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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第七十六話 弥

  時は少し戻って 、六堂が大佐の後を追い、室富が刑事たちの戦いの加勢に行った同時刻…、地下会議室。




「そこの二人…」


 涼子はチラっと振り向き、弥と美雪に声を掛けた。


「悪いがどこか安全な場所に隠れててもらえるかしら?」


 弥はこくりと頷くと、美雪の手を引き、扉のある方へと歩き出した。そこは美雪が監禁されてた部屋のある扉だ。


 隠れる場所と言われ、迷わずそこに向かう様子から、弥は美雪を守るために考えていたことがあったことが覗えた。


「おいおいおいおい!待て!弥!話は終わっていない!勝手は許さん」


 ウェイティングルームから出ていた父親の順之助はまた叫んだ。


 そんな父の態度に、苦笑する弥は、深いため息をついた。


「…いつまで父親面してる。あんたの操り人形だった息子はもういない。いや…そもそも存在していなかった」


 踵を返しそう言うと、順之介は額に血管を浮かべ、そして歯軋りをした。


「金も権力も与え、育てた恩も忘れおって…息子とて許さんぞ。絶対後悔するからな」


 弥は、父のそんな捨てゼリフを鼻で笑うと、扉を開けて美雪と一緒に中へと入った。そして、手にしていた日本刀を翳す。


「あんたの資産コレクションは売れば五億円はくだらない。もしこの戦いの後、あんたが逮捕されたなら、この日本刀を除いて“有効活用”させてもらいますよ」


 そう言い残すと、弥は勢いよく扉を閉めて鍵を掛けた。


 ドアの向こうから順之介が何か叫んでいる声が聞こえたが、弥は気にせずに通路の奥へと向かった。


「さあ、美雪さん、行きましょう」


 通路には下に降りる階段があり、その奥に美雪が監禁されていた部屋があった。


「怖い思いをした部屋に戻るのは嫌だろうが、“君の身を守る”と六堂さんと約束したからね。少し我慢してくれるかい?」


 弥が気遣う態度を見せると、美雪は理解をし頷いた。


 そして、自分が監禁されていた部屋のドアの前に立つ。


 確かに怖かった。


 時間は定かではないが、恐らくこの部屋で目を覚ましたのは、日曜の夕暮れ時。今から十時間ほど前だろうか。


 姉、恵の葬儀会場から拉致されたあとのこと…。


 葬儀スタッフに扮した部隊零の戦闘員に声を掛けられたあとに意識を失い、気がつけば、何もないこの目の前のコンクリートに囲まれた部屋にいた。


 天井にある蛍光灯が二本と、空調があるだけで、窓もなく、ここがどこで、今何時なのかも判らなかった。


 部屋の隅で座り込み、丸くなり怯えていた。


 静かすぎて耳が痛かった。


 “どうしてこんなこと”になっているのか、全く理解できず、怖すぎて涙も出なかった。


 気がついてからどれくらい経ったのか…、静かだった金属のドアの向こうから声が聞こえた。それがまた怖かった。


 カシャッ…


 鍵を開けた音がすると、キイイっと、蝶番の擦れる音を立てながら、重そうなドアが開いた。


 ドアの向こうには、日常的に見ることのない“兵隊のような格好”をした男がいた。今美雪が立っているこの場所にいた男。


 しかし部屋の中へと入ってきたのは、別な男。薄地のセーターに、カジュアルジャケット姿、美雪から見て、六堂よりももっと大人の男だ。


 それが弥との初対面だった。


「君、しばらく、先の階段で見張りをしていてくれないか?私もたまには、“こういう娘″と楽しみたいんだ。分かるだろ?親父や今野副長官には内緒に頼む」


 ニヤニヤと“嫌らしい笑み”を浮かべながら、弥がそう言うと、頷いた戦闘員はドアだけを閉めた。


 ドアの向こうから聞こえる足音が小さくなるのを確認すると、弥は美雪に近づいた。


 美雪は、目の前に立つこのおとこに、これからされることを”恐れ、部屋の角にこれでもかというほどに後退りした。


「あ、あ、…大丈夫、何もしない」


 手のひらを前に出しそう言う弥の顔は一変し、紳士な別人に入れ替わったかのような雰囲気を見せた。


「脅かして悪かった…益田 美雪さんだね?」


 名を呼ばれ、訝しげな顔で見上げた美雪。


「…私のこと知ってるんですか?」


「ああ、概ねは」


「…私、どうしてここに連れて来られたんですか?」


 半信半疑にだが、男が危害を加えてくることはないと理解した美雪は、彼に質問をした。


「私は、弥…庄司 弥。そうだね、色々聞きたいだろうね。でも今は詳しく説明をしているだけの時間はない。ないが…、これだけは約束しよう。君のことは必ず助ける」


「…あなたを信じろと言うのですか?」


「会ったばかり男の言葉は信じられないか?まぁ、普通はそうだろうな。しかし、“六堂 伊乃″なら信じられるんじゃないか?」


 美雪は、六堂の名を聞き、目を大きくした。


「六堂さんの知り合いなんですか?」


 弥は、首を横に振った。


