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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第八十話 ナノマシン

1999.12.14 -TUSEDAY- 


 世間に大きな謎と不安を与えた、“セントホークタワービル籠城事件”、通称セントホーク事件の発生から二週間…、

その裏で真相を取り巻く黒幕と、六堂らの戦いが終わってから九日が経過していた。


 六堂は、“大佐殺害”を含む、面倒な聴取を避けるために、正規の治療は行わずに、怪我は闇医者に診てもらっていた。


 その大佐に蹴られた腹部は、肋骨三本の骨折。


 また、大佐の強引な蹴りで街灯に打ち付けた背中のダメージは、背骨の亀裂骨折という重傷だった。


 この二つの怪我の影響で、しばらくは“寝返りを打つたび”に目が覚める夜を過ごすこととなるのだった。


 他にも、致命傷でないものの、ナイフや銃弾を掠めて肉を抉られたり、打ち身も複数あり、実になかなかの“ボロボロ具合”だった。


 そもそもナイフや銃による怪我では、正規の病院に行って、“はい、お大事に”では済まされないわけで、結局は闇医者の世話になることは決めていた。


「大丈夫か?探偵」


 闇医者の自宅兼診療院で、“入院”している六堂の様子を見にやって来た室富。


「室富…!まだ日本にいたのか?」


「ああ。前田の葬儀。それとジョーだ。彼を日本に置いていけない。武器商人のヤズに色々裏技的な手を借りて、ロスへ遺体の移送の手続きをさせてもらった。あっちで墓をつくってやるつもりだ」


 セントホーク事件に、ロスの殺し屋である室富が関係していた“事実はない”との発表をした涼子。


 お陰で警察に追われることはなくなり、前田の葬儀にも参列出来たのだという。勿論、名前は“室田”としてだが。


 そして庄司エンタープライズ本社ビルでの銃撃戦は、激化した社内抗争によるものであると、副社長である弥が発表。


 これにより一連の事件に室富が関わっていた事実は一切なくなり、そもそも日本国内にいた事実自体がなくなった。


 つまりは、庄司エンタープライズ本社ビルでの銃撃戦の時に、六堂、室富、ジーナの三人が現場にいた事実もなく、六堂の愛車シビックが壊れたのは、路上駐車していたところを、庄司エンタープライズのカンパニーズアーミーの誤射によるものが原因だということになった。


 ちなみに、六堂のシビックはそのまま廃車。


 しかし事件を“真の意味での解決”に導いた礼という意味も含め、公式には庄司エンタープライズからの弁償ということで弥から、“新型シビック”が提供されたという。


 “もっと高級車でも…”と弥に言われたが、六堂はシビックを希望した。


「そういば、ジーナちゃんはどうした?ここにいると思っていたが」


 六堂の隣のベッドにいたジーナだったが、術後の経過が良好ということで、退院をしていた。


 退院したといっても完治したわけではなく、二、三日に一度通院して診てもらい、包帯を変えてもらっている。


「いたよ。でも、先に退院した」


「そうか。ま、俺はあんまり彼女とは会いたくはねえから、いいけどさ」


「…あんた前に言ってたよな。ジーナとは“複雑”って」


 室富は苦笑した。


「…いや、本当に複雑なんだ」


「何だよ、話してみろって」


「んああ…、庄司エンタープライズの“ナノマシン流出事件”ってのがロスであってよ」


 “ナノマシン”、実際に今野が利用し、G-weaponにも搭載されていた、庄司エンタープライズの先進技術だ。


「その事件自体は、俺とは関係はねえけどな…。俺は自分の受けてた仕事をしてたんだが、その過程で、妙なことに流出事件の一角と関わることになってな…。その渦中に彼女ジーナがいたんだ」


 六堂は、ふとジーナの口からも“ナノマシン”という言葉ワードが出てきたことがあったのを思い出した。


 涼子のマンションからの帰りで、車内でのことだ。そしてもう一つ思い出したことがある。


「…ローデッカーだ」


 六堂は、ぽつりと言うと、室富は眉根を寄せて訝しい顔をした。


「何だって?」


 六堂は、セントホーク事件を追い始めた時に、ロディ・バーネットを探していたいた。


 そして見つけた白人の遺体が、そのロディだと思い込んでいたところ、“ジョー・ローデッカーという人物”であったわけだが、そのことを知ることが出来たのは、遺体の指紋を、ジーナがロス市警の仲間に調べてもらったからで、六堂はその経緯を室富に説明した。


「…で、その時に、ロスでローデッカーがある二件の殺人事件の容疑を掛けられたことがあるって、確かジーナはそう言ってたんだ。その二件の被害者が、ナノマシンの開発に関わっていたとか何とか…」


