宮原の報復?」


「佐々木さんはそう考えたのでしょう。彼は真っ先に宮原の自宅アパートに向かい、首の骨を折って殺害したのです」


 佐々木の妻は頭部を刃物で刺された傷跡があったが、庄司エンタープライズの医療チームに分析させ、幻覚剤の影響であることを突き止めた。


「佐々木さんにとって、悪に魂を売る切っ掛けとなったのは、奥さんがまだ生きていたこと…」


「何だって!?」


 六堂は、ここまの話を聞いて、察した内通者に成り下がった理由は妻にもあるのだと。


「…ナノマシン回収のために宮原の元へ派遣したアーミーが、その殺人現場に居合わせたのです。報告を受けた社長は、“佐々それは使える”と、すぐに動きました」


 庄司エンタープライズは、ナノマシンを回収。


 その際、佐々木に、今野筆頭に動いていた“国取り”の組織のための警察内通者になるよう話を切り出した。


 内通者になる代わりに、定時した黒幕側の条件は二つ。


 宮原殺害に関して、遺体を処理し、現場にいた痕跡を消すこと。


 そして辛うじて息のある妻を庄司エンタープライズの先進医療を受けさせること。


「彼はその話を聞いて即、了承の返事をしました。そう、悪魔に魂を売ったのです」


「なんてことだ…」


「宮原殺しについては、あまり後悔はなかったようでした。宮原はとんでもない残酷な男でしたから、野放しにしてはいけないという考えがあったのでしょう。どちらかと言えば、内通者になったのは奥さんのため…」

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