「いいや。でも、彼が何者なのか、少しは知ってる。彼が私の聞いた通りの男なら、この状況を解決してくれると…思っている」


 目の前の部屋の中での、そんなやりとりを思い出す美雪。そして弥の気遣いがあったからこそ、僅かながらでも安心出来たことを改めて感じた。




「おい、美雪さん来てくれ、こっちだ」


 弥は、廊下の、美雪が監禁されてい部屋よりも奥に立ち、そこで手招きをした。


 見る限り“行き止まり”だ。(廊下の奥で、“ことが終わる″のを待つのかしら?)と、思った美雪。


 だが、どうやらそうではないようだ。


「美雪さん、すまないが、横の壁……ここと、ここを手で触れていてくれないか?」


 弥は、壁を二ヶ所指を指した。


 当然、疑問に思う美雪だが、言われた通りにした。


 そして弥は、その反対の壁の、ある位置に、右手と左手を触れる。


 すると、何の音も立てずに廊下の奥の壁が開いたのだ。


「え!え!?何?」


 その仕掛けに美雪は驚いた。


「隠し扉さ。私しか知らないから、ここから追われることはないはずだ。さあ、行こうか」


 開いた扉のその先は、狭いが通路があった。そして、ここから外に出られると弥は説明した。


 この通路も、本社ビルの脱出路と同じで、いつか“こういうもの″があれば必要になる日も来ようかと考え、弥が父親に秘密で作ったものだった。


「ここはね、倉庫街を抜けて、さらに先の繁華街の地下通路まで通じている。その先に私専用の運転手に連絡をして来てもらおう」


「…あの」


「ん?」


「何だかもう私の頭では理解できないものばかり目の当たりして…、説明してもらえないですか?どうなっているか…」


 弥は歩を進めながら、間を空けた。


 まだ戦いが終わったわけではない。美雪が知らなくてもいい危険な情報も多々あり、どこまで話すべきかは迷った。


 ただ、中学生の少女が拉致監禁され、また悪い大人たちの集う醜悪な空気の会議場で、命のやりとりを見たことは、あってはいけはいことだと痛感もしていた。


「…そうだな、分かった。ここを出たら少しだけ話そう」


 弥が一言そう返すと、美雪は状況の理解はしておらずとも、この人物のお陰で今無事でいるのだということを深く理解した。



 


 一方、弥と美雪が去った、地下会議室では、涼子と今野の戦いが始まろうとしていた。


「…シャドーウォリアーもどきよ、始めますよ」


 今野は両手を広げると、自分を護衛させていたG-weaponたちと共に、透明ステルス機能を発動させた。


――消える気?させるか!


 涼子は透けていく今野たちに向かって一足飛びで距離を詰め、猛スピードで剣を振るった。


 その動きはまさに瞬間移動だ。


 だが、今野、G-weaponには剣が触れることはなく、姿は完全に消えていた。


「チッ!」


 思わず舌打ちをする涼子。


「やはりな!君は所詮シャドーウォリアーの“なり損ない″よ」


 シャドーウォリアーに異常に恐怖していたはずの今野が、勝機を見出したような雰囲気になったのは、どうやらハッタリでないようだった。


「…私がシャドーウォリアーの“なり損ない″というのは、どういうこと?」


 涼子は剣をひゅんっ!と下に向けると振り返り、目に入った会議テーブルに向かって歩き始めた。


 そんな彼女に答える今野。


「古代人と、現在人はそもそも異なる種族だ」


「…ああ、さっき何か言ってたわね。私たちは古代人に造られた、そんな話だったわね」


「…古代人は思念力が強く、言葉を使わず会話をできる者も存在した。そしてシャドーウォリアーはその能力が抜けていた。恐らくメモリーズの力なのだろう。“目に見えぬもの”を察知するほどにな」


「…へえ、それはすごいわね。確かに私には、ない力」


「そう。君は、そもそも思念の概念を知らなかった。そして今、姿を消した我々を見失っている」


 涼子は剣を床に刺して立てると、太もものホルスターから拳銃を抜いた。そしてテーブルの上に転がっているペットボトルを三本、宙空にバラバラの方向に放り投げ、それに向けて発砲した。


 バンッバンッバンッ!!


 精度の高い射撃。弾は見事に三本に命中。勢いよく水しぶきが散った。


 あちこちに散った水に、四体のG-weaponはバチバチとショートしたような光を放ちながら姿を現す。既に解っている透明ステルス機能の弱点だ。


 だがしかし、今野の姿だけは出てこなかった。


「無駄だ、インダストクリュスタスを使った私の光学迷彩パースパケフェイルは、真に古代の技術。水など通用しない」


「…それは厄介ね」


「それにG-weaponは姿を消せずとも、戦闘能力は高いのだよ」


 姿を現した四体のG-weaponは、倒れている戦闘員の側に落ちている、サブマシンガンをそれぞれ拾い上げ、弾丸入ったマガジンと入れ替え、レバーを引いた。


「…セントホークで、多くの人の命を“直接”奪ったのは、こいつらよね…。いいわ、全て破壊してやる」


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