 室富は、六堂の寝ているベッド側にある椅子に座り、足を組んだ。


「なるほど、その話か…」


「…何か知ってるのか?」


「いや、大したことは…。ただ、ジョーが“その件”に絡んでいたらしいことは俺も聞いている。そして逆に狙われたんだ。恐らく、ギルバート・マックスって男にな」


 “ギルバート・マックス”、その人物の名前もジーナの口から出たのを思い出す六堂。


 そんな中、コンコンとノックをする音が聞こえた。部屋の扉は既に開いていて、扉側の壁を叩いたノックだ。


 音のした出入り口の方を振り向く六堂と室富。


 そこに立つ人物は、庄司エンタープライズの副社長、庄司 弥だった。


 デニムのパンツに、トレーナー、少し着古した感じのピーコートという服装。髪もボサボサで、一瞬誰か分からなかったが、弥だ。


 少し驚いた六堂と室富は、一瞬互いを見合った。


「おや、驚きましたか?私の突然の訪問に?それとも、この服装ですか?」


 六堂は苦笑した。


「両方ですよ」


「そうか。君がここにいるというのは、刑事の坂崎さんから聞きました。室富さんがいるとは知りませんでしたが」


「わざわざ見舞いに?今、大変でしょう」


「ああ…、それはもう。だから“目立たない格好”で来たのですよ。マスコミもしつこいので、私の背丈格好に似せた部下を何人か、外に出させている。ここはバレていないので、安心してください。これでも長年、隠密作戦を指揮していたのでね、抜かりはない。ところで…」


 弥は、この部屋に着くなり、六堂と室富の“話していたこと”が気になったと切り出した。ロスで起きたという“ナノマシン流出事件”のことだ。


 事件自体は、当時、庄司エンタープライズのロス支社長だった前田 栄蔵と、直接の部下でカンパニーズアーミーだったジョー・ローデッカーが解決に当たったらしいことは、弥も知っていた。


 だがその結果、アメリカのブラックマーケットの重鎮、ギルバート・マックスを怒らせ、二人とも狙われたのだという。


「やはりマックスなのか?」


 室富が問うと、弥は黙って頷いた。


 そしてローデッカーはマックスの手の者に狙われ、表向き爆死したことに。前田は、本社に戻ることでマックスの手を免れた。ちなみに、弥が、前田に社内の改善活動の仲間として声を掛けたのは、そのすぐ後の事だという。


「…マックスのことはさておいて、試作段階だった、医療用に研究開発していたナノマシンが方々に売られてしまった分の回収は出来ず終いだった」


 弥のそんな話からは、意外な人物の名前が出てきた。


 “佐々木 行弘”。


 涼子の上司で、セントホーク事件において、今野たち黒幕に捜査情報を流したり、室富に容疑を掛けるなど捜査撹乱をしていた、警察の内通者だ。


「え?副社長、今誰って言いました?」


「佐々木警部…、いや、元警部かな」


 更に弥からは驚く話が出てきた。


 弥個人が経営している警備会社があるらしいのだが、何と佐々木を雇う考えがあるというのだ。


 一体、今のナノマシンの話と何の関係あるのか、六堂にはまったく検討がつかなかった。


 疑問を浮かべる表情を見せる六堂に、弥は語り始めた。


「六堂さんは、“ナース連続殺人事件”を知っていますか?」


「え?1990年代前半頃かな?一時ワイドショーで騒がれてたやつですか?」


 六堂が高校を卒業して裏社会に身を投じた頃の出来事で、そこまで興味を持っていた事件ではなかった。テレビをつけては取り上げられていたので、知っていた程度だ。


「ええ、それです。ただのミステリアスな事件として視聴率稼ぎのネタにされて報道は終わりましたが…実は、その事件には一人の容疑者がいました。当時二十一歳の大学生で、宮原みやはら 祐介ゆうすけという男です」


 有力な物的証拠がないながらも、佐々木はその大学生が事件の犯人だと確信を持っていたという。


「ところが宮原は証拠不十分で釈放。逆に取り調べの時に手を上げた佐々木が捜査担当から外されるという出来事がありました」


 手を上げたあたりに、佐々木らしさを感じた六堂。


 しかし弥は、佐々木の“犯人を見極める力”はなかなかのものがあったということを付け加えた。


「…佐々木さんはね、過去、誤認逮捕はしていない。まぁ、大なり小なり捜査方法には無理があったものが多いようですがね」


 つまり宮原は間違いなく、ナース連続殺人の犯人であったことを、弥は強調した。


 この事件は、関連する不可解なことがあった。一つは、佐々木の妻が難病で入院をしたこと。同時期に、宮原が行方不明になったことだ。


 佐々木の妻の入院に関しては、詳細を知る者はいなかったが、庄司エンタープライズが経営する民間の大型医療センター、新東京中央病院《N T C H》の特別室に面会謝絶で入っていたとのことだった。


 宮原については、佐々木が“何かした”という疑いが掛かり、内務調査が入ったのだという。


「ちょ、ちょっと待ってください。あなたが何でそんな話を知っているんですか?」


 弥は、深くため息つくと、間を空けた。

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